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ブドウ球菌感染症

内科学 第10版

ブドウ球菌感染症(Gram 陽性球菌感染症)
(1)ブドウ球菌感染症(staphylococcal infection)
定義・概念
 ブドウ球菌(Staphylococcus)によって起こる感染症.引き起こす感染症としては,皮膚・軟部組織感染症,肺炎,カテーテル関連菌血症,感染性心内膜炎,脊椎炎,腸腰筋膿瘍,化膿性関節炎などがある.ペースメーカや人工関節といった体内に留置された人工装置に関連した感染症の起因菌としても重要である.また,黄色ブドウ球菌による毒素産生により,食中毒,毒素性ショック症候群(toxic shock syndrome:TSS),ブドウ球菌性皮膚剥脱症候群(staphylococcal scalded skin syndrome:SSSS)を生じることがある.
分類
 コアグラーゼを産生する黄色ブドウ球菌(Staphylo­coccus aureus)とコアグラーゼを産生しないコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negative staphylococci:CNS)とに大別される. 黄色ブドウ球菌は,メチシリン感性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptible Staphylococcus aureus:MSSA)とメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)とに分けられる.MRSAは以前は医療関連施設で認められる菌と考えられていたが,2000年代から市中型MRSAが欧米では大きな問題になり,わが国でも徐々にその存在が認識されはじめている.
 CNSには表皮ブドウ球菌(S. epidermidis),S. hominis,S. haemolyticusなどがある.一般的にCNSは黄色ブドウ球菌に比べて毒性が低い.しかし,S. lugdu­nensisは毒性が強いことでも知られている.また,S. saprophyticusは会陰部の正常細菌叢として存在し,若い女性の尿路感染症の原因菌となる.
疫学
(Mandell,2009) 黄色ブドウ球菌については,常に保菌している人が20%,間欠的に保菌している人が60%,保菌していない人が20%ともいわれている. SENTRYという国際的なサーベイランスによると,黄色ブドウ球菌感染症の39%が皮膚・軟部組織感染症,23%が下部呼吸器感染症,22%が菌血症(感染性心内膜炎も含む)であった.
病態生理
 ブドウ球菌は皮膚の常在菌であるが,外傷や静脈へのカテーテル留置などから皮膚のバリアが破綻すると組織内に侵入する.毒性の強い黄色ブドウ球菌の場合,ヘモリジンやロイコシジンといった外毒素,カタラーゼ,コアグラーゼ,スタフィロキナーゼ,ヒアルロニダーゼなどの酵素,プロテインA,フィブロネクチン結合蛋白,莢膜といった細胞表面構造などの働きにより,宿主防御機構を回避しながら組織での定着,増殖,侵襲が進んでいく.黄色ブドウ球菌は特に膿瘍形成を伴いやすい.また,黄色ブドウ球菌にはTSS毒素(toxic shock syndrome toxin:TSST-1),エクスフォリアチン(exfoliatin),エンテロトキシン (enterotoxin)といったスーパー抗原を産生する株もあり,それぞれTSS,SSSS,食中毒を引き起こす.
 組織で増殖した細菌が血中に入ると菌血症となり,それから発展して,感染性心内膜炎,さらに骨髄炎,化膿性関節炎,脳梗塞などを引き起こすこともある.
