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睡眠【すいみん】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

睡眠
すいみん
sleep
覚醒 (目ざめ) に対していう生理現象で,周囲の刺激に対する反応の低下を伴い,意識はないが,容易に覚醒できる自然な状態をいう。動物には夜間に活動し,昼間に睡眠をとるものも多いが,ヒトは普通,夜間に睡眠をとる。健康な成人は一晩に6時間から9時間 (平均 7.5時間) の睡眠を必要とする。新生児では断続的に1日 16時間,2歳児になると9~12時間になる。乳幼児期の正常な成長の過程では,短時間の睡眠をたくさんとるというパターンから,一度にまとまった睡眠をとるパターンへと移行する。しかし高齢になると,幼児期の睡眠パターンに逆戻りするかのように,昼間に何度も居眠りをして夜間は数時間しか眠らなくなる。
睡眠中は種々の精神・身体機能の変動が起る。随意運動の消失,眼瞼閉鎖,筋緊張および反射機能の低下,脈拍・呼吸数の減少,血圧や体温の低下,消化・排泄機能の低下,物質代謝減退 (→物質交代 ) などが認められる。また脳波の周波数や振幅が特徴的な周期的変化を示す。穏やかに覚醒しているときの脳波はα波を示しているが,眠りが深くなるに従い,より周波数の遅い脳波 (徐波) が現れる。脳波の変化は約 90分間で第1段階から第4段階へ進み,第4段階が最も深く,静かで,回復力のある眠りとされる。そして再び第1段階に戻ると,急速眼球運動 rapid eye movementを伴うレム (REM) 睡眠と呼ばれる状態に入り,これが 10~30分間続く。レム睡眠以外の第1~第4段階はノンレム睡眠といい,通常の睡眠ではノンレム睡眠とレム睡眠を4回程度繰り返す。レム睡眠は 1953年にアサリンスキー Eugene Aserinskyとクレイツマン Nathaniel Kleitmanによって記述され,睡眠研究に革命を起した。レム睡眠の特徴は,覚醒時とよく似た生理的活動を示すことで,血液と酸素が大量に脳へ流れ,筋緊張が完全に消失して痙攣や体の動きも頻発する。レム睡眠中はをみており,夢の中の人物や物を眼で追うために眼球が動くことが確かめられている。一晩におけるレム睡眠の時間は周期を重ねるごとに長くなる傾向にある。新生児では睡眠時間全体の約 50%をレム睡眠が占めているが,成人になると約 20%まで減少する。長期間にわたる睡眠不足の直後では,レム睡眠と第4段階のノンレム睡眠が増加することが知られている。動物ではっきりしたレム睡眠が認められるものは哺乳類鳥類である。
睡眠の量とリズムに異常をきたすことを睡眠障害と呼ぶ。おもな症状に睡眠時間が減少する不眠症,睡眠時間 (回数) の増加する過眠症,睡眠のリズムが狂う時差ボケなどがある。不眠症は入眠障害,熟眠障害,早朝覚醒の3つの型に分類される。原因は環境性,身体性,精神病性など幅広く考えられ,治療もそれに従って薬物投与や精神療法が選ばれる。過眠症の一種であるナルコレプシーでは,昼間の無気力や長時間睡眠,突発性の睡眠発作,入眠時の幻覚などが起る。原因は不明で,ウイルス性の脳炎や頭部の外傷による後遺症で起ることもあるが,遺伝性と考えられるものもある。また,夢遊夜尿症なども睡眠障害に含めることがある。ヒトが何日も睡眠をとらずにいると,疲労し,記憶を喪失し,怒りっぽくなるが,それによって精神病が引起されたり,心理的・生理的ダメージが続くことはない。睡眠の生理的意味は,まだ十分に解明されていない。行動心理学者や神経生理学者たちによって,睡眠と覚醒を司る脳と中枢神経系の役割,睡眠の機能,睡眠は活動状態であるのか休止状態なのか,といった研究が進められている状況である。こうしたなかでノンレム睡眠は「体の回復」,レム睡眠は「脳の回復」の状態であるとする仮説がだされている。また,ストレスによって睡眠の要求が妨害されることはよく知られているが,その状況が長く続くと,逆に十分に睡眠をとっても睡眠要求が増加することが指摘されており,ストレスと睡眠の関係も注目されている。

出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
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デジタル大辞泉

すい‐みん【睡眠】
ねむること。ねむり。周期的に繰り返す、意識を喪失する生理的な状態。「睡眠をとる」「睡眠が足りる」「睡眠不足」
活動を休止していること。「睡眠状態」
[補説]書名別項→睡眠

出典:小学館
監修:松村明
編集委員:池上秋彦、金田弘、杉崎一雄、鈴木丹士郎、中嶋尚、林巨樹、飛田良文
編集協力:田中牧郎、曽根脩
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すいみん【睡眠】[書名]
詩人・仏文学者の青柳瑞穂の処女詩集。昭和6年(1931)刊行

出典:小学館
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世界大百科事典 第2版

すいみん【睡眠 sleep】
動物において,体の動きが静止していて外来刺激に対する反応が低下している状態で,繰り返して起こり,容易に覚醒しうる状態と定義される。この行動状態は一定の脳波変化を伴う(図1)。また繰り返して起こり,容易に覚醒する点で昏睡などとは異なる。
[睡眠の構造
 一晩の睡眠は覚醒から深い睡眠に入り再び覚醒にもどるという単純なものではない。現在,睡眠は多くの要因が複合した状態とみなされ,研究上,睡眠構造として睡眠要素(睡眠段階睡眠周期)と,それらの相互関係を記載することになっている(図2)。

出典:株式会社平凡社
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大辞林 第三版

すいみん【睡眠】
ねむること。ねむり。周期的に生じ、感覚や反射機能その他種々の生理機能が低下し、意識は喪失しているが容易に覚醒しうる状態。 -をとる -不足レム睡眠
転じて、活動を休止している状態。

出典:三省堂
(C) Sanseido Co.,Ltd. 編者:松村明 編 発行者:株式会社 三省堂 ※ 書籍版『大辞林第三版』の図表・付録は収録させておりません。 ※ それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

日本大百科全書(ニッポニカ)

