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恒常現象【こうじょうげんしょう】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

恒常現象
こうじょうげんしょう
constancy phenomenon
心理学用語。ある特定事物知覚する場合,そこから感覚器官に送られる刺激作用は時々刻々変化するが,一般にこうした刺激作用の変化にもかかわらず,その事物はほぼ同一の特性をもつものとして知覚される傾向にあり,そのような知覚現象を総括する用語。たとえば,大きさの恒常 (事物の観察距離が変化するとその網膜像の大きさも変化するが,知覚される大きさはほぼ一定に保たれる) ,形の恒常 (観察される方向により事物の網膜像の形には種々のひずみを生じるが,どの方向から見てもいつもほぼ同形として見える) ,明るさの恒常,位置の恒常 (目,頭を動かして静止した事物を観察した場合,網膜像は動くが事物は静止して見える) など。音の恒常など視覚以外でもその存在が指摘されている。

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デジタル大辞泉

こうじょう‐げんしょう〔コウジヤウゲンシヤウ〕【恒常現象】
暗い所でも白紙が白く見えたり、離れた所に立つ人物があまり小さく見えなかったりするなど、観察条件が変わっても、物の性質が変わらないように知覚される現象。

出典:小学館
監修:松村明
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日本大百科全書(ニッポニカ)

恒常現象
こうじょうげんしょう
constancy phenomenon

同一の対象をいろいろの距離から眺めると、それに応じて網膜像の大きさが変化しているのにもかかわらず、対象の見かけの大きさ(知覚された大きさ)はほとんど変わらず、一定のように見える。これを大きさの恒常現象という。ただし、恒常といっても、知覚上の大きさが絶対に変わらず完全に一定という意味ではなく、程度の問題である。網膜像の著しい縮小化に比べ、知覚された大きさの変化はかなり少ないという意味である。

 円い皿や盆の形は斜め方向から見ても、極端に斜めの位置から見るのでない限り、楕円(だえん)ではなく円形に見える。これは形の恒常現象といわれる。恒常現象は、大きさ、形のほかに、色、明るさ、音の強さなどにも現れる。恒常の程度は、観察条件、観察態度、対象の性質などによって異なる。

[今井省吾]

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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精選版 日本国語大辞典

こうじょう‐げんしょう コウジャウゲンシャウ【恒常現象】
〘名〙 心理学で、物の大きさ、形、色、音などは、距離、光の明暗などの条件によって違っているはずなのに、生理的刺激とは無関係に、ほぼ同じように感じられる傾向をいう。薄暮時の雪から反射する光は、白日下の石炭から反射する光より弱いが、雪は白く、石炭は黒く見えるような知覚の現象をいう。

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最新 心理学事典

こうじょうげんしょう
恒常現象
constancy phenomenon(英),Konstanzpha¨nomen(独)
網膜像や蝸牛基底膜振動など感覚刺激の入力段階において,さまざまな理由から入力情報がたとえ変化しているとしても,同じ対象がもつ大きさ・形・明度などといった性質はあくまで同じであると認識しつづけることを,恒常現象という。それをもたらす感覚処理系の特性を含んで指す場合,知覚の恒常性perceptual constancyとよぶことが多い。以下,主に視覚を代表例とした説明をするが,聴覚や触覚などいろいろな感覚モダリティでも体験される現象である。

【制約条件としての恒常性】 感覚情報処理は,近刺激proximal stimulusを材料に用いて遠刺激distal stimulusである外界の成り立ちを推定する作業である。視覚を例にして述べれば,近刺激とは網膜像である。対して,遠刺激とは網膜像をもたらす原因となる外界の物体の大きさ・形・表面反射率,またそれらの物体の位置関係といったものである。そして,それらを推定した結果を心的に表象したものが,われわれの体験する視覚世界である。網膜が光によって刺激されたからといって,われわれは投影像を網膜上にある画像として知覚するわけではない。いうなれば,網膜という受信機を利用して受け取ったデータ構造から,もっともらしい視覚対象の表現を作り出して,身体を取り巻く大きな環境の中にそれらを置いて,世界を心的に表象しているのである。このことを外在化externalizationという。網膜に登録された素データそのものは,われわれの意識主体の興味の埒外であって,実際,意識的にアクセスしようとしても不可能である。それらの近刺激の原因である遠刺激としての視覚対象や聴覚対象などを,正しく整理して意識化させることが,感覚情報処理の本質である。