 また,ブドウ球菌は一般的にバイオフィルム形成能をもつ.体内に留置した人工物にバイオフィルムを形成することで,宿主防御機構や抗菌薬から菌を守り,抗菌薬のみでは治療が難しい感染症を引き起こす.
臨床症状
1)皮膚・軟部組織感染症:
感染する部位により毛包炎,癤,癰,丹毒(一般的にはA群連鎖球菌が原因),蜂窩織炎,壊死性筋膜炎といった感染症を生じる【⇨4-2-7)】.乳腺炎や手術後の創感染症も重要な感染症である.また,腋窩などにあるアポクリン汗腺に生じる再発性の毛包感染症である化膿性汗腺炎(hidradenitis suppurativa)や小児で主にみられる伝染性膿痂疹を引き起こす. 一般的な臨床所見としては,発熱,感染部位の炎症所見(発赤,腫脹,疼痛,熱感),膿疹,膿瘍などが認められる.壊死性筋膜炎など重症なものでは,紫斑や壊死,血圧低下や意識障害といった敗血症に伴う循環障害などの所見も認められる.
2)呼吸器感染症:
インフルエンザなどウイルス性の上気道感染症罹患後に,二次的に黄色ブドウ球菌による肺炎をきたすことがある.医療関連感染としてさまざまな抗菌薬を投与後に肺炎をきたすこともある.また,感染性塞栓により末梢側優位に多発性に病変を作り,肺膿瘍に至ることもある(図4-5-1).症状は,発熱,咳,膿性痰,呼吸困難,胸痛などであり,一般に重症である.
3)菌血症:
皮膚・軟部組織感染症,肺炎などの局所感染症に続発することがある.また,中心静脈カテーテルの血管内留置などに関連して生じることも重要である.この場合,発熱,悪寒・戦慄などのほかに,留置部位の炎症所見(発赤,腫脹,疼痛,熱感)が認められる.しかし,炎症所見がないからといって,カテーテル関連菌血症を否定することはできない.また,カテーテル留置部位の静脈に感染性の血栓が生じ,敗血症性血栓性静脈炎へと発展することもある.
4)感染性心内膜炎:
持続する菌血症によって感染性心内膜炎へと発展し,さらに骨髄炎,腸腰筋膿瘍,化膿性関節炎,脳梗塞などを引き起こす.臨床所見としては,発熱,悪寒・戦慄,心雑音を認める.眼瞼結膜出血,爪下線条出血,Osler結節,Janeway病変,Roth斑といった所見も認める.脊椎炎や腸腰筋膿瘍まで発展すると腰痛などを訴える.また,脳梗塞をきたすと神経巣症状が認められるようになる.
5)骨・関節感染症【⇨4-2-8)】:
①外傷,手術や関節穿刺などに伴う直接感染,②遠隔感染巣からの血行性感染,③皮膚など軟部組織の感染巣や隣接する感染巣からの波及(骨から関節へ,関節から骨へ)が考えられる【⇨4-2-8)】.発熱は一般的に認めるが,骨髄炎の場合には感染部位が深部にあるために臨床所見としては感染部位に関連した疼痛のみのこともある.関節炎の場合には,炎症所見(発赤,腫脹,疼痛,熱感)が認められる.
6)人工装置関連感染症:
ペースメーカ,人工股関節・膝関節,脳室-腹腔シャントなど体内に留置された種々の人工装置に生じた感染であり,発熱,留置部位の炎症所見(発赤,腫脹,疼痛,熱感)が認められる.ただし,感染部位が深部にある場合には,臨床所見としては感染部位に関連した疼痛のみのこともある.
毒素性疾患
1)食中毒:
エンテロトキシン産生ブドウ球菌に汚染された食物の摂取による毒素性食中毒である.発症が早いのが特徴で,摂取後1~6時間に悪心,嘔吐,腹痛,(TSS):下痢などの症状が現れ,通常では24時間以内に自然軽快する.
2)毒素性ショック症候群
創傷感染巣や月経時の汚染している膣タンポンから黄色ブドウ球菌の一部がもつ毒素(TSST-1)が吸収され,発熱,嘔吐,下痢,発疹,血圧低下が発症する.
3)ブドウ球菌性皮膚剥脱症候群(SSSS):
