●うつ病【うつびょう】
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
うつ病
うつびょう
depression
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知恵蔵
うつ病
(田中信市 東京国際大学教授 / 2007年)
出典:(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」
六訂版 家庭医学大全科
うつ病
Depression
(こころの病気)
どんな病気か
私たちは、生活のなかのさまざまな出来事が原因で気持ちが落ち込んだり、憂うつな気分になったりすることがあります。しかし、数日もすると落ち込みや憂うつな気分から回復して、また元気にがんばろうと思える力をもっています。
ところが時に、原因が解決しても1日中気持ちが落ち込んだままで、いつまでたっても気分が回復せず、強い憂うつ感が長く続く場合があります。このため、普段どおりの生活を送るのが難しくなったり、思い当たる原因がないのにそのような状態になったりするのが、うつ病です。
原因は何か
うつ病は、まだわからないことが多い病気です。脳の神経の情報を伝達する物質の量が減るなど脳の機能に異常が生じていると同時に、その人がもともともっているうつ病になりやすい性質と、ストレスや体の病気、環境の変化など、生活の中のさまざまな要因が重なって発病すると考えられています。
●うつ病が起こりやすい性格
・生真面目
・几帳面
・仕事熱心
・責任感が強い
・気が弱い
・人情深く、いつも他人に気を配る
・相手の気持ちに敏感
●誘因となるストレス
うつ病は、何らかの過度なストレスが引き金になると考えられています。さまざまなストレスのうちでとくに多いのは、人間関係の変化と環境の変化です。たとえば身近な人の死や、リストラなどの悲しい出来事だけではなく、昇進や結婚、出産といった嬉しい出来事がきっかけでうつ病になることもあります。
●体の病気や薬が原因となることもある
慢性の病気の場合はとくに、体の不調や痛み、社会生活の変化、経済的な負担などがストレスとなり、抑うつ症状がみられることがあります。
また、薬のなかには副作用として抑うつ症状が現れるものがあります。ウイルス性肝炎の治療に使われるインターフェロン、抗がん薬、ステロイド、抗潰瘍薬などが、うつ病を引き起こすことがあります。
●体の中の変化
人間の脳の中には、神経伝達物質と呼ばれる物質があり、無数の神経細胞に情報を伝達するはたらきをしています。うつ病の時は、神経伝達物質のうちの、気分や思考、意欲などを担当するセロトニン、ノルアドレナリンの量が減っていることがわかっています。
また、言語、運動、精神活動を担っている脳の前頭葉を中心に、脳の血流や代謝が低下していることもわかってきています。
症状の現れ方
うつ病の症状には精神症状と身体症状があります。また、これらの症状が、1日のなかで時間とともに変化するのも、うつ病の特徴です。多くの場合は、朝が最も悪く、夕方にかけて回復していきます。
●精神症状
・抑うつ気分
気分が落ち込む、憂うつ、理由もなく悲しい気持ちになる、何の希望もない。
・興味や喜びの喪失
今まで好きだったことや趣味をやる気になれない、テレビや新聞を見てもおもしろくない、性的な関心や欲求も低下する。
・精神運動の障害(強い焦燥感・運動の制止)
体の動きが遅くなる、口数が少なくなる、声が小さくなる。また、逆に、じっと座っていられない、イライラして足踏みをする、落ち着きなく体を動かす。
・思考力や集中力の低下
頭がさえない、考えがまとまらない、決断力や判断力が低下する、反応が遅くなる、仕事の能率が落ちる、注意力が散漫になって、人のいうことがすぐに理解できない。
・意欲の低下
人と会ったり話したりするのが面倒になる、何をするのも億劫。
・自責感
何でも悪いほうに考える、必要以上に自分を責める、まわりの人に申し訳ないと思う。
・
生きていくのがつらい、死んだほうがましだ。
・精神病症状
自分が重大な罪を犯したと思い込む罪業妄想、貧乏になったと確信する貧困妄想、がんなどの重い病気になったと信じ、検査結果で心配ないと話しても訂正できない心気妄想などがみられることがある。
●身体症状
・睡眠の異常(不眠または睡眠過多)
・食欲の低下または増加
・疲労、倦怠感
・ホルモン系の異常…月経の不順、性欲の低下、勃起の障害
・その他の症状…頭痛(すっきりしない鈍い痛み)、頭重。肩、腰、背中などの痛み
検査と診断
うつ病に特徴的な症状が複数認められると、うつ病と診断されます。医療面接を行い、症状、ストレスになるような出来事、他の病気、自分の性格、家族のことなどを詳しく聞きます。また、患者さん本人からだけでなく、家族からも話を聞くことがあります。これらの情報を総合して、医師はうつ病の診断を行います。
治療の方法
うつ病の治療の基本は、十分な休養によって心と体の疲れをとることと、薬によって神経伝達物質の異常を改善することです。さらに、考え方などを見直す精神療法を組み合わせることもあります。
●十分な休養
休むことに抵抗や罪悪を感じ、何とか頑張って休まないようにしようと思いがちですが、うつ病が病気であることを理解し、医師に休むことをすすめられた場合は、思い切って仕事や家事や学校を休み、治療に専念しましょう。
