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カルチノイド腫瘍【カルチノイド】

デジタル大辞泉

カルチノイド(carcinoid)
類癌腫(るいがんしゅ)。虫垂回盲部に発生するセロトニン産生細胞からなる比較的良性腫瘍(しゅよう)。

出典:小学館
監修:松村明
編集委員:池上秋彦、金田弘、杉崎一雄、鈴木丹士郎、中嶋尚、林巨樹、飛田良文
編集協力:田中牧郎、曽根脩
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内科学 第10版

カルチノイド腫瘍(内分泌系の疾患)
概念
 カルチノイド腫瘍は1907年Oberndorfにより命名された,神経内分泌細胞に由来する腫瘍である.細胞内に銀親和性あるいは好銀性の分泌顆粒が存在し,セロトニンを代表とする多数の生理活性物質を産生・分泌する.当初カルチノイド腫瘍は良性腫瘍と考えられていたが,現在では転移能を有する悪性腫瘍と認識され,2000年のWHO分類では高分化型内分泌腫瘍・癌,低分化型内分泌癌に分類された.さらに2010年のWHO分類の改訂により, 内分泌系の性質と表現型を有する膵・消化管腫瘍は神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasms)と総称し,高分化型神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:NET)と低分化型神経内分泌癌(neuroendocrine carcinoma:NEC)に大別され,NETは増殖能によりさらにG1とG2にグレード分類される(表12-10-1).NETは膵・消化管(胃,直腸,虫垂,十二指腸,小腸)に最も多く発生し,ついで肺・気管支に多く,胸腺や卵巣などにも発生する.
 NETが産生する複数の生理活性物質(セロトニン,ブラジキニン,ヒスタミン,プロスタグランジンなど)によって引き起こされる多彩な症候はカルチノイド症候群とよばれる.NETの頻度は10万人に2~4人であるが,カルチノイド症候群はさらにまれ(10万人に0.5~0.7人)である.
成因
 神経内分泌細胞はアミン前駆体を取り込み,脱炭酸によって活性アミンを合成する能力(amine precursor uptake and decarboxylation:APUD)やペプチドホルモンの産生能をもつことから,腫瘍化したNETでは複数の生理活性物質やホルモンを産生・分泌することが多い.NETは多発性内分泌腫瘍(MEN)1型と併発することもあり,MEN 1遺伝子(11q13)の異常が関連している可能性がある.
病態生理
 NETはほかの悪性腫瘍に比べると進行は遅く,大きさも小さいものが多く,粘膜や粘膜下に結節状病変として限局する.大きな腫瘍(2 cm以上)は固有筋層や血管に浸潤したり周囲のリンパ節や肝に転移するが,遠隔転移することは少ない.NETの悪性度は発生部位により異なり,虫垂や直腸の転移は少ない(2~3%).
 NETは胎生・発生学的に発生する部位(前腸,中腸,後腸)によって腫瘍の特性が異なっている(表12-10-2).前腸由来NETは銀親和性陰性で好銀性陽性であり,l-アミノ酸脱炭酸酵素活性を欠如するために,5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)やヒスタミンを産生しやすい.またペプチドホルモン(ACTH,バソプレシン,ガストリン,カルシトニンなど)を産生して異所性ホルモン症候群を合併することもある.中腸由来NETは銀親和性,好銀性いずれも陽性であり,セロトニンを産生しやすい.セロトニン合成経路でトリプトファンを基質として5-HTPを経て5-ヒドロキシトリプタミン(セロトニン)が生成される(図12-10-1).セロトニンは代謝されると5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)となり尿中へ排泄される.後腸由来NETは銀親和性,好銀性いずれも陰性で,活性アミンを産生することはまれである.
臨床症状
 カルチノイド症候群の主要な症状には発作性の皮膚紅潮(flush),激しい下痢と腹痛,気管支喘息,右心不全,ペラグラ様皮疹などがある.腫瘍が肝転移するとこれらの症状が出現しやすい.これは肝転移巣で産生された生理活性物質が肝での不活化を受けずに直接全身に循環するためである.カルチノイド症候群の出現は,中腸由来NETによるものが最も多く,前腸NETがそれに次ぐ.しかし,本症候群の出現は全NETのうちわずか(3~5%)である. 発汗を伴わない皮膚紅潮(dry flush)は本症に特徴的な症状で,約80%にみられる.一般に小腸NETでは定型的なびまん性で赤色の皮膚紅潮で,発作的に顔面,頸部,上半身に出現し,持続時間も数分と短い.しかし,慢性化すると赤紫色の皮膚紅潮となり,顔面の毛細血管拡張を伴う.胃NETでは非定型的でヒスタミンによる斑状の鮮紅色の皮膚紅潮を呈する.また,気管支NETでは全身に出現する皮膚紅潮が数時間(ときには数日)持続して流涙,唾液腺腫脹,顔面腫脹,低血圧を伴う.ストレス,アルコール,感染,香辛料,薬物などによって誘発されることもある.腫瘍から分泌されるセロトニンや複数の血管拡張性物質(ブラジキニン,ヒスタミン,プロスタグランジン,タキキニン:ニューロペプチドK,サブスタンスP)などが原因と考えられる.