おもに新生児や小児に起こり,exofoliatinによる皮膚発赤,水疱形成,表皮剥離が急激な発生を認める.軽く皮膚を擦るのみで表皮が剥離し,びらんを形成するNikolsky徴候がみられる.
検査成績
 白血球数増加,核の左方移動が認められる.ほかに炎症反応としてCRP増加や赤沈亢進が認められる.感染が疑われる部位から採取した検体のGram染色では,ブドウの房状のGram陽性球菌と好中球が認められ,培養ではブドウ球菌が検出される.血液培養でブドウ球菌検出が認められることがある(図4-5-2). 画像検査においては,肺炎では胸部X線,感染性心内膜炎では経胸壁ならびに経食道心臓超音波検査,骨髄炎ではMRI,腸腰筋膿瘍では腹部・骨盤部造影CTが診断の一助となる.
診断
 培養検査でブドウ球菌が検出されたからといって,ブドウ球菌感染症と診断できるわけではない.ただ定着している菌を検出していたり,血液採取時に汚染した菌が検出されることもある. 感染が疑われる部位に炎症所見(発赤,腫脹,疼痛,熱感)が認められたり,咳・痰・呼吸困難などの炎症に伴う所見が認められるときに,感染が疑われる部位から採取した検体のGram染色でブドウの房状のGram陽性球菌と好中球が観察され,培養でブドウ球菌が検出されるとき,ブドウ球菌感染症と診断される.Gram染色で好中球がブドウ球菌を貪食している像を認めるときは,よりブドウ球菌感染症の存在を示唆する.
治療
 食中毒の場合には,対症療法となる.
 膿瘍,感染を起こした壊死組織,人工装置関連感染症の場合には,抗菌薬を投与したとしても病巣まで到達しないため,物理的に感染巣を取り去ることが基本となる.膿瘍に対しては切開排膿やドレナージ,壊死組織に対してはデブリドマン,人工装置関連感染症に関しては人工装置の抜去が基本となり,それに加えて化学的に感染巣を取り去る抗菌薬投与が必要となる.抗菌薬の選択は,MSSAとMRSAのどちらの菌が標的となるかで異なる. MSSAに対する第一選択薬は世界的には抗ブドウ球菌ペニシリンであるナフシリン,オキサシリン,クロキサシリンなどである.しかし,単剤での抗ブドウ球菌ペニシリンはわが国では製造中止となっており,第一選択薬は第1世代セフェム系薬のセファゾリンである.しかし,セファゾリンは血管脳関門(blood-brain barrier:BBB)を通過しないため,中枢神経系に病変が認められるときには,第4世代セフェム系薬のセフェピムやカルバペネム系薬などを用いる専門家もいる.抗ブドウ球菌ペニシリンはBBBを通過する. MRSAに対する第一選択薬はバンコマイシンである.同じグリコペプチド系薬のテイコプラニンを用いられることもあるが,ともに血中濃度測定を行いながら投与法を調節していく.比較的新しい治療薬としてはリネゾリドがあり,さらに2011年にはダプトマイシンが承認となった.ほかにアミノグリコシド系薬であるアルベカシンも抗MRSA薬の1つである. TSSの治療の際には,毒素産生を抑える目的でクリンダマイシンを投与するのが一般的である.免疫グロブリンを投与することもある.
予防
 MRSAは院内感染対策上最も重要な病原体の1つといえる.症例によっては接触予防策を行い,個室管理,入室時からの手袋,ガウンの着用,物品の専有化などの対策をとることがある.[松永直久]
■文献
東山康仁,河野 茂: グラム陽性球菌感染症. 内科学 第9版(杉本恒明,矢崎義雄編),朝倉書店,東京,2007.
Mandell GL, et al eds: Principles and Practice of Infectious Diseases 7th ed, Churchill Livingstone Elsevier, Philadelphia, 2009.