 この作業のために入手可能なデータである網膜像の情報は非常に貧しいので,上記の課題はデータだけから唯一解を得るのが不可能な不良設定問題ill-posed problemになっている。この問題に妥当な解を与えるためには,制約条件を導入しなければならない。知覚の恒常性という性質は,まさにこの制約条件の一つにほかならない。

【大きさの恒常性size constancy】 決まった大きさの対象を観察するとき,観察距離に反比例してその対象の網膜像の大きさは変わる。この関係は順問題forward problemである。逆に,対象の大きさも観察距離も未知であって,唯一この網膜像というデータだけから外界を推定しようとすると,対象の大きさが変化したのか,観察距離が変化したのかを区別できない。視覚系が直面しているこの関係は逆問題inverse problemであり,解が一意に決まらない不良設定問題である。このような場合には「反証が得られない限り,同じ対象の大きさは不変とする」という仮定をおけば,網膜像の大きさが変わった原因を観察距離に帰属させることができる。このように,網膜像の大きさの変化にかかわらず,同じ対象の環境の中での大きさを同じであると知覚する性質を,大きさの恒常性という。

 この性質は,外界対象の統計的性質と密接不可分の関係にある。われわれの住む環境において,多くの視覚対象は局所的には剛体性rigidityをもつといえ,対象全体の大きさが時々刻々と変化する確率は低い。それに対して,観察対象と観察者がいずれもさまざまな速度で自由に動きうるので,観察距離はたやすく変化する。視覚系はそのような外界の性質を知識としてもっているから,互いに共変する二項のうち一方を不変,他方を可変であると制約して,逆問題の解を導いているのである。

 前記の例は,対象の大きさと観察距離を同時推定する場面で,像の大きさ以外に対象の奥行き手がかりがない仮想的な場面である。実際には,観察距離の推定,すなわち絶対奥行き知覚のために,多くの奥行き手がかりの利用が可能である。たとえば,調節や輻輳などの生理的奥行き手がかりを変化させることにより,対象の網膜像の大きさが同一であるにもかかわらず,推定される観察距離が異なるという状況が作れる。この場合,対象がより遠くにあると判断されるほど,対象が大きく見える。網膜像の大きさと観察距離と対象の見かけの大きさという三者の関係は,ストロボを焚いて特定の形の陰性残像を引き起こしてみると容易に体験できる。残像が手のひらの上に見えるようにすると,像は小さく見え,遠く離れた壁の上に見えるようにすると,像は大きく見えるのである。このような,見積もられた観察距離と対象の大きさ知覚の関係をエンメルトの法則Emmert's lawという。

【形の恒常性shape constancy】 決まった形の対象を観察するとき,観察方向に依存してその対象の網膜像の形は変わる。この関係は順問題である。しかし視覚系にとっては,対象の形も観察方向も未知であって,網膜像からいずれも推定しなければならない。この関係は逆問題である。このような場合には「反証が得られない限り,同じ対象の形は不変とする」と仮定すれば,網膜像の形が変わった原因を観察方向に帰属させることができる。このように,同じ対象を同じ形であると知覚する性質を,形の恒常性という。

 われわれの住む環境において,多くの視覚対象は局所的剛体性をもち,対象の形が時々刻々と変化する確率は低い。それに対して,扉がだんだん開いていくのを定点から観測する場合や,静止対象を歩きながら眺める場合など,観察方向はたやすく変化しうる。視覚系はそのような外界の性質を知識としてもっており,共変項のうち一方を不変,他方を可変と制約して,逆問題の解を導いているのである。

 形態視のための処理において,剛体性仮定は強い拘束力をもつ。アルマンUllman,S.(1979)の定式化によれば,同一平面上にない4点から成る立体を異なる視点から観察して得られる網膜像がたった3枚あれば,立体の3次元構造が一意に決定できる。また,対象運動や観察者自身の自己運動によって網膜上には特徴的な動きの場が形成されるが,これを入力データに用いて非常に精緻な構造認識ができる。たとえば,回転対象の運動のように,剛体性をもつ物体(剛体)が外界で運動しているせいで,その物体に対する観察方向が刻一刻と変わっていると考えても矛盾のないような網膜像運動が与えられただけで,それから立体構造がわかる現象を運動奥行き効果kinetic depth effect,または運動からの構造復元structure from motionといい,奥行き構造を認識するために利用される運動情報を運動視差motion parallaxという。

