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肝がん(肝細胞がん)

EBM 正しい治療がわかる本

肝がん(肝細胞がん)
どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 肝臓から発生する肝がんのほとんどは、肝細胞(かんさいぼう)に由来する肝細胞がんです。ほかに胆管(たんかん)の上皮細胞(じょうひさいぼう)からできる胆管細胞がんがあります。また、ほかの臓器にできたがんが肝臓に転移したものを転移性肝がんといい、頻度的(ひんどてき)には肝細胞がんや胆管細胞がんより多くみられます。
 肝がんに特有の症状はありませんが、病気の初期には上腹部の痛み・不快感、腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)、食欲不振、倦怠感(けんたいかん)などの症状がみられます。原因不明の発熱がおこることもあります。進行すると黄疸(おうだん)(顔や体が黄色くなること)がでたり、腹水(ふくすい)がたまったりします。ほかの臓器に転移してはじめて症状が現れることもあります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 肝細胞がんは主としてB型肝炎あるいはC型肝炎ウイルスに伴う慢性肝炎、肝硬変などの持続性壊死(じぞくせいえし)・炎症および線維化(せんいか)をベースに発がんをきたす肝細胞由来の悪性腫瘍(あくせいしゅよう)です。わが国ではC型肝炎に基づく肝細胞がんが多いため、その80~90パーセントに肝硬変(かんこうへん)を併存しています。しかしながら、B型肝炎およびC型肝炎ウイルス感染者から高率に発がんするということは、逆に肝細胞がんのハイリスク群の設定が可能ということであり、結果としてがんの早期発見が可能であるというのも特徴のひとつです。
 肝細胞がんの原因としてはB型肝炎ウイルス(15パーセント程度)、およびC型肝炎ウイルス(75~80パーセント程度)の長期にわたる感染の継続と、肝臓の組織の壊死・炎症がもととなって発症する患者さんが大半を占めます。そのほかの5~10パーセント程度のいわゆる非B型・非C型肝がんのなかには、各種の肝炎ウイルス感染が原因ではない肝硬変(原発性胆汁性肝硬変(げんぱつせいたんじゅうせいかんこうへん)、自己免疫性肝炎(じこめんえきせいかんえん)、アルコール性肝硬変、Budd-Chiari症候群など)が含まれます。さらに最近では、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH=non-alcoholic steatohepatitis)から肝硬変へと進展した場合の、発がん率の高さが注目されています。
 そのほか、欧米では肥満糖尿病がある人は肝がんの発がん率が高いことが報告されています。日本でも近年、そのような肥満、糖尿病、高脂血症を合併するNASH、burnedoutNASH(炎症が進んで肝硬変に至った状態)からの発がんが注目されています。

●病気の特徴
 肝がんで亡くなる日本人の数は年間に約3万人です。7対3の割合で男性に多く、40~70歳代に多くみられます。発症のピークは50歳代です。がんの部位別にみた人口10万人あたりの年齢調整死亡率は、男性では肺、胃、大腸に次いで肝がんは第4位、女性では大腸、肺、結腸、以下ほかのがんに次ぐ第7位の高さでした(2014年厚生労働省人口動態統計)。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック



[治療とケア]ウイルス性慢性肝炎・肝硬変の患者さんは定期的な検査を受け、肝がんの早期発見に努める
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 現在わが国ではB型肝硬変・C型肝硬変の患者さんに対しては、肝がんの超危険群として3~4カ月ごとの超音波検査、腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-Ⅱ、AFPレクチン分画(AFP-L3))の測定、6~12カ月ごとのCT/MRI(option)検査を勧めています。

[治療とケア]肝切除術を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 肝臓をいくつかの区域に分けて、系統的に切除します。ベースにある肝障害の程度と腫瘍の大きさによって、生存率に差があることが信頼性の高い臨床研究で報告されています。一般に、肝障害が軽度で腫瘍の大きさが5センチメートル未満、単発、脈管侵襲(みゃっかんしんしゅう)なし、血清Albが40グラム/リットル未満、pTNMステージⅠ、Ⅱの場合は、長期的に良好な経過が期待できると思われます。(1)~(4)

[治療とケア]肝動脈化学塞栓術(かんどうみゃくかがくそくせんじゅつ)(TACE)/肝動脈塞栓術(TAE)を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 薬を注入して肝動脈を塞(ふさ)ぐことで、がん細胞への血流の供給を断ち、がんを死滅させる方法です。一般に、外科的切除が不能で、ほかの内科的な治療も適応外となる患者さんに対して行われます。腫瘍を縮小させる効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって認められています。また、1~2年の生存率の向上が報告されている論文もあります。(5)~(8)

[治療とケア]ラジオ波焼灼術(RFA)を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] ラジオ波でがんを加熱して、死滅させる方法です。腫瘍径が3センチメートル以下の肝細胞がんを対象にした場合、ラジオ波焼灼術のほうが経皮的エタノール注入療法より、がんが完全に壊死(えし)しやすい傾向があります。(9)

