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旅行者下痢症【リョコウシャゲリショウ】

デジタル大辞泉

りょこうしゃ‐げりしょう〔リヨカウシヤゲリシヤウ〕【旅行者下痢症】
旅行者が滞在先などで発症する下痢疲労ストレス・慣れない食事などで起こるほか病原性大腸菌サルモネラ菌などによる食中毒の場合がある。

出典:小学館
監修:松村明
編集委員:池上秋彦、金田弘、杉崎一雄、鈴木丹士郎、中嶋尚、林巨樹、飛田良文
編集協力:田中牧郎、曽根脩
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世界大百科事典 第2版

りょこうしゃげりしょう【旅行者下痢症】

出典:株式会社平凡社
Copyright (c) Heibonsha Limited, Publishers, Tokyo. All rights reserved.

内科学 第10版

旅行者下痢症(人の行動と感染症)
定義
 海外旅行者が海外滞在中に起こす下痢の総称.古典的な「旅行者下痢症」の定義は「下痢便(24時間に3回以上)と1つ以上の症状(悪心,嘔吐,腹痛,発熱,下血)がある場合」とされている.しかし症状は軽症から重症まで幅がある.
疫学
 開発途上国を訪れた20~50%が下痢を発症すると考えられている.英国人旅行者での研究では,1469人において26%に旅行者下痢症が認められた(Evansら,2001).旅行者下痢症において最も重要な因子は「旅行地域」である.旅行地域は感染率から大きく3群に分けられる.低リスク(5%)地域は北・中欧州,北米,日本,豪州であり,中リスク(15~20%)地域は南・東欧州,露,中国,イスラエル,カリブ海諸国,南アフリカであり,高リスク(20~60%)地域は中近東・南・東南アジア,アフリカ(北部以外)が相当する.
宿主因子
 宿主の要因も重要である.幼児や15~30歳の若年者が旅行者下痢症になりやすい.機序は不明であるが,血液型O型は赤痢,ノロウイルス,重症コレラとの関連が認められている.また胃酸の低下や制酸薬の使用は腸管感染症(特に胃酸に弱いサルモネラ,カンピロバクター,コレラ,ランブル鞭毛虫)との関連が認められている.
臨床症状
 旅行者下痢症の多くは,旅行地到着の2,3日目から始まり,90%以上は2週間以内に発症する.症状には幅があり,約20%は1,2日の休息が必要となり,40%は旅行計画の変更が必要となり,約1%は入院が必要となる.症状は通常3~5日で改善するが,5~10%は2週間以上持続する.
 症状は大きく3群に分類される.1つは短期間で軽快する水様下痢であり,ほとんど発熱を伴わない群である.1つはより長期化する下痢であり,発熱や血便を伴い,便中には白血球が認められる.1つは30日以上継続する下痢であり全体の1~3%が相当する.原因は原虫や非感染性の下痢である場合が多い.
 下痢症状が重症化すると,脱水症状,電解質異常,腎障害等を合併する.注意すべきはワルファリンや抗痙攣薬など重要な薬剤の吸収も障害されることである.
 一部の消化管侵襲性感染性腸炎(サルモネラ,赤痢,カンピロバクター)では反応性関節炎(Reiter症候群)を合併したり,炎症性腸疾患を悪化させる場合がある.旅行者下痢症の10%に過敏性腸症候群を合併するとの報告もある.
原因微生物
 旅行者下痢症において原因微生物が特定されるのは40~60%であり,その内85%が細菌であるが,その種類は旅行先の地域や季節で異なる(表4-3-5).
 世界的に毒素原性大腸菌(enterotoxigenic Escherichia coli:ETEC)が旅行者下痢症として最も多い原因菌である.ETECはheat-labile toxins(LT)とheat-stable toxins(ST)の片方または両方の毒素を保持しており,両毒素とも消化管内での分泌を刺激し水様下痢の原因となる.特にLTはコレラ毒素と類似した毒素である.大腸菌においてETEC以外の,腸管凝集性大腸菌(enteroaggregative E.coli)や腸管侵入性大腸菌(enteroinvasive E.coli)も旅行者下痢症の原因となりうる.カンピロバクター(Campylobacter jejuni)も世界的に,また特にアジアにおいて,旅行者下痢症の原因菌である.カンピロバクターはときに高い発熱,腹痛,下血を伴い症状の強い腸管感染症を発症する.サルモネラや赤痢も旅行者下痢症の原因に含まれる.特に赤痢は下血を含め強い臨床症状を伴うことが多い.Plesiomonas shigelloidesやアエロモナスもアジアでの旅行者下痢症では多い原因菌である.ノロウイルスやロタウイルスもときに旅行者下痢症の原因になりうる.特にノロウイルス感染症は旅客船などでの集団食中毒の原因となる場合がある.症状から原因菌を推定することは難しいが,カンピロバクターでは便を直接染色検鏡することでらせん状菌を見つけだすことで,推定可能な場合がある. 症状が慢性化した場合には,原虫疾患も考慮する.
検査成績
 通常では便検査は中等症以上の下痢(1日6回以上)で発熱がある場合に便検査の適応があると考えられている.まず便中の白血球が多数存在するか否かを確かめる.多数の白血球は腸管侵襲性の病原菌の存在を意味し,赤痢菌,サルモネラ,カンピロバクター,Clostridium difficile,腸炎エルシニア,Aeromonas hydrophila,腸炎ビブリオ,腸管侵入性大腸菌,腸管出血性大腸菌などがある.特に便中に単核球が多い場合は,腸チフス赤痢アメーバを考えさせる.便中白血球が陽性の場合には,便培養が必要と考えられている.特に旅行者下痢症においては,旅行者下痢症が問題となる地域で薬剤耐性菌が広範囲に出現しているため,積極的な培養による感受性の確認が重要である.
治療
 前述の通り,多くの旅行者下痢症は軽症であり,無治療で自然回復する.そのため現実には抗菌薬の適応/不必要の境界が非常に不明である.Cochraneでのメタ解析では,治療開始後72時間目に下痢が改善している率を比較した場合,抗菌薬を内服した群は84.4%(330/391),プラセボ群は50.3%(154/306)であり,抗菌薬投与群で有効との結果が認められた(de Bruynら,2000).
 治療方針を決める上で旅行者下痢症は3群に分類される.軽症(mild)は24時間での下痢便が2回以下で,ほかに症状がない場合,中等症(moderate)は24時間での下痢便が3~6回で水様性である場合,重症(severe)では24時間での下痢便が7回以上で下血や発熱を伴う場合である.軽症は抗菌薬の適応はない.中等症の場合には下痢以外の症状が乏しければ抗菌薬は使用する必要はない.中等症かつ熱や下血などの症状があれば,抗菌薬の適応となる.重症は抗菌薬が適応と考えられる.抗菌薬としては,キノロン系薬剤が推奨されている.キノロン系薬剤は経口での吸収は良好であり,糞便中に高濃度が維持される.キノロン系薬剤で下痢の期間は3~4日が1.5日以下に改善するとの報告もある.
 腸管感染症の治療を考える上で重要な点が2点ある.1つは,感染症の原因が微生物の増殖なのか,微生物が産生した毒素の作用なのか,という点である.病原性大腸菌の多くは,毒素を産生することで病態を形成している.腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic E.coli)で抗菌薬使用の是非が常に問題になるのは,病態の中心が毒素(ベロ毒素)であるためである.ほかの1つは,下痢という生体反応で消化管内の病原菌はドレナージされているということである.抗菌薬の目的が「病原菌の菌量低下」と考えれば,下痢による病原菌のドレナージも「病原菌の菌量低下」を実行している.そのため抗菌薬治療が中心的ではない場合もある. 
 抗菌薬以外にはロペラミドが止痢薬として有用であり,症状を65%改善するとの報告もあるが,前述の通り,下痢症状は病原菌のドレナージとして非常に重要であり,症状が悪化する時期には使用しないことが多い.
 菌が判明した場合,抗菌薬の適応は菌により異なる(表4-3-6).治療薬は表4-3-7,4-3-8に記載した.ペニシリン系やST合剤は薬剤耐性のため選択されることは少ない.
予防
 予防は,食事と飲水の選択,抗菌薬予防内服などがある.旅行医学の方法では抗菌薬をスタンバイとして持参させ,症状発症時に内服させる場合もある.[立川夏夫]
■文献
Evans MR, Shickle D, et al: Travel illness in British package holiday tourists: prospective cohort study. J Infect, 43: 140-147, 2001.
Diemert DJ: Prevention and self-treatment of traveler’s diarrhea. Clin Microbiol Rev, 19: 583-594, 2006.
de Bruyn G, Hahn S, et al: Antibiotic treatment for travellers’ diarrhoea. Cochrane Database Syst Rev 2000; 3: CD002242.

