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慢性胃炎【まんせいいえん】

家庭医学館

まんせいいえん【慢性胃炎 Chronic Gastritis】
◎はっきりした原因は不明
[どんな病気か]
[原因]
◎半数近くの人は無症状
[症状]
[検査と診断]
◎日常生活を見直す努力を
[治療]

[どんな病気か]
 炎症とは、原因のいかんを問わず、局部の発赤(ほっせき)(赤くなる)、腫脹(しゅちょう)(むくむ)、熱感(ねつかん)(熱をもつ)、疼痛(とうつう)(痛みを感じる)をともなう病的反応を示すことばです。また、胃炎(いえん)とは、原因のいかんを問わず胃粘膜に発赤、腫脹、熱感、疼痛の炎症が生じることを意味しています。
 したがって、慢性胃炎は胃粘膜の炎症が長期にわたって持続する、あるいはくり返し生じている状態です。その結果、持続する、あるいはくり返す胃痛、胃部不快感の症状となって現われることになります。
 少し専門的になりますが、慢性胃炎を医学的に定義すると、臨床的には長期にわたり持続あるいは反復する胃の病的症状の出現とされます。その本態は、持続あるいは反復する胃粘膜の炎症と、それにともなう胃粘膜の損傷、それに引き続く胃粘膜の修復(しゅうふく)・改築の過程と定義されています。
 要するに慢性胃炎とは、胃の粘膜が傷つき、その状態が長びく状態、あるいはくり返しくり返し傷ついている状態と理解すればよいと思います。

[原因]
 慢性胃炎という病名は、患者さんの症状、胃X線検査や胃内視鏡検査(いないしきょうけんさ)の結果から、胃の病気のなかでもっとも頻度(ひんど)が高く使われる診断名です。しかし不思議なことに、実はその本当の原因はよくわかっていません。
 慢性胃炎は、胃粘膜が傷つき、それが日常的にくり返される状態です。そのことから原因への食事の関与(食事性因子の関与)が着目されてきました。
 アルコール、コーヒーなどの嗜好品(しこうひん)、唐辛子(とうがらし)、ニンニクなどの香辛料(こうしんりょう)は、胃粘膜を傷害することが明らかにされ、塩分もその一因子と考えられています。
 具体的にどのような食生活が慢性胃炎に関係しているのかはまだ不明ですが、暴飲暴食、偏(かたよ)った食生活に問題があるのは確かなようです。
 精神的・身体的なストレス、解熱薬(げねつやく)などの薬剤も胃粘膜を傷害する原因となりますが慢性胃炎の原因ともなり得るのかについては結論が出ていません。
 最近、新しく発見された細菌(さいきん)の一種であるヘリコバクター・ピロリ(コラム「ヘリコバクター・ピロリ」)の胃内感染(いないかんせん)が、持続する胃粘膜の炎症をひきおこす原因として、慢性胃炎でも注目されていますが、まだはっきりとしたことはわかっていません。
 また、他の原因として、免疫学的機序(めんえきがくてききじょ)(しくみ)のうちの自己免疫説(じこめんえきせつ)が考えられています。
 免疫(「免疫のしくみとはたらき」)とは、細菌などの病原体(びょうげんたい)が体内に侵入(しんにゅう)してきた際、リンパ球(きゅう)が中心となって、病原体を敵と認知し排除(はいじょ)するという、人体にとってたいせつな防御機構の1つです。これが、なんらかの原因により、自己の組織をも病原体と同様、敵とみなす反応が生じ、リンパ球などが自己の組織を攻撃してしまうことがあります。これを自己免疫現象(じこめんえきげんしょう)と呼び、その結果おこる病気を自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)といいます。
 慢性胃炎では、胃粘膜を敵とみなしリンパ球などが攻撃することで胃炎がおこるとされますが、その詳細は不明です。また肝硬変(かんこうへん)、腎不全(じんふぜん)などの重篤(じゅうとく)な病気に慢性胃炎がともないやすく、栄養・代謝障害(たいしゃしょうがい)、血液循環障害も慢性胃炎の原因と考えられています。
 このように、慢性胃炎の原因として多くの因子が推定されていますが、真の原因については結論は出ていず、現在も研究が続けられています。