出典:内科学 第10版
©Asakura Publishing Co., Ltd. All rights reserved.
それぞれの用語は原書刊行時(2013年)の時点での最新のものです.常に最新の内容であることを保証するものではありません。また,権利関係の都合で一部表示できない図や画像があります。

EBM 正しい治療がわかる本

ブドウ球菌感染症
どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 ブドウ球菌感染症には、皮膚感染症や尿路感染症、重症の肺炎や、心臓の内腔(ないくう)側の膜や弁に炎症がおきる心内膜炎(しんないまくえん)など、体の一部に限局した感染症のほか、食中毒をはじめとする全身に症状の現れる中毒性の症候群などさまざまなタイプがあります。
 皮膚感染症では、毛穴に炎症をおこす毛包炎(もうほうえん)で始まることが多く、炎症がさらに深く進行したものを癤(せつ)(いわゆるおでき)といい、顔や背中、おしりなどによくでき、痛みや熱を伴うことがあります。癤は一つ二つぽつんとできるもので、たくさんのおできができて炎症が広がった状態を癰(よう)と呼びます。子どもに多いとびひもほとんどの場合黄色(おうしょく)ブドウ球菌が原因です。
 皮膚以外にも、侵入した体内のさまざまな場所で炎症をおこします。鼻の粘膜から侵入すると副鼻腔炎(ふくびくうえん)中耳炎(ちゅうじえん)の原因となります。黄色ブドウ球菌性の肺炎は比較的まれですが、悪性腫瘍(あくせいしゅよう)や糖尿病などの患者さんにおこりやすく、胸痛(きょうつう)や呼吸困難を伴い、肺に水がたまる胸水や膿(うみ)がたまる膿胸(のうきょう)などを合併し、非常に重症化し、死亡率が高くなっています。
 また、心臓の弁置換術後におきる深刻な感染症である急性感染性心内膜炎は、ほとんどがブドウ球菌によるものです。これが悪化し、血液内に細菌が入り込み菌血症(きんけつしょう)という状態になると、感染によって脳組織の一部に炎症がおこり、膿瘍(のうよう)ができる脳膿瘍や髄膜炎(ずいまくえん)、骨髄炎(こつずいえん)などを合併することがあります。
 さらに、ブドウ球菌は食中毒の原因としても知られています。黄色ブドウ球菌には、毒素をつくりだす能力をもった種類があり、食中毒の場合は、菌が直接腸管の組織を破壊するなどして炎症をおこすのではなく、菌が増殖する際につくりだす毒素(ブドウ球菌性エンテロトキシン)によって症状が引きおこされます。黄色ブドウ球菌に汚染され、すでに菌が大量に繁殖した状態の食品を食べると、2~6時間後に症状が現れます。吐き気、嘔吐(おうと)、激しい腹痛、下痢(げり)などがおもな症状で、発熱や発疹(ほっしん)はほとんどみられません。多くは数日間で自然に治ります。
 このほか、黄色ブドウ球菌がつくりだす毒素によって、中毒性ショック症候群、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(きゅうきんせいねっしょうようひふしょうこうぐん)を引きおこすことがあります。
 中毒性ショック症候群は、まれな病気ではありますが、ときに生命にかかわるほど深刻な状態となり得ます。タンポンを使用している月経中の女性に多発したことで注目されましたが、それ以外にもやけど、虫刺され、手術創(手術による傷)などさまざまな皮膚の損傷から感染が始まる可能性があります。菌がつくりだす毒素によって急激に発症し、発熱とともに、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、筋肉痛、のどの痛み、めまいや低血圧、白目が赤くなる(結膜充血(けつまくじゅうけつ))などさまざまな症状が現れます。このほか、発症初期に全身に赤い湿疹(しっしん)が広がることもあります。2~3日でこれらの症状はおさまりますが、その後、腎機能やほかの臓器の機能も低下し、透析(とうせき)や人工呼吸器が必要となる場合もあります。発病後1~2週間で、手足、指をはじめ、顔や体の皮膚がかさぶたのようにはがれます(落屑(らくせつ))。
 ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群は、表皮剥脱毒素(ひょうひはくだつどくそ)によって引きおこされ、皮膚にさまざまな症状が現れます。新生児のリッター病と、5歳以下の子どもにみられる中毒性表皮壊死症(ちゅうどくせいひょうひえししょう)は、この症状がもっとも重症化したものです。いずれも症状としては、口のまわりや目のまわりから赤い湿疹が全身に広がり、触ると痛がる圧痛を伴い、発熱もみられます。まもなく、やけどのようにただれたり、水ぶくれが加わったりし、皮膚が簡単にはがれるようになります(ニコルスキー現象)。この段階で、二次感染をおこしやすくなり、重症化する可能性があります。皮膚がはがれた部分は乾燥し、さらに落屑が生じます。


