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リンパ浮腫【リンパフシュ】

デジタル大辞泉

リンパ‐ふしゅ【リンパ浮腫】
リンパの流れが滞り、皮下リンパ液が貯留してむくみが生じる状態。癌(がん)の手術でリンパ節を切除した後や、放射線治療後遺症として発症することがある。

出典:小学館
監修:松村明
編集委員:池上秋彦、金田弘、杉崎一雄、鈴木丹士郎、中嶋尚、林巨樹、飛田良文
編集協力:田中牧郎、曽根脩
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栄養・生化学辞典

リンパ浮腫
 リンパ管が閉塞してその末梢側の組織液が貯留する状態.

出典:朝倉書店
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世界大百科事典 第2版

りんぱふしゅ【リンパ浮腫】

出典:株式会社平凡社
Copyright (c) Heibonsha Limited, Publishers, Tokyo. All rights reserved.

日本大百科全書(ニッポニカ)

リンパ浮腫
りんぱふしゅ
lymphedema
リンパ液(リンパ)の流れが妨げられて、脚や腕などの皮下にリンパ液がたまることで生じるむくみ。「一次性(原発性)リンパ浮腫」と「二次性(続発性)リンパ浮腫」があり、二次性が大多数を占める。
 一次性リンパ浮腫は原因不明のリンパ管の形成不全によるもので、先天性のほか、思春期に発症する早発性、35歳以降に発症する遅発性がある。一次性リンパ浮腫のなかでも遅発性は比較的まれであり、緩和ケア期や高齢者によくみられる低タンパク性浮腫や不動性浮腫、肥満に伴う浮腫などはリンパ浮腫(遅発性リンパ浮腫)ではない。
 二次性リンパ浮腫は、乳がんや子宮がんなどの手術に伴うリンパ節切除(リンパ節郭清(かくせい)術)後に発症することが圧倒的に多く、放射線照射などの影響も強く受ける。その他、前立腺(せん)がんや悪性黒色腫の術後、腫瘍(しゅよう)の浸潤、真菌・寄生虫感染およびリンパ管炎、深部静脈血栓症に伴う場合や、悪性腫瘍の経過中に腫瘍自体がリンパ管に直接障害をもたらす悪性リンパ浮腫もある。
 リンパ浮腫は女性に多く、多くは片側性(左右のどちらかの脚または腕などに生じる)であり、両側性の場合も初期、軽度の場合を除いて必ず左右差がある。基本的には患肢(浮腫のある側の腕または脚)の色調変化のない無痛性の腫脹(しゅちょう)であるが、皮膚の緊満感や重圧感、しびれ、静脈うっ滞による皮膚色の変化(青紫色)や炎症を伴うことも少なくない。[廣田彰男]

発症機序

人間の体のおよそ60~70%は水分(体液)であり、大きく細胞内液と細胞外液とに分けられ、その比率は約2:1である。後者は占める割合は少ないが、生体にとって重要な働きをしており、さらに血管内液(血漿(けっしょう))、組織間液およびリンパ液に分けられる。
 リンパ液は次のように生成される。すなわち、心臓から動脈を経て拍出される血液は、太い動脈から徐々に細い動脈を経て、最終的に心臓からもっとも遠い腕や脚の毛細血管に至る。その毛細血管のすきま(生理学的に小孔および大孔とよばれる)からは血液成分の一部が血管外に漏れ出る。これはおもに毛細血管の動脈側で起こり、このなかには水分、ガス、電解質、その他の溶質(小孔を楽に通れるような小さな物質)と少量のタンパク質(小孔を楽には通れない大きな物質)等が含まれている。これらはその付近の組織間隙(かんげき)に至り、細胞に栄養等を与えたあと、毛細血管の静脈側にふたたび入って行くが、一部はリンパ管に入ってリンパ流となり、おのおのの経路を経て静脈へ還流する。このリンパ管内の液をリンパ液(リンパ)とよび、タンパクや脂肪を多く含んでいるが、赤血球は含まず、無色~淡いクリーム色をしている。
 通常、体下部からのすべてのリンパ液は、左腕や左胸部、左頭部からのリンパ液をあわせて胸管(胸腔(きょうくう)内を上行する1本の太いリンパ管)に流れ込み、次いで左内頸(ないけい)静脈と鎖骨下静脈の接合部(首の付け根、左鎖骨のもっとも内側の部分)に注ぎ込む。一方、右腕、右頸部・頭部、右肺のリンパ液は右鎖骨下静脈と右内頸静脈の接合部で太い頸静脈に注ぎ込み、心臓へ戻る。
 ここで、リンパ管といういわば「排水管」がなんらかの理由で機械的に詰まってしまったり、もしくは狭くなったりすると、リンパ流は停滞し、リンパ管に入れなかった水分やタンパクは血管外の皮下組織によどんでしまい、組織間隙中にタンパク濃度の高い体液がたまることになる。これがリンパ浮腫である。タンパクが皮下に貯留するため、皮下組織は徐々に変性し、線維化や脂肪蓄積も加わり皮膚はしだいに硬くなる(皮膚の硬化のため、足の甲の皮膚をつまみ上げにくくなる所見を「シュテンマー・サインStemmer sign」という)。
 乳がんや子宮がんの手術等でリンパ節を切除しても、その周囲には徐々にかわりのリンパ管(側副路(バイパス))が新生されるため、多くの場合浮腫は発症しないが、その働きが不十分であると浮腫(二次性リンパ浮腫)を発症することになる。一次性リンパ浮腫においても、リンパ管機能は完全に障害されているわけではない。したがって、リンパ浮腫の治療は、その側副路や不十分な機能を可能な限り活発化し、浮腫の軽減を目ざすことが基本となる(保存的治療)。[廣田彰男]