[症状]
 慢性胃炎の症状はさまざまで、くり返す、あるいは持続する上腹部不快感(コラム「上腹部不定愁訴(NUD)」)・重圧感、心窩部痛(しんかぶつう)(みぞおち付近の痛み)、悪心(おしん)・嘔吐(おうと)、腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)、胃もたれ感、食欲不振、ときには吐血(とけつ)、下血(げけつ)が現われます。
 なかでも多い症状は、上腹部不快感、心窩部痛、腹部膨満感で、多くの場合、これらの症状が重複して現われます。
 慢性胃炎は症状と内視鏡検査によって診断されるのが一般的ですが、不思議なことに内視鏡検査によって慢性胃炎と診断されたにもかかわらず、なんら症状のない人が40~50%にも上ることが知られています。
 症状がないのに、胃X線検査あるいは内視鏡検査で慢性胃炎と診断された場合は、理解に苦しむこともあるでしょうが、治療をせずに経過を観察するだけでよいと考えられます。
 慢性胃炎の症状はいろいろで、性状によって胃の病的状態が推察されます。上腹部不快感・重圧感は胃の炎症の一般的症状で、炎症が増強すると心窩部痛、さらに炎症が悪化して胃粘膜が強く傷つくと吐血、下血が現われます。
 慢性胃炎には胃の運動機能の異常もともないます。その代表的症状は、胃より小腸(しょうちょう)への食物の輸送機能(胃排出能(いはいしゅつのう))が遅延(ちえん)するための腹部膨満感、胃もたれ感であり、胃機能の異常亢進(いじょうこうしん)による吐き気・嘔吐と考えられます。
 慢性胃炎では吐血、下血は比較的まれな症状で、吐血、下血がある場合は胃潰瘍(いかいよう)など他の病気が強く疑われます。
●受診する科
 一般に胃の症状、あるいは腹部症状の訴えがある場合は内科でよいのですが、胃X線検査、胃内視鏡検査を望むときは、消化器科または胃腸科(いちょうか)への受診が勧められます。

[検査と診断]
 症状によって慢性胃炎と診断されることもありますが、症状からだけでは、胃潰瘍や胃がんと区別することはむずかしく、正確な診断には、バリウムを飲んでの胃(上部消化管)X線検査や胃(上部消化管)内視鏡検査が必要です。
 最近は、内視鏡の進歩にともない最初に胃内視鏡検査が行なわれることが多い傾向にあります。胃内視鏡検査では、直接胃粘膜の色調、形状が観察され、がんなどが疑われた際にも胃粘膜組織を採取(生検(せいけん))し、病理組織学的な診断が可能となります。
 慢性胃炎は、内視鏡でみた胃粘膜の色調、形状により、つぎのように分類されています。
 表層性胃炎(ひょうそうせいいえん) 内視鏡では胃粘膜に線状の発赤、斑状(はんじょう)の発赤が観察される状態の胃炎です。ときにびらんと呼ばれる小さな浅い傷があったり、わずかな出血をともなっていることがあります。
 萎縮性胃炎(いしゅくせいいえん) 正常な胃粘膜は、内視鏡では血管像がみえないのですが、炎症が長期に続くと粘膜が薄くなり、厚い粘膜におおわれているはずの血管が表面に出てみえるようになります。この状態を胃粘膜の萎縮といい、このような胃炎を萎縮性胃炎といいます。
 びらん性胃炎 胃粘膜がわずかに傷ついてはがれた状態がびらんで、びらんは内視鏡では小さい白斑(はくはん)として観察され、出血をともなうことがあります。
 慢性胃炎は、おもに以上の3つのタイプに分類され、これを参考にして治療が考慮されることもあります。

