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肝臓がん【かんぞうがん】

日本大百科全書(ニッポニカ)

肝臓がん
かんぞうがん
liver cancerhepatic cancerhepatoma

定義

肝臓にみられるがん。肝臓の組織から発生する原発性肝がんと、他臓器からの転移による転移性肝がんに二分される。
 このうち原発性肝がんは、肝細胞に由来する肝細胞がん、胆管細胞由来の肝内胆管がん、肝細胞がんと肝内胆管がんの混合型肝がん、粘液嚢胞腺(のうほうせん)がん、小児の肝がんである肝芽腫(しゅ)などに分類されている。日本では原発性肝がんの9割以上を肝細胞がんが占めており、肝内胆管がんが5%弱、残りはその他の組織型である。肝細胞がんの多くは肝硬変を合併し、C型・B型肝炎ウイルスの関与が高率である。最近では、非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)からの肝細胞がんの発生が増加している。
 一方、転移性肝がんは、他の臓器に発生したがん細胞が、リンパや血液を流れて肝臓に移動し増殖したもので、大腸がん、胃がん、膵臓(すいぞう)がん、胆道がんなどの消化器がんからの転移がよくみられている。これらの多くは、消化器臓器の栄養血管である門脈を経由して肝臓へ転移している。ほかに乳がん、肺がん、頭頸(とうけい)部がん、子宮がん、卵巣がん、腎(じん)がんなどからの転移もある。
 一般に肝がんといえば、原発性の肝がん、なかでも発生頻度の高さから肝細胞がんをさしていることが多い。[渡邊清高]

疫学・病因(危険因子)


