●神経芽細胞腫【しんけいがさいぼうしゅ】
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
神経芽細胞腫
しんけいがさいぼうしゅ
neuroblastoma
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家庭医学館
しんけいがさいぼうしゅ【神経芽細胞腫 Neuroblastoma】
乳幼児のおもに腹部や縦隔(じゅうかく)、まれには頭蓋内(ずがいない)や頸部(けいぶ)の、神経系組織から発生する悪性腫瘍(あくせいしゅよう)です。
この腫瘍は、早期から転移しやすく、骨、骨髄(こつずい)、肝臓、皮膚などへの転移症状から発見されることもあります。
[症状]
元気がない、顔色が悪い、原因不明の発熱、腹部の腫(は)れ、筋力低下、下肢(かし)まひ、難治性下痢(げり)などがみられます。
[治療]
摘出(てきしゅつ)手術、化学療法、放射線療法などが行なわれます。
乳児健診(6か月)の際のマススクリーニングテストで発見された場合は、一般に予後は良好です。
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世界大百科事典 第2版
しんけいがさいぼうしゅ【神経芽細胞腫】
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日本大百科全書(ニッポニカ)
神経芽細胞腫
しんけいがさいぼうしゅ
神経芽腫ともよばれ、頻度の高い小児の腹部悪性腫瘍(しゅよう)である。多くは後腹膜にある副腎(ふくじん)の髄質から発生し、悪性度も高い。肝、骨髄、骨、眼窩(がんか)、皮膚などによく転移するが、骨や眼窩への転移は予後不良である。他の小児悪性腫腸の治療成績が近年飛躍的に向上しているなかで、この腫瘍は平均して30%程度の治癒率しかあげられていない。治療成績をよくするには早期発見がもっとも望ましく、最近では全国で尿検査を乳児健康診断のなかに組み込むようになり、効果をあげている。神経芽細胞腫はまれに頸(けい)部、縦隔、仙骨部などに発生し、副腎外神経芽腫とよばれ、副腎原発に比べて予後は良好である。また、肝や皮膚転移、1歳以下の患者の予後もよく、本腫瘍の特性である。治療には、手術による腫瘍の完全摘出、癌(がん)化学療法、放射線治療の三者が必要であるが、1歳未満の初期神経芽腫には化学療法、放射線治療が省略されることもある。
[戸谷拓二]
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内科学 第10版
神経芽細胞腫(副腎髄質)
神経芽細胞腫(neuroblastoma)は,神経堤(neural crest)より交感神経節細胞が分化してくる過程で,交感神経節の前駆細胞が腫瘍化して生ずる.これは褐色細胞腫やパラガングリオーマの母地となるクロマフィン細胞とは異なる細胞とされる.きわめて未分化なものから分化度の高いものまで(neuroblastoma → ganglioneuroblastoma → ganglioneuroma)を広く含む概念である.ほとんどが乳幼児に発症し,小児の頭蓋外に発生する固形腫瘍のなかで最も頻度が高く,また小児の悪性腫瘍としては白血病,脳腫瘍に次いで第3位を占める.カテコールアミンや各種の神経ペプチドを産生する.臨床経過は,自然退縮するものから癌死に至るものまで非常に多彩である.
疫学
米国では15歳以下の小児の100万人に10.2人が発症する.診断時平均年齢は22カ月で,1歳までに40%,5歳までに90%以上が診断される.男児にやや多い.小児の頭蓋外に発生する固形腫瘍のなかで最も頻度が高く,小児悪性腫瘍の約10%,乳児悪性腫瘍の1/3を占め,小児の癌死亡の15%以上の原因となっている.年間発生数はわが国で約200人,米国で約600人とされている.乳児マススクリーニングが行われていた時代にはさらに多くが発見されていたが,1歳未満で発見された神経芽細胞腫は自然退縮する可能性があり,マススクリーニングとそれに続く治療が患者予後を改善しないことが明らかになってからほとんどの自治体で中止となった.
病態生理
神経芽細胞腫は副腎に発生することが多い(約40%)が,腹部,骨盤腔,後縦隔,頸部,頭蓋内など交感神経組織の存在するすべての部位から発生しうる.組織学的には,前述のように細胞の分化度に大きな開きがあり,性質もそれによって異なる.
家族性発症は1~2%のみで,Phox2BやALK遺伝子の変異が関与する.ほかの神経堤関連疾患(中枢性低換気症候群,Hirschsprung病,神経線維腫症1型)を合併することがある(神経堤障害症候群).
腫瘍細胞の遺伝子的特徴,特にMYCN(N-myc)遺伝子増幅の有無やDNAの倍数性などが予後に関連すると報告されている.
本腫瘍はカテコールアミン前駆物質であるDOPAやドパミン,また代謝産物であるホモバニリン酸(HVA),バニリルマンデル酸(VMA)などを過剰産生する.しかし褐色細胞腫とは異なり,カテコールアミン過剰による症状は一般に多くない.そのほかVIPなど神経ペプチドの生成もみられる.
臨床症状
症状は,腫瘍の発生部位,播種や転移の程度によって異なる.多くは上腹部に発生し,硬く表面不整で無痛性の腹部腫瘤として認められる.転移は1歳以上の症例に多く,リンパ節,長管骨,頭蓋骨,骨髄,肝臓,皮膚の頻度が高い.肺と脳への転移はまれとされる.局所浸潤,血行性,リンパ行性のいずれも可能で,転移した部位に応じた症状を呈する.上頸部神経節に発生すればHorner症候群,傍脊椎神経節に発生すれば脊髄神経根圧迫症状を生じる.自己免疫性の腫瘍随伴症候群(opsoclonus-myoclonus-ataxia症候群)をきたすこともある.まれにカテコールアミン過剰による発汗や血圧上昇,VIP過剰による水様性下痢(Kerner-Morrison症候群)を呈することがある.
