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肺結核【はいけっかく】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

肺結核
はいけっかく
pulmonary tuberculosis
結核の吸入によって起る感染症をいう。結核患者が咳をしたときに飛び散る飛沫に混じった結核菌が吸引されて感染する。普通は胸膜に近い部分にまず初感染による原発巣ができ,次いで肺門部リンパ節に病変が生じる。この2つを合せて初期感染変化群という。結核菌に感染するとツベルクリン反応が陽性になる。結核は感染しても必ずしも発病するものではなく,大多数の人はこのままで治癒するが,さらに病勢が進行すると,2次感染が始る。肺結核は大別して増殖型と滲出型に分けるが,そのどちらの場合でも,経過中に形成される病巣のチーズ状になった空洞は,結核菌の喀出源となるので,感染の可能性が大きいし,同時に自己の体内に新しい病巣をつくる危険がある。早期に発見されれば,抗結核剤の使用によって,空洞の形成もなく容易に治療できる。近年はリファンピシピン,イソニアジドストレプトマイシンの併用で1年以内になおるものが多くなった。かつて日本では国民病とまでいわれた結核も,最近は激滅したが,アメリカなどではエイズの蔓延とともに,免疫力の低下から薬の効かない結核が再び流行の兆しをみせている。

出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
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デジタル大辞泉

はい‐けっかく【肺結核】
肺に起こる結核結核菌の感染によって起こり、病勢は目立たずに進み、長い経過をたどる。微熱・疲労感・寝汗・咳(せき)や、進行すると血痰(けったん)喀血(かっけつ)などの症状がみられる。肺病

出典:小学館
監修:松村明
編集委員:池上秋彦、金田弘、杉崎一雄、鈴木丹士郎、中嶋尚、林巨樹、飛田良文
編集協力:田中牧郎、曽根脩
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家庭医学館

はいけっかく【肺結核 Pulmonary Tuberculosis】
◎すぐに発病せず長く体内にひそむ
[どんな病気か]
[原因]
[症状]
[検査と診断]
◎治療は薬物療法が主体
[治療]
[日常生活の注意]
[予防]

[どんな病気か]
 結核菌という細長い棒状の菌(長さ2~4μm(マイクロメートル)。1μmは1000分の1mm)が、肺に感染してひきおこす慢性の炎症です。
 かつては、死にいたる国民病として恐れられていましたが、第二次世界大戦後に有効な薬剤が次々に登場し、生活レベルの向上などもあいまって、現在では、早く正しく診断され、適切に治療されれば、完全に治る病気です。

[原因]
 結核菌は、抗酸菌(こうさんきん)という細菌の一種です。抗酸菌は、非常にじょうぶな膜(まく)におおわれた、酸にとても強い細菌です。一般の細菌を調べるために行なうグラム染色では染まらず、抗酸性染色という染色法ではじめて染まるので抗酸菌といいます。抗酸菌には、ほかに非定型抗酸菌(ひていけいこうさんきん)とらい菌がありますが、結核菌がその代表です。
 結核菌は、アルカリ、アルコール、乾燥、寒冷に対しても強いのですが、高熱や直射日光には弱いという特徴があります。
●感染経路
 結核菌は、人から人へと感染します。患者さんが、せきやくしゃみをしたときに飛び散った細かい水の粒(飛沫(ひまつ))に結核菌が含まれていて、それを吸い込むと感染します。ただし、ふつうの感染症とちがうのは、感染してもすぐには発病しないことです。
 吸い込まれて肺のもっとも奥深いところに達すると、結核菌はマクロファージという異物を処理する細胞に食べられてしまいます。しかし、死滅することはほとんどありません。結核菌がマクロファージの中で分裂・増殖を始めると、マクロファージから変化してできる類上皮細胞(るいじょうひさいぼう)という特殊な細胞や、炎症があるとかけつける炎症細胞がその周囲に集まってきて、肉芽腫(にくげしゅ)というかたまりを形成します。これを初感染病巣(しょかんせんびょうそう)といいます。
 つぎに結核菌はリンパ管に入り、肺の入り口(肺門(はいもん))にあるリンパ節に流れ込み、ここでも病巣をつくります。
 初感染病巣と、この肺門(はいもん)リンパ節病巣(せつびょうそう)を合わせて、初期変化群(しょきへんかぐん)といいますが、このころには結核菌に対する抵抗力、つまり免疫力(めんえきりょく)ができてきます。
●発病
 多くの人は結核菌を抑え込むのに十分な免疫力がつきますが、完全に殺菌するほどの力ではないため、結核菌は、しぶとく何年でも生き残り、過労や酒類の多飲などで抵抗力が落ちると、再び増殖を始めます。これを二次結核症(にじけっかくしょう)といい、肺結核はこうして発病するのが一般的です。
 病変は、肺の上方の背中側によくおこります。病巣の肉芽腫は、中心部にある類上皮細胞が死滅しやすく(チーズ状になるため乾酪壊死(かんらくえし)という)、その壊死物質が気管支から排出されると、あとは空洞になります。
 排出された壊死物質は、結核菌を豊富に含み、呼吸にともなって周辺の肺に散って散布巣(さんぷそう)という新しい小さな病変がたくさんできます。
 ところが免疫力が弱い人は、初感染であっても、結核として早期に発病します。これを初感染結核症(しょかんせんけっかくしょう)といいます。
 初感染病巣が、肺をおおう胸膜(きょうまく)をおかすと結核性胸膜炎(けっかくせいきょうまくえん)がおこります。また、肺門のリンパ節や、それに連続した縦隔(じゅうかく)のリンパ節がおかされると、肺門(はいもん)・縦隔(じゅうかく)リンパ節結核(せつけっかく)がおこります。
 さらに、血液中に結核菌が入り込むと、全身の諸臓器に粟粒(あわつぶ)のような病巣を多数つくり、粟粒結核(ぞくりゅうけっかく)と呼ばれる状態がおこります(コラム「粟粒結核」)。