[治療とケア]経皮的エタノール注入療法(PEIT)を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 超音波検査でがんの正確な位置を確認し、そこに注射で濃度100パーセントのエタノール(純アルコール)を注入して、がんを死滅させる方法です。大きさが5センチメートル以下の腫瘍であれば、70パーセントは完全に死滅できることが信頼性の高い臨床研究によって認められています。しかし、肝細胞がんでは局所再発する確率が高いため、適応を見きわめなければなりません。(10)(11)

[治療とケア]肝移植を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 肝臓の状態やがんの大きさ、数などによっては肝移植が可能な場合があります。しかし、移植後の再発やドナー(移植のための臓器提供者)の問題があり、治療を行えるのは限られた専門施設のみになります。(12)~(14)

[治療とケア]化学療法を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 手術療法や肝動脈化学塞栓術などの局所療法による治療が難しい患者さんの場合、分子標的薬や抗がん薬などを用いた化学療法が行われます。(15)(16)
 ただし、現時点ではPS(performancestatus)が良好で肝機能がChildPugh分類Aの症例のみでマルチキナーゼ阻害薬(ソラフェニブトシル酸塩)の有用性が証明されています。(17)(18)

[治療とケア]肝動注化学療法を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 肝動注化学療法を行った場合、腫瘍の縮小効果が認められるものの、生存期間については報告にばらつきがみられ、生存期間の延長を十分に証明した報告はありません。肝動注化学療法には予後改善の可能性があると考えられていますが、十分なエビデンスはないため、今後さらに研究が必要とされています。(19)

[治療とケア]再発の予防を目的として抗ウイルス薬を用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] がんを除去したのちに、再発を予防するために抗ウイルス薬を用いることが専門家の意見や経験から支持されています。(20)~(23)

[治療とケア]放射線療法を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 他の標準的な治療法が適応にならない病態に対しては放射線療法が適応になることもありますが、まだ科学的根拠がある推奨はありません。切除不能症例に対してはTACEに放射線療法を併用することによって生存期間の延長が期待できます。(24)


よく使われている薬をEBMでチェック

分子標的薬
[薬名]マルチキナーゼ阻害薬:ネクサバール(ソラフェニブトシル酸塩)(15)(16)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 腫瘍の増殖を抑制する薬で、手術療法や肝動脈化学塞栓術などの局所療法による治療が難しい進行肝細胞がんにおいて使用することが推奨されています。適応となるのは肝障害度Aの肝機能が良好な患者さんで、その治療効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。

抗ウイルス薬
[薬名]ハーボニー(レジパスビルアセトン付加物・ソホスブビル配合剤)(21)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ヴィキラックス(オムビタスビル水和物・パリタプレビル水和物・リトナビル配合剤)(22)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ダクルインザ(ダクラタスビル塩酸塩)+スンベプラカプセル(アスナプレビル)の2剤併用(23)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 肝がんの原因となるC型慢性肝炎・代償性C型肝硬変の患者さんの発がん予防には、抗ウイルス薬の内服による肝炎ウイルスの駆除療法が推奨されます。これらの薬による治療効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
もっとも確実な治療法は外科的切除
 いずれの治療法を用いても、腫瘍の大きさと数(複数の場所からがんが発生すると考えられています)、肺や脳、骨、副腎(ふくじん)などへの遠隔転移の有無により、治療後の経過は著しく異なります。
 現在のところ、遠隔転移がなく、切除可能な場所だけに発生している肝細胞がんにおいては、治癒が期待できる唯一の治療法は外科的切除と考えられます。

手術以外の治療方法なども
 外科的切除以外の治療法としては、血管造影下での肝動脈化学塞栓術(TACE)/肝動脈塞栓術(TAE)やラジオ波焼灼術(RFA)などが一般的ですが、肝移植が可能なこともあります。しかし、いずれも切除術にまさる効果は明確ではなく、腫瘍の大きさや数によって治療後の経過が決定されます。

慢性肝炎や肝硬変があれば、定期検査を
 外科的切除による治癒を可能にするためには、できるだけ早期にがんを発見することが必要です。肝がんのリスクが高い慢性肝炎(B型、C型)や肝硬変の患者さんは、3カ月に1回程度、血液検査と肝臓の超音波検査でチェックを受けるべきです。

化学療法を行う
 PSの保たれている肝障害Aの状態ではマルチキナーゼ阻害薬のネクサバール(ソラフェニブトシル酸塩)が有効です。ただし、ネクサバール(ソラフェニブトシル酸塩)は治療開始早期に手足症候群や皮疹(ひしん)、下痢(げり)、高血圧症などがおこる可能性があり慎重に経過観察する必要があります。

