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構造主義【こうぞうしゅぎ】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

構造主義
こうぞうしゅぎ
structuralisme
おもにフランスにおいて,現代科学の多くの分野に共通する思想運動の一般的傾向。人文現象を全体的,有機的な構造との関連でとらえ,かつ模型 (モデル) を援用してこの構造の解明を目指し,歴史的,時間的な経過を記述するよりも,それらの生起を可能ならしめる構造もしくはシステムの分析を重んじた。 20世紀の初め,史的言語学に反対して,F.ソシュールらが提唱し,プラハ学派を介して開発された近代言語学の方法が他の分野にも適用され,民族学では,C.レビ=ストロース未開社会の親族構造の研究,神話学では同じく彼による神話の研究,精神分析の面では,J.ラカン業績哲学における L.アルチュセールのマルクス主義研究,M.フーコー近代思想の文化的基層の分析,R.バルトのシステムの解明など多くの成果をあげ,1960年代の主要思潮の一つとなった。

出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
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知恵蔵

構造主義
戦後主にフランスで展開された20世紀を代表する思想の1つ。文化人類学者のレヴィ=ストロースを創始者とする。社会と文化の根底にあり、それを営む当人たちにも明確に自覚されていない構造を取り出す分析方法が構造主義である。レヴィ=ストロースは、近親相姦の禁止の背後には、女性の交換という構造が存在していることを明らかにした。女性は近親の男性と結婚することが許されず、他のグループの男性と結婚しなくてはならない。このことによって、グループ相互の女性の交換を通じたコミュニケーションが成立し、社会的なつながりが維持されるのである。こうしたレヴィ=ストロースの分析は、私たちの自覚的な意識や主体性に、いわば、無意識の秩序が先行していることを示している。この主張は、サルトルやヨーロッパ近代哲学が重視した主観や意識を批判する思想運動につながっていく。またレヴィ=ストロースは、『野生の思考』(1962年)で、それまで未開とされていた文化のなかにも緻密で秩序立った思考が存在することを示す。この意味で、彼の仕事はヨーロッパ文化の絶対性(ヨーロッパ中心主義)を批判する文化相対主義にも大きな影響を与えた。ただし、レヴィ=ストロース自身は、近親相姦の禁止のように、どのような文化にも共通する構造が存在することを認めており、たんなる相対主義者ではなく、普遍的な人間性を探求する意思をもっている。
(石川伸晃 京都精華大学講師 / 2007年)

出典:(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」

デジタル大辞泉

こうぞう‐しゅぎ〔コウザウ‐〕【構造主義】
《〈フランス〉structuralisme》人間の社会的、文化的諸事象を可能ならしめている基底的な構造を研究しようとする立場。ソシュール以降の言語学理論背景に、レビ=ストロースの人類学でこの方法が用いられて以来、哲学や精神分析など、主として人文・社会科学の領域で展開されている。

出典:小学館
監修:松村明
編集委員:池上秋彦、金田弘、杉崎一雄、鈴木丹士郎、中嶋尚、林巨樹、飛田良文
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世界大百科事典 第2版

こうぞうしゅぎ【構造主義 structuralisme[フランス]】
1960年代以降フランスで生まれた現代思想の一潮流。フランスの人類学者レビ・ストロースは,ソシュールに始まり,イェルムスレウらのコペンハーゲン学派やヤコブソンらのプラハ言語学派において展開された構造言語学や,数学,情報理論などに学びつつ,未開社会の親族組織や神話の研究に〈構造論〉的方法を導入して,構造人類学を唱えた。やがて1962年に公刊した《野生の思考》は,これまで非合理的なものとされていた未開人の〈神話的思考〉が,決して近代西欧の〈科学的思考〉に劣るものではなく,象徴性の強い〈感性的表現による世界の組織化と活用〉にもとづく〈具体の科学〉であり,〈効率を高めるために栽培種化された思考とは異なる野生の思考〉であることを明らかにして,近代西欧の理性中心主義のものの見方に根底的な批判を加えた。

出典:株式会社平凡社
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大辞林 第三版

こうぞうしゅぎ【構造主義】
実存主義流行の後にあらわれた現代の思潮。ソシュールの言語理論の影響のもとで諸現象を記号の体系としてとらえ、規則・関係などの構造分析を重視する。言語学や人類学のほか、心理学・精神医学・数学などの諸分野に広く、多様に展開される。