統計
日本において2015年(平成27)に肝がん(原発性肝がん)で死亡した人は2万8889例である。このうち男性1万9008例、女性9881例であり、それぞれがん死亡全体の8.7%、6.6%を占めている。部位別にみると肺がん、大腸がん、胃がん、膵臓(すいぞう)がんに次いで第5位(男性第4位、女性第6位)の死亡数となっている。死亡数の年次推移は、2002年の3万4637例をピークに、徐々に減少傾向に転じている。年齢階級別の死亡率をみると、男性では45歳前後から、女性は55歳前後から増加し、高齢になるほど高くなる。
 2013年の肝がん罹患(りかん)数(全国推計値)は4万0938例である。男性2万7335例、女性1万3603例で、それぞれがん罹患全体の5.5%および3.7%を占めている。部位別の罹患数をみると、男性は胃がん、大腸がん、前立腺(せん)がん、肺がんに次いで第5位、女性は乳がん、大腸がん、胃がん、肺がん、子宮がん、膵臓がんに次いで第7位となっている。罹患数の年次推移は、2008年の4万8512例をピークに、わずかずつ減少がみられる。年齢階級別罹患率では、男性は45歳前後から高くなり70歳代まで増加し、女性では55歳前後から高くなる。
 罹患数と死亡数に大きな差がみられないのは、肝がん罹患者の生存率が低いことを示すものである。実際に2006~2008年に肝がんと診断された人の5年相対生存率は32.6%(男性33.5%、女性30.5%)であり、がん全体の62.1%(男性59.1%、女性66.0%)と比べても低い傾向にある。
 経年的な推移をみるうえで、人口の高齢化の影響を除き、一定の年齢構成に調整した数値を比較する。年齢調整死亡率の年次推移は、男女とも1995年(平成7)をピークに減少傾向がみられる。年齢調整罹患率は、男性では1995年以降減少、女性は横ばい傾向にある。
 肝がん死亡率および罹患率を出生年代別にみていくと、男女とも1935年(昭和10)前後の出生者で高い。この年代は、日本における肝がんの主要因であるC型肝炎ウイルスの抗体陽性者の割合が高い世代に相当する。
 肝がんは分布に地域性がみられ、罹患率の国際比較では、日本を含む東アジア地域が高い。国内では、東日本より西日本のほうが死亡率が高い(データ出典:国立がん研究センターがん対策情報センター)。[渡邊清高]
要因
肝細胞がんは、子宮頸(けい)がんや胃がんのように、発生要因が感染による慢性炎症に伴うことが明らかになっているがんの一つである。C型肝炎ウイルス(HCV)およびB型肝炎ウイルス(HBV)の関与と、環境因子の影響が大きい。日本では、肝細胞がん患者の約80%にC型またはB型肝炎ウイルスの持続感染がみられる。慢性肝炎になると、長期にわたって炎症が続くことで肝臓の線維化が進み、肝硬変や肝がんに進展していく。肝硬変の場合は年率8%程度の割合で肝がんが発生するため、発がんの高危険群といえる。
 B型肝炎ウイルスの持続感染は、全世界規模でみるともっとも重要な肝細胞がんの危険因子である。B型慢性肝炎のなかでも肝硬変を有する者は、さらにリスクが高い。一方で、肝硬変を伴わない慢性肝炎や肝炎のないキャリア(ウイルス保有者)からも発がんがみられることがあるため、定期的なフォローアップが必要となる。C型肝炎ウイルスの持続感染もB型肝炎ウイルスと並ぶ重要な危険因子であり、日本をはじめ一部の欧米諸国では、肝細胞がんの第一の原因となっている。C型肝炎を背景とした肝細胞がんは、そのほとんどが肝硬変を経てから発がんを認める。
 肝硬変は、B型・C型肝炎ウイルスが陰性の場合でも、肝細胞がんの危険因子となる。ほかに男性、高齢、アルコール多飲、喫煙、カビ毒のアフラトキシン(日本ではまれ)、さらには肥満や糖尿病などの生活習慣病との関連も示唆されている。最近では、アルコール摂取歴がほとんどない非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)からの発症が増加傾向にある。一方で、コーヒー飲用者でリスクが低下することを示す報告があり、メカニズムの解明が待たれる。
 肝内胆管がんの危険因子は、淡水魚を生食することで感染する肝吸虫の持続感染などが知られており、タイ東北部でよくみられる。肝細胞がんにみられるような肝炎ウイルスとの強い関連はないが、B型・C型肝炎ウイルスの持続感染を示すHBs抗原やHCV抗体陽性例が通常より高率にみられる。また、慢性肝炎や肝硬変の合併例もみられる。
 これらを背景に、日本における肝がん予防対策は、肝炎ウイルスの感染予防、感染の有無を知るためのスクリーニング検査、そして持続感染者に対する肝炎治療および定期的なフォローアップを柱として進められている。[渡邊清高]