[症状]
 症状は、病巣の部位、広がり、程度によってさまざまで、無症状のこともありますが、大きく、呼吸器症状と全身症状とに分かれます。
●呼吸器症状
 せきは、症状のある人の半分以上におこり、もっとも多くみられるものです。ほかに、たん、胸痛、血(けっ)たん、呼吸困難などもみられます。
 2週間以上続くせきは、とくに注意しなければなりません。
●全身症状
 全身の倦怠感(けんたいかん)(だるさ)、発熱、体重の減少、寝汗(ねあせ)、食欲不振などがあります。発熱の多くは、午後の微熱です。ときに高熱もみられますが、寒けや震えはほとんどありません。
 結核は、激しくエネルギーを消耗する病気で、食欲不振よりも体重減少のほうが目立ちます。寝汗も、結核を疑わせる症状の1つです。

[検査と診断]
 からだのだるさ、微熱、体重の減少、寝汗、せきなどが長引くときは、医療機関を受診しましょう。もっともよいのは、結核療養所や呼吸器科のある病院ですが、保健所でも簡単な検査はできます。
 検査としては、胸部X線写真と、たんから結核菌を検出することがもっとも重要です。
●胸部X線検査
 結核の病巣は、肺の上のほうの背中側によくみられます。
 X線写真にみられる異常な影(陰影)には、肉芽腫でできるかたまり状の結節影(けっせつえい)、その中が抜けた空洞影(くうどうえい)、ふつうの肺炎でもみられるような周囲がぼやけた浸潤影(しんじゅんえい)など、さまざまなものがあります。これらの陰影の周囲には、多数の小さな陰影が散らばってみられることがよくあります。
●結核菌の検出検査
 空洞から排出されたたんは、結核菌を大量に含んでいます。空洞がない場合でも、たんには結核菌が含まれているので、重要な検査材料です。
 たんが出ないときは、胃液も同じくらいに検査価値があります。朝の空腹時に、飲み込んだチューブから胃液を吸引して採取します。
 これらの検査材料を、抗酸性染色して顕微鏡で調べる方法を塗抹検査(とまつけんさ)といいます。ある程度の菌量があれば、菌が染色され、陽性と判定されます。
 染色されず陰性でも、微量の菌がいる可能性があるので、かならず培養して確認します。ただ、菌の発育が遅いため、4週後と8週後に判定しますが、これでは時間がかかり、治療にさしつかえるため、最近は結核菌の遺伝子を構成しているDNA(デオキシリボ核酸)を調べ、微量な菌から判定できるようになっています。
 結核菌以外の抗酸菌も肺の炎症をひきおこすことがあります。それらの菌は非定型抗酸菌(ひていけいこうさんきん)といい、治療法が異なるのですが、DNA判定では、この区別も容易につけることができます。
●感受性試験(かんじゅせいしけん)
 ときに、治療薬が効かない結核菌(耐性菌(たいせいきん))に感染して発病することがあります。そこで、治療前にはかならず菌を培養して、増殖した菌に薬が効くかどうかを判定する試験(感受性試験)を行なう必要があります。その結果がわかるまでには、かなり時間がかかるので、まず治療を開始してからその結果を役立てます。
●血液検査
 炎症の強さや重症度は、血液沈降速度(けつえきちんこうそくど)(血沈(けっちん))、白血球数(はっけっきゅうすう)、C反応性たんぱく(CRP)の量にあらわれますので、血液を検査し、それらの数値を調べます。
●ツベルクリン皮内反応(ひないはんのう)
 結核菌の培養液から、人に安全なかたちでその成分を取り出したものがPPDという液です。これを腕の内側の皮膚に注射すると、感染していれば、一種のアレルギー反応がおこり赤く腫(は)れるので、48時間後に、この大きさを判定します。感染して、初期変化群が形成されるころには、免疫力ができており、赤い腫れの径が10mm以上になります。これが陽性で、9mm以下なら陰性です。
 BCG接種で陽転させた場合は別ですが、ふつう、この皮内反応陽性は一生続きます。しかし、結核感染後でも、重症結核の人、免疫力が低下した高齢者、免疫抑制薬使用中の人、急性ウイルス感染症の人、妊婦などは陰性を示すことがあるため、要注意です。

[治療]
 抗結核薬を使った薬物療法が主体です。せきなどで大量に菌を出している人(せきの激しい人は感染力が強い)は、隔離するために、また消耗の激しい人や重症者は、安静と栄養補給のために、最低でも4か月の入院が必要です。
 菌の出ない人、少ない人は、最初から外来で治療できますが、初めの2~4週間は、入院したほうが病気と治療に対する理解が深まり、効果的です。
 また、この期間は薬の副作用がひととおり出そろう時期で、的確な対処をするためにも、入院したほうがよいのです。
●薬物療法
 原則として、結核菌に効くもっとも強力な薬を3種類以上使用します。初めて発病した患者さんには、イソニコチン酸ヒドラジド(INH)、リファンピシン(RFP)、硫酸ストレプトマイシン(SM)またはエタンブトール(EB)という3種の薬を併用して治療を開始します。
 検査で、結核菌陰性となっても6か月は治療を続けます。全治療期間としては9~12か月ぐらいかかります。
 治療期間がとても長いようですが、リファンピシンの登場以前は、数年かかったのですから、これでも長足の進歩といえます。
 最近は、ピラジナミド(PZA)の有用性が評価され、これを加えた4種の薬の併用療法で治療を開始し、全治療期間を6か月に短縮する方法も一般化してきました。
 治療を始めてから、その薬に耐性がある菌とわかったり、副作用で使用できない薬がある場合は、その次に強力な薬剤に変更し、長めに治療します。
 抗菌薬のニューキノロン類にも、結核に有効なものがあり、エタンブトールの次ぐらいに選択することが多くなりました。
 リファンピシンは、薬剤アレルギーをおこしやすいのですが、強力な殺菌力をもつ薬なので、ごく少量の薬から始めて徐々に増量し、アレルギーを防ぐ(脱感作(だつかんさ))ようにして内服を続けるように努めます。
 どうしても使えない場合は、ほかの薬剤にかえ、慎重に長期治療します。