睡眠
すいみん
一般には周期的に繰り返す生理的な意識喪失の状態をいうが、完全に定義することはむずかしい。睡眠の場合、外観的には周囲の変化に対して反応しなくなり、感覚や反射機能が低下しているが、覚醒(かくせい)することができるし、特有な眠りの姿勢がみられる。
 これらの特徴によって、睡眠は病的な意識喪失の状態である昏睡(こんすい)や麻酔状態などとは区別することができる。
 科学的に睡眠を研究する場合にはかならず脳波が使われる。健康である成人の睡眠時の典型的な脳波変化をみてみよう。覚醒していて目を閉じているときは10ヘルツ前後のアルファ波(α波)がみられる(覚醒期)が、うとうとしてくるとアルファ波が消えて振幅の小さい4~6ヘルツの徐波が現れる(睡眠第1段階)。ついで振幅の大きいK複合とよばれる鋭波と14ヘルツぐらいの紡錘波が出現する(睡眠第2段階)。さらに進むと紡錘波のほかに振幅の大きい3ヘルツぐらいの徐波が現れ(睡眠第3段階)、究極的には1~3ヘルツの大徐波だけとなる(睡眠第4段階)。このように脳波は、一般に睡眠が深くなるにつれてその周波数が遅くなる方向へと変化するといえる。[鳥居鎮夫]

2種類の睡眠状態

睡眠を一晩の眠りとしてとらえた場合、かつては覚醒から深い睡眠(第4段階)へ移行し、それから覚醒に戻ると考えられてきたが、現在では、幾つかの段階を経ることがわかっている。すなわち、睡眠は周期的なものであり、覚醒から第1、第2、第3および第4段階に移行したあと、第1段階に似た状態に浮上する時期が4、5回訪れるということである。この時期は急速眼球運動rapid eye movement(REMと略す)があり、骨格筋の緊張消失を伴う段階であるため、他の睡眠時期とは別の状態であると考えられている。この急速眼球運動を伴う時期をレム睡眠、残りの睡眠は急速眼球運動がみられないためノンレム睡眠とよぶ。また、ノンレム睡眠のうち、第3、第4段階は大きい徐波をもつことが特徴であるため、一括して徐波睡眠とよんでいる。なお、動物の場合は、脳波が覚醒期のパターンを示しているのに、感覚刺激を与えても覚醒しにくく、行動的には深い睡眠と思われる状態を示すことがある。このように脳波像と睡眠深度との関係が従来のパターンと一致しないので逆説睡眠とよぶ。動物の普通の睡眠も徐波が主体となるため徐波睡眠とよぶことが多い。このため、動物の徐波睡眠はヒトのノンレム睡眠に対応することになる。[鳥居鎮夫]

睡眠の系統発生

行動からの睡眠の定義に従うと、大部分の脊椎(せきつい)動物にはある型の睡眠があるといえよう。魚類と両生類では静止し覚醒閾値(いきち)(覚醒させるに必要な刺激の最小値)が上昇する時期があるが、脳波はほとんど変わらない。爬虫(はちゅう)類では行動的に睡眠を示し、脳波には徐波がみられる。また、レム睡眠に非常によく似た状態が短時間だが認められることがある。鳥類ではノンレム睡眠とレム睡眠の両方がはっきりみられるが、レム睡眠は非常に短く、全睡眠時間のわずか1~5%にすぎない。哺乳(ほにゅう)動物でははっきりしたノンレム睡眠とレム睡眠がある。しかし、原始的な哺乳類であるハリモグラにはレム睡眠のないことが報告されている。哺乳動物では、一般に肉食動物のほうが草食動物よりもレム睡眠が多い傾向がある。雑食動物はその中間である。これは、レム睡眠では筋が完全に弛緩(しかん)するため、草食動物ほど、この時期にきわめて危険な状態に置かれるためと考えられる。[鳥居鎮夫]

睡眠の個体発生

新生児は16~18時間を睡眠に使い、その睡眠の半分がレム睡眠に使われる。青壮年では一般に16~17時間を覚醒に使い、7~8時間を睡眠に使う。この睡眠時間のうち6時間がノンレム睡眠に使われ、1~2時間がレム睡眠に使われる。ノンレム睡眠とレム睡眠の両方とも年齢の増加とともにわずかに減少する。また、睡眠周期(一つのレム睡眠の終了もしくは開始から次のレム睡眠の終了もしくは開始まで)は明らかに出生時から存在する。生まれたばかりの子供ではその周期の長さは50~60分であるが、発育するにつれてその周期は徐々に長くなっておよそ90分となる。そして24時間の睡眠・覚醒周期がこの睡眠周期のうえに重なってきて、通常24時間に1回の睡眠期があるという成人のパターンができあがることとなる。[鳥居鎮夫]

睡眠中の生理機能

睡眠中においては、覚醒して諸活動を行っている時期とは異なるさまざまな生理的変化が認められる。以下、具体的に記述する。
(1)心拍数 静かに横になっているだけでも心拍数は減少するが、一晩の眠りの間では徐々に減少していく傾向がある。しかし、レム睡眠のときには著しく増加する。
(2)血圧 一晩の眠りの経過のうち、血圧は前半に下がり、後半になると徐々に上昇する傾向がある。やはり、血圧もレム睡眠に一致して上昇する。
(3)呼吸 全体の傾向として睡眠中の呼吸数は減少するが、心拍数や血圧の変化に比べると比較的安定している。しかし、レム睡眠のときには呼吸のリズムが不規則となる。
(4)陰茎の勃起(ぼっき) レム睡眠に一致しておこる。朝方はレム睡眠が多いため、早朝勃起の現象はこれによって説明できる。また、早朝勃起の有無で、レム睡眠があったかどうかを判定することができる。
(5)体温 午前4時ころに最低となるが、それ以降は覚醒するまで徐々に高くなる。体温はレム睡眠の影響をあまり受けないが、体温が低いときにレム睡眠が多いという関係がある。体温は24時間周期をもっていて、夜昼逆転の生活をしてもなかなか体温のリズムは変わらない。海外旅行による、いわゆる時差ぼけは、昼間の活動時に体温のもっとも低い時期がくるためにおこるものである。体温がこうした逆転生活に順応するのには平均4日かかる。
(6)体動 一晩の眠りの間に30回くらいの寝返りをする。このうち、もっとも多いのは睡眠第1段階とレム睡眠の前後で、睡眠第3段階と第4段階(徐波睡眠)のときがもっとも少ない。体動は多すぎても少なすぎてもよい眠りとはいえない。
(7)発汗 入眠するとまもなく発汗が増加するが、眠りが進行するにつれて減少していく。とくにレム睡眠のときに強く抑えられる。[鳥居鎮夫]