分類


病理組織学的分類
原発性肝がんは「原発性肝癌(がん)取扱い規約(第6版)」によると、肝細胞がん、肝内胆管がん、細胆管細胞がん、粘液嚢胞腺(のうほうせん)がん、混合型肝がん、肝芽腫(しゅ)、未分化がん、その他に分類されている。
 このうち肝細胞がん(hepatocellular carcinoma:HCC)は、肝細胞に類似した組織・細胞形態を示す上皮性悪性腫瘍(しゅよう)で、多くは肝硬変を併存する。日本では、原発性肝がんの9割以上を肝細胞がんが占める。
 肝内胆管がん(intrahepatic cholangiocarcinoma)は、肝内に発生した胆管上皮に由来する上皮性悪性腫瘍で、胆管細胞がんともよばれる。肝硬変の併存は少なく、原発性肝がんのなかで2番目に多く、5%弱を占める。肝細胞がんと肝内胆管がんは臨床像、治療法、予後が大きく異なり、まったく別の疾患と認識する必要がある。
 このほかの組織型はすべてあわせても1%に満たず、ごくまれである。混合型肝がんは、単一の腫瘍内に肝細胞がんと肝内胆管がんの成分が混ざり合っているものである。肝芽腫(hepatoblastoma)は小児の肝がんとしてもっとも多い腫瘍であり、1歳をピークとして発症する。[渡邊清高]
浸潤・転移様式
肝細胞がんは、進行しても比較的肝内に病変がとどまることが多く、初発時にはリンパ節転移を含めた肝外転移の頻度は低い。進行に伴って肝外転移が出現するようになる。転移部位として、肺、骨、リンパ節、副腎(ふくじん)、腹膜などがよくみられる。
 肝内での発育様式は、がんと周囲の肝組織との境界が明瞭な膨張性発育と、境界が不明瞭な浸潤性発育に分類される。膨張性発育を示す腫瘍では、周囲への浸潤は少なく圧排のみであることが多いが、浸潤性発育を示すものは胆管、門脈、肝静脈への脈管浸潤を早期に伴い、悪性度が高い場合が多い。脈管浸潤は黄疸(おうだん)、胆道出血、肝機能低下、門脈圧亢進(こうしん)による胃食道静脈瘤(りゅう)、肝外転移の原因となる。肝細胞がんはしばしば再発がみられるが、血行性による肝内転移と、新たながんが発生する多中心性発生の再発様式がある。
 肝内胆管がんは、肉眼的には腫瘤(しゅりゅう)形成型、胆管浸潤型、胆管内発育型に分けられ、組織型は基本的に腺がんである。[渡邊清高]

症状・症候

肝細胞がんは通常無症候性で、腹部超音波検査などの画像診断などにより発見されることが多く、症状の出現は病勢が進行してから認められることが多い。一方で、がんそのものより併存する肝硬変などの慢性肝障害に伴う症状を有することも多く、倦怠(けんたい)感、浮腫(しゅ)、腹水などの頻度が高い。これらは腫瘍(しゅよう)そのものによる肝機能障害の症状と厳密な区別はできず、肝硬変と腫瘍のいずれも進行すれば肝不全に至り、黄疸(おうだん)や肝性脳症がみられるようになる。また、肝硬変に伴う低栄養、門脈圧亢進(こうしん)による腹水や便秘、下痢、食道胃静脈瘤(りゅう)破裂も、肝細胞がん患者で問題となっている。とくに門脈腫瘍栓を有する患者では、これらが急激に悪化することがある。
 腫瘍そのものによる症状として、腫瘍の増大や腫瘍内出血による圧迫感や疼痛(とうつう)(痛み)などがある。肝細胞がんは多血性のため、腫瘍破裂による腹腔(ふくくう)内出血を起こすことがあり、この場合は急激に進行する貧血やショック、腹部の疼痛を伴う。その他、肝外転移が生じた場合には、転移部位により各々症状がみられる。
 肝内胆管がんも早期には症状を認めず、胆管閉塞(へいそく)による黄疸や胆管炎に伴う発熱などが症状となることが多い。検診などの血液検査で胆道系酵素の異常、スクリーニングの超音波検査で肝内胆管の拡張や肝腫瘍が検出され、それを契機に診断されることも少なくない。[渡邊清高]