●薬物療法
抗うつ薬が薬物療法の中心となります。抗うつ薬は、脳の中のセロトニンやノルアドレナリンという物質のはたらきを高めて、抑うつ気分を取り除いて気分を高め、意欲を出させ、不安や緊張、焦燥感を取り除く、といった効果を現します。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、三環系、非三環系といったタイプがあり、症状や状態によって使い分けます。
服薬を始めてすぐに効果が現れるわけではなく、一般に1週間から3週間の期間が必要です。通常、治療を始めてから2カ月から半年くらいである程度よくなりますが、症状が改善したあとも服薬を続けることが必要です。
再び悪くなるのを防ぐため、通常の生活に戻ってからも半年~1年くらい治療を続けることがすすめられます。うつ病の再発率は高いのですが、効果が出た時と同じ量の薬を服薬し続けていると再発率が低くなります。
ですから、初めてうつ病になった場合には改善後半年から1年、同じ量の抗うつ薬を服用することがすすめられます。また、2回以上再発している場合などには、数年にわたって服薬することが望ましいとされています。
●精神療法
精神療法の中心となるのは、支持的精神療法です。患者さんの話を聞き、不安な気持ちをよく理解したうえで、症状をよくしていくためのアドバイスをしていきます。このほか、抑うつ気分につながりやすい考え方や行動の特徴に気づき、これを修正する認知行動療法も広まっています。
●電気けいれん療法
頭皮に電極をつけ、電流を流します。薬物療法で効果が得られない場合や、薬物が使えない場合に用いられます。電気けいれん療法は最近では麻酔をかけ、体にけいれんが起こらないような方法で安全に行われることが多く、症例によっては極めて効果的です。
病気に気づいたらどうする
大切なことは、「最近おかしいな」と思ったら、早めに医師に相談することです。うつ病は、きちんと医師の診察を受け適切な治療を受ければ、治すことが可能な病気です。
田中 宏一, 本橋 伸高
出典:法研「六訂版 家庭医学大全科」
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EBM 正しい治療がわかる本
うつ病
●おもな症状と経過
身体的な異常がないのに、気分が落ち込んで、元気がでなくなる病気です。誰でも疲れるとこのような状態になりますが、ふつうは十分な栄養と睡眠をとれば回復します。ところが、うつ病では気分の落ち込みが長く続き、自力では回復できません。
初期症状として注意したいのは、寝つきが悪かったり、夜中や早朝に目が覚めてしまったりする睡眠障害です。食欲も低下し、好物を食べてもおいしいと感じません。その結果、体重も減ります。倦怠感(けんたいかん)や疲労感があり、性欲が低下、頭痛、肩こり、腰痛といった症状もしばしばみられます。
精神症状としては、気分が沈み込み、なにごとにも悲観的になります。思考力も減退し、非常にささいなことでも、なにかを決断する力が鈍くなります。友人と会うのもおっくうになって、趣味も楽しめません。買物、入浴といった日常生活さえ面倒になってしまうことがあります。自分を卑下(ひげ)し、「生きていても仕方ない」と思いつめて自殺を図ることも少なくありません。身体症状、精神症状とも朝から午前中にかけて強く現れ、夕方から夜になると、いくぶん楽になるのが大きな特徴です。
●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
多くの場合、精神的な強いストレスがきっかけで抑うつ状態になります。進学、就職、結婚、出産、転居、退職といった人生の節目で、新しい生活環境や人間関係に早くなじもうと努力するあまり、強いストレスを感じて発病することがしばしばあります。職場では異動、転勤、昇進などがきっかけとなる場合があります。
失恋、近親者との死別など悲しいできごとだけでなく、家の新築や子どもの結婚・独立といった慶事のあとに発病することもあります。
うつ病は几帳面(きちょうめん)な性格で、真面目(まじめ)にコツコツ働くタイプの人がなりやすい病気といわれています。責任感が強く、周囲への気配りも忘れないことから、職場でも地域でも高い評価を受けていることが多いのですが、完璧(かんぺき)にやり遂げようとするあまりに柔軟性に欠け、ストレスを抱え込んでしまう傾向があります。
直接の原因ははっきりわかっていませんが、うつ病になると脳の神経伝達物質(セロトニン)が減少してしまうと考えられています。
●病気の特徴
現在わが国の人口の2.2パーセントが、うつ病にかかっていると考えられており、生涯に1度でもうつ病を患う人は6.5パーセントといわれています。全国では100万人近くの患者さんがいます。うつ病は精神的に発達した成人でよくみられますが、最近では子どものうつ病も注目されています。
またお年寄りにみられるうつ病は、妄想的な言動を伴うものが多く、脳梗塞など脳の血管障害が原因でうつ病を引きおこしている可能性もあり、現在研究が進められています。このように、誰でもかかりうる心の病気といえます。
よく行われている治療とケアをEBMでチェック