[治療]
 慢性胃炎はもっとも多い胃の病気ですが、治療には一定の基準はなく、さまざまな対処がなされます。
●症状のない慢性胃炎の治療
 症状がないのに慢性胃炎と診断された場合は、治療することなく経過をみるだけでよいのですが、まれに症状がともなうようであれば、後述する食事療法が助けになるでしょう。
●症状を有する慢性胃炎の治療
①食事療法
 胃はすべての飲食物を最初に受け入れるところで、胃に炎症があると飲食物の内容によりそれが悪化することがあります。
 その代表はアルコール、コーヒーなどの嗜好品(しこうひん)、唐辛子(とうがらし)などの香辛料(こうしんりょう)で、刺激の強い食品、温度差の大きい食品も含まれます。慢性胃炎で症状をともなう際はこれらの食品を避けましょう。
 一般的に獣肉より魚肉、野菜は繊維(せんい)の多くないもの、煮物など刺激の少ない食事が勧められますが、あまり神経質になると食事が偏(かたよ)る傾向にもなり、基本的にはバランスのよい規則正しい食生活を心がけるようにしましょう。
②薬物療法
 慢性胃炎を完全に治して、もとの正常の胃にもどす治療法は現在のところありませんが、症状の強い場合は薬物療法で症状の改善をはかります。胃の炎症を増強する内因性要因(ないいんせいよういん)としては、胃酸および胃酸から胃壁(いへき)を保護している胃粘膜上の粘液層の減弱にあると考えられています。そのため症状の強いときには胃酸分泌(いさんぶんぴつ)を抑えるH2受容体拮抗薬(じゅようたいきっこうやく)(H2ブロッカー)、胃粘液層の強化をはかる胃粘膜防御因子増強薬(いねんまくぼうぎょいんしぞうきょうやく)、胃粘膜保護剤(いねんまくほござい)が有効です。
 また慢性胃炎が悪化する際には、精神的・身体的ストレスが引き金になることがあり、その場合はストレスの除去とともに精神安定剤も使われます。
 腹部膨満感、もたれ感などは、慢性胃炎による胃運動の障害が原因となっておこる症状で、胃のはたらきを改善する運動機能調整薬も効果があります。症状の性状、強弱によってこれらの薬をいろいろに組み合わせて、実際の治療は行なわれます。
●日常生活の改善
 不規則な生活など心身のストレスとなる原因の除去は慢性胃炎のたいせつな治療法の1つです。もちろん暴飲暴食は慎むべきです。日常生活を見直し、心身のリラックスをはかることは治療効果の向上につながります。

出典:小学館
(C)Shogakukan Inc.
それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。この事典によって自己判断、自己治療をすることはお止めください。あくまで症状と病気の関係についてのおおよその知識を得るためのものとお考えください。

世界大百科事典 第2版

まんせいいえん【慢性胃炎】

出典:株式会社平凡社
Copyright (c) Heibonsha Limited, Publishers, Tokyo. All rights reserved.