診断と評価、合併症

リンパ浮腫は、通常は既往歴(過去の病歴や手術歴)を中心とした問診と身体診察から診断される。リンパ浮腫の評価方法としては、患肢の太さを測る周径測定が一般的であるが、超音波検査や高精度体成分分析装置による評価、CT・MRI検査や、必要に応じてRIリンパ管造影検査などが行われることもある。
 リンパ浮腫に付随して起こりうる症状(合併症)としては、多毛症(患肢に体毛が多く生えてくる)、角化症(皮膚が硬くなり弾力がなくなる)、リンパ小疱(しょうほう)(浮腫患部の皮膚表面に小さな水疱が発生する)、リンパ漏(皮膚からリンパ液が漏れ出す)、接触性皮膚炎(皮膚のかぶれ)、真菌感染、蜂窩織炎{ほうかしきえん}(細菌感染による皮下組織の炎症)や、きわめてまれに悪性化してリンパ管肉腫(リンパ管のがん)を発症することもある。[廣田彰男]

治療(複合的理学療法)

リンパ浮腫の治療の中心は保存的治療(手術などの外科的な処置を行わない内科的治療)であり、リンパ浮腫の保存的治療のスタンダードは、「複合的理学療法 complex physical therapy」として知られている。
 複合的理学療法とは、(1)用手的リンパドレナージ(manual lymph drainage:MLD)、(2)MLD後の圧迫(弾性着衣による患肢周径の維持)、(3)圧迫下の運動(弾性着衣によるリンパ管へのマッサージ効果)、さらに(4)スキンケア(急速な浮腫の増悪(ぞうあく)をまねく蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの予防としてのスキンケア)の四つを柱とする治療法である。すなわち、患肢から体幹部への浮腫液の排除が治療の主体であり、その前提として、患肢の挙上(高く上げておくこと)も重要である。
 複合的理学療法は、第1期(集中治療期)と第2期(維持治療期)に分けられる。第1期は基本的には約1か月間入院し、スキンケア、MLD、運動療法と多層包帯法(弾性包帯による圧迫)を行い、可能な限りリンパ浮腫の軽減を図る期間、第2期は外来診療で、患者のセルフケアにより軽減した状態を維持する期間である。しかしながら、近年では比較的リンパ浮腫の存在が知られてきたこともあり、入院加療が必要なほどの重症に至る前に受診する患者が増えてきたことから、第2期から治療を始めることが可能な場合が多い。
(1)用手的リンパドレナージ
 用手的リンパドレナージ(MLD)は、手を使って(用手的)、皮膚表面の浮腫液を順次深部のリンパ系に送り込む方法である。いわゆる「リンパマッサージ」として知られるが、リンパ浮腫におけるマッサージは、優しく皮膚をずらすように行う専門的な手技であり、いわゆる(肩や首をもむような)「マッサージ」とは本質的に異なるため「リンパドレナージ」とよんで区別される。
 術後の脚のリンパ浮腫を例に考えてみると、健康な場合は、リンパ液は鼠径(そけい)リンパ節(脚の付け根のリンパ節)から深部リンパ系(胸管)に入り込むが、リンパ節切除後はこの経路を使えないので、MLDによって、浮腫液(リンパ液)を体側を通って腋窩(えきか)(わきの下)まで誘導し、腋窩リンパ節から深部リンパ系を経て頸静脈角部で静脈へ合流させる経路を使う。この際には、自動車の渋滞を解消するのと同様のイメージで、先頭(流し込みたい部位に近い部分)から動かし始める。すなわち、頸静脈角部からドレナージを始め、深部リンパ系(深呼吸と腹部マッサージ)、腋窩リンパ節、体側部、下腹部の順に施術し、次いで脚の付け根から足先まで、体幹方向へと体表面を優しくなでて浮腫液を移動させる。腕の場合は反対に、鼠径リンパ節へ浮腫液を誘導する。
