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肺炎・肺化膿症

内科学 第10版

肺炎・肺化膿症(感染症)
定義・概念
 肺炎(pneumonia)とは,種々の原因による肺実質内の炎症の総称であるが,一般には,病原性微生物による感染性炎症を肺炎とよぶことが多い.炎症の主座の部位により,肺胞性肺炎と間質性肺炎に大別されるが,両者はしばしば混在して認められる.細菌性肺炎の内部が壊死に陥り膿瘍を形成した状態を肺化膿症(pulmonary suppuration)あるいは肺膿瘍(lung abscess)とよぶ.
分類
1)発症場所による分類:
a)市中肺炎 (community-acquired pneumonia:CAP):在宅で日常生活を送っている人に発症する肺炎である.
b)院内肺炎(hospital-acquired pneumonia:HAP):入院後48時間以降に発症する肺炎であり,宿主の免疫能低下を伴うことが多い.
c)医療・介護関連肺炎(nursing and health­care-associated pneumonia:NHCAP):高齢者の増加を背景とした新しい疾患概念であり,医療施設に定期的に接触のある人や要介護の人に発症する肺炎である.重症度や薬剤耐性菌の頻度は市中肺炎と院内肺炎の中間に位置する.
2)病変の広がりによる分類:
 a)大葉性肺炎:肺炎球菌,クレブシエラ,レジオネラ,マイコプラズマなどの肺炎でみられるもので,炎症が非区域性に広がり肺葉全体に広がる.
 b)気管支肺炎:小葉性肺炎,巣状肺炎ともよばれ,1本の気管支の支配する区域に炎症が認められる.
3)原因による分類:
 a)細菌性肺炎
 b)非定型肺炎:マイコプラズマやクラミドフィラ(クラミジア)などの非細菌性病原体による肺炎であるが,細菌性肺炎であってもレジオネラ肺炎はこれに分類される.
原因微生物
 肺炎の種類によって原因微生物の頻度に差異がみられる.表7-2-1に国内における市中肺炎,院内肺炎,医療・介護関連肺炎の原因微生物をあげる.肺化膿症(肺膿瘍)の原因菌は,口腔内容の誤嚥を反映して口腔内常在連鎖球菌,特にStreptococcus anginosusグループや嫌気性菌が多く,ほかに黄色ブドウ球菌やクレブシエラなどのGram陰性桿菌がみられる.
 免疫不全患者では上記の原因などに,日和見感染としてサイトメガロウイルスやニューモシスチス,真菌なども考慮する必要がある.
疫学
 わが国における肺炎の受療率は,2008年度の厚生労働省の統計によると,人口10万人対入院で29,外来で7であり,2011年の死亡率は人口10万対98.8で死亡順位の第3位(男性108.3で第3位,女性89.8で第4位)である.高齢者での罹患率,死亡率は増加し,80歳以上の男性では死因の第2位,90歳以上の男性の死因第1位となる.
病態生理
 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)などの病原微生物が肺胞に到達し急激に広汎な炎症を惹起すると,滲出物が肺胞を充満し,Kohnの孔を経て隣接する肺胞へ広がっていき(図7-2-1A),大葉性の広がりを呈する.このため,X線上は広汎な均等性浸潤影を呈し,内部に空気気管支像(air bronchogram)が認められる(図7-2-2).肺胞腔内の滲出物は,膿性痰として喀出される.病変が広範になると肺胞低換気およびシャント効果により低酸素血症を呈する.
 一方,細気管支中心に感染巣が形成され,周囲の肺胞領域に炎症が進展していくものを気管支肺炎(巣状肺炎)とよび,多くの肺炎はこの形をとる.X線写真上は小葉中心性の陰影が癒合して浸潤影を呈する(図7-2-3).