[日常生活の注意]
 菌を出さないような軽症の患者さんは、ふつうに生活してかまいません。
 しかし、薬が肝臓に負担をかけるので、飲酒は禁物です。
 軽症でも、治療開始後1~2か月は、せきなどで他人に感染する可能性があるので、マスクをし、人との接触を控えるべきです。
 菌を出している中等症以上の患者さんは、今でも安静と栄養補給が重要であることに変わりはありません。

[予防]
 免疫力をつけるため、結核菌から、人に安全な形でつくりだされたものが、BCGワクチンです。
 1度の接種で乳幼児から青少年期にかけて発病予防効果があることと、乳幼児が結核に感染すると重症化しやすいことから、予防接種法によって生後6か月未満の乳児にBCG接種が勧められています。
 乳幼児、学童などに義務づけられていたツベルクリン検査は廃止されていますが、結核に感染したおそれがある場合には、検査が行われます。
 ツベルクリン反応だけが陽性の場合には、イソニコチン酸ヒドラジドを6か月間、発病を予防するため、内服します。
 青少年で、周囲の環境などから、ツベルクリン検査が自然に陽転するだろうと思われるケースでも、発病を予防するため、この薬を内服します。

出典:小学館
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食の医学館

はいけっかく【肺結核】

《どんな病気か?》


 結核菌(けっかくきん)が肺に感染して起こる感染症です。人から人へと空気感染しますが、ほとんどの場合は、体内で菌が増殖(ぞうしょく)するまえに外へ運び出され、治ってしまいます。
 ところが、そのときの体の栄養状態が悪かったり、疲れがたまっていたり、アルコールの多飲などで抵抗力が落ちていると、病巣が大きくなって発病するのです。
 おもな症状は、せき、たん、胸痛(きょうつう)、血(けっ)たん、呼吸困難、体がだるい、発熱、体重減少、寝汗、食欲不振などです。
 結核菌に感染してから10~20年たって発病することもあり、抗生物質(こうせいぶっしつ)が効かない結核菌も登場しているので、日常の食事管理が重要です。

《関連する食品》


〈高たんぱく食にして、ビタミン、ミネラルを〉
○栄養成分としての働きから
 免疫力を高め、体力を回復させるために、高たんぱく食にし、各種ビタミン、ミネラル類が不足しないように気をつけましょう。
 とくに有効な栄養素・成分と、それを多く含む食品は、肺炎の場合と同じです(「肺炎」参照)。

出典:小学館
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世界大百科事典 第2版

はいけっかく【肺結核 pulmonary tuberculosis】
結核菌による肺の感染症。日本では古くは労咳(ろうがい)と呼ばれ,ヨーロッパでも〈白いペスト〉の名で恐れられた。かつて肺結核は結核全体の大部分を占めてはいたが,結核そのものの減少のなかで,呼吸器以外の結核が著しく減少したため,近年,肺結核の占めるは相対的に大きくなり,1994年の結核登録者調査では,結核全体の90%以上となっている。また罹患率,死亡率ともに,第2次大戦直後までは,10歳代後半から30歳代前半にかけて大きなピークがみられたが,近年では,60歳以上で高率となり,老人結核が問題になっている。

出典:株式会社平凡社
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大辞林 第三版

はいけっかく【肺結核】
結核菌の吸入により肺に起こる感染症。患者の咳や痰たんから伝染し、多くは慢性に経過。微熱・咳・痰などを呈するが、初期には自覚症状のないことが多い。進むと、肺に空洞が形成され、またリンパ管や血行中に菌が入り、他の臓器に転移して病変を起こす。肺疾。労咳ろうがい

出典:三省堂
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日本大百科全書(ニッポニカ)

肺結核
はいけっかく
結核菌の感染による肺の伝染性疾患。[編集部]

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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精選版 日本国語大辞典

はい‐けっかく【肺結核】
〘名〙 結核菌の感染によって起こる肺の慢性伝染病。感染のはじめの頃は、ほとんど無症状。病状が進むと、咳(せき)・痰(たん)が出、進行とともに肺活量が減少し、呼吸困難を示す。一般に結核といった場合、この肺結核をさす。肺病。
※にごりえ(1895)〈樋口一葉〉六「母さんが肺結核(ハイケッカク)といふを煩って死(なく)なりましてから」

出典:精選版 日本国語大辞典
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六訂版 家庭医学大全科

肺結核
はいけっかく
Pulmonary tuberculosis
(呼吸器の病気)

どんな病気か

 結核はあらゆる臓器に感染して障害を与える全身の疾患です。代表的なものは肺結核です。それは、活動性肺結核の患者さんが(せき)をした際、しぶきとなって排出された結核菌が空気中に(ただよ)い、その空気を身近な人が吸うことで感染するからです。

 しぶきは結核菌と水分の小さな塊ですが、水分が蒸発すると、結核菌の塊は重さが軽くなり、空気中に長い時間漂い、それだけ感染の機会が増えます。この菌には乾燥に強く紫外線に弱いという特徴がありますが、結核の感染は空気感染がほとんどです。

 欧米や以前の日本では不完全な滅菌操作を受けた牛乳から感染(この場合は腸結核などの消化管結核)した牛型(うしがた)結核感染の例も報告されました。牛型結核に感染して発症した牛の母乳を飲んだために発病したもので、これを経口感染といいます。

 他の感染症と結核とで違っている点は、感染してもすぐに全員が発病するのではないということです。感染した人のうち、発病するのは約10~20%です。発病時期は感染後1年以内が約半分、残りは一生の間にですが、発病しない人も80~90%います。これが、結核の不思議な点でもあり、また、なかなか根絶できない理由でもあります。