 簡易的に患者自身で行うシンプルリンパドレナージ(simple lymph drainage:SLD)とよばれる方法もあるが、治療的なエビデンスは確立していない。なお、間欠的空気圧迫装置とよばれる、患肢にカフを巻き付けて膨張・収縮させ、浮腫液を体幹部へ誘導する装置が時にリンパ浮腫の治療に用いられるが、その際は大腿(だいたい)・下腹部への浮腫液貯留を避けるため、SLD(またはMLD)を併用する。
(2)弾性着衣による圧迫
 弾性着衣(弾性スリーブ、弾性ストッキングなど)は、着用によって患肢を継続的に圧迫することを目的に設計された医療機器であり、一般に販売されている着圧ストッキングなどとは異なる。リンパ浮腫の治療においては、朝の起床直後に着用し、就寝直前に外す。就寝時は基本的には外すか、または一段弱い圧の弾性着衣にする。
 一般的に、脚ではクラス(30~40mmHg(ミリメートル水銀柱)の圧がかかる製品)もしくはクラス(40~50mmHgの圧がかかる製品)、腕ではクラス(20~30mmHgの圧がかかる製品)もしくはクラスの製品を用いる。弾性着衣の生地には、平編みや厚手丸編み(ショートストレッチ)のタイプと丸編み(ロングストレッチ)のタイプがあり、リンパ浮腫の治療には前者が理想的とされるが、臨床的には後者が繁用される。またその形状は、脚の浮腫では理想はパンティストッキングタイプであるが、片脚ベルト付きやシリコン付きのタイプも用いられる。腕の浮腫では付け根から手首までの弾性スリーブが繁用される。
 なお、弾性着衣と同様に、患肢を圧迫する方法として、弾性包帯(圧をかけるのに適した弾性をもった包帯)を用いた多層包帯法があるが、第2期には多くの場合適さず、前述のとおりおもに第1期で実施されている。
(3)運動
 リンパドレナージが用手的にリンパ系を活発化する方法である一方で、日常生活での動作や運動によってもリンパ管は刺激され、活発化させることができる。手術直後からの深呼吸や軽い筋肉運動に始まり、無理のない範囲で患肢の運動を行うことは、保存的治療のなかでも重要な要素である。なお、運動による効果は、患肢を弾性着衣で圧迫した状態で行うことでより増強されるが、実施に際しては主治医等と相談して適切に行うことが望ましい。
(4)スキンケア
 スキンケアは、急速な浮腫の悪化をまねく蜂窩織炎などの予防を目的として、日常的に患肢を清潔に保つこと、傷をつくらないようにすることなどを中心に、セルフケアの一環として行われるものである。
(5)複合的治療(複合的理学療法を中心とする保存的治療)
 これらの複合的理学療法は、標準的なリンパ浮腫の治療法ではあるが、実際にはこれらのみでは不十分であり、たとえば長時間の立ち仕事を避ける(脚の浮腫の場合)、時に患肢を挙上するなどの日常生活指導を加えることが重要であるとして、複合的理学療法に日常生活指導を加えた内容を「複合的治療」(または「複合的理学療法を中心とする保存的治療」)とよび、日本におけるリンパ浮腫に対する標準的治療(厚生労働省委託事業リンパ浮腫研修運営員会「委員会における合意事項」、2010年)として、2016年(平成28)には診療報酬の項目として新設された。[廣田彰男]

