●カタツムリ
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
カタツムリ
land snail
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日本大百科全書(ニッポニカ)
カタツムリ
かたつむり / 蝸牛
land snail
軟体動物門腹足綱の有肺亜綱に属する陸性巻き貝のうち、とくに大形で殻の概形に丸みのあるマイマイ超科のものをさす。世界には約2万種がすみ、学術上ではマイマイというが、これは「巻き巻き」の意味である。また、デンデンムシの異名もあるが、これは「角(つの)よ出い出い」の意の「ででむし」から転じたといわれる。
[奥谷喬司]
形態
軟体は、背上に巻いた殻があり、その中に内臓が収まっている。体は細長く、腹側は全長にわたる足裏で平たく、粘液を分泌しつつその上をはう。体表も粘液を分泌しているので湿っていて、頭部に2対の触角がある。そのうち後方の長い1対の先端に目があり、目は中にまくれ込むようにして退縮させることができる。外套膜(がいとうまく)上に血管が網目状に走り肺の役割をする。その開口部は小さい穴になっている。軟体は縮めると巻いた殻の中に全身を収めることができるが蓋(ふた)はない。
[奥谷喬司]
種類
日本には600種以上のマイマイ類が知られているが、大形の殻に黒い色帯がある類(ミスジマイマイ属Euhadra)などがもっとも普通に人の知っているカタツムリであろう。マイマイ類は移動力が小さいので、わずかな地形の相違によってもきわめて多くの種に分化し、地方ごとに種類が異なっている。たとえば、九州地方ではツクシマイマイE. herklotsi、中国・四国地方ではセトウチマイマイE. congenita hickonis、近畿地方ではクチベニマイマイE. callizona amaliae、中部地方ではクロイワマイマイE. senckenbergiana、関東地方へかけてミスジマイマイE. peliomphala、ヒダリマキマイマイE. quaesita、奥羽地方にはアオモリマイマイE. s. aomoriensis、ムツヒダリマキマイマイE. decorata、北海道ではブレーキマイマイFruticicola blakeana、エゾマイマイF. gainesiなどが代表種である。これらのカタツムリは普通4本の色帯があるが、その一部か全部を欠くことがあり、各標本で色帯の形式が異なる。同一種内でも環境によって形態が異なり、亜種に分化している。すなわち、同一種でも山地にすむものは形が大きくなり色は黒ずみ、平地のものは小さく色が淡い。また、離島にすむものは本土のものより小さい傾向がある。日本産のものでは中部山地のクロイワマイマイと四国のアワマイマイE. awaensisはともに直径60ミリメートルに達する最大種で、とくに前者は黄金色の文様がある美麗種である。オナジマイマイBradybaena similarisやウスカワマイマイAcusta sieboldianaは全国の平地に分布し、しばしば大量に発生して農作物や花畑に被害を与える。また、奄美(あまみ)諸島、沖縄、小笠原(おがさわら)地方に移入したアフリカマイマイAchitina fulicaはマイマイ類と形が異なり、卵円錐(えんすい)形で殻高100ミリメートルにもなり、農作物に大きな害を与える。ほかにナンバンマイマイ科やベッコウマイマイ科の諸種もカタツムリ類に包含される。
[奥谷喬司]
生態
一般に雌雄同体で、生殖孔は右触角の後方にあって交尾は互いに陰茎を挿入しあう。卵は石灰質の卵殻をもち丸く、梅雨期などの湿度が高く暖かい時期に、土の中に産卵する。卵から出てきたときはすでに親と同じ形態をしていて、卵中でもトロコフォラ期やベリジャー期はない。地上性のものと樹上性のものがあって、活動は夜間に盛んなものが多い。寒い時期冬眠するときや、乾燥に耐えるときは、殻口に粘液でつくられた障子紙のような膜を張る。食物はコケなどを歯舌でこすり取って食べ、とくに菌類を好む。また、野菜や他の植物の葉を食害し、紙なども好むため、ごみためにも多く集まる。少数の肉食の種類(たとえばベッコウマイマイなど)があるが、大部分は植物食性である。
[奥谷喬司]
人間生活との関係
日本ではヨーロッパやアメリカのエスカルゴのようにカタツムリ類を食用とする習慣はなく、戦時中タンパク質資源の不足からアフリカマイマイの移入を試みたが食用とはされなかった。ネズミが媒介する広東(カントン)住血線虫などの中間宿主になっているが、ヒトに対する寄生虫の媒介は知られていない。むしろ日本ではカタツムリ類は童謡、俚謡(りよう)に歌われ、俳句などにもしばしば登場し、身近な小動物として親しまれている。
[奥谷喬司]
民俗
日本ではカタツムリを薬として口にすることがある。アイヌも、のどの痛む病気の薬とする。カタツムリに角(つの)を出せと歌いかける童唄(わらべうた)は、日本では古くからよく発達している。出さなければ苦しめる、出せば楽しませるという形式で、平安時代末期の『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』には、「舞えよ、舞えよ、カタツムリ。舞わなければ、ウマの子やウシの子に蹴(け)させるぞ。踏み砕かせるぞ。ほんとうにかわいらしく舞ったなら、花園ででも遊ばせよう」という意味の歌がある。同じ形式の歌は朝鮮、中国のほかヨーロッパ各地にもあり、イギリスでは火であぶりながら歌うという。フランスでは、クリスマスの夜の害虫除(よ)けの行事の一環として、果樹を損なうカタツムリをとるために歌う。
[小島瓔]
出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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