●成年後見制度【せいねんこうけんせいど】
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成年後見制度
せいねんこうけんせいど
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知恵蔵
成年後見制度
(中谷茂一 聖学院大学助教授 / 2007年)
出典:(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」
朝日新聞掲載「キーワード」
成年後見制度
(2020-12-06 朝日新聞 朝刊 長崎全県・1地方)
出典:朝日新聞掲載「キーワード」
デジタル大辞泉
せいねんこうけん‐せいど【成年後見制度】
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日本大百科全書(ニッポニカ)
成年後見制度
せいねんこうけんせいど
未成年者を保護する未成年後見に対して、判断能力の不十分な成年者(認知症高齢者、知的障害者、精神障害者)を保護するための制度をいう。自己決定権の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーションnormalization(高齢者や障害者を施設などに隔離するのではなく、いっしょに暮らす社会こそがノーマルだとする福祉のあり方に関する思想)などの新しい理念と、従来の本人の保護を優先する理念との調和を旨として、柔軟かつ弾力的な利用しやすい制度を構築することを目的に2000年(平成12)4月に導入された。
[池尻郁夫]
成年後見制度成立の背景
新制度が導入される以前の旧民法では、禁治産・準禁治産制度が設けられていた。禁治産制度は「心神喪失の常況にある」と判断される人、すなわち重度の認知症など意思能力がつねにない状況の人(禁治産者)に、家庭裁判所が禁治産の宣告をし、本人の行為能力を奪うことによって保護をするものであった。禁治産宣告がなされると後見人が選任され、本人にかわって財産管理や身上看護が行われた。準禁治産制度では「心神耗弱(こうじゃく)者」または「浪費者」と判断される人(準禁治産者)に対し、家庭裁判所が準禁治産の宣告を行い、保佐人が選任され、重要な財産行為などは保佐人が同意しないと完全に有効とはされなかった。禁治産制度の後見人も準禁治産制度の保佐人も、配偶者がなることが原則であり、該当者がなければ親族など利害関係人の請求によって選任された。
ところが、この旧制度では、後見人・保佐人が置かれるに至る手続に費用と時間がかかること、後見人・保佐人が置かれると、行為能力が一律に剥奪(はくだつ)ないしは制限を受けるために、当事者が、複雑な法律行為は無理だが、預金の出し入れや生活用品の購入など日常的な法律行為ができる段階にある場合には不適当であること、後見人・保佐人となるべき配偶者が高齢で不適当なことがあること、禁治産の名称に社会的偏見があり、禁治産宣告を受けると、本人は選挙権を喪失し、とくにそれが戸籍簿に記載されることなどから、あまり利用されないのが実情であった。さらに親族間の財産争いに端を発して、自分が高齢者の後見人になれば有利になるために、禁治産宣告を悪用する事例もあった。
一方、高齢化の進展に伴い介護の問題が深刻化するなか、高齢者介護の社会化を目ざした介護保険法が1997年に制定された。従来の高齢者介護に関する制度(特別養護老人ホーム・在宅介護サービス)ではサービスを受ける者の判断能力はあまり問題とされなかったが、新介護保険制度は法制上の「措置」ではなくサービスを受けるものの自己決定による選択方式を採用するため、判断能力が不十分な人に対して、サービスの選択や契約などにおいて、自己決定ができるよう適切な支援をする必要がある。しかし従来の禁治産・準禁治産制度は、前記のようにさまざまな問題があり、介護保険法の円滑な運用のためにも、より利用しやすい新制度の整備が緊急課題であった。
こうした事情を踏まえて、成年後見関連の法律は介護保険法と同時施行(2000年4月)を目ざして準備され、1999年12月に、民法の一部を改正する法律(平成11年法律第149号)、任意後見契約に関する法律(平成11年法律第150号)、後見登記等に関する法律(平成11年法律第152号)などが成立し、2000年4月から成年後見制度が導入された。なお、民法をはじめすべての関係法律において「禁治産者」「準禁治産者」「無能力者」などの差別的印象を与える表現は、それぞれ「成年被後見人」「被保佐人」「制限能力者(行為能力が制限されている未成年者と判断能力が低下した者をさす。2004年の民法改正からは制限行為能力者)」などに改められた。また、ノーマライゼーションの理念の観点から、判断能力がないことを理由に資格制限を規定していた多数の法律の見直しもなされた。ただし、医師・弁護士・司法書士などの専門的資格、株式会社の取締役など他人の財産の管理者、薬局・旅行業・警備業など免許・登録等を必要とする営業、選挙権・被選挙権(成年被後見人のみ)などの政治的権利には資格制限が存続している。
[池尻郁夫]
2013年5月、「成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律」が成立し、同年7月以降に公示・告示される選挙から、選挙権・被選挙権の制限はなくなった。
[編集部]
成年後見制度の骨子
成年後見制度には、家庭裁判所の審判による法定後見と、当人が委任契約を結んで行う任意後見がある。
[池尻郁夫]
法定後見
法定後見には、本人の判断能力の程度に応じて、(1)後見、(2)保佐、(3)補助の3類型がある。
(1)後見類型 従来の禁治産後見にあたり、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」がその対象である(民法7条)。後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とよばれ、日常の生活に必要な範囲の法律行為以外は単独で行うことができない。原則として、成年被後見人の保護を行う成年後見人には全面的な代理権・取消権が付与される。