その他の治療法

リンパ浮腫の外科的治療には、リンパ浮腫組織切除術やリンパ誘導術があるが、現在はほとんど行われない。最近実施されている顕微鏡下でのリンパ管細静脈吻合(ふんごう)術は、劇的な効果を期待できるものではなく、現時点では確立された方法とはいえないが、蜂窩織炎(ほうかしきえん)発症を低減させるとの報告はある。その他、一次性リンパ浮腫に対して遺伝子治療も試みられている。[廣田彰男]

合併症(蜂窩織炎)の治療

リンパ浮腫の患肢は、タンパク質の貯留および免疫機能低下のために感染が起こりやすい状態となっており、蜂窩織炎(リンパ管炎、急性皮膚炎)を発症することが多い。赤い斑点(はんてん)状もしくは患肢全体に発赤(ほっせき)を呈し、急な高熱を伴うこともあるが、いつのまにか慢性的に炎症をきたしていることも多い。こうした合併症が起こると、血管透過性が亢進(こうしん)し、浮腫は急速に悪化する。治療として、急性期は安静臥床(がしょう)のうえ、発赤部の冷却および抗菌薬の服用が必要となる。あわせて、菌の「培養池」となる浮腫液の軽減が必要となる。[廣田彰男]

浮腫の悪化要因と合併症の予防

肥満や体重増加は浮腫の悪化をまねく最大の誘因である。また、過労等によっても悪化する傾向がある。リンパ管機能が低下しているため、その分無理ができないことは念頭に置くべきである。
 その他、合併症予防のため、皮膚の保護や保湿に努め、外傷などにも注意する。薬用石鹸、保湿剤(油性のクリームやローション)、尿素製剤なども適宜使用する。[廣田彰男]

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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内科学 第10版