[治療とケア]仕事・家事から離れて休養する
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] ストレスの原因を明らかにし、それに対してアプローチする(仕事が原因であれば仕事を休む、または職場内で異動するなど)ことの有効性は報告されています。(1)
[治療とケア]心理療法を行う
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 心理療法とは、薬や物理的な治療を行わず、対話や訓練、教示によって精神状態を安定させる治療です。心理療法を行うことでうつ病の状態をよくすることが、多数の研究で証明されています。(1)
[治療とケア]認知行動療法を行う
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 不安や気分の落ち込みなどを引きおこす元となっている、患者さん本人の認知(ものごとのとらえ方)の歪(ゆが)みを修正していくのが認知行動療法です。認知行動療法は、軽症から中等症のうつ病患者さんに行われ、急性期の効果も、再発予防の効果もあることが知られています。(2)(3)
[治療とケア]対人関係療法を行う
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 家族や親しい友人などの、重要な他者とのコミュニケーションを通じて、うつ病の治療を行うのが対人関係療法です。対人関係療法の効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認され、社会的な活動機能が改善することも証明されています。(4)
[治療とケア]かかりつけ医でカウンセリングを受ける
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 患者さんの症状や悩みを十分聞き、それらを理解、受容してくれるかかりつけ医の元でカウンセリングを受けます。カウンセリングによる治療は、とくに短期的に効果が得られることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって示されています。(5)(6)
[治療とケア]抗うつ薬による薬物療法をする
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 三環系(かんけい)抗うつ薬・四環系抗うつ薬やSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)の効果は、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。(7)~(9)
よく使われている薬をEBMでチェック
抗うつ薬
[薬用途]SSRI
[薬名]パキシル(パロキセチン塩酸塩水和物)(10)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]デプロメール/ルボックス(フルボキサミンマレイン酸塩)(10)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]レクサプロ(エスシタロプラムシュウ酸塩)(10)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ジェイゾロフト(塩酸セルトラリン)(10)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬用途]SNRI
[薬名]トレドミン(ミルナシプラン塩酸塩)(10)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]サインバルタ(デュロキセチン塩酸塩)(10)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] これらのSSRI、SNRIの有効性は、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。
[薬用途]四環系
[薬名]テトラミド(ミアンセリン塩酸塩)(6)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ルジオミール(マプロチリン塩酸塩)(6)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬用途]三環系
[薬名]アモキサン(アモキサピン)(7)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ノリトレン(ノルトリプチリン塩酸塩)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]トフラニール(イミプラミン塩酸塩)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]トリプタノール(アミトリプチリン塩酸塩)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]アナフラニール(クロミプラミン塩酸塩)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 三環系および四環系抗うつ薬の有効性は非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
