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アルモドバル【あるもどばる】

日本大百科全書(ニッポニカ)

アルモドバル
あるもどばる
Pedro Almodvar
(1951― )
スペインの映画監督。カスティーリャ・ラ・マンチャ州シウダー・レアル県カルサーダ・デ・カラトラバ生まれ。8歳の時にエストレマドゥーラ州カセレスに家族で移住。サレジオ修道会付属の学校へ通い、聖歌隊のソリストとして卓越した才能を示す。16歳で単身マドリードへ移り、スペイン電電公社で12年間にわたって勤務する。その一方、漫画、短編小説、エッセイの執筆、実験的な演劇集団の立ち上げ、風刺的なパンク・バンドの結成、さらに1974年以降はスーパー8ミリ(1964年にイーストマン・コダック社が発表した、50フィート・マガジン入りのフィルム)などでゲリラ的な撮影法による短編映画作りと多岐にわたる活動を展開。昼間に公務があったため、1年半もの歳月をかけて撮影され、出演も兼ねた16ミリによる最初の長編『ペピ、ルシ、ボムとその他大勢の女の子たち』(1980)を、35ミリにブローアップ(拡大焼付け)して公開、国内で成功を収めた。続く『セクシリア』(1982)など初期アルモドバル作品は、同性愛者や服装倒錯者が闊歩(かっぽ)するキッチュで喧騒(けんそう)に満ちた世界を描き、1975年のフランコ将軍の死去によって長きにわたった独裁体制が崩壊し、遅まきながら他の西側ヨーロッパ諸国並みの消費社会の実現や表現の自由の獲得へと動きつつあったスペイン社会の、とりわけマドリードに息づく活気や混沌を映し出すドキュメントとしても興味深い。初期作品における技術的な稚拙さを逆手にとったスタイルにしても、フランコ政権末期の1971年に国立映画学校が閉鎖されたため、独学で映画作りを学ぶことを余儀なくされた世代に属する映画監督の登場を意味し、それ以前に国際的に知名度の高かったスペインの映画作家たちのどちらかといえば端正で抑制の効いた作風のなかで、アルモドバルは明らかに異質な才能の持ち主であった。自己を「有名人」として演出する能力に長(た)けたアルモドバルの存在は、映画だけでなく、アート、音楽、ファッションその他の領域をも横断するポスト・フランコ時代のスペイン文化の象徴となり、「新しいスペイン」の代名詞的な扱いを国際的にも受けるようになる。実際、長編第五作でアルモドバル初期作品の常連であるアントニオ・バンデラスAntonio Banderas(1960― )が主演した『マタドール〈闘牛士〉 炎のレクイエム』(1986)、『欲望の法則』(1987)でしだいに国際市場で支持を獲得するようになる。1987年に弟のアグスティンAgustin Almodvar(1955― )とともに設立した制作会社エル・デセオの作品で、アルモドバルが監督した『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(1987)は、国内でゴヤ賞の作品賞、脚本賞など5部門を受賞、海外でもベネチア国際映画祭金のオデッラ賞(脚本賞)、ヨーロッパ映画賞最優秀若手映画賞、ニューヨーク映画批評家協会賞外国語映画賞など数々の賞に輝いたほか、アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞にもノミネートされ、アルモドバルはスペイン映画を代表する映画監督として、作品の質ともども国際的に認知されることとなった。
 その後もアルモドバルは、マドンナやファッション・デザイナーのジャン・ポール・ゴルチエJean Paul Gaultier(1952― )ら各界の世界的な著名人との交流などでメディアに華やかな話題を振りまきながら、『アタメ 私をしばって!』(1989)、『キカ』(1993)と、バンデラスやビクトリア・アブリルVictoria Abril(1959― )など国際的にも活躍するスペイン人スターたちを主演に据えた作品群を発表する。ただし1982年の社会主義政権の誕生から1992年のバルセロナ・オリンピックへと経過するスペイン現代史の流れのなかで、フランコ体制の抑圧からの解放を謳歌(おうか)するだけの時代は終わり、彼の作品も初期に顕著だった露悪的でカーニバル的な喧騒から脱し、しだいに完成度の高い成熟した内容へと移行する。「スペインのアンディ・ウォーホル」はより本格的に映画監督の道を究め始めるのだ。彼の作品としては珍しく、フランコ政権時代の戒厳令からオリンピックまでの「歴史」を主題とする『ライブ・フレッシュ』(1997)もそんなアルモドバルの成熟や彼の映画を取り巻くスペイン社会の変化と関わりをもつが、とりわけ往年のハリウッド産メロドラマへの憧憬(どうけい)やオマージュを込めつつ、女性を主人公にした映画に新たな生命を吹き込む野心に満ちた『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999)や『トーク・トゥ・ハー』(2002)での批評的、興行的な成功は目覚ましく、前者ではカンヌ国際映画祭監督賞やアカデミー外国語映画賞ほか、後者でもゴールデン・グローブ賞最優秀外国語映画賞、ヨーロッパ映画賞での最優秀作品賞や最優秀監督賞など、数多くの賞に輝いた。[北小路隆志]