感染から発病まで

 空気感染によって、結核菌は気道を通って肺胞(はいほう)に達します。肺胞には肺胞マクロファージという食細胞(沿岸防衛隊のようなもの)が待機していて、この結核菌を細胞内に取り込んで消化・殺菌します。ところが、結核菌が肺胞マクロファージ細胞に殺されないほどの抵抗力を示すと、逆に肺胞マクロファージ細胞のなかで増殖を続けて感染病巣をつくります。これを初感染病巣といいます。

 肺胞マクロファージがリンパ液の流れに乗って肺門リンパ節に移行すると、そこでも病巣をつくります。これを、肺門リンパ節結核と呼び、また、初期変化群とも呼びます。結核菌の勢いが強いとそのまま発病してしまいます(一次結核症)。

 通常はこの段階で生体の細胞性免疫能(さいぼうせいめんえきのう)が結核菌に勝って封じ込めに成功します。しかし、結核菌の一部は死滅せず、増殖もせず、冬眠するような感じで生き続けます。これを休止菌と呼び、この状態では抗結核薬は効果がなく、これが結核菌感染症を撲滅(ぼくめつ)できない理由のひとつです。やがて、生体の免疫力が高齢化や生活習慣病などの発症で弱まると結核菌が増殖し始めて、発病します。これを、二次結核症と呼びます。成人結核の多くはこの型です。

原因は何か

 ヒト型抗酸菌(こうさんきん)と牛型抗酸菌とによって発症します。日本では、牛乳の滅菌が丹念に行われているので、牛型抗酸菌による結核感染症は近年報告されていません。菌を出している患者さん、もしくは菌を出している患者さんからの検体に接触する機会が多い医療従事者は、結核感染の危険性が高いのです。細胞性免疫能が弱くなった状態があれば感染が成立しやすくなります。

 つまり、HIVに感染した人、長期のステロイド治療を受けている人、免疫抑制薬を使っている人(米国では慢性関節リウマチに効果がある抗リウマチ薬を使って結核発病者が出たと報告されている)、コントロール不良の糖尿病の人、血液透析(とうせき)を受けている人、慢性肝炎の人などです。

症状の現れ方

 発熱、(せき)、痰、()疲労感(疲れやすい)、食欲不振、寝汗などの症状が知らぬ間に現れます。これらの症状は冬季に流行する感冒(かんぼう)(かぜ)とまったく同じですが、感冒とは違い、症状が長期間続きます。病院や診療所で感冒薬を処方してもらい、内服しても2週間以上症状が続けば、気管支喘息(ぜんそく)か肺結核症が疑われます。

 放置すると、血痰、息切れ、体重の減少も加わります。肺結核症の一型である喉頭・気管支結核では、早期にがんこな咳と血痰(けったん)が認められます。

検査と診断

①結核菌の存在証明

 基本は、結核菌が実際に病巣部に存在するという証明です。喀痰(かくたん)(肺結核)を検体として、標本に抗酸菌染色(チール・ネルゼン染色:図20)を行い、顕微鏡で検査します。これを塗抹(とまつ)検査法と呼び、結核菌はブルーの背景のなかに赤く染まります。

 痰が出ない人の場合は、気管支鏡を用いて得られた気管支肺胞洗浄液(BAL)で塗抹と培養の検査を行います。気管支鏡検査後の痰も検体として使用できます。

 陽性に染まれば、極めて感染性の強い結核を発症しているといえますが、後日、非結核性抗酸菌との区別が問題になります。

 同じ検体を用いて、結核菌のDNAあるいはRNA遺伝子があるかどうかを遺伝子学的手法で確認します(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR))。この方法は感度がよく、数時間で結果が判明しますが、死んだ結核菌が検体に含まれていても陽性と判定してしまう欠点があります。そこで、生きた菌ならば人工的な培養シャーレで増殖するので、培地に検体を塗りつけます。これを培養検査と呼びます。

 この方法で結核菌感染の最終判断をするわけですが、結核菌は極めてゆっくり増殖するので、肉眼でコロニー(菌の塊)が認められるまでに4~5週間必要です。すなわち、迅速診断はできません。

 次いで、得られた抗酸菌が結核菌か、それとも非結核性抗酸菌(ひけっかくせいこうさんきん)(非定型抗酸菌)かを区別するために、ナイアシン(ニコチン酸)をつくっているか否かの検査(ナイアシンテスト)を行います。陽性であれば、例外があるものの、ほぼヒト型結核菌と判定できます。この培養検査は、抗結核薬の感受性検査のために必要になります。

 気管支鏡を用いて採取した病巣組織についても、結核菌培養、遺伝子検査を行います。なお、胸水(結核性胸膜炎(きょうまくえん))、髄液(結核性髄膜炎(ずいまくえん))、関節液(骨関節結核)、尿(腎尿路結核)、皮膚分泌液と膿汁(のうじゅう)皮膚結核)などの検体も、それぞれの診断に用います。

②特異的組織像の証明

 該当する肺の病巣から気管支鏡を用いて組織を採取して、多核巨細胞(たかくきょさいぼう)を伴う乾酪壊死像(かんらくえしぞう)を証明します(図21)。同時に病巣組織のチール・ネルゼン染色を行い、抗酸菌を証明します。なお、胸膜、髄膜、関節滑膜(かつまく)、皮膚などの検体もそれぞれの組織診断に用います。

③結核感染病巣の画像的証明

 胸部X線、CT検査を行います。結核病巣の存在と広がりとを確認します。初感染型では肺野の浸潤影(しんじゅんえい)とともに肺門リンパ節や縦隔(じゅうかく)リンパ節の腫大が認められます。肺野の浸潤影は上葉(じょうよう)に結節性、空洞性陰影(図22)として認められます。たいてい、大きな病変のまわりに小さい塊が分布しています。