検査・診断


検査・診断
(1)肝細胞がんの診断
 肝細胞がんの多くは無症候であり、ほとんどが慢性肝炎や肝硬変などの慢性肝疾患を背景にもち、その経過観察中に発見されることが多い。「科学的根拠に基づく肝癌(がん)診療ガイドライン」では、超高危険群としてC型・B型肝硬変の患者を、高危険群としてC型・B型慢性肝炎の患者と肝硬変(C型・B型肝炎を除く)の患者を設定している。肝細胞がんの早期発見には、慢性肝炎や肝硬変などの肝発がんのリスクの高い患者を同定し、定期的に腫瘍(しゅよう)マーカー検査や画像診断を行い経過観察していくことが重要である。
(a)腫瘍マーカー
 腫瘍マーカーは、がんの存在に関連して増加あるいは変化する物質の総称で、血液などの体液中から測定可能なものである。肝細胞がんの腫瘍マーカーとしては、α(アルファ)フェトプロテイン(AFP)、PIVKA-(ピブカ・ツー)、AFPレクチン分画(AFP-L3)の3種類が広く用いられている。ただし、腫瘍サイズが小さいほど感度は低下する傾向があり、早期診断には限界がある。
(b)超音波検査
 簡便で非侵襲的(痛みを伴わない)であり、スクリーニング検査として広く用いられる。超音波造影剤ペルフルブタン(ソナゾイド)を使用することで肝細胞がんの診断能が向上するため、肝腫瘍の質的診断や肝細胞がん治療後の遺残、再発などの治療効果判定にも有用である。
(c)CT・MRI
 肝細胞がんの確定診断のためには、造影CTまたは造影MRIが行われるが、その際には動的検査(dynamic study)が必須(ひっす)である。典型例では、造影早期の動脈相で強い造影増強効果がみられ、造影後期には相対的に低吸収を示す。ガドキセト酸ナトリウム(Gd-EOB-DTPA、プリモビスト)は、肝細胞に取り込まれる性質をもつMRI用造影剤で、早期肝細胞がんの検出に優れている。
 典型的な画像所見がみられ、腫瘍マーカーAFPの上昇を伴う場合には、肝細胞がんの診断が可能である。このような場合には、確定診断を目的とした組織学的検査は不要と考えられており、これにより、腫瘍の穿刺(せんし)によるがん細胞の播種(はしゅ)のリスクを避けることが可能となっている。ただし、2センチメートル以下の小病変や腫瘍濃染像が認められないなど、正確な診断を必要とする場合には、組織生検が必要である。
 肝細胞がんの鑑別診断としては、限局性結節性過形成、血管筋脂肪腫、血管腫、肝細胞腺腫(せんしゅ)、一部転移性肝がんなど腫瘍濃染を認める腫瘍があげられる。
(2)肝内胆管がんの診断
 肝内胆管がんの確定診断には、画像診断と病理学的診断が必要である。典型例ではCT、MRIの造影早期に辺縁にリング状の造影効果を認め、経時的に強く造影される。胆管上皮由来で胆道閉塞(へいそく)を伴うことより、腫瘍の末梢(まっしょう)の胆管に拡張を認めることは比較的特異的な所見とされる。このような画像所見がみられ、病理所見で腺がんの診断が得られた場合でも、消化器がんや肺がんなどからの転移の可能性は否定できない。そのため、上下部内視鏡検査や胸部CTなどで、他の原発巣の有無について検索が行われる。肝内胆管がんに特異的な腫瘍マーカーはないが、がん胎児性抗原(CEA)や糖鎖抗原19-9(CA19-9)が補助的に用いられている。[渡邊清高]
病期・肝障害度
(1)病期分類
 病期(stage)とは、がんの進行の程度を示すもので、日本では「原発性肝癌取扱い規約」の進行度分類や、国際対がん連合(UICC:Union for International Cancer Control)のTNM分類に基づいて病期分類が行われている。いずれも腫瘍数、腫瘍径、脈管浸潤からなるT因子、リンパ節転移のN因子、および遠隔転移のM因子の三つの因子から分類される。肝細胞がん、肝内胆管がんともに、進行度分類ではstageA、Bの5段階に分類される。これらの病期分類は予後との関連が認められるが、治療法の選択については、さらに肝機能、がんの性状や占拠部位などを考慮することが必要となる。
(2)肝障害度分類
 治療の選択や予後の推定にあたっては、がんの進行度に加え、肝臓の機能がどの程度保たれているかを念頭に置くことが重要である。肝障害度の評価は、「原発性肝癌取扱い規約」の肝障害度や、チャイルド・ピュー(Child-Pugh)分類(肝障害度を評価する国際的な重症度分類)が用いられる。いずれも臨床所見、血液検査所見をもとに評価し、AからCの順で肝障害の程度が強いことを表す。[渡邊清高]