ストレスの元をさぐり、減らすこと
うつ病は正しく治療すれば治る病気です。治療を始めるにあたって医師は、いまはつらくても適切な治療を続ければ、いずれは以前と同じような生活ができることを患者さんに話し、病気を理解してもらいます。
うつ病になる人は責任感が強く、周囲への気配りも忘れないといった几帳面で真面目なタイプの人が多く、ストレスを抱えこんでしまう傾向があります。まずは、このストレスを減らす必要があります。
最近のできごとを話してもらいながら、家庭や職場でなにか変化はなかったか、ストレスを増すできごとがなかったかなどをともに考えていきます。また、「がんばれ」などと安易に励ますことはかえって本人の負担になって症状を悪化させることが多いため避けるべきでしょう。
時間はかかるが、服用を続ければ薬の効果は確実に現れる
非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が認められている薬が多数開発されています。しかし、いずれも即効性があるものではなく、効果がでるまでには2カ月程度かかります。また、アルコール摂取はうつ症状を悪化させたり、薬物の効果を妨げたりする可能性があります。うつ病と診断された患者さんは、これらのことをよく知っておくことが大切です。
多くの種類がある抗うつ薬のなかでも、比較的最近になって使われるようになったのがSSRIと呼ばれる選択的セロトニン再取り込み阻害薬のパキシル(パロキセチン塩酸塩水和物)、デプロメール/ルボックス(フルボキサミンマレイン酸塩)、レクサプロ(エスシタロプラムシュウ酸塩)、ジェイゾロフト(塩酸セルトラリン)や、SNRIと呼ばれるセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるトレドミン(ミルナシプラン塩酸塩)、サインバルタ(デュロキセチン塩酸塩)などです。その効果、安全性から、第一選択薬になることが多くなっています。
しかし、患者さんによっては従来から用いられている抗うつ薬のほうが好ましい場合もあります。いずれにしても、効果がでるまでにある程度時間がかかることを理解して、服薬を続けることが必要です。
精神科医のもとで精神療法が必要な場合も
うつ病の患者さんの多くは、いろいろな体の不調を訴えて内科を受診することが多いので、ほとんどは内科医が診断し治療しますが、ある程度の期間治療を続けても症状が改善しなかったり、自殺を具体的に考えたりするような場合は、精神科医による診察が必要です。精神科医によって行われる支持的精神療法や認知療法も効果的であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって認められています。
(1)Cuijpers P, van Straten A, van Schaik A, et al. Psychological treatment of depression in primary care: a meta-analysis.Br J Gen Pract. 2009 Feb;59(559):e51-60.
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(4)De Silva MJ, Cooper S, Li HL, et al. Effect of psychosocial interventions on social functioning in depression and schizophrenia: meta-analysis. Br J Psychiatry. 2013 Apr;202(4):253-60.
(5)Bower P, Knowles S, Coventry PA, et al. Counselling for mental health and psychosocial problems in primary care. Cochrane Database Syst Rev. 2011 Sep 7;(9):CD001025.
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(9)Moller HJ, Riehl T, Dietzfelbinger T, et al. A controlled study of the efficacy and safety of mianserin and maprotiline in outpatients with major depression. Int Clin Psychopharmacol. 1991;6:179-192.
(10)American Psychiatric Association. Practice Guideline for the treatment of patient with major depressive disorder. Am J Psychiatry. 2010.