睡眠時の諸現象

これまで述べてきたことは、ほとんどの人に共通の生理機能であるが、睡眠時にあっては、個人によって以下に述べるようなさまざまな現象をみせる。
(1)寝言 主として睡眠第2段階と第3段階にみられるが、かならずしもこの時期に限らない。しかし、レム睡眠期には寝言が少ない。レム睡眠期には口の周りの筋肉の緊張が消失するのではっきりしたことばにならないためである。
(2)睡眠時遊行症 眠っているときに突然起き上がって床の上に座ったり、ひどいときには歩き出したりするもので、子供に多いが老人にもみられる。子供では第3段階や第4段階でおこる。老人ではレム睡眠のときにあっても、筋の緊張が消失しないためにおこることもある。
(3)夜驚症 眠っているとき、突然声をあげて飛び起き、不安や恐怖に満ちたようすを示すもので、睡眠第4段階のときにおこる。
(4)夜尿症 排尿を随意的に調節できるようになるのは3歳くらいからであるが、この年齢以上になっても夜間に尿を漏らす場合をいう。夜尿症は4、5歳の小児の約10%に認められる。夜間睡眠の前3分の1に多く、しかも睡眠第3、第4段階の深い睡眠時に始まることが多い。小児では深い睡眠が多いため、夜尿がおこりやすい条件があるといえる。
(5)悪夢 主としてレム睡眠期に出現するもので、恐ろしい夢をみて目覚めてしまう状態をいう。目覚めたとき、恐ろしい夢の内容を詳しく思い出すことができる。悪夢は夜驚のときほど恐怖感、脈拍の増加などを伴わないし、目覚めたとき、ただちに周囲に適応することができる。悪夢はすべての年齢の人にみられ、不安や心配事、心労などがあると出やすい。また、人によって頻度は異なるが、一般に神経症の人は悪夢になりやすいとされる。
(6)歯ぎしり 正常人の5~15%にみられるが、小児期、思春期に比較的多い。睡眠中に咬筋(こうきん)の活動によって上下のあごをすり合わせる現象であるが、歯ぎしりによってその人が目覚めるとか、歯ぎしりに気づくことはない。どの睡眠段階でも出現するが、睡眠第1、第2段階にもっとも多くみられる。
(7)頭振り リズミカルに頭を左右に動かす状態で、入眠時によくみられる。小児に多く、思春期以後には少ない。指しゃぶりと同じような癖で、ストレスによって生ずると思われる場合もある。
(8)睡眠麻痺(まひ) 入眠時や朝の目覚めのときに、自分の手足を動かしたり、話したりすることができなくなる状態をいう。ときには、目を開けることさえできないこともある。睡眠麻痺の場合、本人は自分がどんな状態にあるか知っており、あとで思い出すこともできる。また、生々しい、あるいは恐ろしい幻覚を伴うことがある。一般に本人が睡眠麻痺から抜け出そうと努力したり、他人に話しかけられたりすると突然消失する。睡眠麻痺はレム睡眠の一種で、意識が覚醒状態にあるのに、筋肉が弛緩していて、夢の体験が持続する状態と考えられている。
(9)片頭痛 頭痛のために目覚めてしまうもので、レム睡眠期に出現しやすい。また、朝起きたときに片頭痛の体験を思い出す。思春期前にはみられない。片頭痛はレム睡眠期にみられる血圧の変動によると考えられる。
(10)狭心症 心臓の冠動脈に異常のある人はしばしば夜中に胸が一過性に締め付けられたり、痛みを感じる発作がおこる。これが狭心症で、その大部分はレム睡眠中に発生している。発作は、レム睡眠に入るとまもなく心拍数が速くなり、心電図に変化が認められ、数分後に息苦しくなって覚醒するという経過をたどる。予防としては睡眠薬でレム睡眠を抑えることが考えられる。
(11)胃痛 十二指腸潰瘍(かいよう)があると、夜中にみぞおちのところが痛んだり、不快感がおこる。胃痛もレム睡眠期にみられる。正常な人では眠ると胃液分泌が低下するのに対し、この病気がある人は逆に夜中に胃液の分泌が高まることが原因である。
(12)気管支喘息(ぜんそく) 喘息の患者はしばしば夜中に発作をおこす。成人の喘息では特定の睡眠段階との関係はみつかっていないが、小児の場合は夜中の後半に多発する。しかし、発作とレム睡眠とはかならずしも一致していない。また、睡眠第3、第4段階には発作はおこらない。
(13)いびき 睡眠中に上気道が狭くなり、呼吸気流に乱流がおこるのがいびきである。上気道の狭くなる原因として、鼻水その他の分泌物がたまる、肥厚性鼻炎、軟口蓋(なんこうがい)の異常、扁桃腺(へんとうせん)肥大、舌根沈下、肥満などがあげられる。対策としては耳鼻科的原因があれば治療を受けるとよい。また、いびきには睡眠姿勢が関係するから、いびきをかく人は横向きに眠るとよい。
(14)睡眠時無呼吸症候群 睡眠中に呼吸の停止が5回以上おこる病気である。いびき、昼間の眠気、起床時の頭痛などを伴う。この病気の患者の多くは、高血圧、心臓病、脳卒中、糖尿病などの生活習慣病を合併している。無呼吸を放置すると生命の危険がある。この病気が疑われる場合は、夜間の睡眠時の状態を調べることがたいせつである。患者の睡眠状態と呼吸状態を同時に測るために、終夜ポリグラフィーが不可欠である。脳波、心電図、胸部の動き、鼻からの気流などを連続的に測定することが行われている。
 原因は、首の回りの脂肪沈着、扁桃腺肥大、アデノイド、舌が大きい、顎(あご)が小さいなどにより、上気道が閉塞するためである。しかし、生活習慣とも密接に関係があるので、治療法は、まず生活習慣を見直すことである。肥満の人は毎日散歩するなど運動を心がけるとよい。タバコや睡眠薬は無呼吸を悪化させるのでよくない。また、晩酌を減らすなどで無呼吸が軽くなる場合がある。気道が閉塞しないようにcPAP(シーパップ)とよばれるマスクをつけて寝る方法もある。これは、陽圧をかけて空気を送る装置である。[鳥居鎮夫]

睡眠と夢

睡眠中には、身体機能ばかりでなく、精神機能にもいろいろな変化がおこる。一般に知覚や学習の能力は入眠後低下していくので、いわゆる睡眠学習(睡眠中に聴覚的に大脳を活動させ、学習や記憶をさせる方法)は不可能と考えられる。夢は睡眠中の精神機能の一つである。フロイト以降、夢の研究はいろいろに行われてきたが、朝覚醒してから思い出させる方法であったため、睡眠時期との関係は不明であったし、夢の内容もいくつかの夢が混じり合ってしまうなど、いろいろな問題があった。しかし、現在ではポリグラフ記録によって睡眠段階との関係を正確に調べることができるようになり、夢の科学的研究が可能となった。レム睡眠とノンレム睡眠のときに目覚めさせて夢をみていたかどうか調べたデータによると、レム睡眠期には70~80%、ノンレム睡眠期には0~50%の率で夢をみていた。ノンレム睡眠期の値がばらついているのは、夢の定義が研究者によって多少食い違っているためである。しかし、夢の内容のうち、筋道の通ったものだけを夢とし、漠然とした断片的な印象のようなものは夢としないと決めると、ノンレム睡眠期における夢は0%となる。
 レム睡眠期を脳波像からみると入眠時に相当するため、脳の活動はノンレム睡眠期と比べてかなり高い水準にあると考えられる。したがって、レム睡眠期にはある程度の精神機能が可能である。身体的にみると、レム睡眠期には、瞳孔(どうこう)が極端に小さくなって光が入りにくい、耳も耳小骨についている筋肉が緩むため音が入りにくい、体の筋の緊張が消失するため手足からの感覚刺激が少ない、といった傾向が認められる。つまり、外界からの感覚刺激が脳に入らない状態にあるといえる。こういう状態のときに、脳の中である考えやイメージが浮かんでも、それらは現実の修正を受けないからそのまま進行する。さらにレム睡眠期には脳の機能が覚醒時よりもやや低下しているので、覚醒時のような論理的思考ができずに夢として展開される。夢の内容が非合理的で非現実的なものであるのは、こうしたことによっている。[鳥居鎮夫]