【明度の恒常性lightness constancy】 視覚の恒常現象として,同じ対象は同じ明るさに見えるという性質もある。照明が強くても弱くても白い紙は白く見え,黒い紙は黒く見える。ここでいう明るさとは,薄灰色の色紙がどのような明るさの紙に見えるかというような表面の明度lightnessのことで,カッツKatz,D.の色の現われ方の分類でいう表面色surface colorモードでの明るさ知覚のことである。このことから,一般には明るさの恒常性brightness constancyともよばれるこの性質を,ここでは明度の恒常性と表記する。

 表面を観察するとき,網膜に投影される光強度は,照明により表面の単位面積が照らされている照度を表面反射率surface reflectanceで乗じたものである。一般に反射光量は,表面の法線方向に対する入射角・反射角・照明光量に複雑に依存する。視覚系にとっては,照明光量もその方向も未知で,また表面の方向も表面反射率も未知であって,網膜像における光の強さの分布だけから対象の表面の明度を推定しなければならない。この関係は逆問題であり,本来解くことができない。

 どの方向への反射率も均等であるようなランベルト反射Lambertian reflectance(均等拡散)をする面を仮定し,すべての対象が同じ壁に貼られている場合のように照度と入射角も一定であるとする。そして,「同じ対象の表面は同じ反射率を保つ」と仮定すれば,なんとか照明光量を勘案して同じ対象の表面明度はいつも同じに知覚できるだろうか。たとえそうだとしても,一つの対象からの反射光量だけを用いて明度の恒常性を実現することは原理的に不可能である。ゲルプGelb,A.(1929)の古典的実験では,真っ黒な円盤を正立させ,完全暗黒下において強いスポット照明を円盤内部だけに当てて照らすと,黒色が明るく照らされたとは見えず,白色の面が知覚されてしまう。ところが,スポット光の照射範囲内に別の表面反射率をもった対象,たとえば白い紙をかざしたとたん,円盤表面は黒く見え,紙は白く見える。したがって,明度の恒常性が成立するためには,共通の照明条件において複数の対象からの反射光が入手できる必要があり,それらの関係性をうまく計算する必要がある。

 同一平面上で円形領域とその周辺領域が照明によって照らされる事態でさまざま実験を行なった結果,ワラッハWallach,H.(1948)は明度知覚における輝度比原理luminance ratio principleを提案した。照明が変化しようとも,2領域の輝度比が同じである限り,2領域の明度は恒常性をもつという。2領域の表面反射率がそれぞれa,bで,照度がcのときの2領域の輝度はそれぞれc×a,c×bとなり,照度が10倍の10cのときはそれぞれ10c×a,10c×bとなるので,照度によらず輝度比はつねにに等しい。それなら,視覚系が容易に入手可能であるばかりか高感度で識別できる2領域の輝度比という情報は,表面反射率の比をつねに反映しているはずである。この古典的原理は限られた条件でしか成立しないが,この原理を拡張したものの一つがランドLand,E.H.のレチネックス理論retinex theoryである。これによれば,輝度比が検出されて明度知覚に利用されるのは領域間の急峻な輝度変化すなわちエッジ部分のみであり,エッジ以外で緩やかに変わる輝度変化は照明の変化に由来するとみなして無視されるという。この原理で網膜像を処理すれば,空間的に不均一な照明であっても明度の恒常性をある程度実現できる。またこの理論の論点は,エッジ部分での局所的な輝度比の情報が空間的に積分されることにより,エッジをはさんだ2領域のみならず視野全体に関して明度の恒常性が実現できるという提案である。

 ギルクリストGilchrist,A.L.(1977)は輝度比原理を修正し,知覚的に同一平面にあるかのように見える面の間の輝度比が明度知覚を決めると考えた。これを現象的同一平面輝度比原理coplanar luminance ratio principleという。これに基づけば,輝度比が計算されるのは奥行き構造の計算がなされた後であることになる。またギルクリストは,碇泊理論anchoring theoryという名で輝度比と明度との対応関係を論じた。比が入手できても,どの値をもって白色と定めるかといった絶対的な明度との対応関係は依然として未知である。このようなときは,単に最も高輝度の表面であるか,または画像中の最も大きな面積を占める表面を,明度知覚の参照点もしくは碇泊点とみなし,白色であると知覚するというような傾向がある。

