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唯識心理思想【ゆいしきしんりしそう】

最新 心理学事典

ゆいしきしんりしそう
唯識心理思想
唯識は,西暦2~3世紀ないし3~4世紀に興った,空・中観の思想と並ぶインド大乗仏教の思想頂点の一つである。「唯=ただ,識=心」は,「ものがどう見えるかは心のあり方次第」,さらに「すべての存在は心が描き出したものである」という基本主張を示す。現代の深層心理学と重なりさらに超えるところを含んでおり,大乗仏教の深層心理学と評することができる。『解深密経』(150年ころか)等の経典から始まり,マイトレーヤ(漢訳名は弥勒,~430年,別説270~350年),アサンガ(無著または無着,~470年,別説310~390年),バスバンドゥ(世親または天親,~480年,別説320~400年)という3人の論師(仏教哲学者)によって体系化された。

 八識-四智説は唯識独自の「意識の構造-変容論」であり,人間の心には五識(五感)と意識という六つの表層(六識)だけでなく,マナ(末那)識,アーラヤ(阿頼耶)識とよばれる深層領域があるとする。これを八識といい,東洋ではフロイトFreud,S.に先立つこと千数百年,すでに無意識の発見がなされていたともいえる。マナ識は,すべての存在,なかでも自我が他とのかかわりによって一定時間現われて消える現象であるにもかかわらず,それ自体でいつまでも存在しうる実体であるかのように錯視させる深層の領域である。マナ識には四つの根本煩悩があるとされる。存在の非実体性に無知である「我癡」,実体としての自我があると思い込む「我見」,自我を誇り頼る「我慢」,自我への過剰な執着・愛執である「我愛」である。

 唯識は,さらにアーラヤ識という心のより深い領域を想定する。アーラヤは,蔵を意味するサンスクリット語で,すべての存在,とくに生命を形成し実体と錯視させる基になる種子(情報)が蓄えられる領域である。

 意識とマナ識とアーラヤ識の間のいわば情報の悪循環によって,自分・自我と自分の命への実体視と過剰な執着が生まれ,他のあらゆる煩悩(ネガティブな心の働き)が生まれるとされる(唯識の煩悩の分析は詳細で臨床心理学的に興味深い)。

 しかし,アーラヤ識それ自体は善でも悪でもなく中性であり,人間の心の現状は迷いの種子・情報の発生-貯蔵の悪循環を繰り返しているが,アーラヤ識に覚りの種子を植え直せば,やがて覚りが芽吹いてくることも可能だとされている。非常に長い時間はかかるが,適切な方法の修行「六波羅蜜」を行なえば,迷いの心理構造である八識を表層から深層まで智慧の心理構造に変容させることが可能だという。アーラヤ識は「大円鏡智」,すべてがつながり合って一つである世界の姿を映し出す大きく完全な鏡のような智慧に,それに対応してマナ識は「平等性智」,自分と他人とは実はまったく等しく一つだということを心の奥から自覚・実感する智慧に,意識はそうした世界のすばらしい姿を観察・洞察できる「妙観察智」に,五感・五官は時々にふさわしいなすべきことを成し遂げる智慧「成所作智」に,すなわち「八識」・迷いの心が「四智」・覚りの心に変容するという。

 以上概観したように唯識は,人間の心理的・人格的変容を心理分析的に論理化しており,広義の心理学,唯識心理学といえよう。さらに,セラピー(心理療法)を,自我の再確立・治療に限定せず,自己実現さらに自己超越へという人間成長を促進する技法も含むと解すれば,唯識を自己超越志向のセラピーととらえ直すことが可能になろう。 →宗教心理学 →精神分析 →臨床心理学
〔岡野 守也〕

出典:最新 心理学事典
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