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現代資本主義【げんだいしほんしゅぎ】

世界大百科事典 第2版

げんだいしほんしゅぎ【現代資本主義】

出典:株式会社平凡社
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日本大百科全書(ニッポニカ)

現代資本主義
げんだいしほんしゅぎ
英語でいえば、contemporary capitalismであり、「いまの、同時代の」資本主義という意味。その意味では、いつの時代の資本主義でも、その時代の人にとっては「現代資本主義」だということになる。いま生きている私たちにとっては、「私たちと同時代の」、したがって「私たちにとっての現代の」資本主義のことである。と同時に、従来の資本主義と比べて多くの点で変化をきたし、新しい特質をもつに至った資本主義という意味が含まれている。
 したがって、どの時期以降を現代資本主義とよぶかは、そうした変化や新しい特質のとらえ方によって違ってくるが、普通は、第二次世界大戦終結以降、それも戦後期の混乱がほぼ収まった1950年代なかば以降の資本主義をいう。最近では、国際通貨制度における固定相場制の崩壊(1971)と第一次石油ショック(1973)以降の資本主義を、新たな現代資本主義として位置づける考え方もある。[岸本重陳・植村博恭]

現代資本主義論争

第二次世界大戦に突入するまでの資本主義世界は、「1930年代の大不況」にあえいでいた。大戦が終結したあと、今後の資本主義世界の動向がどうなるかについて、さまざまな予測がなされてきたが、10年を経て1950年代の後半になると、そうした予測の当否を現実の経過に照らして点検しようとする試みが、さまざまな立場から始まった。それらの論議を総称して、「現代資本主義論争」とよぶことができる。
 そうした試みとしてとくに重要な役割を果たしたのは、都留重人(つるしげと)「資本主義は変ったか」(『世界』1958年1、2月号)だった。それは、都留の事実認識を示しつつ、検討されるべき問題点を整理して提起した。たとえば、その第一点として、「アメリカ経済が過去20年間にもわたり、一度も不況らしい不況を経験することなくかなり高い率で成長しつづけてきたと判断」を示したうえで、「資本主義は1929~1933年にみられたごとき深刻な不況から免疫となるほど十分な発展をとげたであろうか」という問題を提起する。それらの設問は、世界的に著名な幾人かの経済学者に送られ、彼らの回答や見解は、都留編著『現代資本主義の再検討』(1959)としてまとめられ、論争の深化と拡大に大きく寄与した。
 マルクス経済学者の場合には、当初は、1950年代の資本主義を大戦前のそれと区別すべき「現代資本主義」としてとらえるということは、その教条の呪縛(じゅばく)のせいでかなり困難だったが、スターリンの死後に始まった「スターリン批判」でその呪縛が緩んでいくなかで、ソ連ではバルガ、東ドイツではツィーシャンク、日本では名和(なわ)統一、井汲(いくみ)卓一、長洲一二(ながすかずじ)を代表とする「現代資本主義論者」が旺盛(おうせい)に理論展開をしていった。これに対抗するものとして、日本では、伝統的マルクス主義者の立場の山本二三丸らからの批判や、宇野学派の大内力(つとむ)の主張があった。
 近代経済学者の場合は、これとは対照的に、1960年代の終わりごろまでは、現代資本主義がかつての資本主義と面目を異にするという認識は自明のものであって、そのほとんどの者が、資本主義の「旧三悪」、すなわち貧困・失業・不況は確実に解消されつつあると考えた。当初における例外は、景気循環は死んでいないとする篠原三代平(しのはらみよへい)、公害を重視する都留重人、インフレーションの解明に努めた伊東光晴(みつはる)、巨大企業の投資様式や多国籍企業と南北問題の分析に成果をあげた宮崎義一(よしかず)らであった。しかし、環境問題の深刻化とともに市場メカニズムの限界についての省察をもとに、稲田献一、宇沢弘文(ひろふみ)らも厳しく批判的な現代資本主義論を展開していった。ただ、全体としてみれば、近代経済学の場合は「資本主義」という経済体制把握をかならずしも承認していないので(かわりに「自由主義経済」という言い方をすることが多い)、「現代資本主義」という用語を使わないことが多い。
 こうしたなかで、マルクス経済学、近代経済学、それぞれの内部における研究の発展はもちろんとして、現代の資本主義という共通の対象に関する両者の垣根を越えた幅広い討論こそが、今後いっそう望まれるのである。[岸本重陳・植村博恭]