●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 ブドウ球菌は皮膚やのど、鼻、腟(ちつ)の粘膜など人間の体に常に存在している菌(常在性細菌(じょうざいせいさいきん))で、病原性(病気を引きおこす力)の強い黄色ブドウ球菌と、病原性の弱いコアグラーゼ陰性ブドウ球菌があります。
 水のなか、ほこりなど外界にも広く存在していますが、通常は、黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌いずれによっても病気がおこることはありません。しかし、疲れて体力が低下している場合、入院や手術によって免疫機能が低下している場合、皮膚に傷がある場合など、人間にとって不利な状況、つまり細菌にとって有利な条件が整うと、病原性の強い黄色ブドウ球菌はもちろん、病原性が決して強いとはいえないコアグラーゼ陰性ブドウ球菌でも、体内に入り込んで、炎症をおこし、ときには重症化することも少なくありません。

●病気の特徴
 黄色ブドウ球菌は健康な成人の約30パーセントに常在しているといわれています。また、透析をしている人、インスリンの注射が必要な糖尿病の患者さんなど常に皮膚に傷がある人、アトピー性皮膚炎など、なんらかの慢性の皮膚炎のある人、手術後の人などが、より高い割合で保菌しています。
 黄色ブドウ球菌の特徴として注目されるのは、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)と呼ばれる、ほとんどの抗菌薬が効かない種類の菌が存在することです。しかし、MRSA自体の病原性はとくにそれ以外の黄色ブドウ球菌より強いわけではなく、また、通常の常在菌同様、健康な状態の人に感染を引きおこすわけではありません。ただし、新生児やお年寄り、入院中の人などでは感染の可能性が高くなるため、病院内での感染(院内感染)の原因菌としてもっとも重要と考えられています。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

■化膿性(かのうせい)のブドウ球菌感染症の場合
[治療とケア]感染した部分が化膿している場合は、外科的に切開する
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 切開を行い化膿している部分の膿を排出することで、炎症がおさまることが臨床研究によって確認されています。レーラらが行った研究では、切開後にセフェム系抗菌薬を用いても用いなくても7日後には96パーセントの患者さんでよくなっていたと報告されています。(1)

[治療とケア]抗菌薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] ブドウ球菌感染症に対する抗菌薬の効果は臨床研究によって確認されています。皮膚の感染症についてはほとんどがブドウ球菌およびレンサ球菌によるものです。重症の感染症である肺炎、心内膜炎、髄膜炎、骨髄炎などの場合も含めて、臨床所見、細菌学的直接鏡検、白血球数、CRP(C反応性たんぱく:炎症などがおこると血液中に増加するたんぱく質)などにより経験的治療(いわゆるempiric therapy:診断を確定する前に治療を始めること)を開始し、原因菌の培養・抗菌薬の感受性試験など細菌学的検査の結果をみて診断、治療を修正します。ここでの経験的治療では、バンコマイシン塩酸塩とβラクタム系の抗菌薬の併用が行われることがあります。(2)~(4)

[治療とケア]MRSAが原因の場合は、バンコマイシン塩酸塩を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 原因菌がMRSAであることが確認されたらバンコマイシン塩酸塩を用います。バンコマイシン塩酸塩のMRSAに対する有効性は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(5)~(8)

■ブドウ球菌性中毒の場合
[治療とケア]食中毒の場合は対症療法を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 黄色ブドウ球菌による食中毒は、菌そのものではなく食品内で菌が増殖する際にすでにつくりだしている毒素(ブドウ球菌性エンテロトキシン)が原因となっているので、抗菌薬は用いません。MRSAによる食中毒ではバンコマイシン塩酸塩が有効なことを示唆する報告があります。下痢や嘔吐で脱水症状が激しい場合などには、輸液を行います。子どもであってもできるだけ経口あるいは経鼻管(けいびかん)から水分を補給するよう勧められます。(9)(10)

[治療とケア]中毒性ショック症候群の場合は抗菌薬を用いるとともに、対症療法を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 体内で毒素をつくりだしている黄色ブドウ球菌を消失させるために抗菌薬を用います。また、腎(じん)機能の低下など深刻な合併症をおこすこともあり、その場合はそれぞれの治療を行うことになります。(11)(12)