リンパ浮腫(リンパ管疾患)
概念・定義
 リンパ管の発生異常や傷害によってリンパ還流障害が起こり,毛細血管から漏出した組織間液がリンパ管の輸送処理能力をこえて組織間隙に貯留した状態と定義される.したがって,心不全や腎不全など全身疾患による浮腫や深部静脈血栓症など静脈還流不全による浮腫とは区別される.
分類
 リンパ浮腫は,その原因により一次性(特発性,原発性,本態性)と二次性(続発性)に分類される.
1)一次性リンパ浮腫:
リンパ浮腫の原因となる疾患や既往が不明なものである.発症には,リンパ管の低形成あるいは過形成が関与していると考えられる.一次性リンパ浮腫は,発症時期と遺伝子異常の有無によって細分類される(表5-19-1).
2)二次性リンパ浮腫:
悪性腫瘍,感染,外傷やリンパ節郭清,放射線治療など何らかの疾患あるいは疾患の治療が原因で,リンパ管の閉塞や損傷を起こし,その結果としてリンパ浮腫を生じたものである.発生頻度は,二次性リンパ浮腫がリンパ浮腫全体の80~90%を占め,原因として医原性が最も多い.
 a)医原性:子宮癌,卵巣癌,前立腺癌や膀胱癌などの手術で,骨盤内のリンパ節郭清が行われると,リンパ節やリンパ管が消失するため,下肢のリンパ還流が障害される.同様に乳癌で腋窩リンパ節の郭清が行われると,上肢のリンパ還流が障害される.また放射線治療後にはリンパ管の線維化が起こり,リンパ還流が障害される.
 b)悪性腫瘍:悪性腫瘍のリンパ管への直接浸潤やリンパ節転移によってリンパ管が閉塞し,リンパ還流が障害される.
 c)感染:リンパ管炎やリンパ節炎が繰り返されると,リンパ管の閉塞をきたす.蚊を媒介して侵入するフィラリアは,リンパ管内に寄生し,直接的なリンパ管の構造破壊と炎症による障害を起こし,リンパ管を閉塞させる.
病期分類
 現在,リンパ浮腫の病期分類として国際的に認められたものはないが,一般的に用いられている病期分類を表5-19-2に示す.
診断
 浮腫の原因となる疾患を念頭におきながら,基本的な診察(問診・視診・触診)によってリンパ浮腫と他疾患を鑑別する必要がある.問診では,悪性腫瘍の有無とその治療歴,蜂窩織炎・動静脈疾患・整形外科的疾患・外傷の既往歴,運動麻痺の有無に留意する.視診では浮腫の左右差(両側性・片側性),静脈疾患の有無,皮膚の色調変化(色素沈着,発赤,チアノーゼ)の有無を観察する.また,過角化・多発性疣贅・箱状趾などの進行したリンパ浮腫に特徴的な所見の有無も観察する.触診では,皮膚温の上昇(炎症性疾患)・圧迫痕・皮膚硬化(皮膚をつまむことができるか)の有無を観察する.
検査成績
 リンパ浮腫の確定診断に有効な血液検査や尿検査はないが,鑑別診断のため血清蛋白濃度の低下,肝・腎機能異常,甲状腺機能異常,炎症所見の有無を確認する.
 画像診断として患肢の超音波検査,リンパ管シンチグラフィ,蛍光リンパ管造影法が用いられる.超音波検査では,リンパ浮腫の確定診断はできないが,静脈疾患との鑑別には非常に有用である.リンパ管シンチグラフィは,放射線同位元素により標識されたコロイド(ヒトアルブミンなど)をトレーサーとして皮下に注入して,経時的にリンパ還流状態を観察する検査で,国際的にリンパ浮腫の確定診断法として推奨されている(図5-19-1).蛍光リンパ管造影法はインドシアニングリーン(以下,ICG)がアルブミンと結合してリンパ管に取り込まれることを利用しており,皮下注射したICGを赤外線照射により励起させてリンパ還流状態を観察できる.
鑑別診断
 四肢に浮腫をきたす疾患を鑑別する必要がある(表5-19-3).一般的に全身性浮腫は両側性に認められることが多く,局所性浮腫は,片側性に認められることが多い.リンパ浮腫も上肢では乳癌が原因となることが多いため,ほとんどが片側性であるが,下肢では30~40%が両側性である.
合併症
1)蜂窩織炎:
リンパ浮腫の約半数に合併するといわれる.患肢の発赤・熱感・疼痛など炎症所見を呈し,しばしば38℃をこえる発熱を認める.発症した場合には,安静とし抗菌薬投与を行う.
2)リンパ漏:
患肢に創ができた場合にリンパ液が漏れだすことがある.創感染を併発すると難治性となる.創処置に加えて圧迫処置を行う.
経過
 外科的治療が奏効する症例もあるが,一般的には,リンパ浮腫は完治させることが困難で,生涯にわたって治療を継続しなければならない疾患である.原疾患として悪性腫瘍を有するもの以外の生命予後は良好である.
治療
 有効な薬物療法はなく,保存的治療として,スキンケア・用手的リンパドレナージ・圧迫療法・運動療法による複合的治療(complex physical therapy)が行われる.保存的治療の無効例には,リンパ管細静脈吻合術を主としたリンパ管再建術が試みられることがある.[古谷 彰]
■文献
International Society of Lymphology: The diagnosis and treatment of peripheral lymphedema. 2009 Consensus Document of the International Society of Lymphology. Lymphology, 42: 51-60, 2009.
小川佳宏:リンパ浮腫の診断と評価.リンパ浮腫診療実践ガイド(加藤逸夫,重松 宏,他編),pp3-15, 医学書院,東京,2011.
Stanley GR: Lymphedema: Evaluation and decision making. In: Rutherford’s Vascular Surgery 7th ed (Cronewett JL, Johnston KW ed), pp1004-1016, Saunders, Philadelphia, 2010.

出典:内科学 第10版
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六訂版 家庭医学大全科

リンパ浮腫
リンパふしゅ
Lymphedema
(循環器の病気)

どんな病気か

 リンパ管の圧迫や狭窄(きょうさく)のためにリンパ管の流れが悪くなると、リンパ管の内容物がリンパ管の外にしみ出し、むくみが現れます。とくに重要なのが蛋白質で、蛋白質がリンパ管からもれて組織内に蓄積されると、組織細胞の変性と線維化が起こり、その部分の皮膚が次第に硬くなっていきます。

