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ムンプスウイルス

デジタル大辞泉

ムンプスウイルス(mumpsvirus)
ムンプス(流行性耳下腺炎)の原因となるウイルス。唾液腺髄膜精巣卵巣甲状腺などにも感染する。予防には生ワクチンが用いられる。

出典:小学館
監修:松村明
編集委員:池上秋彦、金田弘、杉崎一雄、鈴木丹士郎、中嶋尚、林巨樹、飛田良文
編集協力:田中牧郎、曽根脩
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世界大百科事典 第2版

むんぷすういるす【ムンプスウイルス】

出典:株式会社平凡社
Copyright (c) Heibonsha Limited, Publishers, Tokyo. All rights reserved.

日本大百科全書(ニッポニカ)

ムンプスウイルス
むんぷすういるす
mumpsvirus

パラミクソウイルス科のウイルス。1本鎖RNA(リボ核酸)ウイルスで、流行性耳下腺(せん)炎ウイルス、おたふくかぜウイルスともいわれる。典型的なパラミクソ科のウイルスで、ビリオン(細胞外で感染性を有するウイルス粒子)は直径150~300ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)で球状。

 ムンプスウイルスは生物活性が高く、赤血球凝集、ノイラミニダーゼ活性(ノイラミニダーゼneuraminidaseは細胞膜上の糖タンパクレセプターからN-アセチルノイラミン酸を外す酵素)、細胞融合誘導活性をもつ。カプシド(ウイルス核酸と結合タンパク質を取り巻くタンパク質殻)の内部には転写に必要な複合体構造がある。ヌクレオカプシドタンパク質(Nタンパク質)、フォスフォタンパク質(Pタンパク質)、ラージタンパク質(Lタンパク質)とウイルスRNAがこれである。また、エンベロープ(外被)にはヘマグルチニン・ノイラミニダーゼhemagglutinin neuraminidaseタンパク質(HNタンパク質)、フュージョンfusionタンパク質(Fタンパク質)をもっている。

 ムンプスウイルス構成タンパク質とその生物活性を示すと次のようである。( )内の数字は分子量を示す。

(1)Lタンパク質(18万~20万ダルトン) RNA合成に関与と考えられている。

(2)HNタンパク質(7万4000~8万ダルトン) 赤血球凝集活性とシアリダーゼ活性に関与する。

(3)Nタンパク質(6万8000~7万3000ダルトン) 宿主(しゅくしゅ)(ウイルスの寄生対象となる生物)細胞よりのヌクレアーゼnucleaseからウイルスRNAを保護する。

(4)Fタンパク質(6万5000~7万4000ダルトン) 細胞融合に関与する。

(5)Pタンパク質(4万5000~4万7000ダルトン) RNA合成に関与する。

(6)Mタンパク質(3万9000~4万2000ダルトン) M=マトリックスmatrix。ウイルス構成分子の集合に関与する(1ダルトンは1.661×10-27キログラム)。

 ムンプスウイルスには血球凝集や溶血反応がみられるが、血球凝集反応は特異抗原で阻止される。また、水溶性の補体結合反応およびエンベロープ抗原がある。56℃、20分で失活化される。発育鶏卵の羊膜腔(こう)でよく増生(増殖)し、HeLa(ヒーラ細胞)、MK(サル腎(じん)細胞monkey kidneyの略)などの細胞培養では多核細胞がみられる。自然宿主はヒトだけである。ヒトやチンパンジーは経口感染や経気道感染によって耳下腺炎や膵臓(すいぞう)炎をおこす。世界各地に分布し、流行する。多少の疑問はあるが、感染によって終生免疫を生ずるとされている。

[曽根田正己]

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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内科学 第10版