内科学 第10版

慢性胃炎(胃・十二指腸疾患)
定義・概念
 慢性胃炎という診断名は,本来,病理組織学的診断名であるが(組織学的胃炎),日常診療では,器質的疾患がなく,心窩部痛,胃部不快感,悪心などの上腹部の消化器症状 を訴える場合に用いることが多く(症候性胃炎),また,自覚症状がなくとも胃X線検査や内視鏡検査でびらん,萎縮,過形成性などの所見を認めたときに形態学的に胃炎(形態学的胃炎)と診断してきた.しかし,消化性潰瘍や胃癌などの器質的疾患は認めないが上腹部消化器症状を訴えるものを機能的ディスペプシア(functional dyspepsia :FD)と診断するようになったため,今後,胃炎の病名は組織学的胃炎に限り用いるべきである.胃炎は臨床経過から急性胃炎と慢性胃炎に分類され,慢性胃炎の大半はHelicobacter pylori感染が原因である.
病因
 組織学的胃炎の主因はH. pylori感染である.その他,H. heilmainnii,サイトメガロウイルス,結核,梅毒などの感染,Crohn病,自己免疫疾患,NSAIDsなどの薬剤も胃炎の原因となる.
疫学
 慢性胃炎の頻度はH. pylori感染率にほぼ一致し,加齢とともに増加し,10代で10%,50代で50%,70代で70%とほぼ年代と一致する.H. pylori感染は出生年代における生活環境が関与しており,若年者のH. pylori感染率は最近著しく低下しているため,将来的には慢性胃炎の頻度は低下する.
臨床症状
 慢性胃炎特有の症状はない.胃痛,胃もたれ,胃部膨満感,げっぷなどの症状が出ることがある.特徴的な他覚症状はない.
診断
 胃炎の存在は胃X線および内視鏡検査により形態診断できるが,確定診断は胃生検による病理組織学的診断により行う.H. pylori感染診断,あるいは血清ペプシノゲンの測定により間接的に胃炎を診断することも可能である.胃炎の成因,局在性,病理組織像,内視鏡所見をすべて加味し,世界共通の診断基準を目的としてつくられたのがUpdated Sydney system(図8-4-6)である.前庭部優位か胃体部優位か,あるいは汎胃炎か胃炎の局在性,さらに,病理組織学的にH. pylori菌量,炎症,萎縮,腸上皮化生の程度を0〜4に程度分類しており,胃炎の病理組織学的な評価にすぐれている. しかしながら,内視鏡所見から胃炎を形態診断する場合,Sydney systemでは,浮腫,発赤,滲出,もろさなど,客観的評価が難しいことや,内視鏡所見としては結節性変化があるが,胃炎分類に結節性胃炎は含まれておらず,問題が残されている.日本独自の分類として,胃体部萎縮性胃炎の広がりを内視鏡所見から分類する木村・竹本分類(図8-4-7)は,胃癌のリスク群を評価するうえで,また,胃酸分泌の状態を評価するうえで重要である.
 胃炎を形態診断する意義は,胃癌や消化性潰瘍のリスクを評価することであり,特に,胃癌のリスクである胃体部胃炎を高率に合併する胃炎の像としては,木村・竹本分類でオープンタイプの萎縮性胃炎(図8-4-8),ひだ過形成胃炎,結節性胃炎(図8-4-9),前庭部に高度の腸上皮化生を認める前庭部化生性胃炎がある.これらの形態の胃炎像を認めた場合,胃癌の存在を念頭において詳細な内視鏡観察を行うとともに,定期的な経過観察が必要である.
 StricklandとMackayは,慢性胃炎を抗壁細胞抗体の有無でA型とB型に分類し(表8-4-2),A型胃炎は胃体部を中心とした自己免疫性胃炎で,悪性貧血の発症要因であり,B型胃炎は前庭部優位の胃炎で十二指腸潰瘍のリスクであることを指摘している.A型胃炎は,胃癌や胃体部に多発するカルチノイドの背景ともなる粘膜である.類似した形態の胃炎は,胃体部に多発する胃過形成ポリープ症例に高率に認められ,内視鏡検査で注意してみていると意外と日常臨床で出会う胃炎である.自己免疫性胃炎の診断には,抗壁細胞抗体,抗内因子抗体,血清ガストリンの測定が必要である.抗壁細胞抗体陽性,高ガストリン血症,無酸症,胃体部優位の萎縮性胃炎が診断基準であるが,胃酸分泌は現在刺激剤であるガストリンが国内で生産されていないため評価できず,血清ペプシノゲンの測定か,胃生検組織による評価で診断する.
経過・予後
 胃炎そのものの予後はよいが,胃炎を発生母地とする消化性潰瘍,胃癌などの疾患による.萎縮や腸上皮化生,鳥肌状粘膜,ひだの過形成を認める場合,胃癌発生の高リスクであるので,1年ごとの内視鏡検査による経過観察が必要である.
治療
 自覚症状の改善には,FDの治療に準じて,ドパミン拮抗薬,セロトニン作動薬,漢方薬などの運動機能調節薬,H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬(PPI)を用いる.H. pyloriの除菌治療も,一部のFDで自覚症状を改善させることがメタ解析で明らかとなっている.
 組織学的胃炎の治療はH. pyloriの除菌が基本で,1.胃潰瘍または十二指腸潰瘍,2.胃MALTリンパ腫,3.特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病,4.早期胃癌に対する内視鏡的治療後の患者の4疾患に加え,2013年2月よりH. pylori感染性胃炎が除菌の保険適用となった.消化性潰瘍や胃癌の将来的な発生も考慮し,若年者では特に積極的な除菌が望まれる.H. pyloriの除菌には,PPI倍量,アモキシシリン1500 mg,クラリスロマイシン400 mgあるいは800 mgを分2(朝食後,夕食後),7日間,あるいは,PPI倍量,アモキシシリン1500 mg,メトロニダゾール500 mgを分2(朝食後,夕食後),7日間投与する.ペニシリンアレルギーがあればアモキシシリンは使用できない.[春間 賢]
■文献
Dixon MF, Genta RM, et al: Classification and grading of gastritis. The updated sydney system. International workshop on the histopathology of gastritis, Houston 1994. The Am J of Surg Pathol, 20: 1161–1181, 1996.
Kimura K, Takemoto T: An endoscopic recognition of the atrophic border and its significance in chronic gastritis. Endoscopy, 3: 87-97, 1969.
Strickland RG, Mackay IR: A reappraisal of the nature and significance of chronic atrophic gastritis. Am J Dig Dis, 18: 426-440, 1973.