睡眠学説

睡眠を制御しているのは脳であると考えられているが、どのようにして睡眠がおこるかという脳の中の仕組みに関しては、いくつかの説がある。
(1)条件反射説 パブロフは条件反射の実験中、ことに条件反射がおこらなくなるような実験状況のとき、しばしばイヌが眠りに陥ることから、条件反射を抑制する過程が脳の特定の部位におこり、それが脳全体に広がって睡眠がおこると考えた。しかし、この抑制過程が具体的にどんな神経機構であるのかは不明である。
(2)刺激遮断説 音や光などの外来刺激が眠りの妨げになり、これらを遮断すると眠くなることはよく知られている。また、外来刺激ばかりでなく内部刺激、ことに筋肉からの求心性インパルスが脳に達しなくなると眠くなる。体を横にして筋の緊張を緩めると眠りやすいことはだれでもが経験することである。その他の内部刺激としては内臓感覚も無視できない。乳児が目覚めるのは主として空腹感、渇き、尿がたまるといった内臓感覚によっている。この考えを支持する実験がある。ベルギーの生理学者ブレメルF. Bremerは、ネコの脳を中脳のところで切断すると嗅覚(きゅうかく)と視覚以外の感覚性経路が遮断されて、大部分の求心性インパルスが脳に入らなくなり、そのネコは睡眠状態になることをみいだした。その後、アメリカの解剖学者マグーンH. W. Magounは、中脳の中で感覚経路だけを選択的に破壊しても動物は眠らないが、感覚経路から側枝を受けている中脳の網様体とよばれる部分だけを破壊すると眠りに陥ることをみいだし、この部分を上行性網様体賦活(ふかつ)系と名づけた。この賦活系は感覚入力によって賦活され、その活動が高まると覚醒し、その活動が低下すると眠るというように、きわめて明快に説明できるため広く受け入れられてきた。
(3)睡眠中枢説 嗜眠(しみん)性脳炎の患者の脳を剖検してみると、いずれも中脳から視床下部にかけて冒されている。また、脳炎で不眠になった症例では視床下部前部が冒されている。これらの所見に基づいてドイツの内科医エコノモC. Economoは、視床下部に睡眠を調節する中枢があると想定した。さらにスイスの生理学者ヘスW. R. Hessによって、ネコの視床を電気刺激すると眠りを誘発することができることが示され、睡眠は脳の中の睡眠中枢が興奮することによっておこるという考えが出された。この説は、睡眠は受動的におこるとする刺激遮断説と対立するが、現在では上行性網様体賦活系の活動を積極的に抑えるような仕組みが脳の中にあるとする考え方、つまり両方の説を折衷する説をとるのが一般的である。
(4)睡眠物質説 フランスの心理学者ピエロンH. Pironと日本の生化学者・石森の二人が、まったく別個にイヌの断眠実験を行って、脳脊髄液に睡眠をおこす物質が存在することを発見した。1913年、ピエロンはその物質をヒプノトキシンと名づけた。その後、睡眠物質の研究が進み、現在数十種類が発見されている。そのなかで、生化学者・早石によりプロスタグランジンD2が睡眠物質の一つとして同定されている。[鳥居鎮夫]

睡眠の機能

眠ったあとは疲労感がなくなることから、睡眠は疲労回復という意味でたいせつなものと考えられる。また、俗に「寝る子は育つ」といわれるように、睡眠は休養ばかりでなく建設の面も備えている。たとえば、日中にとった食べ物を消化・吸収して、体に必要な血と肉に変えていく、子供の成長はもっぱら夜中におこる、成人でも髭(ひげ)は夜中に伸びるなどである。頭の働きは使うことによって発達するものである、体は眠っていても脳が活動しているレム睡眠が乳幼児期に多いという事実を考え合わせると、脳の発育にレム睡眠が重要な役割をしていると考えられる。しかし、成人の場合のレム睡眠がどんな機能をもっているかはまだわかっていない。
 睡眠の機能を明らかにするために、昔から断眠実験が行われてきた。最初はノンレム睡眠、レム睡眠の両方とも含めて全睡眠を遮断していたが、その後二つの睡眠の機能を知るために選択的に遮断することも試みられた。ヒトで全断眠を行った場合、一般に知覚が鈍磨し、反応速度や記憶力などが低下するほか、ときには視覚性幻覚も生ずる。なお、ヒトがどのくらい眠らずに耐えられるかという実験では、アメリカのカリフォルニア州の17歳の高校生が264時間眠らなかったという記録がある。日本では23歳の学生の101時間8分30秒という断眠記録がある。選択的断眠にはノンレム睡眠のうち、第3と第4段階(徐波睡眠)だけを遮断することが可能である。また、レム睡眠はノンレム睡眠のあとに出現するから、レム断眠も可能である。レム睡眠あるいは徐波睡眠を選択的に遮断したあと、遮断しない睡眠と比較しても両者の間には差がみられない。このことから、日中の精神活動に影響を及ぼすのは、睡眠の質ではなくて睡眠量であり、1日3時間の睡眠量が正常な遂行水準を維持するための下限であるといわれている。普通の人の睡眠時間は環境によってかなり変動する。夏休みには一晩に10時間眠ったのに、学校の授業が始まると7時間しか眠らないという学生も多い。また、心理的には、一般に「うまくいっている時期」、たとえば楽しい仕事に熱中しているときは睡眠要求が減り、したがって睡眠時間が短く、ストレスが強いとき、心配事があるとき、悩み事があるときには睡眠要求が増し、睡眠時間が長いという傾向がある。ただし、不安などがあまりに強いと、逆に睡眠が障害され、高まった睡眠要求を満足させることができなくなる。他方、睡眠時間があまり変わらない人たちがいる。このうち、つねに9時間以上眠る人をロング・スリーパー、つねに6時間以下しか眠らない人をショート・スリーパーという。脳の使い方による差ともいわれている。[鳥居鎮夫]

