●甘え【アマエ】
デジタル大辞泉
あまえ【甘え】
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世界大百科事典 第2版
あまえ【甘え】
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日本大百科全書(ニッポニカ)
甘え
あまえ
対人関係で特別な、節度を超えた愛情や信頼を表現することをいう。愛情や信頼を示すことによって、相手からそれ以上のものを求めようとする態度のことも甘えといわれる。また、相手から圧力を受け、屈服を強いられるとき、その圧力を弱める手段としても使われ、道徳的な価値判断を超えて、許しを請う手段ともされる。
甘えの起源は、乳児が、母親と自分は別の存在であり、母親は自分から離れていくという体験をするため、母親との一体感を求めようとする感情にさかのぼる。そして母親に対する甘えの始まりとともに、他者に対する人見知りが始まるのである。一般には、甘えられる関係と、甘えることのできない関係とが区別される。前者を典型的に示しているものは親子の関係であり、後者は他人の間の関係である。他人の間の関係でも、親密さが増すにつれて、親子のような関係に近づくものであり、それは望ましい関係のように考えられている。第三者のいない2人の関係では甘えが通用するが、3人の関係になり、第三者の立場にたつ人がいるときには、甘えは通用しなくなる。親子の関係であっても、父、母、子という3人の関係においては、社会的道徳の価値判断が優先し、甘えることはできなくなる。この意味からいえば、甘えられる関係は、閉じられた2人の関係であり、そこには性愛的な色彩がある。男女間の関係でみられる甘えは、第三者を排除しようとするものにほかならない。
甘えられる親密な関係が望ましいものであるという考え方のなかには、反社会的性向を認めることができる。第三者からの批判を拒否し、閉じられた二者関係を社会の基本単位とみなすところがあるからである。
甘えということばは、土居健郎(どいたけお)(1920―2009)の『「甘え」の構造』(1971)以来、一種の流行語ともなり、日本人の性格が問題として取り上げられるとき、甘えは、しばしば日本人に固有な心理的特性とみなされるようになった。彼によると、日本語の「甘え」に対応する適切な外国語はなく、甘えは外国の文化ではみられない日本的特徴であるという。つまり、日本人の対人関係は、親子関係のように甘えられる関係から、甘えることのできない他人の関係に至る段階が想定され、甘えられる親子の関係が理想的な関係とみなされる。そこで、甘えられない他人の関係においては、甘えようとして甘えられないことから、恨み、ひがみ、すねるといったような感情がおきてくる。これは、個人の自我が心理的に確立していないからである。土居によれば、甘えの欲求が自我によって統制されるにしたがって「自分」という意識が形成される。自我は甘えを否定するのではなく、甘えの挫折(ざせつ)による孤独感に耐えることを通して形成される。甘えをこのように構造化することで信頼関係が生まれる。また、日本的思惟(しい)の特徴は、西洋的思惟に比較して、非論理的、直感的であり、これは日本で甘えの心理が支配的であることと無関係ではなく、もっぱら情緒的に自他一致の状態を醸し出すという甘えの心理は、まさしく非論理的といわねばならない、とも考えられている。こうした考え方からいえば、一心同体であろうと願うことが、日本人の対人関係を規定する重要な因子であることになる。甘えと精神分析の概念の関係については、ハンガリー出身のイギリスの精神分析家マイケル・バリントMichael Balint(1896―1970)の受身的対象愛、イギリスの精神分析家ドナルド・ウィニコットDonald Winnicott(1896―1971)の「だっこ」、ウィーン生まれのアメリカの精神分析家ハインツ・コフートHeinz Kohut(1913―1981)の自己対象、また対極としてのメラニー・クラインの羨望(せんぼう)などの概念との関係が検討されている。
[外林大作・川幡政道]
『土居健郎著『「甘え」の構造』(1971・弘文堂)』▽『土居健郎著『続「甘え」の構造』(2001・弘文堂)』▽『土居健郎・斎藤孝著『「甘え」と日本人』(2004・朝日出版社)』
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