診断
尿中のカテコールアミン代謝産物の測定が最も重要である.尿中VMA,HVA,ドパミンの増加が95%の症例で認められる.特にVMAの尿一滴法(spot test)は簡便であり,本症のスクリーニングとして用いられる.これらは本症の診断とともに,治療の経過をみる上でも有用である.ただし前述のように,1歳未満でのスクリーニングは,家族性の場合を除き勧められない.
エコー,単純X線,CT,MRIにおいて,腫瘍内に石灰化や出血が認められる.123I-MIBGシンチグラフィや骨シンチグラフィは,転移巣の検索にも有用である. 組織所見は診断とともに悪性度の判定に重要であり,原発腫瘍の生検や,骨髄転移の疑われる症例では骨髄穿刺が行われる.骨髄穿刺では腫瘍細胞は小円形で青色を呈し,花冠状の集塊(rosette)を形成する.
治療
治療方針の決定に当たっては,まず患者の診断時年齢,腫瘍のステージ分類,腫瘍の組織学的・分子遺伝学的特徴(Shimada病理分類,MYCN遺伝子増幅の有無,DNAの倍数性,特定の染色体の重複や欠失など)からリスク分類を行う.ステージ分類には現在INSS(international neuroblastoma staging system)がおもに用いられており,さらに画像診断の結果を加味したINRGSS(international neuroblastoma risk group staging system)も作成されている.低リスクの(自然退縮が期待できる)症例にはできる限り侵襲を伴う治療を避け,高リスクの症例には思い切って強力な集学的治療を行うのが最近の趨勢である.リスクに応じて治療は層別化され,経過観察のみから外科的切除,さらに化学療法(シクロホスファミド,シスプラチン,カルボプラチン,エトポシド,ドキソルビシン,トポテカン,ビンクリスチンの少量~大量,単剤~多剤併用),自己造血幹細胞移植(ASCT),放射線療法,シスレチノイン酸などを適宜組み合わせて行う.現在131I-MIBG内照射療法,抗ジシアロガングリオシドGD2モノクローナル抗体+GM-CSF療法,抗腫瘍ワクチンなどの効果が検討されている.
予後
5年生存率は全体で74%(1999〜2005年)とされるが,各症例のリスク(上記)によって大きく異なる.一般に診断時年齢が若いほど予後はよい.腫瘍が限局性で肉眼的に完全切除され(ステージ1),腫瘍の組織学的・分子遺伝学的特徴が良好の場合5年生存率は98%以上であるが,遠隔転移があり(ステージ4),腫瘍の特徴が不良で診断時年齢が18カ月以上の場合は集学的治療を行っても約30%とされる.例外的に,遠隔転移が皮膚,肝臓,骨髄のみで1歳までに診断された場合(ステージ4S)は経過観察のみでも80%をこえる.[荒井宏司]
■文献
Kliegman RM, et al: Nelson Textbook of Pediatrics, 19th ed, pp1753-1757, Elsevier Saunders, Philadelphia, 2011.
Maris JM: Recent advance in neuroblastoma. N Engl J Med, 362: 2202-2211, 2010.
出典:内科学 第10版
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六訂版 家庭医学大全科
神経芽細胞腫
しんけいがさいぼうしゅ
Neuroblastoma
(子どもの病気)
どんな病気か
子どものがんのなかでは
副腎にできた時は、おなかの奥のほうに硬いしこりが触れることで見つかりますが、しこりが小さい時は気づかれません。背骨の両側にできたものは、
進行が早く、骨、
症状の現れ方
初期の段階では、何となく元気がない、食欲が落ちた、時々腹痛を訴える程度の軽い症状しかありません。やがて発熱や貧血、おなかのしこり、
このがんはアドレナリン系の物質を作り出すために、これが大量に尿中に排泄されます。そのため早期発見の手がかりとして、生後6カ月の赤ちゃんを対象に集団(マス)スクリーニングによる尿検査が行われてきました。ところが、海外で集団スクリーニングの有効性について疑問があるという報告が出され、日本では2003年に集団スクリーニングを休止することになりました。
治療の方法
早く見つかれば、手術でがんを取り除くことが可能です。抗がん薬で先に治療を始めて、がんが小さくなった時点での手術も行われています。進行していれば手術後に抗がん薬が使われますが、場合によっては放射線を照射するなどの治療が組み合わされます。
集団スクリーニングで見つかるような乳児期のタイプの多くは、がんの性質が悪くないのでほとんどが治ります。しかし1歳以後で進行したタイプは、強い治療を行ってもその結果がまだ十分にでるとはいえません。
病気に気づいたらどうする
おむつ替えやお風呂に入れた時など、時々おなかの様子を観察してください。おなかに硬いしこりやふくらみ、尿の回数が増えたなどの症状を見つけたら、すぐに小児科を受診します。顔色が悪い、食欲や元気がないという症状がこのような病気でみられることもあり、その際には医師によく調べてもらいます。
神経芽細胞腫は進行が早く、全身に転移しやすいがんなので、初期のうちに発見し、一刻も早く治療を始めることが望まれます。
片岡 哲
出典:法研「六訂版 家庭医学大全科」
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デジタル大辞泉
しんけいがさいぼう‐しゅ〔シンケイガサイバウ‐〕【神経芽細胞腫】
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