●治安出動【ちあんしゅつどう】

一般の警察力をもっては，治安を維持することができないと認められる非常の場合に，自衛隊が出動することをいい (自衛隊法) ，内閣総理大臣の命令によるものと都道府県知事の要請によるものとがある。すなわち，内閣総理大臣は間接侵略その他の緊急事態に際して，一般の警察力をもってしては治安維持ができないと認める場合には，自衛隊の全部または一部の出動を命じることができ，出動を命じた場合には一定期間内に国会による事後承認を要するものとされる。また，都道府県知事は治安維持上重大な事態につきやむをえない必要があると認める場合には，当該都道府県公安委員会と協議のうえ，内閣総理大臣に対し部隊などの出動を要請でき，内閣総理大臣は事態やむをえないと認める場合には出動を命じることができるものとされている。

警察の力では治安を維持できない緊急事態に対応する自衛隊の出動。内閣総理大臣の命令による出動と、都道府県知事の要請を認めて内閣総理大臣が命ずる出動とがある。→防衛出動

治安維持を目的として自衛隊が出動すること。「命令による治安出動」と「要請による治安出動」とがある。前者は、間接侵略その他の緊急事態に際して一般の警察力をもっては治安を維持することができない場合に、内閣総理大臣の命令によって自衛隊が出動することをいい（自衛隊法78条）、後者は、都道府県知事が治安維持上重大な事態でやむをえない必要があると認める場合に、都道府県知事の要請に基づいて内閣総理大臣が自衛隊の出動を命ずることをいう（同法81条）。前者では国会の事後承認が、後者では都道府県議会への報告が必要とされている。治安出動時の自衛隊には、警察官職務執行法が準用されるほかに、警護または鎮圧のために特別の武器使用が認められている（自衛隊法89条・90条）。国民に銃口を向けるものと批判されてきたゆえんであるが、60年安保闘争の際には、治安出動の直前までいって見送られたという経緯がある。また、1969年（昭和44）には治安出動訓練が公然と行われ、それに反対する自衛官が自衛隊法違反で起訴されるという事件も起きた。ただ、治安出動が実際に発令された事例は2009年時点ではない。

［山内敏弘］