 (あわ)の粒に似た小さな影がたくさんあれば粟粒(ぞくりゅう)結核が強く疑われます。時に、胸水の貯留、肺門・縦隔(じゅうかく)リンパ節の腫大が認められます。そのほか、骨関節、腹腔臓器などの結核でも、それぞれの部位のX線、CTを撮影します。

④免疫学的証明

 結核感染に特有な人体の免疫反応の検査を行います。ツベルクリン反応が陰性から陽性(陽転(ようてん))になれば感染の証拠になります。しかし、日本ではこれまで乳・幼・小児期にBCGを接種する機会があったので、ツベルクリン反応が陽転しても結核感染そのものによるのか、あるいは、BCGの効果によるのかはなかなか断定できません。

 そのため、結核の発病者にそれまで接触していた多くの人々に対して、ツベルクリン反応で感染者を判定しようとすると、化学予防者が実際よりも激増する恐れがあります。そこで近年、判定能力がツベルクリン反応をしのぐクウォンチフェロンテスト(QFT)が開発され、日常の診療に導入されました。後述のコラムに詳しく述べますが、感染者の血液を試験管内で結核菌にしか存在しない特異蛋白(ESAT­6とCFP­10)と作用させて、20時間後にインターフェロンγ(ガンマ)の産生量を測定する方法です。日本の集団発生の事例にも応用されています。

⑤炎症の程度の把握

 赤沈(胸膜炎を合併すると100㎜/1時間以上を示す)、CRP、白血球増多(軽度の場合が多い)が活動性の評価と治療効果判定のひとつとされます。

⑥鑑別疾患

 感冒(かぜ)のような症状を示し、胸部X線写真で肺炎に似た陰影や小結節影、空洞性陰影が認められる時は、細菌性肺炎、マイコプラズマ菌などの非定型肺炎(ひていけいはいえん)非結核性抗酸菌症サルコイドーシス肺膿瘍(はいのうよう)肺真菌(はいしんきん)感染症、肺がんなどが区別の対象になります。

治療の方法

 日本ではWHOが推奨している強化治療法を行っています。

 すなわち、排菌陽性者にはピラジナミド(PZA:殺菌作用、半休止期の菌に効果)にイソニアジド(INH:殺菌作用、増殖する菌に効果)、リファンピシン(RFP:殺菌作用、増殖する菌、半休止期の菌に効果)およびストレプトマイシン(SM:殺菌作用、増殖する菌に効果)またはエタンブトール(EB:静菌作用、増殖する菌に効果)の4種類の抗結核薬を、まず2カ月併用します。

 その後4カ月はINH+RFPにEBを加えたり、加えなかったりします。なお、肝機能異常がある人や80歳以上の高齢者では、PZAの副作用として肝炎が出現もしくは悪化しやすいので、使用をひかえます。PZAが使用できない場合や排菌の確認の得られない場合は、INH+RFPに、EBもしくはSMの三者で6カ月治療し、その後3カ月はINH+RFPで治療します。

 いずれの治療法でも基礎疾患に糖尿病があったり、粟粒結核の場合は、さらに3~6カ月治療を継続してもよいでしょう。また、じん肺に合併した肺結核感染症は治療抵抗性を示すので、やはり長めに治療します。

 内服薬は1日1回の内服でよいですが、INHによる末梢神経障害の予防のため、ビタミンB6製剤を同時に内服します。INHは肝機能異常を生じやすく、さらにSMは腎機能障害や第8聴神経(ちょうしんけい)障害による難聴が現れることもあるので、治療前に肝機能と聴力の検査を行います。EBは視神経障害を来しやすいので、前もって眼科的検査を受けてください。

 表7に抗結核薬の副作用をあげました。治療開始後1カ月以内に肝機能の血液検査を行い、異常がなければそのまま治療を続け、その後も1カ月に1度は肝機能をチェックします。

 近年、抗結核薬の服用が指示されたとおりに実行されているかどうか疑わしい患者さんには、耐性菌の出現を避けるため、医療従事者の目の前で服用してもらう方法が米国から導入されました。これをDOTS(Directory Observed Treat-ment, Short Course:直接監視下短期化学療法)といい、「日本版21世紀型DOTS戦略事業」が都道府県・指定都市で行われ始めています。

 DOTSは、RFPおよびINHに耐性を示す多剤耐性結核菌患者の治療にも有効です。幸い日本では、初回治療での多剤耐性結核菌の頻度は1%未満と低いのですが、再治療の患者さんからのそれは20%弱ですので、いかに最初の治療が大切かということがわかります。

 なお、結核治療を開始したあとも、3週間は毎週1回、その後月1回は喀痰の検査を行い、結核菌の陰性化を確認します。

化学予防

 身近に結核の患者さんがいた人や、学校、職場、医療機関などで集団感染が発生した場合は、ツベルクリン反応、胸部X線検査、症状、血液検査などを総合して結核感染が濃厚と判断されれば、検体から結核菌の存在を証明できなくても、抗結核薬を予防的に内服します。これを化学予防あるいは予防内服といいます。

 通常はINHを6カ月間内服します。29歳以下は感染症法によって公費負担となります。もっとも、結核既罹患率(きりかんりつ)の高い日本では、30歳以上でも、準じて予防治療を行ったほうがよいようです。

病気に気づいたらどうする

 抗生剤を内服しているにもかかわらず、2週間以上咳と痰、微熱が続く場合は結核を疑い、最寄りの呼吸器科医のいる病院・診療所ないしは独立行政法人国立病院機構(旧国立結核療養所)を受診します。

 生活上は歯ブラシ、手ぬぐいを共有せず、痰が出れば決めておいた容器に捨てます。肺結核は空気感染(飛沫核(ひまつかく)感染)なので、咳が続く期間が長ければ長いほど、そして痰の量が多ければ多いほど感染力が強くなります。早めに呼吸器専門医のいる医療機関を受診してください。