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栄養・生化学辞典
うつ病
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日本大百科全書(ニッポニカ)
うつ病
うつびょう
気分がひどく落ち込む、何事にも興味をもてなくなる、といった精神症状のために、精神的に強い苦痛を感じたり日常の生活に支障が現れたりしている状態をいう。
分類・疫学
うつ病は、以前は遺伝や体質による内因が関与している内因性うつ病と、精神的・心理的な心因が強く関与している心因性うつ病ないしは神経症性うつ病とに分けて考えられていた。しかし、現在は病因がまだ解明されておらず、いわゆる内因性うつ病でも初発の場合には誘因が存在していることが多いこと、また、心因性うつ病とよばれる病像を呈する場合でも脳内に変化が起きていることなどから、こうした内因性、心因性という分類は国際的には使われなくなった。うつ病は、単一疾患ではなく、複数の異なる病因によって引き起こされている症候群と考えられている。
うつ病にかかる人の割合であるが、日本の地域調査(2002年度)では6.5%の人が一生に一度うつ病にかかり、高齢者よりも若い人たちのほうがかかりやすいと報告されている。世界的に男性よりも女性のほうが1.5~2倍近くうつ病にかかりやすいが、症状や治り方については男女差が認められていない。うつ病を経験した人のうち専門医療機関を受診した者は18%、一般診療科を受診した者は8%であった。
うつ病像を主要な症状とする精神疾患には、中核的なうつ病(大うつ病とよばれたこともある)に加えて、軽症のうつ症状が2年以上続いている持続性抑うつ障害(気分変調症)、月経開始前に症状が認められる月経前不快気分障害、治療薬、アルコールや違法薬物、慢性疼痛(とうつう)や冠動脈疾患、糖尿病、甲状腺(せん)疾患などの身体疾患によって引き起こされた物質・医薬品性抑うつ障害、小児期に激しい暴言や衝動行為などが認められる重篤気分調整症などがある。日本では一時、うつ症状のために仕事ができない反面、私生活では自由に活動できる状態を新型うつ病とよんだことがあるが、定義的にもうつ病とは診断できず学問的裏づけもないことから、そうした名称はしだいに使われなくなった。
[大野 裕 2020年7月21日]
症状と診断
うつ病の代表的な症状を以下にあげる。
(1)悲しみや空虚感を患者自ら訴えたり、他の人からわかったりする状態がほとんど1日中、ほとんど毎日認められる。小児や青年ではいらいらした気分になることもある。
(2)ほとんどすべての活動に対する興味や喜びが著しく減退した状態が、ほとんど1日中、ほとんど毎日続く。
(3)著しい体重減少、あるいは体重増加(1か月で体重の5%以上の変化)、食欲の減退または増加。小児の場合には、成長に伴う体重増加がみられないことがある。
(4)不眠または睡眠過多。
(5)行動抑制や焦燥感による行動の増加が明らかに観察できる状態が毎日続く。
(6)疲れやすさ、または気力の減退。
(7)自分に価値がないという思いや極端に偏った罪責感。
(8)思考力や集中力の減退、決断困難。
(9)死についての反復思考、反復する自殺念慮、自殺企図、または明確な自殺の計画。
うつ病と診断されるためには、上記の九つの症状のうち、(1)うつ気分か、(2)興味や喜びの喪失のどちらかの症状を含む五つ以上の症状が存在している必要がある。しかもそれに加えて、期間(ほとんど毎日1日中、2週間以上持続)と障害の強さ(症状のために社会的、職業的、または他の領域における障害が生じている)の基準を満たしていなくてはならない。ちなみに、うつ病を診断できる血液検査や脳画像、脳波などの生物学的指標は存在していない。
うつ病のときには、頭重感や肩こりなどの身体症状を呈することも多く、とくに高齢になるとその傾向が強くなる。身体症状のために抑うつ感などの精神症状に気づきにくくなることがあり、身体症状という仮面に隠されているとして仮面うつ病という表現が使われることもある。
うつ病は、他の精神疾患と併存することが多く、それには、物質使用障害、パニック症、強迫症、神経性やせ症、神経性過食症などがある。
[大野 裕 2020年7月21日]
要因と治療