出典:内科学 第10版
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それぞれの用語は原書刊行時(2013年)の時点での最新のものです.常に最新の内容であることを保証するものではありません。また,権利関係の都合で一部表示できない図や画像があります。

六訂版 家庭医学大全科

慢性胃炎
まんせいいえん
Chronic gastritis
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 胃のなかには、0.1規定の塩酸(胃の壁細胞で作られる純度の高い塩酸)が常時存在していますし、食物自体も物理化学的に胃粘膜を障害する可能性があります。したがって、年齢が増すごとに胃の粘膜は荒れていくというのが、これまでの常識でした。そのため、慢性胃炎は加齢に伴う現象である、という説が日本の学会では主流を占めていました。

 しかし、この考え方を一変する事件が1982年に起こりました。それはピロリ菌の発見です。この菌の発見によって慢性胃炎の大半はピロリ菌の長期感染によって引き起こされることが明らかになってきました。

原因は何か

 慢性胃炎は、急性胃炎のように完全に治りきることはまれといわれています。病理学的にみると、当初は表層性胃炎(ひょうそうせいいえん)と呼ばれるリンパ球を中心とする炎症細胞浸潤(しんじゅん)がみられます。胃炎が長期化してくると、胃粘膜は次第に萎縮し、胃酸や粘液を分泌しない状態になり、萎縮性胃炎(いしゅくせいいえん)と診断されます。

 前述のように、慢性胃炎の成因のほとんどがピロリ菌感染であることが明らかになってきています。ピロリ菌感染がなければ、70歳以上の高齢者でも萎縮のないきれいな胃粘膜をみることができます。

症状の現れ方

 比較的多くみられる症状は、上腹部不快感、膨満感(ぼうまんかん)、食欲不振などのいわゆる不定愁訴と呼ばれるものです。ですから症状だけで慢性胃炎を診断することはできません。もちろん、胃の炎症症状の強い時には、吐き気や上腹部痛などの急性胃炎症状が出てきます。