治療


肝細胞がんの治療
(1)おもな治療方法
 肝細胞がんは肝硬変などの慢性肝障害を背景にもつことが多いことから、治療法の選択には、がんの進行度に加えて肝障害の程度も考慮することが重要となる。肝がんの治療は、外科療法(手術)、穿刺(せんし)局所療法、肝動脈塞栓(そくせん)療法といった局所治療が中心となる。「科学的根拠に基づく肝癌(がん)診療ガイドライン」では、病態に応じた治療法の選択基準として、「エビデンスに基づく肝細胞癌治療アルゴリズム」が推奨されている。アルゴリズムは肝障害度、腫瘍(しゅよう)数、腫瘍径の3因子をもとに設定され、これらの組合せによって推奨される治療方法が提示されている。
(2)外科療法(手術)
(a)肝切除
 肝切除は、がんを含む肝組織を部分切除するもので、もっとも根治性が高い局所治療であるが、肝機能を評価し、切除後の肝機能を考慮したうえで検討される。黄疸(おうだん)や腹水がみられるなど、肝機能が十分でない場合、術後肝不全の危険が高まるため、他の治療法が選択される。
(b)肝移植
 肝移植は、肝細胞がんのみならず、背景にある障害肝も同時に治療できる可能性のある治療法である。非代償性肝硬変を伴い、他の治療では制御不能な肝細胞がんに対し考慮される。日本では脳死肝移植はほとんど進んでいないが、おもに近親者から肝臓の一部の提供を受けるかたちでの生体肝移植が行われている。術後の拒絶反応や、長期にわたる免疫抑制薬の内服、移植肝へのC型肝炎ウイルスの再感染といった課題もある。
(3)穿刺局所療法
 穿刺局所療法は、体の外から特殊な針をがんに直接刺し、腫瘍を死滅させる治療法である。1980年代の経皮的エタノール注入療法(percutaneous ethanol injection therapy:PEI)に始まり、経皮的マイクロ波凝固療法(percutaneous microwave coagulation therapy:PMCT)を経て、現在はラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法(radiofrequency ablation:RFA)が代表的治療と位置づけられている。腫瘍の数や大きさが限局している場合に検討される。一般的に手術に比べ低侵襲であるが、局所再発を起こすことがあるため、治療効果判定や治療後のフォローアップが行われる。肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization:TACE)と併用したラジオ波焼灼療法では、壊死(えし)範囲が拡大することが報告されている。
(4)肝動脈化学塞栓療法(TACE)
 腫瘍の栄養血管から抗がん薬および塞栓剤を注入することによって、腫瘍を選択的に死滅させる治療法である。肝切除、穿刺局所療法と比べると根治性が劣る。供血路である血管が確保できれば繰り返し治療が可能であり適応も広いことから、切除後あるいは穿刺局所療法後の再発例や初発例に対して広く行われる。
 油性造影剤イオダイズドオイル(リピオドール)が腫瘍内に停滞することを利用して、リピオドールと抗がん薬の混合液(リピオドールエマルジョン)の注入後に、塞栓物質を注入する。塞栓物質としては、球状の多孔性ゼラチン粒(ジェルパート)などを用いる。最近では、薬剤溶出性ビーズ(DEB)が用いられるようになっている。使用する抗がん薬については定まっていないが、アントラサイクリン系薬剤や白金製剤が用いられることが多い。TACE後効果判定を行い、必要な場合には追加治療が行われる。
(5)化学療法
 肝細胞がんの化学療法には、全身化学療法と肝動脈内注入(肝動注)化学療法がある。全身化学療法は、外科切除や肝移植、穿刺局所療法、肝動脈化学塞栓療法のいずれもが適応とならない症例が対象となる。
 ソラフェニブ(ネクサバール)は分子標的治療薬の一つで、肝細胞がんの増殖シグナルであるMAPキナーゼにおけるRafや、血管内皮細胞、周皮細胞でのVEGFR、PDGFRのキナーゼ活性を阻害することで腫瘍増殖を抑制する、マルチキナーゼ阻害薬である。ソラフェニブは、チャイルド・ピュー分類Aの切除不能肝細胞がん症例に対し、全生存期間と無増悪(ぞうあく)生存期間の有意な延長を認めている。日本では2009年(平成21)5月に保険適用となった。一方、ソラフェニブには分子標的治療薬ならではの毒性がみられ、手足症候群、脱毛、下痢、皮疹(ひしん)、高血圧、肝障害などの有害事象(副作用)が報告されている。肝動注化学療法については、インターフェロン全身投与とシスプラチンとの併用療法などにより生存期間の延長がみられた報告もあるが、十分な科学的根拠とはなっていない。
(6)放射線治療
 他の局所療法の適応困難な肝細胞がんに対して、陽子線、重粒子線といった粒子線治療の効果が期待されている。とくに門脈腫瘍栓や下大静脈腫瘍栓、巨大肝細胞がんなど、治療に難渋する腫瘍に対しては、放射線をあてる範囲を絞り込める放射線治療が有効と考えられている。肝細胞がんの遠隔転移に対しても、骨転移による疼痛(とうつう)の緩和を目的とする照射や、脳転移がみられる場合の生存期間延長を目的とした全脳照射や定位放射線照射による治療が勧められる。[渡邊清高]
肝内胆管がんの治療
肝内胆管がんに対する根治的治療としては、外科的切除があげられるが、実際には周囲臓器への浸潤や転移により切除不能の場合が少なくない。切除不能例は全身化学療法の適応となる。肝内胆管がんは症例数が少ないため、胆道がんと同様の治療による化学療法が検討される。化学療法としては、ゲムシタビンとシスプラチンの併用療法や、S-1単独、ゲムシタビンとS-1併用などの治療が行われる。[渡邊清高]