色の恒常性color constancy】 明度の恒常性で述べたことは,色の恒常性にも当てはまる。同じ対象は同じ色に見える傾向があり,照明の分光分布が少々異なっても赤い紙は赤く見え,青い紙は青く見える。このような性質を色の恒常性とよぶが,これも困難な逆問題である。表面を観察するとき,網膜に投影される光の分光分布は,照明光の分光分布を表面分光反射率で各波長において乗じたものである。分光反射率は入射角・反射角に複雑に依存する。視覚系にとっては,照明の光量・方向も分光分布も未知で,また表面の方向も表面分光反射率も未知である。さらに厄介なことに,網膜は分光器とは異なり,異なる分光感度特性をもった3種類の錐体によって光受容され,その時点で分光分布の詳細な情報は失われる。

 順問題においては照明光と表面反射率の分光分布同士の掛け算になっているが,視覚系が色知覚に関して3次元に縮退したチャンネルしかもたず,それらの加算で色覚が成立するならば,明度の恒常性のための原理が色に関してもチャンネルごとに働けばよいと考えられる。輝度比原理と同じように,色の恒常性に関しても,色度の基本軸上の変調に関して比原理が用いられているとする見方がある。同様に,レチネックス理論は明度のみならず色の恒常性のためのモデルとして提案されている。

 明度に関しても色に関しても,照明条件の影響をできるだけ減弱させるためのメカニズムは,多くの段階に備わっていると考えられる。光源からの光線が手前の物体によって遮られてできるキャスト・シャドーcast shadowによる照明光量の変化を検出することや,表面方位の変化を検出することなど,自己を取り巻く環境の3次元構造に関して正しく認識することが前提となって明度や色が決まる場合が数多く報告されている。一方で,視覚神経系のさまざまな段階の可塑性により,明順応・暗順応・色順応という順応過程が視覚世界の恒常性に関与するのも事実である。順応とは,視野全体の照明特性の変化を原因として,見かけの明るさ,色の範囲と対応する物理強度の範囲との間の関係性が,比較的ゆっくりとした時間経過とともに外界適応的にシフトすることであり,そのような長い時間経過における恒常現象に寄与している。

 神経生理学的知見としては,ゼキZeki,S.M.(1983)の報告によれば,モンドリアン図形をさまざまな照明条件で呈示した結果,サルV4野の一部のニューロンの色応答は,刺激の波長分布そのものというより,その刺激がどんな色に知覚されるべきかに相関して応答の強さを変えたという。また,パラディーソParadiso,M.A.ら(2001)の報告では,ネコV1野ニューロンのモンドリアン図形に対する応答は,照明光量の変化を模倣した刺激条件ではあまり変化しないが,受容野外の光量を平均輝度に固定してしまうと,受容野内の光量の変化に応じて応答強度が変わった。これらのニューロン応答は,色や明度の恒常性に関係する可能性がある。

【位置の恒常性position constancy】 視覚系の計算が網膜像を出発点とすることに由来して,もう一つ考えなければならない問題がある。外界で静止している対象の網膜像は,眼球運動に従って時々刻々と位置を変えているにもかかわらず,計算結果としての視覚世界において視覚対象は眼球運動によらず同じ位置を保って見えつづける。同様に,視覚対象を眼で追いかけていても,外界で運動している対象は運動して見え,静止している対象は静止して見える。この視野安定の現象に関してはアリストテレスAristotelesの時代から多くの考察がなされている。19世紀にヘルムホルツHelmholtz,H.L.F.vonは,眼球をどのように動かしどこに眼を向けているべきかという意志的緊張を材料にして,眼球の位置の変化に由来する網膜像の運動・変位の成分が斟酌され,外界対象の運動・定位の推定がなされるという流出説outflow theoryを提唱した。シェリントンSherrington,C.S.は,眼球がどちらを向いているかを知るために,外眼筋からの自己受容感覚が利用できるとする流入説inflow theoryを提唱した。サルMST野ニューロンの多くは,同じ網膜像運動をもたらすものであっても外界で運動している刺激だけに方向選択的応答を示し,眼球運動をしながら静止刺激を観察することで生じる網膜像運動には応答しない。そのため,流出説・流入説のいずれが正しいにせよ,なんらかの眼位データが視覚系に入力して位置の恒常性に寄与していることが示唆される。さらに,視野の知覚的安定は視野内の視覚情報そのものを用いても行なえる。村上郁也ら(1998)によれば,視野の広い範囲にわたる同方向・同速度の網膜像運動は眼球運動に由来するとみなされ,外界の対象運動に帰属されないため視野安定が実現する。しかし,この結論は十分に微小な眼球運動にのみ有効である。