 重要なことは、慢性胃炎においては、胃粘膜の萎縮の状態と自覚症状の程度が相関しないことです。つまり、なぜ慢性胃炎で症状が出るのか、わからない部分がまだ多いのです。

検査と診断

 内視鏡検査で胃粘膜の萎縮所見を認めれば、容易に診断がつきます。萎縮のある胃粘膜は、表面が滑らかではなく血管が透けて見える所見がみられます。正確な診断には、組織の一部を採取して調べる生検による病理学的検索が必要です。

 慢性胃炎はピロリ菌の有無、炎症細胞浸潤の程度、萎縮の程度などから、シドニー分類と呼ばれる国際的な胃炎分類法に基づきスコア化されています。

治療の方法

 慢性胃炎の本態が萎縮性変化なのですから、根本的な治療法はないことがおわかりいただけると思います。日本では、症状に合わせて治療を行っている医師が大半と思われます。

 もたれ感、不快感などの胃の不定愁訴には、胃の運動を改善する薬剤や胃の粘膜を保護する薬剤が処方されます。吐き気、上腹部痛などが強い場合は、急性胃炎に準じて制酸剤やH2ブロッカーなどが投与されます。

 近年、最も注目を集めていたことは、ピロリ菌を除菌することによって、胃粘膜の萎縮の改善が認められるかどうかということでした。国立がんセンターを中心とする日本の臨床試験で改善を認めたことから、日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは除菌をすすめています。

病気に気づいたらどうする

 慢性胃炎自体は心配する必要のない病気であり、症状があれば治療を受けるといったことで十分と思われます。ただ、自覚症状だけでは診断できないため、他の病気、とくに胃がんを除外する意味で1~2年に1回の内視鏡検査を受けておくことは必要と思われます。

浅香 正博

出典:法研「六訂版 家庭医学大全科」
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EBM 正しい治療がわかる本

慢性胃炎
どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 慢性胃炎(まんせいいえん)の多くは症状がありません。慢性胃炎の本来の意味は、上部消化管内視鏡(胃カメラ)を通して採取した胃粘膜の生検組織を顕微鏡で観察して、リンパ球を中心とした白血球などの炎症細胞が粘膜内に多数認められる状態をさします。しかし、生検検査を行わなくても、胃内視鏡検査や胃のバリウム検査の所見から慢性胃炎と診断することもあります。この慢性胃炎のおもな原因がピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)であることが明らかになっています。しかし、内視鏡検査などによって慢性胃炎と診断された場合でも、ほとんどの患者さんが無症状です。
 このように、慢性胃炎は本来症状の有無にかかわらず、内視鏡や組織など「目で見て」診断される病気です。またピロリ菌に感染していて(ピロリ菌陽性)、症状のある患者さんが除菌をしても、症状が改善されるのは一部に限られます。
 一方で、従来から胃痛、膨満感(ぼうまんかん)などの上腹部症状を訴える場合に症状のみで慢性胃炎と診断されることがありました。しかし、このような場合に内視鏡検査を行っても、胃潰瘍(いかいよう)や胃がん、食道炎など症状の原因と考えられる器質的な病気が見られないことが多くなっています。このように上腹部症状があるにもかかわらず、原因となる器質的な病気がない場合に、機能性ディスペプシア(ディスペプシアとは上腹部の症状を表す英医学用語)あるいは機能性胃腸症と呼ぶようになりました。
 慢性胃炎の診断にとって重要なことは、内視鏡によって胃粘膜を観察して慢性胃炎の診断をするだけではなく、胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃がんなどの病気を除外することです。
 慢性胃炎のおもな原因であるピロリ菌に感染しているかどうかの検査は、内視鏡を使って組織を採取して調べる検査以外に、血液や尿、便を調べたり、尿素を内服してその前後で吐いた息を調べる呼気テストという検査などがあります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 内視鏡で観察される慢性胃炎は、以前は加齢による変化と考えられていましたが、現在ではピロリ菌がおもな原因であることが明らかになっています。そのほかには自己免疫性の慢性胃炎などがありますが、ごく少数です。
 長年のピロリ菌の感染により慢性胃炎が持続して、胃酸を分泌する細胞が減少した状態になった萎縮性胃炎(いしゅくせいいえん)からは胃がんが発生しやすいことがわかっています。萎縮性胃炎の進行を抑えるために日常生活上は飲酒や塩分摂取を控え、禁煙をすることが勧められます。
 胃がん患者さんのほとんどは慢性胃炎・萎縮性胃炎をもっていることがわかっています。ただし慢性胃炎のうち胃がんになる人は最大でも数パーセントにすぎず、過大な心配は不要です。
 また、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃悪性リンパ腫などの発症につながる可能性がありますが、これも慢性胃炎の一部であり、多くの慢性胃炎はそれ以上の病気になることはありません。