 マイコプラズマやウイルスなどによる非細菌性肺炎では,炎症細胞が肺胞壁や肺胞間隔壁などの間質に浸潤する(図7-2-1B).肺胞腔内に滲出する細胞が少ないので,痰の喀出は少なく,乾性咳を呈する.肺胞壁の肥厚がみられるため,拡散障害を起こし低酸素血症がみられることがある.
 高齢者や脳血管障害患者,術後では,嚥下機能低下や咳反射低下により,口腔内容物を肺内に誤嚥して,誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)を起こしやすい.
臨床症状
 市中肺炎では,上気道炎様症状に続いて,発熱,全身倦怠,食欲不振などの全身症状および咳,痰,胸痛,呼吸困難などの呼吸器症状が認められる.細菌性肺炎では膿性痰の喀出が特徴的であるが,非定型肺炎では痰を欠如し頑固な乾性咳が持続することが多い.嫌気性菌感染の場合には痰に悪臭を認める.
 重症化すると,頻呼吸,喘鳴,チアノーゼ,血圧低下,意識状態低下が認められることがある.高齢者や免疫不全患者では,呼吸器症状の訴えが少なく,全身症状や精神症状が前面に出ることがあるので注意を要する.
検査成績
1)胸部X線検査:
上述したような大葉性,区域性あるいは間質性の広がりがみられる.膿瘍化すると,空洞とニボー(鏡面像)形成がみられる(図7-2-4).
2)血液生化学的検査:
細菌性肺炎では,白血球数(好中球数)の増加,好中球の核左方移動がみられるが,非定型肺炎では白血球数は正常のことも多い.ウイルス性肺炎では,異型リンパ球が認められることもある.
 CRP増加や赤沈亢進などの炎症反応上昇がみられるが,これらは非特異的なマーカーであり,これにより感染症の診断や重症度を決定することはできない.近年,細菌性感染症におけるプロカルシトニンの有用性が報告されている.
 血清BUN値は脱水の,動脈血ガス酸素分圧(PaO2またはSpO2
で代用)は呼吸不全の指標となる.
3)微生物学的検査:
表7-2-2に肺炎の原因検索に用いられる各種の診断法を示す.通常これらのうち複数の検査法を組み合わせて診断が行われる.呼吸器感染症の検査で最も頻用されるのは喀痰検査であるが,口腔内常在菌による汚染は免れない.そのため,良質の検体(Gram染色で好中球が多く上皮細胞の少ない痰)にて診断を行う必要がある.血液や胸水などの本来無菌である検体から検出されたものは原因菌と推定できる.
 気管支鏡下による検体採取や経皮的穿刺法は,原因菌検出に有用であるが,侵襲的な検査のため適応は限られる. マイコプラズマやクラミドフィラ感染症の診断は血中抗体測定で行われることが多いが,抗体価上昇は通常,病気の回復期でないと認められないため,迅速診断には不適である.肺炎球菌やレジオネラ肺炎の迅速診断には,尿中抗原検出法が有用である.
診断
 胸部X線写真で肺野に浸潤影が認められ,発熱,咳,痰などの急性呼吸器症状がみられれば,肺炎が疑われる.微生物学的検査で原因が判明すれば確定となるが,原因判明率は,市中肺炎で約半数であり,院内肺炎や医療・介護関連肺炎ではさらに低い.
鑑別診断
 表7-2-3に示すような,肺野に浸潤影を呈する非感染性の疾患が鑑別となる.
治療
抗菌薬による治療が主体となる.原因微生物を特定して抗菌薬を決定することが理想であるが,肺炎治療開始時に原因が判明していることは少なく,ほとんどの場合,エンピリックに抗菌薬を投与する.原因が判明していなくても,推定される微生物をターゲットとした抗菌薬を投与する必要がある.表7-2-4に日本呼吸器学会市中肺炎診療ガイドラインにおける原因菌判明時の推奨抗菌薬を列挙する.
