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放射線療法【ほうしゃせんりょうほう】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

放射線療法
ほうしゃせんりょうほう
radiotherapy
放射線が癌細胞に当たると,細胞は電気を帯びたようになり,栄養吸収や核酸の分裂増殖ができなくなってしまう。これを応用したのが放射線療法で,現在,X線,γ線,β線中性子,陽子などが用いられている。放射線がよくきくとしては,皮膚癌舌癌喉頭癌子宮癌悪性リンパ腫などがある。放射線療法の場合,問題になるのは副作用で,癌細胞を死滅させるだけの放射線をかけると,その周囲の正常な細胞も障害を受け,ただれ,脱毛,潰瘍などの起こることがある。したがって放射線療法を行なう場合,きめ細かく照射の強弱や間隔を調整しながら治療を進めることが大切である。

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デジタル大辞泉

ほうしゃせん‐りょうほう〔ハウシヤセンレウハフ〕【放射線療法】
放射線患部に照射して治療する方法。癌(がん)などを対象に、X線γ(ガンマ)線電子線中性子線アイソトープ放射性同位体)などが用いられ、体外から照射したり、病巣内に密封小線源を挿入・刺入して照射したりする。放射線治療

出典:小学館
監修:松村明
編集委員:池上秋彦、金田弘、杉崎一雄、鈴木丹士郎、中嶋尚、林巨樹、飛田良文
編集協力:田中牧郎、曽根脩
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世界大百科事典 第2版

ほうしゃせんりょうほう【放射線療法】

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大辞林 第三版

ほうしゃせんりょうほう【放射線療法】
放射線を用いて行う治療法。特に癌がんなどの悪性腫瘍しゆようが対象となる。放射線治療。

出典:三省堂
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日本大百科全書(ニッポニカ)

放射線療法
ほうしゃせんりょうほう
radiation therapy
放射線を用いた治療一般をさす。1895年にドイツの物理学者レントゲンが放射線の一つであるX線を発見したが、その翌1896年には子宮がんの皮膚転移に対してX線の照射が行われている。現在では放射線療法の大部分が悪性腫瘍(しゅよう)を対象としており、一部で良性腫瘍(おもに血管腫)や皮膚病などにも行われている。治療に使われる放射線には、X線やγ(ガンマ)線のような電磁波と電子線のような粒子線とがある。粒子線としては、近年になって質量の大きい速中性子線、陽子線、重イオン線(重粒子線)、負π(パイ)中間子線なども、治療に用いられている。なお、1960年代、1970年代には中性子捕獲(捕捉(ほそく))療法とよばれる原子炉を用いた熱中性子治療も行われた。1980年代になると中性子線利用は少なくなり、陽子線利用の施設が増えている。これらの放射線には、物質を通過する際に直接または間接に物質をイオン化する電離作用がある。一般に、物質を構成する原子は安定状態では電子と陽子の数が等しく電気的には中性であるが、これに放射線が当たると、電子を放出してプラスになったり、その電子が中性の原子に付着してマイナスになったりする。これを電離作用といい、この作用によって細胞死がおこる。すなわち、放射線が細胞内のデオキシリボ核酸(DNA)上または近傍を通過して電離作用がDNA鎖に及んだ場合にDNA鎖は損傷を受ける。DNAは二重構造であるから1本の鎖が切れても修復されるが、一度に2本とも切られると修復できず、DNAの遺伝情報は乱されて細胞分裂ができないものも出て、細胞死を招くわけである。
 放射線治療は病巣のみならず正常組織にも損傷を与えるので、正常組織の障害を最小限にとどめるか、または正常組織が耐えうる程度にして最大の治療効果をあげることが原則である。生命に危険を及ぼすほどの機能欠損に至ることのない、また外見を著しく損なうことのない最大線量を耐容線量といい、正常組織の耐容線量を腫瘍の致死線量で割ったものを治療比とよぶ。治療比が1以上のときは根治可能であるが、1以下ではその値が小さくなるほど根治が困難となる。悪性腫瘍のうち、放射線に対する高感受性群には精上皮腫、悪性リンパ腫があり、中等度感受性群には基底細胞がん、扁平(へんぺい)上皮がん、腺(せん)がん、また低感受性群には骨肉腫、悪性黒色腫がある。一方、正常組織で感受性の高いものはリンパ節、骨髄、精巣、卵巣、小腸で、次いで高いものに胃、水晶体、皮膚があり、中等度感受性のものは毛細血管、成長期の軟骨や硬骨で、かなり感受性の低いものに軟骨、硬骨、唾液腺(だえきせん)、肺臓、肝臓、膵(すい)臓、甲状腺、副腎(ふくじん)、下垂体があり、もっとも低いのは筋肉、脳、脊髄(せきずい)である。なお、腫瘍に効果的な線量を1回で照射すると、周辺の正常組織は多くの場合耐えられない。そこで何回かに分けて照射すると、正常組織が耐えられる線量範囲でも腫瘍を根治できる。これを分割照射という。[赤沼篤夫]