(2)保佐類型 従来の準禁治産後見にあたり、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」がその対象である(同法11条、新法では浪費者は対象外)。保佐開始の審判を受けた者は、被保佐人とよばれ、保護者として保佐人が付される。保佐人には、元本の領収、借財、保証、不動産または重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為、訴訟行為などの行為について同意権・取消権が付与される。また当事者が申立てにより選択した特定の法律行為について、審判により保佐人に代理権を付与することを可能にした。
(3)補助類型 「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」(軽度の精神上の障害などにより判断能力が不十分な者のうち、保佐よりも判断能力が高い者)がその対象である(同法15条、新法で新設された)。補助開始の審判を受けた者は、被補助人とよばれ、保護者として補助人が付される。当事者が申立てにより選択した特定の法律行為(土地の売買契約など)について、審判により補助人には代理権または同意権・取消権の一方または双方が付与される。補助の開始決定にあたっては、本人が申請した場合を除いて、かならず本人の同意を得なければならず、本人の意思を尊重する制度になっている。
成年後見人、保佐人、補助人(以下成年後見人等という)の選任については、配偶者が法定後見人になる従来の制度は廃止された。新法では、複数の成年後見人等が任務に応じて職務を分担することができ(同法859条の2)、法人(たとえば社会福祉法人)も成年後見人に選任することができる(同法843条4項)。成年後見人等選任の際は本人の心身の状態や生活・財産の状況、本人との利害関係の有無などの事情を考慮しなければならない(同法843条ほか)。
成年後見人等に対する監督は家庭裁判所が行うが、家庭裁判所は必要に応じて、本人、親族もしくは成年後見人等の請求により、または職権で、後見事務を監督する成年後見監督人等(成年後見監督人、保佐監督人、補助監督人)を選任することができる(同法849条の2ほか)。成年後見人等に不正な行為など後見の任務に適さない理由があるときは、家庭裁判所は、成年後見監督人等、本人、親族、検察官の請求によって、または職権で、解任することができる(同法846条ほか)。成年後見人等は、権限の範囲に応じて本人の財産を管理し、身上看護の事務を行う際は、本人の意思を尊重し、その身上に配慮しなければならない(同法858条ほか)。
[池尻郁夫]
任意後見
任意後見契約とは、本人(委任者)が判断能力があるうちに自分が信頼できる任意後見受任者を選び、判断能力が不十分になったときの法律行為(自己の生活や療養看護および財産管理などの事務)の全部または一部を委託し、その委託の事務について代理権を付与する委任契約をいう。家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めて効力を生じ、任意後見受任者は任意後見人となる。同契約は、成年後見制度の理念が自己決定権の尊重にあり、法定後見以外の方法を望む人が多いことから導入された。同契約の方式や効力、任意後見人に対する監督に関する必要な事項は「任意後見契約に関する法律」で以下のように定められている。
(1)任意後見契約の方式 本人の意思と任意後見人の権限や義務を明確にするため、同契約は法務省令で定める様式の公正証書によって行わなければならない(同法3条)。
(2)任意後見監督人の選任 任意後見契約を登記した者が、法定後見(補助、保佐、後見)のいずれかに該当する判断能力の状況となったときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、4親等内の親族または任意後見受任者の請求により任意後見監督人を選任する(同法4条)。ただし、任意後見受任者または任意後見人の配偶者、直系血族および兄弟姉妹は任意後見監督人となることができない(同法5条)。
(3)本人の意思の尊重 任意後見人は、委任に基づく事務を行う際、本人の意思を尊重し、その心身の状態および生活の状況に配慮しなければならない(同法6条)。
(4)任意後見監督人の職務 任意後見監督人は、任意後見人の事務を監督し、家庭裁判所に定期的に報告をしなければならない。また急迫の事情がある場合や利益相反行為に関しては、任意後見監督人が代理権を行使することができる(同法7条)。
(5)任意後見人の解任 任意後見人に不正な行為などがあったときは、家庭裁判所は、任意後見監督人、本人、親族または検察官の請求により、任意後見人を解任することができる(同法8条)。
(6)任意後見契約の解除 任意後見監督人が選任される前においては、本人または任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、契約を解除することができる。任意後見監督人が選任された後においては、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、契約を解除することができる(同法9条)。
(7)法定後見との関係 任意後見契約が登記されている場合には、原則として任意後見契約が優先するが、家庭裁判所が本人の利益のためとくに必要があると認める場合は法定後見が開始され、任意後見契約は終了する(同法10条)。
[池尻郁夫]
後見登記
旧法では、禁治産・準禁治産の宣告があった場合、取引などの安全を図るため、戸籍にその旨を記載することとされていた。しかし、戸籍への記載に対しては「戸籍が汚れる」など抵抗感をもつ人が少なくなく、これらの制度が利用されない理由の一つになっていた。成年後見制度導入に伴い、心理的抵抗を取り除くとともにプライバシーに配慮するため、官報公告や戸籍簿への記載が廃止され、法定後見および任意後見契約を公示する後見登記制度が創設された。登記事務は法務局で行われ、登記情報の開示は証明書を交付することによって行う。なお証明書を請求できるのは、登記されている者(本人、法定・任意後見人、法定・任意後見監督人など)と配偶者、4親等内の親族に限定されており、職務上必要がある場合のみ国や地方公共団体の職員の請求が許可されている。
[池尻郁夫]
出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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