出典:三省堂
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日本大百科全書(ニッポニカ)

構造主義
こうぞうしゅぎ
structuralism英語
structuralismeフランス語
Strukturalismusドイツ語
1960年代、フランスを中心に現れた、諸科学における新しい考え方の総称。その範囲は広く哲学、文学、精神分析学、経済学、民族学、生物学、数学などにわたっている。[足立和浩]

特徴と源泉

この考え方の特徴は、可変的な表層的諸現象の背後に隠された深層的で不変な「構造」を探究するというところにある。これには19世紀以来の歴史主義(連続的、進歩主義的な歴史観)と人間中心主義(デカルト的な実体的アトムとしての人間観)とに対するアンチ・テーゼという意味がある。とくにフランスでは、サルトルの『弁証法的理性批判』という歴史主義(ヘーゲル‐マルクス主義)と人間主義(デカルト‐フッサール主義)との統合を企てた記念碑的な著作があり、これをいかに乗り越えるかが後の世代の喫緊の課題となっていた。
 構造主義の源はソシュールの言語学である。彼は通時的な比較言語学に共時的な構造言語学を対置し、ラングlangue(言語)の構造分析に専念した。とくにシニフィアンsignifiant(聴覚イメージ)/シニフィエsignifi(概念)という一組の概念は諸科学の構造主義的な考え方に大きな影響を及ぼした(むしろ、いささか濫用されたきらいさえある)。[足立和浩]

構造主義の思想家たち

フランスの構造主義を代表する思想家はレビ・ストロース、ジャック・ラカン、ルイ・アルチュセール、ミシェル・フーコーなどであり、さらに周辺にはロラン・バルト、ジャック・デリダらがいる。
 レビ・ストロースは、ソシュールの記号論的方法を民族学に適用し、未開社会における女性の交換という複雑で難解な現象に着目して、「交差いとこ婚」の深層構造を分析した。この構造は厳密な数学的モデルとして理論化され、多様な現象の背後に隠された無意識的な構造とみなされている。また彼はトーテミズム、儀礼、神話などの象徴体系をも解明し、文明人の思考に対する「野生の思考」の基底構造性を強調している。
 精神分析学のラカンは、サルトルらの実存主義が盛んであったころから、超然と独自の理論を展開している。精神分析医としての立場を通じてフロイト理論をさらに深化しようとするラカンは、治療を受けにくる患者の無意識が言語のように構造化されていることに着目し、無意識の構造分析を可能にするための「統辞論的な意味の移動」や「意味論的な凝縮」の諸例を提示している。また、治療が成功するためには医者と患者との(デカルト的な)実体的主体が解体されねばならぬ、という彼の主張もきわめて重要である。
 アルチュセールは、ソシュール的方法をマルクス学のなかに導入し、マルクスの思想をヘーゲル的弁証法や主観主義などから解放することを企てる。具体的には、上部構造/下部構造、生産力/生産関係といったマルクスの操作的、構造的な諸概念が実体化されていることを批判し、もろもろの構造は「多元的決定」としてダイナミックに把握されねばならぬことを主張している。
 フーコーは、哲学の対象から「人間」を除外し、もっぱら「言語」にのみ関心を向ける。人間なきあとには知(エピステーメー)のみが残り、その構造分析が哲学の課題となる。各時代にはそれぞれの知の型があるが、それら相互には連続的変化はなく、ただ非連続と断絶による変形のみが存在する。絶えず進歩する人間というイメージと結び付いた直線的で連続的な歴史を拒否することが問題なのである。また後年の権力の分析、さらに性の問題の分析にも、きわめて興味深いものがある。[足立和浩]
『サルトル、パンゴー他著、平井啓之訳『サルトルと構造主義』(1968・竹内書店) ▽泉靖一編著『構造主義の世界』(1969・大光社) ▽エドマンド・リーチ著、吉田禎吾訳『レヴィ=ストロース』(1971・新潮社)』

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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精選版 日本国語大辞典