 激しい下痢(70%)や腹痛(40%)といった消化器症状は,腫瘍から分泌されるセロトニン,タキキニン,ヒスタミン,プロスタグランジンなどによる腸管蠕動亢進作用による.心疾患は10~20%にみられ,おもに右心系の弁膜異常(肺動脈狭窄,三尖弁閉鎖不全)や右心不全を呈する.これは腫瘍から分泌されるセロトニン,タキキニン,IGF-Ⅰ,TGF-βなどにより右心系の弁膜や心内膜にプラーク様線維性肥厚を形成するためである.また,タキキニン,ブラジキニン,ヒスタミンなどの気管支収縮作用による喘鳴や喘息(15%),トリプトファン不足によるペラグラ様皮診(5%)もみられる.ほかにも後腹膜線維症,腸間膜動静脈閉塞症,Peyroni病,カルチノイド関節症などがある. カルチノイドクリーゼは特発的あるいは何らかの誘因(麻酔,感染,化学療法,肝動脈塞栓術など)によって,著明な皮膚紅潮,下痢,低血圧,高体温,頻脈などを呈する重篤な病態で,直ちに治療しないと致命的となる.
診断
 NETの大部分は無症状のため,画像検査で偶然発見されることが多い.また,発生部位によっては腫瘍による圧迫・狭窄といった局所症状が診断の契機となる.たとえば,消化管NETでは腹痛,イレウス,下血など,気管支NETでは咳,血痰,呼吸困難などである.部位に応じて画像検査(エコー,CT,MRI)や上・下部の消化管造影や内視鏡などを行う.また最近ではソマトスタチン受容体シンチグラフィや[14C]5-HTP-PETを用いた腫瘍の局在診断も有用とされる.
 本症が疑われた場合の診断の手順を示す(図12-10-2).血中のセロトニンやその代謝産物である尿中5-HIAAを測定する.特に尿中5-HIAAの測定は本症の診断の特異度(73%)と感度(ほぼ100%)が高い.しかし,食品(バナナ,アボカドなど)や薬品(アセトアミノフェン,フェナセチン,カフェインなど)の過剰摂取により陽性になることがあるので注意を要する.ほかにもNETの血中マーカー(NSE,クロモグラニンA,proGRP)を測定するとよい.異所性ホルモン症候群が疑われた場合,ACTH,バソプレシン,ガストリンなどを測定する.
治療・予後
 NETの根治的治療は外科的切除である.腫瘍が限局(2 cm未満)している場合,予後は良好である.しかし周囲臓器や大血管へ浸潤したり,全身に転移した進行例では根治は難しく,外科療法,薬物療法,放射線療法,などを組み合わせた集学的治療が必要となる.肝転移巣に対しては,肝部分切除術,肝動脈塞栓術(TAE)・化学塞栓術(TACE),ラジオ波焼却術(RFA)や抗癌薬(ストレプトゾトシン,ダカルバジン,ドキソルビシン,5-フルオロウラシル)の単剤や多剤併用による化学療法が用いられる.NECに対しては肺小細癌治療に準じた抗癌薬(シスプラチン,エトポシド,イリノテカン)が用いられる.最近では分子標的薬(スニチニブ,エベロリムスなど)が用いられたり,欧米ではソマトスタチン誘導体を用いたペプチド受容体放射線療法(PRRT)が試みられている.
 カルチノイド症状に対する薬物治療としてはソマトスタチン誘導体(オクトレオチド,ランレオチド)が90%以上で有効である.特にオクトレオチドは腫瘍から産生されるセロトニンを代表とする種々の生理活性物質の分泌を抑制することから,本症の症状を速やかに軽減させ,尿中5-HIAA排泄も減少する.また,オクトレオチドは手術,TAE,化学療法などに伴って急激に発症するカルチノイドクリーゼの予防にも有効である.インターフェロンαもカルチノイド症状の約40~50%に有効である.また,インターフェロンαとオクトレオチドとの併用も用いられる.以前には本症の皮膚紅潮と下痢にセロトニン受容体拮抗薬が有効とされてきたが,最近ではH1受容体拮抗薬とH2受容体拮抗薬の併用やグルココルチコイドがより有効とされる.ペラグラ様皮疹に対してはニコチン酸製剤を投与する.
 NETでもG1,G2は高分化型腫瘍であり,異型度および悪性度は低い.一般に腫瘍の発育が緩徐で進展が遅いため治療率が高く,たとえ転移がみられても術後の長期生存も可能である.特に,虫垂,直腸,気管支NETの5年生存率は高い(80~90%).しかし,NEC(G3)は低分化型であり,異型度および悪性度が高く,予後不良である.[平田結喜緒]
■文献
Eriksson B, Oberg K: Carcinoid syndrome. In: Endocrinology (DeGroot LJ, Jameson JL eds), pp3571-3584, Elsevier Saunders, Philadelphia, 2005.
今村正之総監修,田中雅夫,平田公一編:膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診断・治療実践マニュアル,総合医学社,東京,2011.Oberg K: Neuroendocrine gastrointestinal and lung tumo­rs (Carcinoid tumors), carcinoid syndrome, and related disorders. In: Williams Textbook of Endocrinology(Melmed S, Polonsky P, et al eds), pp1809-1828, Elsevier Saunders, Philadelphia, 2011.

出典:内科学 第10版
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