原因は何か

 原因不明の一次性と、子宮がんや乳がんなどの術後に多くみられるリンパ管の圧迫や狭窄などが原因で起こる二次性があり、ほとんどが二次性です。

症状の現れ方

 若い女性に多く、最初は夕方になると足、かかと、手の甲のはれで気がつきます。痛みや色の変化はなく、翌朝になるとはれは消えます(可逆性リンパ浮腫)。症状が進むとむくみが消えてなくなったあとに、皮膚が線維化して硬くなってきます(非可逆性リンパ浮腫)。さらに進むと皮膚が硬く変形し、象皮症(ぞうひしょう)といわれる状態になります。

 一般にリンパ節ははれず、静脈が怒張することもありません。また、リンパ管炎や組織の炎症(蜂窩織炎(ほうかしきえん))を合併するとリンパ浮腫は悪化します。

検査と診断

 まず、手足の浮腫を認めた場合には、その原因となる低栄養、静脈不全、心不全、肥満などと区別する必要があります。次に、リンパ浮腫が疑われた場合には、アイソトープによるリンパ管造影が最も一般的で、リンパ管での取り込み不良、不均一性、リンパ節の活性低下などから診断します。

 二次性の原因である手術後や悪性腫瘍の検査のためにはCTも有効です。静脈性浮腫との区別には静脈造影が有効です。また、全身疾患(心不全腎不全、低蛋白、降圧薬、ホルモン薬、消炎鎮痛薬などの薬剤性)のチェックも必要です。

治療の方法

 患肢の挙上(高く上げておく)、マッサージ、軽い運動、温浴、日中のストッキング着用などで対処します。利尿薬は無効なことが多く、あまり使われません。

 皮膚が線維化し、蜂窩織炎を繰り返す例では、リンパ誘導手術、リンパ管静脈吻合(ふんごう)手術などを行う場合があります。

病気に気づいたらどうする

 皮膚の線維化前(可逆性リンパ浮腫)であれば治療効果は高いので、原因を見分けるためにも、浮腫がみられたら内科の受診をすすめます。

丸山 義明

出典:法研「六訂版 家庭医学大全科」
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EBM 正しい治療がわかる本

リンパ浮腫
どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 静脈や動脈と同じように、全身にはリンパ管が張り巡らされています。この管を通して循環する液をリンパ液といい、リンパ管のつなぎ目に存在するのがリンパ節です。これらをまとめてリンパ系と呼び、免疫機能と排泄機能を司っています。リンパ浮腫(ふしゅ)は、何らかの理由でリンパ管やリンパ節の構造が変化することにより、リンパ液の流れが悪くなり、うっ滞が生じた状態をいいます。
 症状は手足におこりやすく、こわばり、指輪や靴がきつくなる、重みを感じる、赤み、腫(は)れなどが現れます。痛みを伴うことはほとんどありませんが、急に浮腫が強くなったときや、悪性腫瘍が神経を圧迫したときには、痛みが生じることもあります。浮腫があると小さなキズでも感染がおきやすく、リンパ管炎(かんえん)を合併しやすいので注意が必要です。
 リンパ浮腫は国際リンパ学会の分類で0期からⅢ期まで分類されています。0期は無症状の状態、Ⅰ期は発症初期で、指で圧迫するとあとが残り、横になって休むと浮腫が軽減する状態、Ⅱ期は圧迫してもあとが残りにくく、うっ滞している部分(患部)を上にしても浮腫が軽減しない状態、Ⅲ期は角質増殖(厚く硬くなり、粉をふいた状態:象皮病)などの皮膚変化が認められる状態です。(1)

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 リンパ管の発育不全など必ずしもその原因がはっきりしない原発性リンパ浮腫と、子宮がん乳がんの治療後や、感染や悪性腫瘍などを原因とする続発性リンパ浮腫があります。
 続発性リンパ浮腫は、感染や悪性腫瘍によってリンパ管が閉塞(へいそく)したときに生じます。わきの下や骨盤、足の付け根のリンパ節が閉塞をおこしやすい場所です。がんの治療などでリンパ節の郭清(かくせい)(がんの摘出手術の際に疑わしい組織を取り除くこと)や放射線治療をすると、リンパ液が流れにくくなってリンパ浮腫がおこります。

●病気の特徴
 先進国のリンパ浮腫の多くは、がん治療のときのリンパ節郭清や放射線治療に伴うものと考えられます。ただし、先天的な理由でおこったリンパ浮腫も一定数存在します。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