 市中肺炎の治療をエンピリックに開始する場合は,患者の重症度や背景を考慮して外来治療か入院治療かを決定する.外来治療では経口抗菌薬が主となり,入院治療では静注抗菌薬が使用される.中等症までの症例では,細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別を行うことが奨められているが,鑑別困難な例や両者の合併例もしばしば経験する.細菌性肺炎疑いの場合は,経口薬ならばβ-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬,レスピラトリーキノロン薬が,入院での注射薬ならばペニシリン系±β-ラクタマーゼ阻害薬,セフェム系薬,カルバペネム系薬(基礎疾患を有するとき)が奨められる.非定型肺炎疑いでは,マクロライド系薬,テトラサイクリン系薬,ニューキノロン系薬が用いられる.両方の抗菌薬を併用する場合もある.
 入院して注射用抗菌薬で治療を開始しても,臨床症状が軽快すれば経口抗菌薬に変更して外来治療に切り替えること(スイッチング)も可能である.
 市中肺炎の重症例(ICU入室例)のエンピリック治療では,細菌性肺炎と非定型肺炎の両者をカバーすること,緑膿菌に抗菌力のある抗菌薬を使用することを考慮して広域抗菌スペクトルを有する薬剤を含めて,併用療法を行うのが原則である.
 院内肺炎の場合は,軽症例では緑膿菌をカバーしない抗菌薬を単剤で使用するが,中等症以上では緑膿菌もターゲットとした治療を行う.重症例では併用療法で開始し,原因菌が判明すれば,それに絞った抗菌薬に変更すること(de-escalation)が望ましい.薬剤耐性菌の多い院内肺炎では,自施設での薬剤感受性状況を把握して抗菌薬を選択することが望まれる.PK-PDを考慮して,十分量の薬剤を投与することが必要である.
 医療・介護関連肺炎は,市中肺炎に近いものから院内肺炎類似のものまで幅広い臨床像を示すため,両方の治療の考え方を取り入れた抗菌薬選択を行うことになる.
 肺炎の補助治療としては,栄養管理,輸液,呼吸循環管理等の全身管理のほかに,局所症状に応じて去痰薬,気管支拡張薬なども必要になる場合がある.重症例では,ガンマグロブリンやG-CSFも使用される.肺炎に対するステロイドの使用には一定の見解はないが,ニューモシスチス肺炎での有効性は認められている.
予防
 肺炎の予防には,うがいや手洗い,マスク着用などの一般的予防法に加えて,高齢者や全身状態不良の患者では,口腔ケア,嚥下訓練,咳反射促進や食餌の工夫などの誤嚥対策が重要になる.人工呼吸器装着中の患者では,セミファーラー位の保持,経鼻挿管を避けること,声門下部の吸引などが人工呼吸器関連肺炎(VAP)の予防に有効である.
 高齢者や基礎疾患を有する人では,インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの接種が強く奨められる.
経過・予後
 基礎疾患を有しない症例では,有効な抗菌薬が投与されれば速やかに症状の改善を認めることが多い.抗菌薬の投与期間は,肺炎の種類と原因菌によって相違があるが,肺炎球菌による市中肺炎では最短5日間で解熱後2~3日間,緑膿菌などの腸内Gram陰性桿菌による肺炎では14~21日間が推奨されており,肺化膿症では28~42日間の治療を要する.
 わが国での市中肺炎の死亡率は4~8%程度で,院内肺炎では重症度により10~40%と報告されている.[石田 直]
■文献
日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン作成委員会:医療・介護関連肺炎診療ガイドライン,日本呼吸器学会,東京,2011.
日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会:成人市中肺炎診療ガイドライン,日本呼吸器学会,東京,2007.
日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会:成人院内肺炎診療ガイドライン,日本呼吸器学会,東京,2008.

出典:内科学 第10版
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それぞれの用語は原書刊行時(2013年)の時点での最新のものです.常に最新の内容であることを保証するものではありません。また,権利関係の都合で一部表示できない図や画像があります。

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