出典:内科学 第10版
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六訂版 家庭医学大全科

旅行者下痢症
(食中毒)

 旅行者下痢症とは、東南アジアなどの下痢性疾患が蔓延(まんえん)している地域を旅行したあと、さまざまな病原体に感染し下痢症を起こした場合の総称です。主な病原体としては、細菌類では腸管毒素原性大腸菌、コレラ菌、赤痢菌(せきりきん)、ビブリオ、腸・パラチフス菌、サルモネラ、プレジオモナスなどがあり、原虫(げんちゅう)類ではジアルジア、赤痢アメーバ、サイクロスポラなどがあります。

 近年、東南アジアなどの発展途上国への海外旅行者数が増加してきており、加熱されていない生水や食品を飲食したのち、下痢を起こす人が増えています。腸チフス、コレラなどにかかり重症になる場合もあるので、加熱されていないものを食べないように、また殺菌処理されている水を飲むように心がける必要があります。

 水様性の激しい下痢の場合は、殺菌されているミネラルウォーターなどで水分を十分に補給する必要があります。発熱、血便などがある場合には抗菌薬の投与が必要です。とくに小児、高齢者の場合には、単なる下痢だと甘くみないで、医療機関で早期に適切な治療を受けることが大切です。

出典:法研「六訂版 家庭医学大全科」
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