うつ病にはだれでもかかる可能性があるが、その発症には、気質(自尊心が低い、外的ストレス対処能力が低い、悲観的)や環境(虐待やネグレクト、低所得など、ストレスの多い子ども時代や生活環境)など、いくつかの要因が関係していると考えられている。
うつ病の治療は、環境的なストレス要因を軽減し、周囲から支援が受けられるようにする社会的アプローチを行いながら、薬物療法などの生物学的アプローチや精神療法(心理療法)などの心理的アプローチを併用する。
生物学的治療の代表が薬物療法であるが、一般には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)かセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)といった抗うつ薬を、単剤で最小容量投与することから開始する。抗うつ薬は、1~2週間ずつ漸増し、1、2か月で最大容量にまで増量して、1、2か月ようすをみるようにする。
抗うつ薬による薬物療法の効果は1~2週で現れることもあるが、慌てて判断しないで4~8週かけて判断すべきである。効果が現れて症状が消失した場合には、4~9か月間、投薬を継続する。
抗うつ薬の代表的な副作用としては、消化器系、心血管系、神経系、抗コリン作用、性機能障害などがあり、こうした副作用が出た場合には減量ないしは薬剤を変更する。また抗うつ薬の服用初期に不安、焦燥、不眠などの賦活(ふかつ)症状が現れることがあり、またSSRIでは急激に中止するとめまい、歩行不安定感、吐き気、頭痛などの中止後症状群が現れることがあるので注意が必要である。中止後症状群は、再投与で通常24時間以内に回復する。
強い不安が認められる場合には抗不安薬、また焦燥感が強く妄想的な傾向が認められる場合には抗精神病薬を併用することがある。不眠が強い場合には、生活指導を行うとともに、睡眠薬を使用する。なお、抗不安薬や睡眠薬を使用する場合には、依存の可能性を念頭に置いて注意深く経過を観察する必要がある。
なお、自己治療の手段としてアルコールを用いる人がいるが、アルコールは抑うつ感を強めたり睡眠を浅くしたりする薬理作用や、自殺衝動を高めたりすることもあるので、うつ病のときには控える必要がある。
薬物療法や精神療法で手を尽くしても効果が認められない場合の生物学的アプローチとして、電気けいれん療法(ECT:electroconvulsive therapy)や磁気刺激療法(r-TMS)などがある。
うつ病の治療において、薬の役割は大きいが、薬だけですべてを解決できないことも多い。認知療法(認知行動療法ともいう)や対人関係療法などの精神療法がおもに効果的であることが実証されている。
認知行動療法は、認知、つまり人間の情報処理のプロセスに働きかけて、現実に目を向けながら問題解決する力を発揮できるように手助けする、構造化された精神療法である。治療では、現実の問題に直面したときに、問題解決を妨げている認知や行動を明らかにし、それを修正することで問題に対処する力を伸ばしていく。定型的な認知行動療法では、1回40~50分の対面式の面接を十数回繰り返すことで抑うつ症状が軽減されることが実証されているが、近年は、インターネットなどのIC機器を併用することでより簡便な形で効果をあげる簡易型認知行動療法の開発も進んでいる。
対人関係療法は、対人問題がうつ病性障害の発症と進行に関与するという理解にたって、患者と「重要な他者」(家族・恋人・親友など、その人の情緒にもっとも大きな影響を与える他者)との人間関係上の現実の問題を中心に話し合っていく。なかでも、悲哀、対人関係上の役割をめぐる不和、役割の変化、対人関係の欠如の四つはとくに重要視されている問題領域であり、精神療法の過程ではそのなかから一つか二つの問題領域を選択して問題を解決していく。
治療を行ってもうつ病が長期化することがあるが、その要因としては次のようなものが考えられる。
(1)治療抵抗性うつ病。
(2)投薬量や治療期間が不十分。
(3)再発を繰り返している。
(4)薬を処方通りに飲んでいない。
(5)双極性障害のうつ病相。
(6)他の精神疾患が併存(治療抵抗性例の75%はパーソナリティー障害、不安障害、物質使用障害などの精神疾患が併存している)。
(7)一般身体疾患の合併や一般身体疾患による気分障害。
[大野 裕 2020年7月21日]
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