放射線治療装置

次のようなものがある。
(1)治療用X線装置 これには表在治療用X線装置、X線深部治療装置、体腔(たいくう)X線装置などがあるが、悪性腫瘍に対しては現在ほとんど用いられていない。
(2)コバルト60大量遠隔照射装置 コバルト60(60Co)の線源1000~3000キュリーを容器に入れ、照射に際しては線源を照射位置まで移動させて、照射線束を腫瘍の大きさにあわせてから照射口をあけて照射する。
(3)ベータトロン 変動する強力磁場の中にあるドーナツ型の真空容器中で電子を加速し、電子線を取り出す装置である。
(4)リニア・アクセレレーター 直線状の真空容器中で電子を加速し、電子線を取り出し直接電子線を利用するか、またはX線に変換して治療に利用する装置である。線形加速器またはリニアック(ライナックlineac)ともよばれる。
(5)密封小線源 わずかな放射性同位元素(ラジオ・アイソトープ)を白金などの小さな容器に入れたものである。これにはラジウムの管や針、コバルト60の管や針、セシウム137の管や針、ストロンチウム90の照射器などがある。
(6)ガンマナイフ コバルト60γ(ガンマ)線治療装置の一種。照射ユニットの半球面上には201個のコバルト60線源が5列にわたって装填(そうてん)されており、各々のガンマ線が半球内の一点に集中するようにコリメート(放射線の入射方向等の制御)されている。小さな病巣、たとえば脳内の深い所にある血管腫等にガンマ線が集中するように設定すれば手術できない病巣も治療できる。ガンマナイフを利用した治療は定位放射線治療とよばれ、脳内の小さな病巣であれば開頭せずに治療することができる。
(7)サイバーナイフ ガンマナイフをX線で実現したもので、ガンマナイフより自由度が高く高等な照射技術が使えるようになっている。六つの関節をもつ腕(ロボットアーム)の先に小型X線発生装置(ライナック)が設置されている。100か所の照射ポイントがあり、各々のポイントから12の方向に照射でき、最大1200照射方向に照射可能である。精確な治療計画に基づいて照射方向や線量率が設定されて、頭蓋(とうがい)内に限らず体内の病巣に線量を集中して照射できる。照射ロボットともよばれ、照射中の患者の動きなどに自動で追随する病変追尾システム(TLC:Target Locating System)を備えている。サイバーナイフを利用した治療は定位放射線治療以外にも利用できる。
(8)ノバリス ヘリカル治療装置ともよばれる装置で、小型X線発生装置(ライナック6MeV)がCTのようにガントリーの中を回転して、方向、大きさ、線量率などを制御しながら照射する(トモセラピーともよぶ)治療装置である。ライナックからのX線を利用してCT画像が撮られ、これに基づいて治療計画がなされ、患者設定も自動的に行われる。定位放射線治療を行うために開発されたが、自由度が高く一般の放射線治療にも利用されている。広範囲に照射可能であり、また複数のターゲットを同時に照射することもできる(「原体照射」の項参照)。
(9)陽子線治療装置 粒子線治療装置の一つ。一般にサイクロトロンが用いられる。陽子は水素の原子核であり、これをサイクロトロンに加速して取り出した放射線が陽子線である。陽子線にはブラッグピーク(線量ピーク)がある。すなわち体表の入射部にはほとんど線量を与えず、ある一定の深さの所で全エネルギーを放出する。この位置に腫瘍がくるように陽子線のエネルギーを調整すれば、腫瘍以外の正常組織はほとんど照射されない。線量分布は大変好ましいが生物学的効果比(RBE:relative biological effectiveness)はX線と同じである。
(10)重粒子線治療装置 粒子線治療装置の一つ。水素より重い原子核をサイクロトロンやシンクロトロンで加速して取り出した放射線で照射治療を行う装置である。原子核が重いほどRBEが大きくなる。水素の次に重い原子はヘリウムであり、これをサイクロトロンで加速して用いられたが、最近ではもっと重い原子核をシンクロトロンで加速して使われている。カーボンやシリコン、ネオン、アルゴン等である。量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所のHIMAC(ハイマック)(Heavy Ion Medical Accelerator in Chiba)とよばれているシンクロトロン治療装置は大型で、これらの原子核の放射線を取り出すことができる。しかし、あまり重い原子核を用いるとRBEは落ちるし線量分布にも利点がなくなるので、現在ではカーボン核が用いられることが多い。[赤沼篤夫]