ムンプスウイルス(ー 鎖 RNAウイルスによる感染症)
(3)ムンプスウイルス(mumps virus)
概念
 ムンプス(mumps)は流行性耳下腺炎(epidemic parotitis),おたふくかぜともよばれている.パラミクソウイルス科ルブラウイルス属に属するムンプスウイルスの全身性ウイルス感染症である.唾液や気道分泌物により飛沫感染する.
疫学
 自然宿主はヒトだけである.流行を阻止するための集団免疫率は85~90%である.ムンプスウイルスを含むワクチンの1回定期接種を行っている国では患者数が90%減少し,2回定期接種している国では患者数が99%減少している.一方,定期接種を行っていないわが国では4~5年ごとにムンプスの流行を認めている.
病態生理
 潜伏期間は12~25日,通常16~18日である.飛沫感染により感染したムンプスウイルスは,上気道粘膜や所属リンパ節で増殖した後,血行性に親和性のある臓器に散布される(ウイルス血症).ウイルス親和性の高い臓器(唾液腺,中枢神経系,精巣,卵巣など)に到達したムンプスウイルスは,そこで増殖して臨床症状を呈してくる.感染のリスクが高い期間は,耳下腺腫脹2~3日前から腫脹5日後頃までである.不顕性感染者も唾液腺からムンプスウイルスを排泄している.ムンプス流行時,唾液腺腫脹を伴わないがムンプスウイルスによる無菌性髄膜炎や難聴を認めることがある.
臨床症状
 発熱,急速な耳下腺腫脹で発症する.多くの例で複数の唾液腺が腫脹する(図4-4-20).開口時や咀嚼時に下顎角部の疼痛がある.多くは片側の耳下腺腫脹開始後24時間以内に反対側耳下腺が腫脹するが,ときに7日間以上経過してから反対側耳下腺が腫脹することがある.年齢が高くなるほど耳下腺腫脹期間が長くなる.顕性感染率は70%であるが,2歳未満児の顕性感染率は低率である. ムンプスワクチン後のムンプス発症例は,初感染例に比べ軽症に経過する(修飾ムンプス).唾液腺からのムンプスウイルス分離率も低率である.
検査成績・診断
 周囲の流行状況からムンプスを疑い,片側ないし両側の耳下腺の急速な腫脹と,2日以上持続する耳下腺腫脹を認めたとき,臨床的にムンプスと診断する.ウイルス学的には,①血中IgM抗体の検出(酵素免疫法,EIA法),②血中抗体の有意上昇(EIA法,赤血球凝集抑制(HI)法,中和(NT)法で測定),③唾液,尿,髄液からのウイルス分離陽性またはウイルス遺伝子の検出(PCR法)のいずれか1つを満たした場合,ムンプスと診断する.ムンプス髄膜炎では髄液からムンプスウイルスが分離される.ワクチン後のムンプス例ではIgM抗体が検出されないことが多く,診断には唾液からのウイルス分離が有用である.ムンプスに対する免疫状態を調べるために血清抗体を測定するときは,EIA法を用いる.
合併症
1)髄膜炎・脳炎:
ムンプス感染者の50%に髄液細胞数の増加を認めるが,頭痛,発熱,項部硬直などの無菌性髄膜炎の臨床症状を呈するのは3~10%である.脈絡膜叢を通ってウイルスが感染する.ムンプス髄膜炎の予後は良好である.一方,ムンプス感染者の0.2%に認める脳炎は,水頭症などの後遺症を残す予後が悪い合併症である.
2)難聴:
予後が悪い合併症で,多くは片側だけの感音性難聴である.年長者ではめまいを伴うことが多い.一過性を含めると年長者の発症率は4%であるが,永久に難聴を遺すのは,日本の調査では400〜1000人に1人である.
3)精巣炎:
思春期以降の男性の25%に合併し,両側精巣炎の頻度は10%である.治癒後に精子の数は減少するが,不妊症になるのはまれである.
4)その他:
思春期以降の女性がムンプスに罹患すると,15~30%に乳腺炎を,5%に卵巣炎を合併する.膵炎,腎腫大,甲状腺炎も合併することがある.第一三半期の妊婦がムンプスに罹患すると27%に自然流産するが,ムンプスウイルスが関連する先天奇形は認められていない.
治療
 ムンプスウイルスに対する特異的治療はない.対症的に治療する.
予防
 ムンプスワクチンを接種する.先進国では2回接種が勧められている.米国では2回のムンプスワクチン接種歴がある人でもムンプス発症が認められている.わが国ではムンプスワクチンは任意接種である.ワクチン後の耳下腺腫脹率は3%であり,ワクチン接種後18~21日に認められる.1歳児に接種する方が耳下腺腫脹を合併する率が低率である.わが国のムンプスワクチンの無菌性髄膜炎合併率は2000~20000人に1人である.難聴や精巣炎の合併はきわめてまれである.ムンプス既往歴がない思春期以降の人には接種が勧められる. ムンプス患者と接触があったときのムンプスワクチン緊急接種の発症予防効果は不十分であるが,希望者にはムンプスワクチンを接種する.潜伏期間中にワクチン接種を行ったとしても,ムンプスが重症化することはない.人免疫グロブリンは暴露後予防には無効である.[庵原俊昭]

出典:内科学 第10版
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