 診察を行った医師は種々の検査結果も総合して、受診者を結核発病者と診断した場合、結核予防法に基づき2日以内に最寄りの保健所に届け出ます。

石崎 武志

出典:法研「六訂版 家庭医学大全科」
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肺結核
はいけっかく
Pulmonary tuberculosis
(感染症)

結核の歴史的背景

 日本の死亡率第1位は1950(昭和25)年までは結核であり、国民病といわれ、全国に蔓延(まんえん)していました。第二次世界大戦後、肺結核は順調に減少し続けてきましたが、1997年に43年ぶりに患者数が前年より増加しました。

 2007年の結核死亡率は人口10万人当たり1.7人、罹患率は19.8人です。「結核は過去の病気」という認識は誤りであり、注意しなければいけない病気といえます。日本の結核罹患率は、欧米の約5倍も高く、結核はアジア(中国、インドなど)やアフリカ・南米に多い病気といえます。

 最近、とくに高齢者の集団感染が多発し、学校や老人介護施設、病院での集団感染など、社会の注目が結核に集まるようになりました。一方、リファンピシンとイソニアジドの効かない多剤耐性結核菌(4~5%)だけでなく、ほとんどの薬の効かない超多剤耐性結核菌(日本では30%)が報告され、治療を困難にしている大きな問題も生じています。抗TNFα(アルファ)抗体治療患者での結核発症や、欧米の先進国と同様、日本でも外国人移民による結核が増加しつつあります。1999年、厚生省(現厚生労働省)は「結核緊急事態宣言」を発表しました。

結核感染と結核の発病

 結核は1950年代まで毎年50万人近い患者さんがあり、この時代に青春期を送った現在の高齢者は、大部分が若い時に結核に感染しています。感染した人の5~10%が発病し、発病を免れた人でも3分の1以上の人は、結核菌を体のなかに抱えたまま高齢に達しています(図3)。結核菌は体の抵抗力(免疫力)によって抑え込まれ、冬眠状態になっています。

 高齢者が、①糖尿病、②エイズ、③抗がん薬・免疫抑制薬・副腎皮質ホルモン薬による治療、④悪性腫瘍、⑤塵肺症(じんぱいしょう)、⑥胃切除や空腸回腸のバイパス手術後、⑦慢性腎不全(人工透析(とうせき))、⑧極端な低栄養状態・大量飲酒、などで体の免疫力が低下すると、冬眠していた結核菌が暴れだすのです。

 最近20代を中心に若い世代の結核患者の発生が目立ってきています。結核菌に感染した経験がなく、免疫力をもっていないこと、近代化されたオフィスは気密性が高く、結核菌を含んだ空気が職場内にとどまりやすい(職場での集団感染)ことが原因です。

 一方、結核に対する医学教育の不足がいわれており、最近の医師の念頭に肺結核がないことも指摘されています。肺炎を発症した場合、まず結核を考える必要があります。

症状の現れ方

 結核の感染・発病は、肺結核患者が(せき)をしたり痰を出した時に、しぶき(飛沫(ひまつ))が1m以上飛び、その結核菌を核とした飛沫を吸い込むことによって起こります(飛沫核感染)。

 結核の初期症状でよくみられるのは、咳、痰、発熱、倦怠感(けんたいかん)、胸痛です。かぜや気管支炎の症状と似ていますが、咳、痰が2~3週間以上続く場合は、結核を疑って早期に医療機関を受診することが必要です。高齢者では咳が目立たず、食欲不振や体重減少を主症状とする患者さんもいます。

検査と診断

 胸部X線写真では、肺の上葉(じょうよう)(肺先部)と下葉(かよう)の上部に、周辺に散布((びょう)病巣)を伴う結節、空洞や石灰化を形成する病変が多く認められます(図4)。一方、HIV感染症(エイズ)に合併する結核では空洞像などが少なく、X線写真像は通常と異なります。

 胸水が認められることもあり、また、血液中に結核菌が侵入すれば粟粒(ぞくりゅう)結核の病像を示し、ほかの臓器にも結核病巣を作ることが時にあります。より詳しく結核病巣を調べるために、断層撮影とCT撮影が必要です。

 結核感染の有無は、ツベルクリン反応検査やQFT検査(後述)により診断します。発赤や硬結がとても大きい場合や水疱(すいほう)などを伴う強い反応を示した場合は、感染している可能性があります。

 しかし、日本ではほぼ全員が幼少時にBCG接種を受けており、多くの人はツベルクリン反応が陽性を示します(90%以上)。したがって、陽性であっても結核感染の確定診断とはなりません。これを補うため「2段階ツベルクリン検査法」を行います。

 最近極めて結核感染に特異的な診断法が開発されました。結核菌に存在しBCG菌に存在しない蛋白を用いたQFT(クォンティフェロン)検査(6歳以上)は、接触者検診や集団感染にツベルクリン反応よりも有用であることが示されています。

 一方、ツベルクリン反応が強陽性で、かつ患者との接触歴が明らかな場合は、「感染あり」の確率が非常に高いといえます。

治療の方法

 標準的な抗結核薬を表4にまとめました。イソニアジド(イソニコチン酸ヒドラジド:INH)、リファンピシン(RFP)、エタンブトール(EB)またはストレプトマイシン(SM)、ピラジナミド(PZA)の4種類の抗結核薬を治療開始後2カ月間投与し、その後イソニアジドとリファンピシンを4カ月間投与し、全期間を6カ月で終わらせるものです(図5)。

 80歳以上の高齢者や肝機能障害のある人でピラジナミドが使用できない場合は、最初の6カ月はイソニアジドとリファンピシンを使います。

 副作用として、イソニアジドによる手足のしびれ(末梢神経障害)、リファンピシンとピラジナミドによる肝機能障害、エタンブトールによる視力低下(視神経障害)、ストレプトマイシンによる聴力障害があります。