睡眠の文化的差異

眠るということは、生理的に必然的で、自然な行為と考えられているが、眠り方には明らかに文化的、社会的な型がある。[武井秀夫]
寝具
なんの寝具も必要とせず、地面あるいは床にそのまま眠るものから、枕(まくら)の使用、掛け物の使用、暖房としての火の使用などの有無、また、寝台やハンモック、敷物の使用など、寝具の利用の仕方にはさまざまな型が認められる。[武井秀夫]
姿勢
眠りの姿勢も多様である。東アフリカのマサイ人は立ったまま眠ることがあるといわれる。アラブの遊牧民ベドウィンは「フブワを結ぶ」という特殊な座り方でよく居眠りをし、チベット人のある者は座って上体を伏せ、祈るような姿勢で眠るという。座ったままの居眠りは日本人にもよくみられる。横になる姿勢も一様ではないが、ときには文化的に様式化された姿勢が存在する場合がある。ギリシアの牧民の間には、四肢を折り曲げてエビのような形になって寝る姿勢が習慣化しているという。[武井秀夫]
時間
睡眠のための時間が1日の24時間のなかの一定の部分に制度化されているという、われわれにとっては当然と感じられる事態も、けっして普遍的ではなく、どの社会にもみられるわけではない。生業労働の季節的変動が大きい場合には、それに伴う労働時間、生活環境の変動につれて睡眠のとり方も変化する。また、さまざまな儀礼にみられることであるが、普段は眠っているはずの時間を、ときには何昼夜も眠らずに過ごすことに意味が与えられている場合もある。[武井秀夫]
空間
睡眠のための空間は、他の生活空間と同一であることもあれば、分離されていることもある。空間の利用は、男女別であったり、親族・家族別であったり、個人単位の場合もある。また、神託、予言などを得ることを目的とした睡眠に対しては特別の空間(神殿、聖地など)が制度的に割り当てられることが多い。[武井秀夫]

睡眠に関する観念

睡眠は古代以来多くの民族で、死に関連した一つの状態、つまり「仮死」の状態とみなされてきた。ギリシアのアリストテレスは睡眠をすべての動物に、そして動物のみにみられる周期的現象であるとし、その原因は、表象作用をつかさどる諸器官の持続的活動からくる疲労を周期的に回復させる必要にあると考えた。彼によれば、夢は、睡眠に入る前に受けた刺激によって継起した表象作用が知覚中枢にかすかに遺残することの直接的結果であるという。しかし、睡眠と夢に関するこうした哲学的ないし生理学的見解は、近代以降を除けば、けっして一般的であったわけではない。ギリシア神話においても、眠り(ヒュプノス)は、夜(ニュクス)から死(タナトス)、夢(オネイロス)、運命(モイラ)などを兄弟として生まれている。睡眠は、生よりもむしろ死に近い、人間あるいはその霊魂の一状態であり、夢はそうした状況下における霊魂の経験であるとする見解は、多くの民族にみいだされる。人間は肉体と霊魂(一つ、あるいは複数。メキシコのインディオの例では13の要素からなるものもある)とからなり、睡眠時には霊魂(一つ、あるいはいくつか)が肉体から離脱し、地上(現世)や天上や地下などの他界を彷徨(ほうこう)する。このときの経験が夢となる。霊魂が離脱した肉体は仮死の状態にあり、もし離脱した霊魂が戻ってこないと、病気になり死んでしまう。それゆえ、眠っている人をみだりに起こしてはいけないとする観念もまた広くみられるものである。また、メキシコのインディオのなかには、各個人には同じ魂をもつ「仲間の動物」があり、この動物が死ぬと人間も死ぬという信仰をもつ人々がいるが、彼らが「仲間の動物」が何かを知るのも夢が多い。睡眠は「仮死」であるがゆえに、生と死、現世と他界とを媒介する状態なのであり、睡眠状態における唯一の経験としての夢は、他界との交流の手段(神託、予言、予兆、正夢、逆夢など)として、社会的にも個人的にも重要な意味をもつものとみなされてきたのである。[武井秀夫]

動物と睡眠の機能

睡眠は高等動物の休息(不活動)期にみられる適応行動で、本能の一つである。身体機能の修復、エネルギーの節約、脳機能の調整を図るため、種に固有の様式で周期的に発現する。
 睡眠には意識の消失、感覚閾値(いきち)の上昇、筋緊張の低下を伴っているが、見かけだけでは単なる休息と睡眠とを区別できないことがあるので、少なくとも脳波、できればさらに筋電図や体動の同時連続観測から特定のパターンをみいだすことによって厳密な定義が可能となる。脳波からは睡眠に二つのパターン(徐波睡眠と逆説睡眠)が区別される。これらは、恒温動物の鳥類と哺乳(ほにゅう)類だけに明瞭(めいりょう)に認められるものである。変温脊椎(せきつい)動物では、爬虫(はちゅう)類の一部を除いて脳波の変化がみられないが、行動上の変化から睡眠があると常識的に考えられている。しかし、無脊椎動物と植物には睡眠がないとみなされることが多い。睡眠は、動物体内部からの周期的な欲求に基づいて生じる可逆過程なので、外部環境の変化が引き起こす冬眠、夏眠、休眠とは異なる現象である。
 多くの動物は、睡眠のためのねぐらをもっている。これは、身体が動けない状態でも安全かつ快適である必要性からであろう。目を閉じたり、頭を胴や翼の中に入れるのは、感覚入力を遮断して眠りやすくする効果がある。睡眠姿勢も種に特有のパターンがある。外敵に襲われやすい草食獣は立ったままごく短い睡眠(ミニ睡眠)を繰り返している。長く眠ると水底に沈んでおぼれてしまうイルカ類では、水面を泳ぎながら数秒から数十秒だけ眠ったり(マイクロ睡眠)、脳の片半球ずつ交互に眠ったりするという。
 睡眠時間帯の日内分布、1回の眠りの持続時間とそのなかでの睡眠周期の頻度、眠りの深さ、徐波睡眠と逆説睡眠の比率などは、動物の種、食性、年齢、環境条件、脳の発達レベルなどで違っていてきわめて多様である。[井上昌次郎]
『鳥居鎮夫著『行動としての睡眠』(1985・青土社) ▽鳥居鎮夫編『睡眠の科学』(1984・朝倉書店) ▽松本淳治著『眠りとは何か』(1976・講談社) ▽井上昌次郎著『眠りの精をもとめて』(1968・どうぶつ社) ▽メディス著、井上昌次郎訳『睡眠革命』(1984・どうぶつ社) ▽ボルベイ著、井上昌次郎訳『眠りの謎』(1985・どうぶつ社)』