こうぞう‐しゅぎ コウザウ‥【構造主義】
〘名〙 (structuralisme の訳語) 民族学、社会学、言語学、心理学、生物学、哲学の用語。一九四〇年代からフランスの人類学者レビ=ストロースによって民族学の理論として提唱された。たとえば、未開社会の近親婚タブーや交差いとこ婚の婚姻関係について、それを存続させるために働く潜在的な相互依存の機能的連関を構造としてとらえ、その構造を明らかにしようとするもので、二〇世紀後半の新しい潮流を形作った。

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最新 心理学事典

こうぞうしゅぎ
構造主義
structuralism
一般的には,歴史主義や文化相対主義に対立する思想的立場をいい,歴史的・一回性的・機会的要因よりも共時的・普遍的・法則的要因を重視する学説やその方法を総称する。構造主義は言語学の開祖ソシュールSaussure,F.の構想に由来する。ソシュールは言語の法則性を求める共時言語学と歴史的変遷を主題とする通時言語学とを分け,そこからそれぞれの対象として普遍的法則の体系としてのラングlangueと個人的言語行為としてのパロールparoleとを区別した。この発想は,言語の普遍的位相と特殊的位相との二つの次元を区別し,前者を重視する構造言語学派を生んだ。ジャコブソンJakobson,R.は,ソシュールが記号の意味は単独では決定されず他の記号との対立関係によって規定されるとする説を受けて,すべての個別言語の駆使する音素は,有声性対無声性などほぼ13対の示差的特性(弁別素性)の組み合わせによって生成されるという普遍的構造を見いだし,アメリカを中心に構造言語学structural linguisticsの隆盛を導いた。現象を規定する抽象的法則性の発見は,記号学という新しい領域を開く契機にもなった。

 しかし,構造主義の名をことさら高めたのは,フランスの文化人類学者レビ・ストロースLevi-Strauss,C.の業績にある。彼は,親族組織,神話,未開の思考などを対象にしたが,たとえば神話の研究に構造言語学の音素分析の手法を援用し,神話の要素間の対立関係などを手がかりにして隠された意味の解読に努めた。その方法には,三つの特徴があるといわれる。第1は関係論的視点であり,文化現象の個々の要素ではなく要素間の関係,たとえば対立を重視する。第2の特徴の全体論は,各要素は相互関係の中で初めて意味が定まり,関係的全体こそ一次的とする。第3は層位論的視点を取り,直接知覚できる表層の現象はその底に潜む深層の意味構造に対応させなければ真の理解は不可能とする。このような視点と方法を取る文化人類学は構造人類学structural anthropologyとよばれ,1960年代から周辺諸学にも大きな影響を与えてきた。

 心理学においても構造主義に立つ学派は,早くから存在した。代表はゲシュタルト心理学Gestalt psychologyとピアジェPiaget,J.の認知発達説である。前者は,それまでの感覚要素の強調に反対して,ゲシュタルトGestaltという全体構造の部分規定性を主張し,さらに近接・類同などの潜在する構造化原理(ゲシュタルト要因)が力動的均衡を要請し(簡潔性の原理),表層現象を形成するとした。その主張の新奇性から,構造主義はゲシュタルト心理学の別名とされた時期もあった。ピアジェはやや遅れて,⑴諸要素が不可分なまとまりを構成するという全体性,⑵構造中の要素を変えても変換システムによる結合関係の本質は変わらないという変換性,⑶自動調節機構による系としての本質と閉鎖性を維持する自己制御の三つの特性を構造structureとよび,群性体や束-群のような論理数学的構造が児童の思考様式という表層を規定するとした。

 構造主義は,その普遍性と秩序志向の偏りを指摘され脱構築のような批判を招くに至った。ピアジェ説の重点も構成主義の側面に移行した。しかし,Gestaltは現在心理学の基礎語彙の一つになっている。チョムスキーChomsky,N.は構造言語学のデータ偏重や行動主義的言語観を退けたが,その生成文法論は深層から表層構造への生成過程を主題とし,構造主義の正負両面の影響を示している。レビ・ストロースは,天地,東西,男女などの二項対立は人類の普遍的心性に根ざすとした。これら諸相には,構造主義が今も心理学に投げかける重い問題が提示されている。 →ゲシュタルト心理学 →言語心理学 →構成主義 →発生的認識論
〔藤永 保〕

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