(1)肝癌診療ガイドライン改訂委員会編. 肝癌診療ガイドライン2013年版. P87. 日本肝臓学会. 2013.
(2)Paquet KJ, Koussouris P, Mercado MA, et al. Limited hepatic resection for selected cirrhotic patients with hepatocellular or cholangiocellular carcinoma: a prospective study. Br J Surg. 1991;78:459-462.
(3)Cottone M, Virdone R, Fusco G, et al. Asymptomatic hepatocellular carcinoma in Child's A cirrhosis. A comparison of natural history and surgical treatment. Gastroenterology. 1989;96:1566-1571.
(4)Takayama T, Makuuchi M, Hirohashi S, et al. Early hepatocellular carcinoma as an entity with a high rate of surgical cure. Hepatology. 1998;28:1241-1246.
(5)A comparison of lipiodol chemoembolization and conservative treatment for unresectable hepatocellular carcinoma. Grouped'Etude et de Traitement du CarcinomeHepatocellulaire. N Engl J Med. 1995;332:1256-1261.
(6)Pelletier G, Ducreux M, Gay F, et al. Treatment of unresectable hepatocellular carcinoma with lipiodol chemoembolization: a multicenter randomized trial. Groupe CHC. J Hepatol. 1998;29:129-134.
(7)Bruix J, Llovet JM, Castells A, et al. Transarterial embolization versus symptomatic treatment in patients with advanced hepatocellular carcinoma: results of a randomized, controlled trial in a single institution. Hepatology. 1998;27:1578-1583.
(8)Llovet JM, Bruix J. Systematic review of randomized trials for unresectable hepatocellular carcinoma: Chemoembolization improves survival. Hepatology. 2003;37:429-442.
(9)Livraghi T, Goldberg SN, Lazzaroni S, et al. Small hepatocellular carcinoma: treatment with radio-frequency ablation versus ethanol injection. Radiology. 1999;210:655-661.
(10)Livraghi T, Giorgio A, Marin G, et al. Hepatocellular carcinoma and cirrhosis in 746 patients: long-term results of percutaneous ethanol injection. Radiology. 1995;197:101-108.
(11)Livraghi T, Benedini V, Lazzaroni S, et al. Long term results of single session percutaneous ethanol injection in patients with large hepatocellular carcinoma. Cancer. 1998;83:48-57.
(12)肝癌診療ガイドライン改訂委員会編. 肝癌診療ガイドライン2013年版. P106. 日本肝臓学会. 2013.
(13)McPeake JR, et al.Liver transplantation for primary hepatocellular carcinoma:tumor size and number determine outcome. JHepatol. 1993;18:226-234.
(14)日本肝移植研究会. 肝移植症例登録報告. 移植. 2013;47:416-428.
(15)Llovet JM,et al;SHARP Investigators study group. Sorafenib in advanced hepatocellular carcinoma. NEJM. 2008:359(4):378-90.
(16)Cheng AL, et al. Efficacy and safety of sorafenib in patients in the Asia -Pacific region with advanced hepatocellular carcinoma :a phase IIIrandomized, double blind, placebo-controlled trial.LancetOncol. 2009:10(1) 25-34.
(17)肝癌診療ガイドライン改訂委員会編. 肝癌診療ガイドライン2013年版. P145. 日本肝臓学会. 2013.
(18)肝癌診療ガイドライン改訂委員会編. 肝癌診療ガイドライン2013年版. P148. 日本肝臓学会. 2013.
(19)肝癌診療ガイドライン改訂委員会編. 肝癌診療ガイドライン2013年版. P147. 日本肝臓学会. 2013.
(20)肝癌診療ガイドライン改訂委員会編. 肝癌診療ガイドライン2013年版. P177. 日本肝臓学会. 2013.
(21)Mizokami M, Yokosuka O, Takehara T, et al. Ledipasvir and sofosbuvir fixed-dose combination with and without ribavirin for 12 weeks in treatment-naive and previously treated Japanese patients with genotype 1 hepatitis C: an open-label, randomised, phase 3 trial. The Lancet Infectious diseases. 2015;15:645-653.
(22)Kumada H, Chayama K, Rodrigues L, Jr., et al. Randomized phase 3 trial of ombitasvir/paritaprevir/ritonavir for hepatitis C virus genotype 1b-infected Japanese patients with or without cirrhosis. Hepatology. 2015;62:1037-1046.
(23)Chayama K, Suzuki F, Suzuki Y, et al. All-oral dual combination of daclatasvir plus asunaprevir compared with telaprevir plus peginterferon alfa/ribavirin in treatment-naive Japanese patients chronically infected with HCV genotype 1b: results from a phase 3 study. Hepatology. 2014;60:1135A.
(24)肝癌診療ガイドライン改訂委員会編. 肝癌診療ガイドライン2013年版. P161. 日本肝臓学会. 2013.

出典:法研「EBM 正しい治療がわかる本」
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