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精選版 日本国語大辞典

すい‐みん【睡眠】
〘名〙 (「みん」は「眠」の慣用音)
① 眠ること。眠り。内的原因によって周期的に起こり、一種の無意識状態で外界への働きかけがほとんどなくなった状態。すいめん。
※七新薬(1862)六「モルヘウスは神の名、人の睡眠を主る、此物大に打睡の性功あるに資て以て之に名くと云ふ」
※測量船(1930)〈三好達治〉街「時を定めず睡眠を貪り」 〔易林‐同人・大壮〕
② 活動を休止していることのたとえ。
※耳を掻きつつ(1934)〈長谷川伸〉巷の舌「大判小判の金貨幣が、ただもう満と地の下に、約七十年間の睡眠をしてゐる話である」

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すい‐めん【睡眠】
〘名〙 (「めん」は「眠」の呉音) =すいみん(睡眠)
※九冊本宝物集(1179頃)八「行者そのとき四虵を観じて、おのづからすいめんまぬかれて、行業をつとめり」

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最新 心理学事典

すいみん
睡眠
sleep(英),sommeil(仏),Schlaf(独)
睡眠は「人間や動物の内部的な必要から発生する,意識の一時的低下現象である」と定義され,補足として「必ず覚醒可能なこと」という条件がつけられている(Kleitman,N.,1963)。このように定義すると,催眠や薬物による意識の低下現象は,「内部的な必要性」に起因していないので睡眠とは区別される。また「必ず覚醒可能なこと」という条件から,麻酔と昏睡が除外される。さらに動物の冬眠,夏眠,休眠などの特殊な不活動状態も覚醒が著しく困難であることから,睡眠とは区別される。

【睡眠段階sleep stage】 睡眠研究では脳波,眼球運動,筋電図を同時に記録する睡眠ポリグラムpolysomnogram(PSG)によって睡眠状態を測定する。睡眠ポリグラムの特徴から急速眼球運動rapid eye movement(REM:レム)が出現するレム睡眠REM sleepと,レムを伴わないノンレム睡眠non-REM sleep,NREM sleepの二つに分類され,さらにノンレム睡眠は4段階に分類されている。図1は国際判定基準に基づいて判定された睡眠段階の特徴的な睡眠ポリグラムと測定電極の配置を示したものである。睡眠段階は20~30秒間を1区間として判定する。通常の睡眠経過は覚醒(段階W)からノンレム睡眠に移行し,浅いノンレム睡眠(段階1)から順に深くなり,段階4で最も深い睡眠状態に到達する。その後,中程度の睡眠状態(段階2)に移行してからレム睡眠に移行する。覚醒状態の脳波パターンは8~13Hzのアルファ波と13~30Hzのべータ波が現われる。段階1に入るとアルファ波は不連続となり,2~7Hzの周波数の低い波が現われる。この段階では眼球がゆっくりとした振り子運動slow eye movement(SEM:セム)を示す。段階2では脳波パターンに12~14Hzの睡眠紡錘波とK複合とよばれる振幅の大きな3相波が出現する。また眼球運動セムは停止する。段階3と4では脳波パターンに0.5~2Hzの高振幅デルタ波(睡眠徐波)が出現する。デルタ波が判定区間に占める割合によって20~50%を段階3,50%以上を段階4とする。段階3と4をまとめて徐波睡眠slow wave sleep(SWS)とよぶこともある。レム睡眠の脳波パターンは段階1とほぼ同じであるが,眼球運動はセムではなく急速眼球運動レムが出現する。レム睡眠では骨格筋の緊張が著しく低下する。そこで図1の下のように脳波に加えて眼球運動と顎の筋電図を同時記録して判定する。

 レム睡眠は約90分の周期で出現する周期性があり,ノンレム睡眠とそれに続くレム睡眠の終了までを睡眠周期sleep cycleとよぶ。睡眠経過図(図2)で睡眠周期と睡眠段階の推移を見ると,一夜には睡眠周期が4~5回繰り返されている。各周期を構成する睡眠段階の割合は一定ではなく,徐波睡眠は睡眠前半に集中して出現し,レム睡眠は後半で持続が延長する。

【睡眠障害sleep disorder】 ここでは不眠症,過眠症,睡眠時随伴症を取り上げることにする。

1.不眠症insomnia 精神生理性不眠症psychophysiological insomniaが最も代表的で,不眠に対する過度の不安と緊張により,入眠困難,中途覚醒,早朝覚醒,熟眠障害などを訴える。日本では成人の20%に見られ(土井由利子,2012),中高年で急激な増加を見せる。治療は睡眠衛生に関する教育指導,森田療法など精神療法のほか,認知行動療法(刺激制御法,睡眠時間制限法,筋弛緩法,自律訓練法など)が薬物療法と組み合わせて行なわれている。

2.過眠症hypersomnia ナルコレプシーnarcolepsyが最も代表的な過眠症で,有病率は一般人口の0.16~0.18%といわれている(土井,2012)。発症年齢は10歳代が多く,試験中や危険な作業中にも突然強い眠気に襲われ,居眠りをしてしまう。これが日中の過度の眠気excessive daytime sleepiness(EDS)と睡眠発作sleep attackである。この病気には睡眠とは直接関連していないが,情動脱力発作cataplexyという症状が見られ,笑ったり怒ったり驚いたりすると筋緊張が低下する。また入眠期に現実感のある幻覚(入眠時幻覚hypnagogic hallucinations)が起こる。これは入眠期にレム睡眠が出現するためと考えられている。このほかにも入眠期や出眠期には,睡眠麻痺sleep paralysisが起こる。これもレム睡眠の行動特徴である骨格筋の脱力麻痺が関与していると考えられている。睡眠覚醒リズムの乱れにより夜間睡眠で熟眠困難を示すことが多く,治療は薬物療法に加え規則正しい生活習慣の指導が必要とされている。

3.睡眠時随伴症parasomnia 睡眠中の異常行動としては,深睡眠からの覚醒で起こる睡眠時遊行症と,レム睡眠中に起こるレム睡眠行動障害を取り上げる。

 睡眠時遊行症sleep walkingは幼児・児童の15%に見られ(内山真,2002),発症は5歳ごろが多いが,発現頻度は12歳ごろにピークを示す。睡眠前半の徐波睡眠で発現し,起き上がって部屋の中を歩き回ったり,ドアを開けて外に出て行くこともある。1回の遊行は20分以内,多くは数分で終わる。遊行中の脳波は睡眠状態を示しており,不完全な覚醒状態での行動と考えられている。障害物をよけたりするので行動に目的性があるように見えるが,全体としては一貫性や合理性は認められない。遊行中の記憶はなく,行動を裏づける夢見体験の報告もない。思春期以降で自然治癒するが,1%程度は成人しても遊行が残る(内山,2002)。行動を制止したり無理に覚醒させようとすると暴力的な攻撃行動を起こすことがある。幼児にも見られるが,成人の場合は事故や事件を引き起こすことも報告されており,このような場合は心理療法と薬物療法が必要とされている。