現代資本主義についての論点

失業・貧困・不況を資本主義の「旧三悪」とみなすとすれば、今日の資本主義、つまり私たちにとっての現代資本主義が、それらをなお解決しえていないことは、現在、だれの目にも明白になっているといってよいだろう。その例外として、1960年代「高度成長」期以降の日本があるようにみられた時期もあった。とくに、1970年代、1980年代の日本では、「一億総中流」の幻想が強く、また日本経済のパフォーマンスは世界一良好であるとの見方があったことにも根拠がなかったわけではない。しかし、日本だけが例外でありうるわけではなかったことも明らかである。当初、「現代資本主義論者」の多くは、1960年代には、「旧三悪」の解消を承認するかわりに、「新三悪」というべき、インフレーション・公害・疎外の存在を主張した。しかし、1950年代、1960年代の戦後資本主義の「黄金時代」のあと、1970年代から1980年代にかけて先進資本主義諸国ではインフレーションと不況が併存するスタグフレーションが深刻化し、「旧三悪」もまた依然として未解決であることが判明した。その後90年代においては、経済のグローバリゼーションが進むなかで、先進資本主義諸国は多様な制度変化の圧力にさらされている。
 だが先進諸国の場合、それらの問題がかならずしも資本主義体制への強い不満を惹起(じゃっき)することにはなっていない。それは、現代資本主義の大きな特徴である。その原因としては、現代資本主義の構造的諸条件が一定の成果を達成してきたことが指摘できる。技術革新の推進によって新たな生産力基盤をつくり、経済成長を推進してきたこと、労働運動、消費者運動、市民運動などの対抗力の要求をフィードバックする柔軟さを身につけたこと、景気や産業構造の変化に対応するための政策手法をもつようになったこと、国際通貨基金(IMF)など国際的な調整機構を維持してきたこと、などである。[岸本重陳・植村博恭]

グローバリゼーションと資本主義の多様性

さらに、1990年代以降、経済のグローバリゼーションが大きく進展している点は、現代資本主義の新しい大きな変化であるといえる。とくに、巨大多国籍企業の国際的事業展開や国際的金融取引の急速な拡大は、国民経済の枠を揺るがしている。こうしたなかで、現在注目されているのが、「資本主義の多様性」である。経済のグローバリゼーションは、たしかに市場原理の力を強めるように作用しているが、それは各国に対して一律に影響を与えているものではない。雇用制度や社会保障制度など各国の諸制度と政府の経済政策のあり方によって、相違が生じているのである。市場原理が強く作用しているアングロ・サクソン型資本主義だけではなく、社会保障制度の充実した北欧型資本主義、現在東アジア諸国との相互依存関係の深まりのなかで変化しつつある日本型資本主義など、現代資本主義にもさまざまなタイプが存在している。また、その違いによって、社会経済的格差の発生の仕方や政策的対応も異なっている。このような状況のなかで、現代資本主義の全体像を描くことは、今なお大きな課題といえよう。[岸本重陳・植村博恭]
『都留重人編著『現代資本主義の再検討』(1959・岩波書店) ▽長洲一二著『現代マルクス主義論』(1959・弘文堂) ▽山本二三丸著『現代資本主義の経済法則』(1962・青木書店) ▽大内力著『国家独占資本主義』(1970・東京大学出版会) ▽岸本重陳著『“中流”の幻想』(1978・講談社) ▽置塩信雄著『現代資本主義分析の課題』(1980・岩波書店) ▽S・マーグリン、J・ショアー編著、磯谷明徳・植村博恭・海老塚明監訳『資本主義の黄金時代』(1993・東洋経済新報社) ▽村上和光・半田正樹・平本厚編著『転換する資本主義――現状と構想』(2006・御茶の水書房) ▽山田鋭夫・宇仁宏幸・鍋島直樹編『現代資本主義への新視角――多様性と構造変化の分析』(2007・昭和堂) ▽宮崎義一著『現代の資本主義』(岩波新書)』

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