放射線照射方法

次の5種がある。
(1)外部照射法 体外より体内における病巣に対して放射線を照射する方法で、放射線の出口を固定して行う固定照射と、出口を動かして行う運動照射とがある。固定照射には、一方向から照射する一門照射と、いくつかの方向から照射する多門照射とがあり、一門照射は電子線による皮膚がんの治療などに用いられ、多門照射は病巣に放射線を集中して病巣内の線量分布を均等にする目的で使われる。このほか、照射方向を体深部に向けるのではなく、体表面をかすめるように照射する方法もあり、接線照射とよばれる。一方、運動照射には、全回転する回転照射と、振り角360度以下で円周上を往復させて照射する振り子照射とがある。
(2)腔内照射法 体腔内に密封小線源を挿入して照射するもので、線源としてはラジウム、コバルト、セシウムの管状のものが使われ、子宮がん、腟(ちつ)がん、上顎(じょうがく)がんなどの治療に用いられる。
(3)組織内照射法 病巣内に直接放射性同位元素の小線源を刺入して照射する方法で、線源にはラジウム、コバルト、セシウムなどの針状のものが使われ、白金や金、ステンレス製の容器(針や管)内に密封されている。この容器によって、線源から出てくるα(アルファ)線やβ(ベータ)線が吸収され、γ線のみが放射される。また、病巣およびその周囲に均等な放射線が照射されるように、強さの異なる何本かの針状容器を局所麻酔下で病巣内部に刺し入れる。舌がん、口唇がん、皮膚がん、陰茎がんなどの治療に用いられる。
(4)内用療法 放射性同位元素を内服して治療する方法で、甲状腺に集まるヨウ素131(131I)は甲状腺機能亢進(こうしん)症や甲状腺がんなどに用いられる。すなわち、ヨウ素131を内服すると、ヨウ素は甲状腺組織に集まり、そこで放射線を出すので病巣が破壊される。
(5)中性子捕獲療法 原子炉を用いたエネルギーの比較的低い熱中性子照射治療である。ホウ素化合物をあらかじめ病巣に点滴等で取り込んでおき、熱中性子線を体外から照射する。ホウ素と熱中性子との核反応により発生する強力な粒子線(α線とリチウム線)により病巣が破壊される。隣接する正常細胞への影響が少ない優れた治療法であるが、熱中性子線を発生するためには原子炉が必要であるため対応できる治療施設は限られている。[赤沼篤夫]