経過・合併症・予後


肝細胞がん
肝細胞がんの経過は、がんの進展に伴う肝障害の進行に加え、背景となる肝硬変などの肝機能の悪化が予後の規定因子となることが多い。肝性脳症や難治性腹水、胃食道静脈瘤(りゅう)破裂などの消化管出血も、病状の経過に伴い起こることが多い合併症である。とくに肝硬変や門脈腫瘍(しゅよう)栓を有する例ではリスクが高い。
 「第19回全国原発性肝癌(がん)追跡調査報告」における全症例の累積生存率は、1年83.6%、2年72.5%、3年62.1%、5年44.3%、10年20.5%である。進行度別の予後として、5年生存率はstage  74.3%、stage  62.5%、stage  43.5%、stage A 25.9%、stage B 18.7%と報告されている。肝障害度別ではA55.7%、B39.0%、C22.0%と報告されている。
 肝細胞がんは治療後も再発率が高いのが特徴の一つであり、5年で70~80%の再発率である。多くは肝内再発であり、肝外転移再発は少なく、診断から2年以内の経過観察中に3~4%出現しているのみである。頻度の高い転移部位として、リンパ節、肺、骨、副腎(ふくじん)などがあげられる。肝細胞がんの予後因子は、がん進行度と肝障害度である。「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン」には、予後因子の詳細について示されている。[渡邊清高]
肝内胆管がん
肝細胞がんに比べると初発時に肝外転移がみられることが多く、リンパ節転移を2割程度に認めるほか、肺、腹膜、および骨への転移の頻度が高い。腫瘍の局在によっては胆道閉塞(へいそく)に伴う黄疸(おうだん)や胆管炎が生じうる。
 「第19回全国原発性肝癌追跡調査報告」によると、全症例の累積生存率は、1年58.0%、2年41.7%、3年34.4%、5年24.8%、10年14.9%となり、肝細胞がんと比較して全体に予後不良である。肝内胆管がんの切除後予後因子としては、切除断端のがん陽性、リンパ節転移、血管浸潤、腫瘍数などがある。[渡邊清高]