■保存的治療
[治療とケア]用手的(ようしゅてき)リンパ液ドレナージを行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 用手的リンパ液ドレナージはマッサージによりリンパ液を移動させ、うっ滞の改善を試みる方法です。その効果は臨床研究によって確立されていませんが、専門家の意見や経験により支持されています。

[治療とケア]弾性着衣を用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 弾性着衣や弾性ストッキングの使用で、リンパ浮腫が改善することがわかっています。多層非弾性(ショートストレッチ)包帯を併用したほうが、手足の大きさの縮小効果が高いことが、臨床研究によって確認されています。(2)

[治療とケア]圧迫療法を行いながら運動をする
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 慢性化したリンパ浮腫では、適度な運動による筋肉の収縮がリンパの流れを生みだし、浮腫が改善すると考えられています。運動により手術後のリンパ浮腫を予防する効果があるという臨床研究もあります。(3)

[治療とケア]体重を減らす
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 肥満は乳がんに関連したリンパ浮腫を悪化させる危険因子と考えられています。食事指導によって体重を減少させたことで、乳がんの手術後のリンパ浮腫の発生が減ったという臨床研究があります。(4)

 



[治療とケア]利尿薬を用いる
[評価]★→
[評価のポイント] 利尿薬は慢性的なリンパ浮腫に対して、ほとんど治療効果はないとされています。漏れ出たリンパ液を血管の中に回収して、排泄するという作用が利尿薬にはないためです。

[治療とケア]外科手術を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] リンパ浮腫の手術には、マイクロサージェリー(顕微鏡下の手術)によるリンパ管の移植や吻合(ふんごう)、脂肪切除などがあります。こうした手術、とくにマイクロサージェリーを行っている医療施設は限られており、その効果に関してはまだ臨床研究のデータの集積段階であり、明らかになっていません。(5)


薬物療法はありません


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
リンパ液ドレナージ、圧迫療法、スキンケア、運動を併用する
 リンパ浮腫では、症状をとるためのリンパ液ドレナージ(リンパの流れを阻害する要因を取り除きながらリンパの流れをよくするマッサージ)、弾性着衣や多層性非弾性包帯による圧迫療法が一般的であり、感染を予防するためのスキンケアや、肥満を防ぐ運動などと併用されています。

手術後や放射線治療後の浮腫予防・対策は早期から始める
 乳がんや子宮頸がんの手術や放射線治療のあとにおこるリンパ浮腫では、慢性化すると症状の改善が困難になります。手術や放射線治療を終えた段階、つまり早期からのリンパ浮腫の予防や対策に努めることが重要です。

手術は確立しておらず、専門家に相談を
 重症のリンパ浮腫では手術も選択肢の一つです。ただし、難易度の高いマイクロサージェリーなどの手術は、可能な医療施設も限られており、一定の術式は確立していません。有効性に関しても明らかになっていません。手術を希望する場合は、実施施設で相談するだけでなく、セカンドオピニオンをとるなどして、慎重に判断する必要があります。

(1)国際リンパ浮腫フレームワーク.リンパ浮腫管理のベストプラクティス
(2)Badger CM, Peacock JL, Mortimer PS.  A randomized, controlled, parallel-group clinical trial comparing multilayer bandaging followed by hosiery versus hosiery alone in the treatment of patients with lymphedema of the limb. Cancer. 2000;88(12):2832 -7.
(3)Torres Lacomba M, Yuste Sánchez MJ, Zapico Goñi A, Prieto Merino D, Mayoral del Moral O, Cerezo Téllez E, Minayo Mogollón E. Effectiveness of early physiotherapy to prevent lymphoedema after surgery for breast cancer: randomised, single blinded, clinical trial. BMJ. 2010;340:b5396.
(4)Shaw C, Mortimer P, Judd PA. A randomized controlled trial of weight reduction as a treatment for breast cancer-related lymphedema. Cancer. 2007;110(8):1868.
(5)Damstra RJ, Voesten HG, van Schelven WD, van der Lei B. Lymphatic venous anastomosis (LVA) for treatment of secondary arm lymphedema. A prospective study of 11 LVA procedures in 10 patients with breast cancer related lymphedema and a critical review of the literature. reast Cancer Res Treat. 2009;113(2):199 -206.

出典:法研「EBM 正しい治療がわかる本」
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