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ド・マン【ドマン】

日本大百科全書(ニッポニカ)

ド・マン
どまん
Paul de Man
(1919―1983)
ベルギー生まれのアメリカの文学理論家。アントウェルペンで生まれる。ブリュッセルの理工科学校およびブリュッセル自由大学で工学、化学、哲学を学ぶが、修学課程を終えることなく1946年アメリカに移住。ベルギー時代には左翼学生グループ「リーブル・エグザマン」の活動に参加し、新聞『ル・ソワール』Le Soir紙、『ヘット・フラームスヘ・ラント』Het Vlaamsche Land紙に180編ほどの記事を寄稿する。1960年、論文「マラルメ、イェーツ、そしてポスト・ロマン主義の苦境」Mallarm, Yeats and the Post-Romantic Predicamentによりハーバード大学よりPh. D.(博士号)を取得。コーネル大学、ジョンズ・ホプキンズ大学を経て、1970年にエール大学教授となり、ここを終生の地とした。ド・マンにエール大学の同僚だったハロルド・ブルームHarold Bloom(1930―2019)、J・ヒリス・ミラーJ. Hillis Miller(1928― )、ジェフリー・ハートマンGeoffrey Hartman(1929―2016)らを加えたメンバーは一般に「エール学派」と呼ばれているが、彼はいわばそのリーダー的な存在であった。
 ド・マンが実践した文学・思想研究のスタイルは「脱構築(デコンストラクション)批評」と呼ばれている。フランスの哲学者ジャック・デリダの仕事を色濃く反映する彼の批評は言語やテクストに内在する本質的な自己矛盾(内的差異)を暴き出し、意味を一義的に確定することの根源的な不可能性を明らかにしようとするものである。こうした立場は、言語やテクストの本質的な意味を追求しようとしてきた文学批評の伝統的な姿勢に180度の転回を迫るものであった。そのような姿勢で執筆された最初の書物『盲目と洞察――現代批評のレトリックに関する試論集』Blindness and Insight; Essays in the Rhetoric of Contemporary Criticism(1971)は、「読むこと」が必然的に「誤読」になってしまう経緯を克明に分析している。
 主著とされる『読むことのアレゴリー――ルソー、ニーチェ、リルケ、プルーストにおける比喩的言語』Allegories of Reading; Figural Language in Rousseau, Nietzsche, Rilke, and Proust(1979)は脱構築的読解の精髄ともいえる書物であり、ここでもまた、読むことの不可能性、意味の未決定性といった問題が、言語的、修辞的な視点から徹底的に論じられている。
 死後4年を経過した1987年、ベルギー時代の新聞に寄稿したいくつかの記事が親ナチズム的な内容であったことが判明し、学会やメディア界に広範な物議をかもしたが、彼の残した著作は依然として文学や思想の研究に多大な影響をおよぼし続けている。
 主な書物としてはほかにいずれも死後刊行された『ロマン主義のレトリック』The Rhetoric of Romanticism(1984)、『理論への抵抗』The Resistance to Theory(1986)、『美のイデオロギー』Aesthetic Ideology(1996)などがある。[土田知則]
『大河内昌・富山太佳夫訳『理論への抵抗』(1992・国文社) ▽ 山形和美・岩坪友子訳『ロマン主義のレトリック』(1998・法政大学出版局) ▽Blindness and Insight; Essays in the Rhetoric of Contemporary Criticism(1971, Oxford University Press, New York) ▽Allegories of Reading; Figural Language in Rousseau, Nietzsche, Rilke, and Proust(1979, Yale University Press, New Haven) ▽Andrzej Warminski ed. Aesthetic Ideology(1996, University of Minnesota Press, Minneapolis) ▽マーティン・マックィラン著、土田知則訳『ポール・ド・マンの思想』(2002・新曜社) ▽Lindsay Waters and Wlad Godzich eds. Reading de Man Reading(1989, University of Minnesota Press, Minneapolis) ▽Rodolph Gasch The Wild Card of Reading; On Paul de Man(1998, Harvard University Press, Cambridge)』

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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