放射線治療の実施

放射線治療を実際に行う場合には、次のようなことがチェックされる。
(1)放射線治療への適応力があるかどうか。すなわち病巣の感受性と患者に放射線を受けるだけの体力があるかどうかがチェックされる。
(2)他の治療との組合せはどうするか。がんの治療には手術をはじめ、化学療法、ホルモン療法、免疫療法などもあり、これらと放射線療法との併用が検討されるが、とくに手術療法との組合せでは、術前、術中、術後のどの段階で併用するかがチェックされる。
(3)放射線の線源の種類およびその治療装置について、どれを選ぶかを検討する。
(4)照射野はどのようにするか、照射方法をどうするかを検討する。
(5)照射する放射線の総量と1回分の線量をどうするか、また1週間に何回照射するか。
以上のことがすべて決定してから実際の照射に入るが、照射期間中は患者の全身状態をつねに配慮しながら照射を続ける必要がある。[赤沼篤夫]

治療疾患

いくつかの疾患について具体的に述べる。[赤沼篤夫]
舌がん
手術療法と放射線療法、あるいは両者の併用療法が行われ、いずれも良好な成績が得られているが、治療効果と機能保存の点からは放射線療法が主流となっている。舌がんには組織内照射法が用いられ、腫瘍が比較的小さいときはラジウム針を1平面に配列する一平面刺入法を行い、腫瘍が大きくなれば2平面に配列する二平面刺入法や立体刺入法なども行われる。線量は1週間の刺入で60~70グレイである。[赤沼篤夫]
乳がん
まず外科療法が検討されるが、手術ができない場合には放射線療法が行われる。また、リンパ節転移がある場合には術後照射が積極的に行われる。これにより、局所再発の抑制および再発出現の遅延が認められる。照射は患側の胸壁、腋窩(えきか)リンパ節、鎖骨の上下窩リンパ節、傍胸骨リンパ節を含む部位に行われるが、肺および心臓に不必要な線量を与えないようにする。コバルト60のγ線、電子線などが用いられ、1回線量2グレイ、総量50グレイ程度を照射する。[赤沼篤夫]
(けい)がん">子宮頸(けい)がん
病気の進行度によって治療法が異なり、初期のものは手術と放射線のどちらでも治療効果にほぼ変わりがない。両者を組み合わせて行うことも多い。進行したものは放射線療法が主軸となる。治療法は、腔内照射によって子宮頸管部に十分な線量を照射し、周囲の浸潤や転移病巣に対しては外部照射を行う。普通、この二つの照射法を併用する。腔内照射には、子宮腔内の長軸に沿って直線的に線源を並べるタンデムと、タンデムに対して垂直に線源を保持して腟内に挿入するオボイドとよばれる容器が用いられる。管状コバルト60の1~3キュリーを用いる。挿入するときは、遠隔操作式後装填(こうそうてん)法が使われる。外部照射は、骨盤に対して対向二門照射で行われる。コバルト60のγ線で50グレイくらい照射される。[赤沼篤夫]
甲状腺機能亢進症
放射性ヨウ素131を内服する。摂取したヨウ素131は甲状腺に集まり、そのβ線が甲状腺を照射する。これによって、亢進した甲状腺機能が抑制され、正常に戻ることが期待される。β線の及ぶ範囲は2ミリメートル以下であり、周囲組織への影響はほとんど心配ない。治療線量は50グレイくらいである。[赤沼篤夫]
ケロイド
ケロイドが完全にできてしまってからでは放射線療法もあまり効果はない。ケロイド切除直後に照射すると、発生を防止することができる。表在治療用X線が用いられ、総量20グレイくらいである。[赤沼篤夫]
翼状片
原因不明の眼科疾患で、鼻側の球結膜がくさび状に角膜に侵入増殖していくものであるが、手術で除去しても再発しやすい。その再発防止のために放射線療法が行われる。術後にストロンチウム90のβ線照射を行うが、線量は約40グレイである。これにより再発はまれとなる。[赤沼篤夫]
『尾関巳一郎・松浦啓一編『新放射線医学』第2版(1980・南山堂) ▽梅垣洋一郎監修『ガンの放射線療法』(1980・自由国民社) ▽青木幸昌他編『放射線治療ガイドブック』(1992/改訂版・1999・医療科学社) ▽増田康治編『放射線治療技術』改訂4版(2002・南山堂) ▽日本放射線技術学会監修、熊谷孝三編著『放射線治療技術学』(2006/改訂2版・2016・オーム社) ▽日本放射線治療専門技師認定機構監修、保科正夫編『放射線治療技術の標準』(2007・日本放射線技師会出版会) ▽井上俊彦他編『放射線治療学』改訂3版(2007/改訂5版・2014・南山堂) ▽渡部洋一他編著『放射線治療科学概論――診療画像検査法』改訂版(2008・医療科学社) ▽西村恒彦・山崎秀哉他編著『癌治療における放射線診療の展開――放射線治療・IVR・RI内用療法』(2008・金芳堂)』

