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実存主義【じつぞんしゅぎ】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

実存主義
じつぞんしゅぎ
Existentialism
世界における人間の実存 (現実存在) を説明しようとする哲学の一派。主として 20世紀に識的な運動となって現れ,ハイデガーヤスパースサルトルマルセルメルロー=ポンティらが実存主義哲学者とされるが,その特徴は 19世紀の思想家であるニーチェキルケゴールにもすでに認められる。直接の先駆者であるキルケゴールは人間の自由選択の意義を強調し,未来の一部分はこの選択にかかっており,閉鎖的な合理的体系によって予知しうるものではないとし,このような人間存在を実存と呼んだ。他のものと代置しえないこの個別的実存のもつ哲学的重要性を強調する立場が広く実存主義と称される。
非合理主義者による伝統哲学への反抗とみられることもあるが,実存主義はおもにその内部で発展した理論であった。次の3つの理由から認識論を否定し,人間に関する知識を深めようとする立場である。第1に,人間は単に認識主体ではなく,心配し,望み,あやつり,そしてなかんずく選択し,行動する。ハイデガーは物体を認識のための「物」ではなく,使うための道具とみなす。メルロー=ポンティは生の経験はみずからの肉体の経験から始るとする。第2に,認識論の教義にときとして必要な自己 (自我) は,内省以前の経験の基本的特徴ではなく,他人の経験から生じる。認識主体たる自我は,外の物の存在を推論したり構成するというよりは,むしろ前提としている。第3に,人間は世界の独立した観察者ではなく,「世界のなか」に存在する。人間は木石のような存在とは違う特殊な意味で「存在」する。しかし,デカルトの見解に反して,人間は知識や知覚の介在なしに世界を受入れる。人間が外の物を推論したり,映したり,疑う独立した意識の領域は存在しない。実存主義者がデカルト主義者の二元論を拒絶する理由の一つは,認識より存在に関心があり,現象学は存在論でもあると考えるからである。
特殊な意味で人間が存在するということは,みずからの選択と行動で決めた未来が開かれていることを意味する。木石やトラなどの他の存在は,自分が何であり,何をなすかを決める本質ないし本能をもつ。反対に,人間は自分の行動を支配するような本質を,種としても個としてももたない。人間は,みずからの選択,生き方の選択 (キルケゴール) ,特殊な行動 (サルトル) によって,みずからが何たるかを決める。単に「与えられた」役割を演じたり,「与えられた」価値 (たとえば神や社会から与えられた) に従っているときでさえ,実際にはそうすることを選んでいるのである。なぜなら,合理的にせよ偶然にせよ,人間の選択を単独で決定する与えられた価値は存在しないからである。どんな選択でも可能というわけではない。人間の「存在が世界のなかにある」ということは,特殊な状況に「放擲」 (ハイデガー) されていることを意味する。自由に利用できると思えるものも,実際にそうとは限らない。それを前もって知ることもできない。人間の選択は,どのような形にせよ説明できるものではないと実存論者は主張して,科学的唯物論を否定する。未来の開放性,個人とそのおかれた状況の特異性は合理的哲学体系を寄せつけない,とも主張する。それが,彼らが「存在」にこだわるもう一つの理由である。存在は,認識と異なるだけでなく,個人的なものや特殊なものをきちんととらえられない抽象概念とも異なる。
実存主義者は人間の選択には合理的な理由はないとしているので,規則や価値観という意味での倫理を提唱しない。むしろ倫理を行動や選択を考える枠組みとみる。この枠組みは選択すべきものを示唆するのではなく,正しい選択と誤った選択があることを示す。人は信頼できるものにも信頼できないものにもなれる (ハイデガー) し,誠実にも不誠実にも行動できる (サルトル) 。不誠実な行動とは,多数派に盲目的に従ったり,既存の価値や制度を支持することなどをいう。特に,人間は死,苦悩,争い,罪などの「限界状況」 (ヤスパース) に直面すると,自分が行動すべき世界の究極的な不可解さとともに,みずからの行為者としての責任を認識するようになる。
実存主義は,心理学 (ヤスパース,ビンスワンガーレーン ) やキリスト教 (キルケゴール,マルセル) だけでなく,無神論 (ハイデガー,サルトル) や神学 (バルトティリヒブルトマン ) など,哲学以外の分野にも大きな影響を与えた。実存主義は特定の政治的信条を内包しないが,政治的直接行動主義につながる人間の自由をそこなうものや体制順応主義への反感と責任の強調 (サルトル) を伴う。キルケゴールが唯一すすめる「間接的伝達」は実存主義者の多くに無視されたが,特定の状況と自律的選択の重視は,哲学論文だけでなくドラマや小説によっても,実存的真理を伝えうることを意味する。実存主義への関心は数々の想像力にあふれた文学作品 (サルトル,カミュボーボアール ) を生んだ。そのうえ,実存主義哲学はあらゆる時代の文学作品,たとえばソクラテスシェークスピアドストエフスキーフォークナーに共通する主題を表現したり解釈する手段をもたらした。

出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
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知恵蔵

実存主義
実存の哲学」のページをご覧ください

出典:(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」

デジタル大辞泉

じつぞん‐しゅぎ【実存主義】
《〈フランス〉existentialisme》人間の実存を哲学の中心におく思想的立場。合理主義実証主義に対抗しておこり、20世紀、特に第二次大戦後に文学・芸術を含む思想運動として展開される。キルケゴールニーチェらに始まり、ヤスパースハイデッガーマルセルサルトルらが代表者。実存哲学

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世界大百科事典 第2版

じつぞんしゅぎ【実存主義 existentialism】
人間の本来的なあり方を主体的な実存に求める立場。実存existence(existentia)とは現実存在の意であり,元来は中世スコラ哲学で本質essence(essentia)の対概念として用いられた表現である。例えば,ペーパーナイフの実存といえば,材質や形状がまちまちである個々の具体的な現実のペーパーナイフの存在を意味するが,その本質といえば,この木片もその金属棒もあの象牙細工もいずれもがペーパーナイフであると言える場合の基準の存在を指すことになる。

出典:株式会社平凡社
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大辞林 第三版

じつぞんしゅぎ【実存主義】
人間の実存を中心的関心とする思想。一九世紀中葉から後半にかけてのキルケゴール・ニーチェらをはじめ、ドイツのハイデッガー・ヤスパース、フランスのサルトル・マルセルらに代表される。合理主義・実証主義による客観的ないし観念的人間把握、近代の科学技術による人間の自己喪失などを批判し、二〇世紀、特に第二次大戦後、文学・芸術を含む思想運動として盛り上がった。実存哲学。

出典:三省堂
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日本大百科全書(ニッポニカ)

実存主義
じつぞんしゅぎ

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精選版 日本国語大辞典

じつぞん‐しゅぎ【実存主義】
〘名〙 (existentialisme の訳語) 第二次世界大戦直後、フランスのサルトルによって造語された思想運動。人間の実存、つまり理性や科学によって明らかにされるような事物存在とは違って、理性ではとらえられない人間の独自のあり方を認め、人間を事物存在と同視してしまうような自己疎外を自覚し、自己疎外から解放する自由の道を発見していこうとする立場をいう。ドイツのハイデッガー、ヤスパース、フランスのマルセルは、哲学によってこの企てを試み、フランスのサルトル、カミュは、文学作品をとおし、また、後期のサルトルは、政治への参加によって、この企てを試みている。
※武蔵野夫人(1950)〈大岡昇平〉九「流行の実存主義は彼には滑稽に見えた」

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