●病気の特徴
 日本人の、とくに中年以降ではピロリ菌陽性の人が多くいますが、ピロリ菌陽性の人は程度の差はあれ慢性胃炎になっていますので、非常に多くの人が慢性胃炎をもっているといってよいでしょう。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]大量飲酒を長年続けると、萎縮性胃炎が進行しやすい
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] アルコール依存症の患者さんでは、ピロリ菌による萎縮性胃炎が進行しやすいとの報告があります。ただし、ピロリ菌陰性の場合、飲酒のみで慢性胃炎や萎縮性胃炎を発症することはありません。(1)

[治療とケア]塩分摂取量が多いと萎縮性胃炎が進行しやすい
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 塩分の多い食生活が、萎縮性胃炎を進行させるリスクになるとの報告があります。ただし、ピロリ菌陰性の場合、塩分摂取量やそのほかの食事内容により慢性胃炎や萎縮性胃炎を発症することはありません。(2)

[治療とケア]喫煙により萎縮性胃炎が進行しやすい
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 喫煙が、萎縮性胃炎を進行させるリスクになるとの報告があります。ただし、ピロリ菌陰性の場合、喫煙のみで慢性胃炎や萎縮性胃炎を発症することはありません。(2)

[治療とケア]ピロリ菌の除菌療法により、胃粘膜の炎症は軽減する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 胃潰瘍・十二指腸潰瘍と同様の方法で、ピロリ菌の除菌療法を行うことが可能です。ピロリ菌を除菌することで、早期(半年以内)に胃粘膜の炎症は軽減することが組織学的な検討で証明されています。(3)

[治療とケア]ピロリ菌の除菌により、胃粘膜の萎縮は改善する
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] ピロリ菌除菌後の長期経過をみると、胃粘膜の萎縮は徐々に改善することが組織学的な検討で証明されています。ただし、内視鏡検査での所見は改善する場合もありますが、変化しないことも少なくありません。(3)

[治療とケア]ピロリ菌の除菌により、その後の胃がん発生の抑制が期待できる
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] ピロリ菌除菌後に胃がんがどの程度発生するかについて、長期にわたっての経過を検証した研究は少ないですが、減少するといわれています。ただし、胃がんが発生しなくなるわけではありません。(4)

[治療とケア]ピロリ菌の除菌により、上腹部症状が改善する
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 上腹部症状(胃痛、胃もたれなど)を伴う慢性胃炎においては、ピロリ菌を除菌することにより症状が改善する場合があります。(5)


よく使われている薬をEBMでチェック

ピロリ菌の除菌療法〈1次除菌〉
[薬用途]プロトンポンプ阻害薬(酸分泌抑制薬)、アモキシシリン水和物(ペニシリン系抗菌薬)、クラリスロマイシン(マクロライド系抗菌薬)の3剤を併用する
[薬名]オメプラール/オメプラゾン/オブランゼ/オメプロトン(オメプラゾール)またはタケプロン/タイプロトン/タピゾール/ランソラール(ランソプラゾール)またはパリエット(ラベプラゾールナトリウム)またはネキシウム(エソメプラゾールマグネシウム水和物)のいずれか1剤+サワシリン/アモリン/パセトシン/ワイドシリン(アモキシシリン水和物)+クラリス/クラリシッド(クラリスロマイシン)あるいはラベキュアパック(ピロリ菌除去用ラべプラゾールナトリウム配合剤)またはランサップ(ピロリ菌除去用ランソプラゾール配合剤):3剤が1日分ごと1シートにパックされた製剤(6)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] プロトンポンプ阻害薬(酸分泌抑制薬)、アモキシシリン水和物(ペニシリン系抗菌薬)、クラリスロマイシン(マクロライド系抗菌薬)3剤を併用し、1週間内服することにより70~80パーセントの患者さんがピロリ菌除菌に成功します。また、ピロリ菌除菌後に再感染することは少なく、再感染率は年間1~2パーセントです。