 最近、薬が効きにくい耐性菌も出現しており、ニューキノロン系薬(抗生物質の一種)やクラリスロマイシンも使われます。ツベルクリン反応が急激に強陽性となった場合は、予防的にイソニアジドを投与することもあります。

 日本では2003年から結核予防ワクチンとしてのBCG(東京株)接種は乳幼児の時の1回のみの施行となりました。小児結核(結核性髄膜炎)にはBCGワクチンが有効であることがわかっています。成人でのBCGワクチンの切れ味が弱いことから、現在新しい結核ワクチンが数種開発されつつあります。

 新しい化学療法剤も開発中で、近い将来には臨床応用されるでしょう。

 また、医療関係者や患者さんの家族は、結核菌を通さないマスク(N95タイプ)を使用して、結核菌を吸い込まないように注意します。

病気に気づいたらどうする

 結核専門医のいる病院(とくに国立病院機構の呼吸器専門病院など)を受診し、相談する必要があります。

関連項目

 結核性髄膜炎肺炎

岡田 全司

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EBM 正しい治療がわかる本

肺結核
どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 症状は微熱、せき、痰(たん)、血痰(けったん)、発汗、呼吸困難(息苦しさ)、体重減少、食欲不振などで、肺結核(はいけっかく)にしかみられない症状ではないため、しばしば診断が遅れてしまいます。レントゲン写真では、軽症であれば気管支に花が咲いたような淡い陰影や、肺炎のような影を肺の上側に認めます。結核に特徴的な空洞(くうどう)がレントゲン写真に写るのは、かなり症状が進行した場合です。痰の培養で結核菌を確認して診断します。
 治療は原則として結核病棟に入院して内服薬による治療を受けます。治療期間が半年から1年と長いので、入院は治療初期のみとして、痰に結核菌が排出されなくなれば外来治療に移行します。最初の治療をきちんと行わないと、結核菌の薬剤耐性化(やくざいたいせいか)を招き、のちのちの治療が非常に困難となります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 結核にかかったことに気がつかずにいると、周囲の人を感染させることもあります。ただし、排菌していなければ(痰のなかに菌がいなければ)他人を感染させることはまずありませんし、結核菌に触れても必ず結核にかかるわけではありません。
 結核菌は比較的毒性の弱い菌で、初期症状が軽く、病状が進行してから気がつくことが多いため注意が必要です。また、お年寄りでは、感染していても症状のなかった人が、体力の低下などをきっかけに発病することもあります。
 せきとともに吐きだされた結核菌を含む飛沫(ひまつ)を吸い込み、肺胞に結核菌が付着するとその部分で菌が増殖し、病巣(びょうそう)をつくって感染が生じます。
 多くの場合、免疫力によって感染は抑えられますが、免疫力が弱い場合や菌の量が多い場合は、結核結節をつくります。
 その後、体力が低下した際に肺内に病巣が拡大して肺結核となったり、結核性胸膜炎(けっかくせいきょうまくえん)、リンパ節結核などの病気になったりします。

●病気の特徴
 若年者からお年寄りまで、年齢にかかわりなく発病します。1950年代から発生患者数は低下の一途をたどってきましたが、43年ぶりに患者発生率が増加に転じたため、1999年7月に当時の厚生省(現・厚生労働省)から「結核緊急事態宣言」が発せられました。その後、新規登録患者数は減少から横ばいの傾向ですが、未だ年間2万人以上の結核患者が新たに登録されています。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]初期治療の重要性を患者さんに理解させる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 発病後最初の6カ月の薬物治療が完全に治癒させるうえで非常に重要であることがわかっています。患者さんに対してこの治療の重要性を理解してもらうための教育を行うと、治療に協力的になるという非常に信頼性の高い臨床研究があります。(1)(2)

[治療とケア]結核治療薬による初期強化短期療法を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 結核の初期治療は、次にあげる薬物療法のなかから一つを選択します。これらの薬物療法は、多くの専門家の経験に基づいてつくられた処方であり、診療ガイドラインなどで強く推奨されています。(5)~(12)
 イソニアジド+リファンピシン+ピラジナミド
 イソニアジド+リファンピシン+ピラジナミド+エタンブトール塩酸塩
 イソニアジド+リファンピシン+ピラジナミド+ストレプトマイシン硫酸塩

[治療とケア]肝障害、高尿酸血症(こうにょうさんけっしょう)がある場合には、ピラジナミドの入っていない処方で初期強化短期療法を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] ピラジナミドは、ときに重症の肝障害をおこすことが知られています。またアルコール類をよく飲む人や肝障害のある人は、結核治療薬によって肝機能が悪化しやすいことが知られています。以上の理由から、肝障害のある人は、ピラジナミドの使用を避けたほうがよいでしょう。またピラジナミドにより高尿酸血症がおこることが知られていますが、それが痛風などの合併症の原因になるかどうかは、はっきりとわかっていません。高尿酸血症があっても、2カ月までならようすを見ながらピラジナミドを使用してもよいという専門家の意見もあります。(13)

[治療とケア]感染防止のため、結核病棟に入院する
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 結核に感染した患者さんと濃厚に接触することにより院内感染がおこることが、多くの信頼性の高い研究の結果によってわかっています。したがって、①排菌していないことが証明されるまで、②退院するまで、③感染していないことが証明されるまで、結核と診断された患者さんおよび結核の疑いのある患者さんは結核病棟に入院する必要があります。(14)


よく使われている薬をEBMでチェック

初回療法に使用する薬剤(3)(4)
[薬名]イスコチン(イソニアジド)+リファジン(リファンピシン)+ピラマイド(ピラジナミド)+硫酸ストレプトマイシン(ストレプトマイシン硫酸塩)またはエサンブトール/エブトール(エタンブトール塩酸塩)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] ふつうはイソニアジド、リファンピシン、ピラジナミドの3剤にストレプトマイシン硫酸塩またはエタンブトール塩酸塩を組み合わせた4剤が用いられます。この処方は臨床研究によって確認され、ガイドラインでも推奨されています。