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精選版 日本国語大辞典

ほうしゃせん‐りょうほう ハウシャレウハフ【放射線療法】
〘名〙 放射線を用いた療法の総称。癌をはじめとする悪性腫瘍(しゅよう)、痔(じ)、血管腫などの良性腫瘍に用いられる。〔癌(1955)〕

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内科学 第10版

放射線療法(治療学総論)
 放射線治療は,手術療法,化学療法とともに癌治療の重要な治療法として,現在広く用いられている.その癌治療における位置づけは,手術療法とともに腫瘍の局所における制御を目的とする局所療法であるが,手術療法とは異なる特徴を有している.第一に,局所の切除をしないために,機能を温存することが期待できる.第二に,どのような部位に対しても照射が可能である.第三に,全身への負担が比較的少ない.放射線治療はこのような利点を有しているために,生活の質(QOL)を重視する場合,合併症を有する場合,高齢者の治療などの場合においては大きな役割を担うが,それに加えて,複数の治療の組み合わせを最適化して行う癌の集学的治療における位置づけも重要である.一方で,手術療法と比べて局所制御率が低い癌が存在することや周辺正常組織への照射による障害などの問題点に対しては,物理工学や放射線生物学の発展によって,より有害事象が少なくかつ局所制御率の高い治療方法の開発が進んでおり,癌治療における重要性はますます大きくなることが期待されている.
(1)放射線治療の目的
 放射線治療の目的は,癌の種類や病期によって異なり,また集学的治療においては手術療法や化学療法の目的とも関係するために,癌治療の原則にのっとり,症例ごとの癌治療の目的を複数の専門領域の治療関係者が慎重に議論して決める必要がある.その目的は,癌の治癒を目指すことと症状を緩和することに大別される.治癒を目的とする場合には,さらに放射線治療単独で行う場合,化学療法と併用する場合,手術療法の補助として行う場合に分かれる.症状の緩和のために放射線治療を行う場合は,癌の根治は期待できないが,症状を緩和することによる日常生活の質の向上や生存期間の延長を目的とする.
(2)放射線治療の作用機序
 治療において用いられる放射線は,物質にエネルギーを与え電離する能力を有する電離放射線である.放射線はこの電離能力によって生体を構成する分子に物理的変化や化学的反応を引き起こすが,癌に対する治療効果の発揮においては,DNAの損傷が重要である.このDNA損傷は,大別とすると放射線の直接作用と水分子の反応の結果生じるラジカルによる間接作用の2つの原因によって生成され,この2つの作用の割合は放射線の種類によって異なる.飛程あたりの物質へエネルギーを与える指標である線エネルギー付与(linear energy transfer:LET)の低いX線やγ線などでは,後者の割合の方が高い.それに対して,重イオン線や中性子線などのLETが高い放射線では,直接作用の割合が大きくなる.
 放射線によって生じるDNA損傷には,塩基損傷,DNA一本鎖切断,DNA二本鎖切断,架橋(DNA蛋白質間,DNA鎖内,DNA鎖間)などがあるが,癌細胞の致死に最も重要であるのは,DNA二本鎖切断である.DNA二本鎖が放射線によって切断されると,細胞はそれに応答して情報伝達経路を活性化し,最終的にはこの切断を修復することによって細胞にとって致死的な結果を回避する.しかし,このような細胞の防御機構は完璧に作動するわけではない.癌細胞のように正常細胞と比べて多様な分子異常が存在している場合には,DNA損傷応答から修復に至る過程が,正確に作動しないことがある.また,分子レベルの異常がなくとも,DNA損傷の処理能力には限度があると考えられているために,大量のDNA損傷が生成された場合には,修復されない損傷が残存する.このような理由によって,癌治療で用いられる線量の放射線を照射された細胞では,修復されないDNA二本鎖切断が存在し,それがDNA複製と細胞分裂に重大な影響を与え,染色体構造の異常などを誘発して細胞に致死的な状況をもたらすものと考えられる.