その他

(1)肝炎対策基本法
 C型およびB型肝炎ウイルスによる慢性肝炎は、肝硬変や肝がんを引き起こす要因となることから、肝炎の予防や適切な治療を受ける体制を整える必要がある。慢性肝炎罹患(りかん)者が多いことや、1990年代以前の血液製剤や予防接種による感染被害が生じたことを踏まえ、2010年(平成22)に「肝炎対策基本法」(平成21年法律第97号)が施行された。本法には、肝炎の予防および早期発見の推進、肝炎医療の均てん化の推進、研究の推進などの施策を推進することが明記されている。[渡邊清高]
『日本肝臓学会編『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン 2013年版』(2013・金原出版) ▽日本肝癌研究会編『臨床・病理原発性肝癌取扱い規約』第6版(2015・金原出版) ▽日本肝臓学会編・刊『肝がん白書 平成27年度』pp.5~11(2015) ▽日本肝癌研究会追跡調査員会「第19回全国原発性肝癌追跡調査報告(2006~2007)」(『肝臓』57巻1号所収・pp.45~73・2016・日本肝臓学会) ▽国立がん研究センターがん対策情報センター『がん登録・統計 がん情報サービス』 http://ganjoho.jp/reg_stat/index.html』

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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四訂版 病院で受ける検査がわかる本

肝臓がん

 原発性肝臓がん(他からの転移によっておこるのではない肝臓がん)のほとんどを占める肝細胞がんは、慢性肝炎(B型、C型)や肝硬変を基礎疾患としてもっている患者に多く発生します(肝臓がん患者の約70%はC型、残りの約30%はB型)。これらの肝疾患のある人は、肝臓がんの高リスクグループと考え、継続的に検査を受けることが大切です。

●おもな症状

 初発症状としては、食欲不振、全身倦怠けんたい感、発熱、腹部膨満ぼうまん感、肝機能障害など。無症状でも、各種の画像診断や腫瘍マーカーの結果から発見されることも少なくありません。

①血液検査(肝機能検査)/腫瘍マーカー

  ▼

②腹部超音波

  ▼

③CT/MR/腹部(肝臓)血管造影/PET-CT

種々の血液検査と画像診断を活用

 何らかの症状があった場合には、まずスクリーニング(ふるい分け)のために肝機能検査(ASTALTγ-GTALPなど)やB・C型肝炎ウイルスの検査(HB関連抗原・抗体HCV抗体)などを行います。

 腫瘍マーカー(→参照)はAFPが80%程度、PIVKA-Ⅱが50%程度で陽性になり、AFPは再発の指標として治療(手術)後にも定期的に測定されます。また、AFPは慢性肝変、肝硬変でも陽性になることが多く、近年ではAFPの分画を調べます。L3分画(レクチン3分画)は肝臓がんで特徴的に陽性となります。

 次に、腹部超音波(→参照)、腹部CT(→参照)、MR(→参照)などによって画像診断を行い、腫瘍の有無、良性か悪性か、大きさ、個数などを総合的に検討していきます。良性か悪性かの判定のためには、病変の一部を採取する生検せいけんを行うこともあります。そして、必要に応じて腹部血管造影(→参照)を行い、腫瘍に栄養を与えている肝血管を確定します。

 腹部超音波は微小肝細胞がんの検出に有効で、1㎝程度でも発見が可能です。また、腹部血管造影(選択的腹腔動脈造影)は肝細胞がんと転移性肝がんの鑑別に有効です。

残された肝機能を損なわないように治療

 肝臓がんの場合は、慢性肝炎や肝硬変、閉塞性黄疸おうだんなどの肝障害を伴っていることが多く、残された肝機能がどれだけあるかによって治療方法の選択がかわってきます。

出典:法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」
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栄養・生化学辞典

肝臓がん
 →肝がん

出典:朝倉書店
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