肝障害、高尿酸血症がある場合に使用する薬剤(3)(4)
[薬名]イスコチン(イソニアジド)+リファジン(リファンピシン)+硫酸ストレプトマイシン(ストレプトマイシン硫酸塩)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] いずれの薬も併用療法で有効であることが臨床研究によって確認されています。

軽症の場合に使用する薬剤(3)(4)
[薬名]イスコチン(イソニアジド)+リファジン(リファンピシン)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] いずれの薬も併用療法で有効であることが臨床研究によって確認されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
排菌者は結核病棟に入院が必要
 結核菌を排菌している患者さんは、まず、結核病棟に入院して内服による薬物療法を受けることになります。ただし、ふつう6カ月間の内服治療の全期間あるいは完全に治癒するまで入院する必要はなく、排菌さえなくなれば外来治療に移行しても大丈夫です。

4剤併用療法が有効
 ふつうはイスコチン(イソニアジド)+リファジン(リファンピシン)+ピラマイド(ピラジナミド)+硫酸ストレプトマイシン(ストレプトマイシン硫酸塩)またはエサンブトール/エブトール(エタンブトール塩酸塩)の4剤による治療を行います。イソニアジドには神経に異常を感じる副作用がみられることがあるので、予防のためにビタミンB6(ピリドキシン)を同時に服用してもらいます。

薬剤耐性化に注意
 最初の治療において必要な薬を医師の指示通りにきちんと服用しないと、薬剤の効かない結核菌が増えてしまい、のちのちの治療が非常に難しくなります。これを薬剤耐性化といい、肺結核の治療で非常に重要なポイントの一つです。
 とくに薬の服用期間が半年から1年と長期にわたることが多いので、自己判断で薬を中止しないように注意してください。副作用などで薬が飲みにくいと感じたときは、医師に相談することが必要です。

服薬の意味を理解することが大切
 WHO(世界保健機関)の世界結核計画では、DOTS(Directly Observed Therapy, Short-course:直接監視下服薬、短期コース)を推奨しています。これは病気の発見や薬剤の安定供給に対して政府が積極的に取り組むとともに、患者さんが治療薬を服用するところを保健医療従事者が見届け、そのことを記録して、治療を確実に行おうとするものです。結核治療薬を患者さんが確実に服用することができるようにするためのプログラムといえるでしょう。
 DOTSはおもに開発途上国で実施されていますが、薬を確実に服用することの重要性はわが国でも同じです。医師や薬剤師など医療関係者は、十分な情報提供と教育・指導をしていく必要があります。
 同時に患者さんも、服薬の意味をよく理解して治療に取り組むことが大切です。

(1)Essential components of a tuberculosis prevention and control program. Recommendations of the Advisory Council for the Elimination of Tuberculosis. MMWR Recomm Rep. 1995;44(RR-11):1-16.
(2)White MC, Tulsky JP, Goldenson J, et al. Randomized controlled trial of interventions to improve follow-up for latent tuberculosis infection after release from jail. Arch Intern Med. 2002;162:1044-1050.
(3)Blumberg HM, Burman WJ, Chaisson RE, et al. American Thoracic Society/Centers for Disease Control and Prevention/Infectious Diseases Society of America: treatment of tuberculosis. Am J Respir Crit Care Med 2003; 167:603.
(4)Hopewell PC, Pai M, Maher D, et al. International standards for tuberculosis care. Lancet Infect Dis 2006; 6:710.
(5)Controlled clinical trial of four short-course (6-month) regimens of chemotherapy for treatment of pulmonary tuberculosis. Second report. Lancet 1973; 1:1331.
(6)Controlled trial of 6-month and 9-month regimens of daily and intermittent streptomycin plus isoniazid plus pyrazinamide for pulmonary tuberculosis in Hong Kong. The results up to 30 months. Am Rev Respir Dis 1977; 115:727.
(7)Short-course chemotherapy in pulmonary tuberculosis. A controlled trial by the British Thoracic and Tuberculosis Association. Lancet 1976; 2:1102.
(8)British Thoracic Association. A controlled trial of six months chemotherapy in pulmonary tuberculosis. Second report: results during the 24 months after the end of chemotherapy. Am Rev Respir Dis 1982; 126:460.
(9)Hong Kong Chest Service/British Medical Research Council. Five-year follow-up of a controlled trial of five 6-month regimens of chemotherapy for pulmonary tuberculosis. Am Rev Respir Dis 1987; 136:1339.
(10)Hong Kong Chest Service/British Medical Research Council. Controlled trial of 2, 4, and 6 months of pyrazinamide in 6-month, three-times-weekly regimens for smear-positive pulmonary tuberculosis, including an assessment of a combined preparation of isoniazid, rifampin, and pyrazinamide. Results at 30 months. Am Rev Respir Dis 1991; 143:700.
(11)Johnson JL, Hadad DJ, Dietze R, et al. Shortening treatment in adults with noncavitary tuberculosis and 2-month culture conversion. Am J Respir Crit Care Med 2009; 180:558.
(12)Combs DL, O'Brien RJ, Geiter LJ. USPHS Tuberculosis Short-Course Chemotherapy Trial 21: effectiveness, toxicity, and acceptability. The report of final results. Ann Intern Med 1990; 112:397.
(13)Sharma SK, Balamurugan A, Saha PK, et al. Evaluation of clinical and immunogenetic risk factors for the development of hepatotoxicity during antituberculosis treatment. Am J RespirCrit Care Med. 2002;166:916-919.
(14)Bass JB Jr, Farer LS, Hopewell PC, et al. Treatment of tuberculosis and tuberculosis infection in adults and children. American Thoracic Society and The Centers for Disease Control and Prevention. Am J RespirCrit Care Med. 1994;149:1359-1374.

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