(3)放射線感受性の修飾
 放射線によって生成されたDNA損傷が,癌の細胞死を効率的に誘導することができれば,放射線治療はきわめて有効性の高い癌治療となる.しかし,生体における複雑な要因によって細胞の放射線感受性は大きな影響を受けるために,癌の放射線治療においては治療抵抗性の問題が生じることがある.放射線感受性のメカニズムは,生命科学の進歩によって分子レベルでの解明が大きく発展し,放射線治療の増感法への応用に大きく貢献することが期待されるようになった(Beggら,2011).
1)DNA損傷応答機構:
放射線治療の効果の発揮において重要な役割を果たすDNA二本鎖切断が生じた場合,損傷のセンサー分子であるATM(ataxia telangiectasia mutated)が,自己リン酸化によって活性化され,情報伝達経路の下流に存在する蛋白質をリン酸化することによって,損傷情報が伝達される.ATMの遺伝性ホモ接合性変異は,血管拡張性失調症(ataxia telangiectasia)の原因となるが,この疾患では血管拡張と小脳失調に加えて,免疫不全,放射線高感受性,発癌リスクの増加が特徴的であることは,ATMのDNA損傷応答のセンサーとしての役割の重要性を示唆するものである.センサー分子からの情報は,リン酸化活性を有するChk1やChk2などのトランスデューサー分子に伝達され,それらは代表的な癌抑制分子として知られているp53などの下流に存在するエフェクター分子に情報を伝達することによって,細胞周期の進行の制御,DNAの修復,細胞死などの細胞応答現象が発揮される(図3-1-32).そのために,これらの情報伝達経路を形成する分子の機能が,多様な原因によって変化すると,放射線の感受性は修飾される.
2)細胞周期:
放射線の感受性は,細胞周期によって異なる(図3-1-33).細胞分裂が行われるM期とG1期からS期への移行期においては放射線感受性が高いために,この時期に存在する細胞は,放射線照射によって高い効率で細胞死に至りやすい.それに対して,DNA複製が行われるS期の後半とG1期の前期においては,放射線感受性が低いために,この時期に存在する細胞は,放射線に対して抵抗性になる.
3)DNA修復:
放射線によって生成されるDNA損傷に対しては,その損傷の種類に応じて独立した修復機構が存在する.最も頻度の高い損傷である塩基損傷に対しては塩基除去修復機構が,DNA一本鎖切断に対しては一本鎖切断修復機構がおもな役割を担うが,放射線治療の効果に最も直接的な影響を及ぼすDNA二本鎖切断に対しては,非相同末端結合(nonhomologous end joining)と相同組換え(homologous recombination)の2つの異なる修復機構が主要な役割を担っている(図3-1-34).非相同末端結合は,リン酸化活性を有するDNA-dependent protein kinase (DNA-PK)が中心となる蛋白質群によってDNA切断部位を直接結合するために,断端の塩基は消失する可能性があり,不正確な修復となることがあるが,どの細胞周期でも働く.この経路に属する分子の遺伝的欠損を有する症候群が複数同定されているが,これらは放射線高感受性,免疫不全を共通の特徴とする.相同組換えは,DNA複製期に生成される姉妹染色分体を鋳型としてRAD51を中心とする分子群による組換え反応によって修復するために,正確な修復が期待できるが,姉妹染色分体が利用できるS期からG2期までに限定される.相同組換えは,DNA架橋修復でも重要な役割を果たすために,放射線以外にもDNA架橋を主たる作用機序とする白金製剤に対する感受性も制御する.RAD51と直接結合するBRCA2も相同組換えにおける重要な役割を担うが,この分子が遺伝性に変異している場合は乳癌や卵巣癌のリスクが増加し,出生時より全身で欠損している場合にはFanconi貧血を発症する.
4)低酸素影響:
腫瘍組織では,腫瘍細胞の異常な増殖と血管形成のバランスが取れないことが多いために,容易に低酸素状態に陥り,このような環境に存在する細胞は放射線抵抗性となる.低酸素環境では,転写因子であるhypoxia-inducible factor 1(HIF1)の活性が上昇し,その転写活性の対象となる遺伝子の発現が変化する.このHIF1が,低酸素環境における放射線抵抗性の発現に重要な役割を果たしている(Dewhirstら,2008).
(4)放射線治療の方法
 放射線治療の適応を決定した後に,治療すべき標的と周辺の正常組織の位置情報をX線CTなどによって取得し,治療計画を策定する.治療方法は外部照射と小線源治療に大別される.
1)外部照射:
コバルト遠隔治療装置からのγ線やライナックなどの高エネルギー加速装置からのX線を体外から照射する方法である.線量は目的によって異なるが,治癒を目的とする場合には,1回1.8〜2 Gyで総線量60〜70 Gyを照射する.固定照射法と運動照射法があり,後者では治療の対象への線量をより集中することができる.定位的放射線治療や強度変調放射線治療では,より腫瘍部位への線量の集中性の高い治療が可能である.これらの放射線に加えて,陽子線や炭素イオン線などの粒子線が治療に用いられることもある.これらの粒子線とX線やγ線では体内における線量分布が大きく異なる.X線やγ線は体表面近くで線量が最大になるのに対して,陽子線や炭素イオン線は体内における飛程の終端近くでエネルギーを急激に放出し,Braggピークとよばれる線量分布を示す.そのために,体内の深い部位に存在する腫瘍に線量を集中することが可能となる.このような放射線治療は,単独で行われる場合と,全身療法である化学療法を同時併用する化学放射線療法として行われる場合とがある.化学放射線療法では白金製剤が使用されることが多いが,放射線治療による局所制御をさらに増強することと遠隔転移の抑制が目的となる.
2)小線源治療:
イリジウム(192Ir),ヨウ素(125I)などの放射性物質を小さな容器に密封した線源を,腫瘍あるいはその近傍に留置する治療である.腫瘍部位に埋め込むことによって組織内照射を行うこと,体腔内に挿入することによって腔内照射を行うこと,直接刺入することが困難な腫瘍をカバーする補綴装置(モールド)を装着して照射を行うことなどによって,外部照射と比べて腫瘍部位に線量を集中することができるために,高い局所制御率が期待できる.
(5)放射線治療の有害事象
 放射線療法の有害事象は,治療中から終了後の短い期間に発現する早期障害と,治療終了後6カ月以降に発現する晩期障害に大別される.
1)早期障害:
放射線治療を開始すると,食欲低下,悪心,嘔吐,全身倦怠感などの全身症状が発現しやすいが,治療の進行とともに軽快する傾向がある.局所症状としては,皮膚,消化管粘膜,造血組織などの放射線感受性が高い組織が照射された場合に,急性炎症と細胞死が原因となるもので,皮膚炎,脱毛,口内炎,食道炎,下痢,白血球減少などがある.
2)晩期障害:
総線量ならびに1回線量が多い場合に,照射部位における局所症状が発現する.基本的な病態として,慢性炎症や広範囲の細胞死が原因となるものでは,肺線維症,白内障,神経障害,直腸障害,皮膚潰瘍などがあり,DNA変異や染色体異常が原因となるものでは,二次癌がある.[宮川 清]
■文献
Begg AC, Stewart FA, et al: Strategies to improve radiotherapy with targeted drugs. Nature Rev Cancer, 11: 239-253, 2011.
Dewhirst MW, Cao Y, et al: Cycling hypoxia and free radicals regulate angiogenesis and radiotherapy response. Nature Rev Cancer, 8: 425-437, 2008.

出典:内科学 第10版
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