【他の感覚モダリティにおける恒常現象】 知覚の恒常性は視覚以外の感覚モダリティにおいても見られる。聴覚においては,聴取距離が変わることにより耳に直接到達する音圧レベルが変わっても,音の大きさがそれほど違って聞こえない,という音の大きさの恒常性loudness constancyがある。ただし,音源距離知覚に関してはあまり弁別感度が良いとはいえず,視覚でいうところの網膜像から距離と対象の大きさを推定する際の理屈をここに適用できるかについては議論がある。むしろ室内の残響音エネルギーのような,音源と聴取者の距離にあまり依存しない手がかりを用いて,音源から直接到達する音圧レベルの変動によらず,音の大きさの恒常性が実現されるとザホリックZahorik,P.(2001)らは述べている。その他,音色の恒常性や,言語音の恒常性など,さまざまなものが研究されている。

 触覚における大きさの恒常性tactile size constancyとしては,同じ対象は異なる皮膚上で触れても同じ大きさに感じられる現象が挙げられる。2点の触覚刺激を皮膚上のいろいろな場所に当てると,2点弁別閾の高い場所,すなわち触覚受容器の密度が低いと考えられる皮膚の部位では,刺激間距離がより縮まって感じられるとウェーバーWeber,E.H.は報告した。したがって,触覚における大きさの恒常性は完全には成り立たない。ところがこの錯覚は,2点弁別閾などから考えられる受容器密度の違いから推定されるものよりはるかに程度が小さいことから,不完全ではあっても大きさの恒常性はある程度実現しているともいえる。視覚情報を介して成立する身体像body imageにおいて,それぞれの皮膚上の触覚対視覚の縮尺が決まり,それらの縮尺に照らして刺激間間隔の知覚的解釈が変わるとハガードHaggard,P.ら(2004)は論じている。

 味覚受容器は舌表面に局所的に分布する。また,神経損傷により舌表面の一部で味覚感受性がなくなることもある。にもかかわらず,知覚される味は舌上の限られた場所に局在して感じることはなく,口腔内で一様に広がっているように感じる。これを味覚の恒常性taste constancyという。もともと味覚の空間的同調性が鋭くないとも考えられるが,味覚と触覚位置との結合がなされるという考え方もある。すなわち,味覚受容が末梢で行なわれた後,触覚情報と統合して,口腔内で触覚を感じる場所に味覚を定位するという。

 匂いの強さは匂い物質の濃度に従い変化するが,自分で能動的に吸気速度を変化させて嗅ぐことで単位時間に嗅覚受容器に届く匂い物質の量を変えても,知覚される強さは変化しない。これを匂いの恒常性odor constancyという。眼球運動に関する生体情報が利用されて視覚の位置の恒常性が成立するのと同様に,鼻で吸引する速度に関するなんらかの生体情報を利用して匂いの強さを処理することにより,吸気速度に依存しない匂いの心理量を実現していると考えられる。

 視覚と触覚など異なる感覚モダリティの間では,感覚入力が知覚に上るまでに必要な処理時間が異なり,単純検出課題の反応時間も異なる。にもかかわらず,異なる感覚モダリティに属する2刺激を瞬間的に同時呈示すると時間的にずれて感じず,同時に意識に上ることが多い。これを同時性の恒常性simultaneity constancyということがある。たとえば,同じ物体の色・形・動きなど,同一対象に由来すると認知されるべき感覚情報に関しては,初期処理過程において独立に情報処理が進んだ結果をいかにして一つの物体表象にまとめ上げるかという結合問題binding problemがつねに発生する。異なる感覚モダリティの間にもつねに発生するこうした問題に解決を与えるため,なんらかの時間的統合が脳内でなされた結果として,同時性の恒常性が成立しているはずである。 →明るさの知覚 → →形の知覚 →感覚 →視空間 →順応 →身体感覚 →知覚 →聴覚 →皮膚感覚
〔村上 郁也〕

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