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炭酸同化【たんさんどうか】

世界大百科事典 第2版

たんさんどうか【炭酸同化】

出典:株式会社平凡社
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日本大百科全書(ニッポニカ)

炭酸同化
たんさんどうか
炭素同化炭酸固定ともいう。広い意味では炭酸暗固定も含めるが、一般には外部の二酸化炭素を生体が同化して有機化合物を合成する過程をいう。独立栄養生物の行う光合成化学合成が炭酸同化であり、ともに、同化に必要なエネルギーを、光エネルギー、あるいは無機物の酸化の際に放出されるエネルギーから得て有機化合物の合成を行っている。なお、炭酸暗固定とは、光エネルギーや無機物の酸化エネルギーを用いないで行う炭酸固定のことである。
 緑色植物の行う炭酸同化の場合は、光合成色素を通じて捕捉(ほそく)された光のエネルギーが、明反応によってNADPH(還元型NADP=ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)とATP(アデノシン三リン酸)の化学エネルギーに変えられ、このエネルギーが炭酸同化を進めていく。普通の温帯に生育するC3植物(還元型ペントースリン酸回路によって初期の炭酸同化を行う植物)では光合成の初期同化産物は炭素数3の糖リン酸であるが、その生成の過程には、葉緑体のストロマ(葉緑体の中でタンパク質と脂質とでできた扁平(へんぺい)な袋状構造のチラコイドを囲んでいる無色の基質)の部分に存在するリブロースビスリン酸カルボキシラーゼという酵素が関与している。つまり、二酸化炭素は、この酵素によってリブロースリン酸と反応して2分子のホスホグリセリン酸となり、これが還元型ペントースリン酸回路(カルビン‐ベンソン回路)で代謝されて糖リン酸が生成する。この経路は緑色植物一般に共通の炭酸同化経路であるが、一部の植物では、生態的適応によって炭酸同化の機構が異なっている。
 熱帯・亜熱帯原産のイネ科植物で代表されるサトウキビやトウモロコシなどのC4植物(C4ジカルボン酸回路によって初期の炭酸同化を行う植物)では、光合成の初期の炭酸同化産物はリンゴ酸、アスパラギン酸などの炭素4個の物質である。これらの植物では、葉肉細胞の葉緑体と維管束鞘(しょう)細胞の葉緑体に機能が分化しており、気孔から入った二酸化炭素は、まず葉肉細胞の葉緑体の中にあるホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼという酵素によって、ホスホエノールピルビン酸と結合してオキザロ酢酸となり、これからリンゴ酸やアスパラギン酸が生成される。この経路をC4ジカルボン酸経路という。これらC4の有機酸が維管束鞘細胞に運ばれると、ここで脱炭酸され、その際に二酸化炭素が遊離する。この二酸化炭素は、維管束鞘細胞の葉緑体中にある還元型ペントースリン酸回路の酵素によってふたたび炭酸同化され、新たに糖リン酸が合成される。このような二段階の炭酸同化を行うことができるのは、葉肉細胞のホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼが、きわめて低濃度の二酸化炭素も捕捉できるためである。C4植物が熱帯地方のような低い二酸化炭素濃度の環境のもとでも炭酸同化を行えるのは、こうした経路があるためと考えられている。C4植物の二酸化炭素の補償点は、C3植物が30~50ppmであるのに対し、5ppm以下である。
 サボテン科やベンケイソウ科の植物のように、乾燥地帯に生育する多肉植物は、夜間に葉の中にリンゴ酸を大量に蓄積するが、日中にはリンゴ酸はまったく消失する。こうした多肉植物にみられる昼夜の有機酸の変動をベンケイソウ型有機酸代謝(CAM(キャム))といい、この代謝を行う植物をCAM植物とよぶ。CAM植物もまたC4植物と類似の炭酸同化機構をもっている。CAM植物は乾燥地に生育するため、日中は水分の損失を防ぐために気孔を閉じ、夜間になると気孔が開く。したがって、光合成を行う日中には、気孔から二酸化炭素が入らないことになる。このためCAM植物は、夜間、気孔の開いているときに吸収した二酸化炭素を、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼによって炭酸同化を行い、リンゴ酸に変えて葉肉細胞の液胞内に蓄えておく。日中になると、リンゴ酸は液胞から移動して脱炭酸され、ここで放出された二酸化炭素が、ふたたび還元型ペントースリン酸回路によって炭酸同化されて糖リン酸となる。
 光合成細菌(細菌型光合成を行う)や化学合成菌(無機物の酸化エネルギーを利用して炭酸固定を行う)は、基本的に還元型ペントースリン酸回路によって炭酸同化を行うが、光合成細菌の一部には、クエン酸回路を逆行するような還元型カルボン酸回路によるものもある。
 なお、動物細胞での尿素生成の初期反応やカルボキシル化による有機化合物の炭素数増加にかかわる二酸化炭素導入の反応は、普通、炭酸同化には含めない。[吉田精一・南川隆雄]
『大島康行ほか著『新版 図説生物学』(1988・朝倉書店) ▽増田芳雄編著『絵とき植物生理学入門』(1988・オーム社) ▽高辻正基編著『地球を救うバイオテクノロジー』(1991・オーム社) ▽鈴木米三ほか著『生命科学の基礎』(1992・理工学社) ▽秀潤社編・刊『環境問題と植物バイオテクノロジー――環境ストレス耐性機構と植物改変』(1994) ▽食品産業クリーンエコシステム技術研究組合編『食品産業のための微生物利用水処理技術』(1995・恒星社厚生閣) ▽有坂文雄著『スタンダード 生化学』(1996・裳華房) ▽山田康之編著『シリーズ分子生物学5 植物分子生物学』(1997・朝倉書店) ▽宮地重遠・大森正之編『植物生理工学』(1998・丸善) ▽横田明穂著『植物分子生理学入門』(1999・学会出版センター) ▽山谷知行編『朝倉植物生理学講座2 代謝』(2000・朝倉書店) ▽佐藤公行編『朝倉植物生理学講座3 光合成』(2002・朝倉書店)』

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