 レム睡眠行動障害REM sleep behavior disorder(RBD)の有病率は一般人口の0.4%程度で(Ohayon,M.M.et al.,1997),50歳代以降の男性に多い傾向があるが,その理由はわかっていない。異常行動はレム睡眠の持続が延長する睡眠後半で発現し,夢見内容と行動が対応するところから,レム睡眠中に起こる骨格筋の脱力機構に障害が発生し,夢の中での運動イメージが露わな行動となって表出したと考えられている。夢の内容は暴力的で抗争的な悪夢が多い。そのため大声を出したり家具を倒したりする。さらには止めようとするベッドパートナーを殴って怪我をさせることもある。筋緊張を緩和する薬物療法と合わせてカウンセリングなど心理療法が行なわれている。

【断眠sleep deprivation】 16時間以上覚醒した状態が続くと断眠の影響が現われる。断眠3日目には強い眠気で自力では覚醒を維持することができなくなり,錯覚,幻覚,知覚障害などが現われる。断眠は2日間が限界で3日目には異常状態に陥る可能性があり,100時間を超える断眠実験はほとんど行なわれなくなっている。

 図3のAは断眠と睡眠時間を制限した条件で精神運動ビジランス課題psychomotor vigilance task(PVT)を行ない,反応時間が0.5秒を超えると誤反応として,その発現回数を比較したものである。この課題は,ランダムな間隔で出現する標的の変化を検出したらすばやくボタンを押して反応する,というものである。3日間連続して断眠(■)すると誤反応はほぼ直線的に増加する。睡眠時間を1日当たり4時間(○)に制限すると2週間後(14日)には断眠3日目と同じ誤反応数を示すようになる。6時間睡眠(□)では誤反応の増加勾配は緩くなり,8日目に断眠1日目のレベルに入り,14日で断眠2日目のレベルに達している。8時間睡眠(◇)では緩い右上がりの増加傾向が見られるが,統計的には有意差は見られていない。睡眠時間が6時間以下になるとその不足(睡眠負債)は累積することがわかる。図3のBはスタンフォード眠気尺度Stanford sleepiness scale(SSS)で測った主観的な眠気の強さを示したものである。実験前のベースレベルを0とする相対値で示している。断眠(■)では直線的に眠気が強くなっているのがわかる。4時間睡眠(○)と6時間睡眠(□)は1週間ほど続けると,断眠1日目のレベルに到達するが,その後は平坦化し変化は見られなくなる。8時間睡眠(◇)にはほとんど変化は見られない。断眠したときには強い眠気と誤反応の増加に対応関係が見られるが,短縮睡眠条件では誤反応の増加を眠気の強さから推測することは困難である。慢性的な睡眠不足の状態では,眠気の評価が低めになりそのことが居眠り事故や強い眠気による誤操作を引き起こす要因の一つになっている。

【睡眠と記憶・学習】 睡眠が記憶の固定に重要な役割を果たしていることは古くから指摘されてきたが,最近になって新しい記憶は睡眠中に再処理されて記憶向上が起こることが発見され,睡眠による記憶向上sleep-dependent memory improvementが注目されている。

1.宣言的記憶declarative memory 宣言的記憶とは,単語や場所に関するエピソード記憶や意味記憶などの意識にのぼる記憶である。宣言的記憶の固定はノンレム睡眠で行なわれており,脳波の徐波活動と遅い睡眠紡錘波活動が関与していることがわかってきた。宣言的記憶には,レム睡眠が関与していると考えられてきたが,レム睡眠の関与を示す知見は報告されていない。

単語の記憶 プリハルPlihal,W.とボーンBorn,J.(1997)は,単語記憶の再生率が60%に達したところで学習を打ち切り,3時間だけ眠り,その後覚醒させて再生テストを行なった。すると学習直後よりも+32.4%と大幅な成績の向上が認められた。同じ時間起きて過ごす覚醒条件にも向上は見られたが,+16.5%と低い値にとどまった。睡眠前半の3時間睡眠は徐波睡眠が優勢であるから,単語の記憶は徐波睡眠で固定されるとした。次に学習する前に3時間眠り,起床後に学習してから3時間眠り,起床後に再生テストを行なった。睡眠後半の3時間睡眠はレム睡眠と段階2が優勢で,徐波睡眠はほとんど出現しない。再生テストの成績は+11.0%にとどまり,同じ時間起きていた条件の成績+12.2%とほとんど変わらなかった。そこで単語の記憶は徐波睡眠中に再処理されて固定されるが,レム睡眠にはこのような再処理機能は認められないとした。マーシャルMarshall,L.ら(2006)は,経頭蓋直流刺激という方法で前頭部に0.75Hzの直流パルスを通電し,徐波睡眠を誘発増強して記憶向上効果を増進させることに成功している。

 他方,睡眠脳波の特徴的な変化に注目したシュミットSchmidt,C.らによる研究(2006)では,難易度の高い単語リストの学習直後に取った4時間睡眠で睡眠紡錘波の出現が増加し,その出現密度と記憶成績の向上率の間に正の相関関係(r=0.63)が認められた。睡眠紡錘波には12Hzと14Hzの二つのタイプがあり,単語の記憶に関連する紡錘波活動は12Hzの遅い睡眠紡錘波であった。

場所の記憶 場所の記憶過程では,ラットの海馬にある場所細胞がノンレム睡眠中に活性化することにより記憶内容が再処理replayされ,その処理速度は学習中の10~20倍速で実行されていることが確かめられている(Lee,A.K.et al.,2002)。ヒトについてはバーチャルナビゲーション・システムを用いて,仮想都市の認知地図の形成と睡眠による記憶向上について研究が進められている(Peigneux,P.et al.,2004)。機能的磁気共鳴画像(fMRI)とポジトロン断層撮影法(PET)により認知地図の形成過程とその夜の睡眠中の再処理過程に関して脳の活性部位を調べると,形成過程では視覚野,頭頂連合野,海馬,小脳の活動が高まっているのが確かめられた。また,その日の夜の睡眠では徐波睡眠中に海馬と海馬傍回が活性化し,睡眠による記憶向上率と海馬の局所血流量の間に強い相関関係(r=0.94)が認められた。

2.手続き的記憶procedural memory 鏡映描写やパターン弁別課題,系列タッピング課題のような「意識されないうちになされる記憶」である手続き的記憶には,睡眠段階2の割合(段階2%)や速い睡眠紡錘波活動(14Hz)の関与を示唆する報告がなされている。