[治療とケア]ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群の場合は抗菌薬を用いるとともに、対症療法を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 体内で毒素をつくりだしている黄色ブドウ球菌を消失させるために抗菌薬を用います。また、やけどの治療と同様に輸液を行ったり、皮膚がはがれた部分の治療を行い、二次感染がおこらないようにします。これらのことは臨床研究によって確認されています。(4)(13)


よく使われている薬をEBMでチェック

皮膚感染症に対して
[薬名]オーグメンチン(アモキシシリン水和物・クラブラン酸カリウム)(14)(15)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ケフラール(セファクロル)(14)(15)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] これらをはじめとして多くの抗菌薬が有効であることが、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。

MRSAが原因菌の場合
[薬名]塩酸バンコマイシン(バンコマイシン塩酸塩)(5)~(8)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] MRSAに対するバンコマイシン塩酸塩の効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。

重症感染症に対して
[薬用途]肺炎・気管支炎の場合
[薬名]シプロキサン(塩酸シプロフロキサシン)(16)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]クラリス/クラリシッド(クラリスロマイシン)(16)
[評価]☆☆☆☆☆

[薬用途]髄膜炎の場合
[薬名]ロセフィン(セフトリアキソンナトリウム水和物)(17)(18)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]メロペン(メロペネム水和物)(17)(18)
[評価]☆☆☆☆☆

[薬用途]感染性心内膜炎の場合
[薬名]ケフドール(セファマンドールナトリウム)(19)(本邦非売品)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ゲンタシン(ゲンタマイシン硫酸塩)(19)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] これらの薬剤をはじめとして多くの抗菌薬が有効であることが、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
皮膚感染症では、ブドウ球菌を想定して抗菌薬を用いる
 ブドウ球菌は人の皮膚、鼻やのどの粘膜などに常に存在している細菌で、健康な場合は病気をおこすことはありません。ただし、なんらかの原因で人間側の免疫力が低下した状態では、体内のさまざまな場所で感染をおこすことがあります。
 一般的に、感染症の患者さんでは、感染巣(そう)から採取した液の培養を行い、原因となる細菌を確かめて、その菌に対して抗菌薬が効くかどうかの検査(感受性試験)を行ったうえで、確実に有効な抗菌薬を選ぶのが理想です。しかし、皮膚の感染症の多くはブドウ球菌およびレンサ球菌によるものですので、病巣から採取した液を培養することなく(患部への塗布あるいは経口で)抗菌薬を用いることが少なくありません。比較的大きな膿を形成したときには、切開し、膿を排出したうえで、抗菌薬(さまざまな種類のものが用いられています)を塗布ないしガーゼにのばして貼付します。

重症感染症では、感受性試験を行って抗菌薬を選択する
 肺炎、感染性心内膜炎、髄膜炎、骨髄炎などの非常に重症の感染症では、痰や血液の培養と感受性試験の結果に基づいて抗菌薬を選択します。その結果がでるまでは、経験的にもっとも頻度(ひんど)の高い細菌によるものと想定して、それに対して効果のある抗菌薬を用います。
 MRSAによることがわかれば、バンコマイシン塩酸塩を用います。MRSAは、院内感染の原因菌としてもっとも重要な菌ですが、病原性自体は、通常のブドウ球菌と変わりません。ただし、いったん発症すると、現在、効果のある抗菌薬はバンコマイシン塩酸塩のみであるため注意が必要です。とくに、透析や手術後、カテーテルを挿入している患者さんなどに感染の危険性が高いことがわかっています。

毒素によっておこる病気もある
 一方、ブドウ球菌には、毒素をつくりだすものがあり、その毒素によって引きおこされる病気もあります。食中毒はその代表的なもので、この場合、すでに食品内で菌の増殖が始まっており、その際につくりだされた毒素が原因であるため、抗菌薬は用いられません。脱水症状が激しい場合などに限って輸液などの対症療法を行います。
 中毒性ショック症候群とブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群の場合は、体内にいるブドウ球菌が毒素をつくりだしているので、抗菌薬を用い、それぞれの症状に対しての治療を行うことになります。

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出典:法研「EBM 正しい治療がわかる本」
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