資料 監督作品一覧

ペピ、ルシ、ボムとその他大勢の女の子たち Pepi, Luci, Bom Y Otras Chicas Del Monton(1980)
セクシリア Laberinto de pasiones(1982)
バチ当たり修道院の最期 Entre tinieblas(1983)
グロリアの憂鬱 セックスとドラッグと殺人 Qu he hecho yo para merecer esto!!(1984)
マタドール〈闘牛士〉 炎のレクイエム Matador(1986)
神経衰弱ぎりぎりの女たち Mujeres al borde de un ataque de nervios(1987)
欲望の法則 La Ley del deseo(1987)
アタメ 私をしばって! tame!(1989)
ハイヒール Tacones lejanos(1991)
キカ Kika(1993)
私の秘密の花 La flor de mi secreto(1995)
ライブ・フレッシュ Carne trmula(1997)
オール・アバウト・マイ・マザー Todo sobre mi madre(1999)
トーク・トゥ・ハー Hable con ella(2002)
バッド・エデュケーション La mala educacin(2004)
ボルベール〈帰郷〉 Volver(2006)
抱擁のかけら Los abrazos rotos(2009)
私が、生きる肌 La piel que habito(2011)
『杉山晃訳『パティ・ディプーサ』(1992・水声社) ▽杉浦勉編『ポストフランコのスペイン文化』(1999・水声社)』

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

アルモドバル
Almodóvar, Pedro
[生]1949.9.25. カルサダデカラトラバ
スペインの映画監督。フルネーム Pedro Mercedes Almodóvar Caballero。若い頃にマドリードに出て 8ミリカメラで短編映画を撮り始める。最初の長編映画は自身が書いた "Pepi, Luci, Bom y otras chicas del montón"(1980)で,マドリードのパンク・ロック界を追った作品。試行錯誤の末,アントニオ・バンデラスを主役にした『マタドール〈闘牛士〉・炎のレクイエム』Matador(1986),『欲望の法則』La ley del deseo(1987)をはじめとする一連の作品を執筆,監督した。『神経衰弱ぎりぎりの女たち』Mujeres al borde de un ataque de nervios(1988)は国際的に高い評価を受けたが,『アタメ』¡Átame!(1990)は女性擁護団体の批判を受けた。『ライブ・フレッシュ』Carne trémula(1997)ではハビエル・バルデムが主演。脚本を書いた『オール・アバウト・マイ・マザー』Todo sobre mi madre(1999)で評価が高まり,アカデミー賞では外国語映画賞を,カンヌ国際映画祭では監督賞を受賞。『トーク・トゥ・ハー』Hable con ella(2002)も評判が高く,アカデミー賞脚本賞を受賞,監督賞にノミネートされた。ほかに『バッド・エデュケーション』La mala educación(2004),ペネロペ・クルス主演の『ボルベール〈帰郷〉』Volver(2006)と白黒映画『抱擁のかけら』Los abrazos rotos(2009)がある。ほぼ 20年ぶりにバンデラスと組み『私が,生きる肌』La piel que habito(2011)を監督し,2013年には同性愛を扱った辛辣なコメディ『アイム・ソー・エキサイテッド!』Los amantes pasajerosを撮った。(→スペイン映画

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