 視覚パターン刺激の弁別を要求するパターン弁別課題pattern discrimination taskにも睡眠による記憶向上が起こり,この向上は徐波睡眠とレム睡眠の両方が関与していることが指摘されている(Stickgold,R.et al.,2000)。睡眠時間を4等分した第1区間に徐波睡眠が占める割合(SWS1%)と第4区間のレム睡眠の割合(REM4%)が大きいほど記憶向上率は高く,相関係数はSWS1%がr=0.70,REM4%がr=0.76であった。この知覚学習の成績向上には6~8時間の睡眠が必要であり,練習日に睡眠を取った場合はその後4日間は練習をしなくても成績は向上する。ところが練習日に断眠すると成績向上は大幅に減少し,その後に十分な睡眠を取っても回復することはなかった。

 系列タッピング課題series tapping task(ワープロや鍵盤楽器の練習など,指定された指でキーや鍵盤を叩いて入力・演奏などを行なうという課題)にも同様の記憶向上効果が認められており,睡眠後の成績向上率は練習と再テストの間隔が24時間のときで+18.9%,間隔が12時間のときも+20.5%でほとんど変わらない(Walker,M.P.et al.,2002)。この記憶向上には睡眠段階2が後半の睡眠に占める割合(段階2%)が関与しており,とくに睡眠時間を4等分して向上率を調べると,第4区間ではr=0.72と有意な相関関係が認められている。この運動学習も,練習後3日間は睡眠による成績向上が続くことが確かめられている。

【夢の脳メカニズム】 1.夢の定義と種類 夢dreamは「睡眠中に生じる自覚的体験のうち鮮明な感覚心像をもつもの」と定義されている(大熊輝雄,1993)。この定義に従えば,半睡状態の入眠期にも幾何学模様や色のついた光線,静物や風景,人や動物などが見えたり,体が急に浮き上がったり墜落するのが感じられる。これらの心像は入眠期心像hypnagogic imageryとよばれている。ノンレム睡眠中に覚醒させて覚醒直前の心理的体験を聴取すると,どの段階でも感覚心像体験が報告される。レム睡眠で同じように心理的体験を聴取すると,心像はより鮮明で活動的,物語性を備え複雑で奇異・不合理な内容のものが多く,情動要素の出現も多い。夢見の報告率もノンレム睡眠よりもレム睡眠の方が高い。そのため夢見研究ではレム睡眠の夢見に関する報告が多い。

2.レム睡眠の夢見と眼球運動 レム睡眠中に出現するレムは夢の視覚心像を注視するために動くと考えられた。ところが視覚心像がない先天性全盲者にもレムが観察されるところから,因果律を逆転させレムが刺激となって後頭視覚野が活性化し,生成された視覚心像を合成したものが夢の映像であるという活性化・合成仮説activation-synthesis hypothesisが提唱された(Hobson,J.A.,& McCarley,R.W.,1977)。眼球が動くから夢見が起こるというものである。事象関連電位(ERP)を調べると,レムの停止直後に後頭視覚野が活性化することが確かめられた。視覚心像は,後頭視覚野で生成されるとしても,それらの映像の相互関係や役割など,物語としての展開とまとまりを管理する機構が働いていると考えられているが,それは脳のどこであるかはまだわかっていない。レムの出現ごとに,現在見ている映像とはまったく独立に次の映像が出現すると支離滅裂になり,物語としてのまとまりを維持することができなくなる。物語としてのまとまりを保つためには,現在見ている映像と連想関係にある夢資源(記憶)が,次のレムで取り出される確率を高めるような機構が必要となる。そこでレムの直前に連想過程を組み込むとこの問題が解消できる。これが感覚映像・自由連想仮説sensory image-free association hypothesisである(Okuma,T.,1992)。レムの直前の脳電位活動を調べると前頭部優位にレム前陰性電位pre-REM negativity(PRN)が出現し,その電流源は前頭連合野腹内側部,前脳基底部,帯状回,扁桃体,海馬傍回など広範な部位に認められた。レムの直前に情動と記憶に関する系が活性化すること,前頭連合野腹内側部は自分自身の事柄や経験,感情,知識などを管理する「自己意識」の座であることを考えると,夢の内容が個人特性を色濃く反映していることも説明できる。これとは逆に,扁桃体を刺激すると,覚醒を支える脳幹部にある橋という脳部位にあるレム睡眠機構が活性化され,眼球運動の頻度が高まることが動物実験で確かめられており,大脳辺縁系の活動とレム睡眠機構の間にはフィードバック機構が介在していることが指摘されている。この皮質-皮質下の力動関係の解明は,夢見研究の新しい課題として注目されている。

 明晰夢lucid dreamは,眠っている人が「今夢を見ている」と自覚している夢をいう。レム睡眠覚醒法で聴取した夢見内容はほんとうに睡眠中に見たものか,それとも覚醒の瞬間に見たものか区別できない。そこで夢見があったら眠ったまま夢見ボタンを押して実験者に知らせるという実験が行なわれた。レム睡眠中は全身の骨格筋の緊張が著しく減弱するので,ほとんど身動きできないと考えられているが,指や唇の一部の筋肉のほか動眼筋もわずかであるが動かすことが可能である。ラバージLaBerge,S.ら(1981)は明晰夢の体験がある実験参加者で,明晰夢が始まったら眼球運動と手の開閉運動でモールス信号を実験者に送ることに成功している。明晰夢では夢の中で歌を歌ったり,数を数えることも可能である。眼球を上下させて合図してから歌を歌うと,声は出ないが脳波を見ると右半球の活性化が,数を数えると左半球の活性化が確かめられている。

【レム睡眠遮断REM sleep deprivation】 睡眠ポリグラムで睡眠状態を監視しながらレム睡眠が出現するたびに覚醒させると,レム睡眠だけを選択的に遮断できる。遮断を続けるとレム睡眠の出現潜時が短くなり,頻繁に起こさなければならなくなる。やがて入眠期にレム睡眠が出現するようになって全断眠と変わらない状態になり,遮断は終了する。終了後の回復睡眠ではレム睡眠の出現時間に増加が見られる。この反跳現象からレム睡眠はヒトや動物の睡眠に必須のものとみなすことができる。この遮断が行動に及ぼす影響としては注意集中の困難や不安などが想定されたが,レム睡眠の遮断方法(覚醒方法)のストレス性を緩和すると,とくに悪影響は認められていない。一方,ヒトのうつ病ではレム睡眠の出現時間が増大し,出現期も睡眠の前期に多くなることがある。このような症例ではレム睡眠を抑制すると症状が軽快することが指摘されている。レム睡眠機構の活動と気分感情障害の関係が改めて注目されている。 →神経系 →知識 →脳波 →非侵襲的脳機能研究法
〔堀 忠雄〕

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