ピロリ菌の除菌療法〈2次除菌〉
[薬用途]プロトンポンプ阻害薬(酸分泌抑制薬)、アモキシシリン水和物(ペニシリン系抗菌薬)、メトロニダゾール(抗原虫薬)の3剤を併用する
[薬名]オメプラール/オメプラゾン/オブランゼ/オメプロトン(オメプラゾール)またはタケプロン/タイプロトン/タピゾール/ランソラール(ランソプラゾール)またはパリエット(ラベプラゾールナトリウム)またはネキシウム(エソメプラゾールマグネシウム水和物)のいずれか1剤+サワシリン/アモリン/パセトシン/ワイドシリン(アモキシシリン水和物)+アスゾール/フラジール(メトロニダゾール)あるいはラベファインパック(ピロリ菌除去用ラべプラゾールナトリウム配合剤)またはランピオンパック(ピロリ菌除去用ランソプラゾール配合剤):3剤が1日分ごと1シートにパックされた製剤(7)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 1次除菌にて除菌できなかった場合、1次除菌で内服した3剤のうちクラリスロマイシンをメトロニダゾールに替えて1週間内服することにより、90パーセント前後の患者さんがピロリ菌除菌に成功します。なお、メトロニダゾール内服中は禁酒が必要です。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
内視鏡検査によって、診断を確定する
 慢性胃炎の多くはこれといった症状がなく、診断を確定するには上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が有効です。内視鏡で胃粘膜を観察して慢性胃炎の診断をするだけではなく、胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃がんなどの疾患を除外することが重要です。
 慢性胃炎のおもな原因であるピロリ菌に感染しているかどうかの検査は、内視鏡を使って組織を採取して調べる検査以外に、血液や尿、便を調べたり、尿素を内服してその前後で吐いた息を調べる呼気テストという検査などがあります。こうした検査によって、治療方針を決定します。

萎縮性胃炎の進行は胃がんの発生率を上昇させる可能性があり、節酒や禁煙、塩分控えめなど日常生活に注意
 慢性胃炎が持続していて、胃酸を分泌する細胞が減少した状態になった萎縮性胃炎からは胃がんが発生しやすいことがわかっています。萎縮性胃炎を進行させないように、日常生活上は、飲酒や塩分摂取を控えめにすることが勧められます。ただし、飲酒、喫煙、塩分のとりすぎのみで萎縮性胃炎は出現しません。

ピロリ菌が見つかれば除菌する
 ピロリ菌が確認された場合には、プロトンポンプ阻害薬(酸分泌抑制薬)、アモキシシリン水和物(ペニシリン系抗菌薬)、クラリスロマイシン(マクロライド系抗菌薬)3剤を併用して、除菌します(1次除菌)。この除菌療法によって70~80パーセントの患者さんでピロリ菌が除菌されることが報告されています。1次除菌で除菌されなかった場合には、上記3剤のうち、マクロライド系抗菌薬をメトロニダゾール(抗原虫薬)に替えて除菌療法を行います。
 ピロリ菌を除菌することにより、胃粘膜の状態が改善され、胃がんの発生が抑制されるとの報告がありますが、すべての胃がん発生を防ぐことができるわけではありません。

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出典:法研「EBM 正しい治療がわかる本」
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