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胃・十二指腸潰瘍【いじゅうにしちょうかいよう】

日本大百科全書(ニッポニカ)

胃・十二指腸潰瘍
いじゅうにしちょうかいよう

胃液にさらされている胃と十二指腸上部壁の組織欠損をいう。胃液は胃内腔(ないくう)に分泌されて、摂取された食物を消化する。空腹時にも分泌されているので、胃にこれに対する防御作用がないと、この胃液が胃や十二指腸の粘膜を消化して潰瘍を発生させる。つまり、胃液中の塩酸や、ペプシンというタンパク分解酵素が潰瘍を発生させるという考えから、消化性潰瘍と一括してよばれる。

[高橋 淳]

病因

胃液は1日に1000~2000ミリリットル分泌される。胃液中の塩酸はpH1~2の強い酸で、生体内にこれほど強い酸の分泌される臓器はほかにない。ペプシンというタンパク分解酵素は、この塩酸の存在でその消化作用を発揮する。この胃液の二つの主成分がまともに粘膜に接触すれば、粘膜はただちにただれて潰瘍を発生させることは当然で、胃液が粘膜に対して攻撃因子といわれるわけである。しかし、生体はよくしたもので、胃内には粘液が多く分泌されている。胃の粘膜はいつもぬるぬるしたこの粘液に被覆されており、酸やペプシンの攻撃から粘膜を防御している。生体にはこのほかにも胃液の攻撃に対しての防御因子がいろいろ存在している。結局、潰瘍の発生は攻撃因子と防御因子のバランスの崩れによるという考え方が有力である。しかし、この両因子の関係が複雑で、潰瘍という組織欠損を発生させるいちばん初めの要因は何であるのか、また、潰瘍が発生してそれを慢性化させる原因は何か、などの肝心なことはまだ解明されていない。

 生体に影響を与えて攻撃因子などを増加させる作用はいろいろある。生体の外からの刺激は大脳皮質に行く。ここから刺激がいろいろの経路をとって行く。人が「生きていく」ということは「食べていく」ことである。人は動物と違って「食べていく」ということは単なる食物の摂取ではない。人間的な「絆(きずな)」や「社会的しがらみ」がいろいろと絡んでいる。だから生活しているなかでのいろいろな精神的、情緒的な起伏がいつも胃に影響を与えている。胃がときにより異常な反応をおこすことはある。このことがストレスと胃との関係である。ストレスとは生体の過剰反応である。あるいは過剰防衛ともいわれている。このストレスが敏感に影響するのが胃である。したがって当然のことながら、ストレスが胃の攻撃因子と防御因子のバランスを破って潰瘍を発生させることはありうることである。胃液分泌を過剰にさせたり、胃の血流を阻害させて潰瘍をできやすくするわけである。ストレス潰瘍という名称も存在しており、潰瘍成因の重要な因子の一つにストレスが考えられている。

[高橋 淳]

疫学

この疾患の罹患(りかん)率は高い。しかし感冒のようにだれでもが均等に罹患するものではない。潰瘍になりやすい人と、なりにくい人とがある。人により、種族により、その発生率に相違がある。たとえば、シンガポールのゴム農園で働くジャワ先住民と、同じ条件で働いている華僑(かきょう)との死後に解剖した結果の統計(1930現地報告資料)によると、華僑の罹患率が10倍以上となっている。この相違は先天的なものが考えられるが、後天的なことも無視できない。

 また日本人の人口10万に対する潰瘍死亡率はアメリカよりもつねに高かった。とくにピークともいえるのは日本の第二次世界大戦後2年目の1947年(昭和22)にみられる49.7という死亡率である。一般に、その国民なり民族が戦争に向かうと潰瘍死亡率は高くなるという。そして戦争が終わってただちに、戦勝国は下降していくが、敗戦国は1、2年ずれてから下降するとされている。1947年のこの潰瘍死亡率のピークは、敗戦後の社会的混乱によると思われる。第二次世界大戦後の下降は日本では順調であるが、アメリカはいったん下降してから横ばいとなり、また上昇している。ベトナム戦争の影響が想像される。

 このような消化性潰瘍死亡率の推移は、社会的背景が影響すると思われるが、このことは潰瘍の発生率とかならずしも一致しない。潰瘍が人に発生することと、潰瘍をもった人がその潰瘍で死亡することとでは非常な開きがある。潰瘍は罹患しやすい疾患でもあるが、また、たいへん治りやすい疾患でもある。しかも治りやすいが、再発をよく繰り返す病気でもある。死亡するのは潰瘍そのものによるのではない。潰瘍が穿孔(せんこう)したり、出血したりすることの合併症で死亡するのである。この合併症が発生しても、その治療が適切であれば死亡に至らず治癒するものである。近年になって潰瘍死亡率が著明に減少したが、潰瘍罹患率が減少したという資料は見当たらない。

[高橋 淳]

症状

上腹部の痛みが主症状である。潰瘍痛といわれて、空腹時に痛みが出て、何か食物を摂取すると治るものである。あまり頑固で強い痛みは、潰瘍にはない。強い痛みで持続するのは他の疾患か、潰瘍ならば穿通(せんつう)か穿孔した場合である。穿孔や穿通は潰瘍が消化管壁を貫いて急性腹膜炎を引き起こした場合である。とくに穿孔の場合は、びまん性腹膜炎を合併し、24時間内に外科的手術を行わないと危険である。このほか、潰瘍による危険な症状には出血がある。これは吐血と下血という症状で現れる。胸やけ、吐き気、酸っぱいげっぷなどの症状があるが、あまり重要な症状ではない。まったく無症状の消化性潰瘍もある。また、たとえ症状があっても、適切な治療をすればすぐに軽快する。したがって消化性潰瘍という疾患は、特有の症状は意外と軽いものであり、また少ないものでもある。

[高橋 淳]

病態

消化性潰瘍にはいろいろな病態がある。予後を左右することで重要なのは、潰瘍という組織欠損の深さである。幅広くて浅い潰瘍は治りやすく、小さくても深い潰瘍は治りにくい。深い潰瘍は消化管壁を貫通して穿孔となり、腹腔内に胃の内容物が侵入して急性腹膜炎を引き起こす。穿通とは壁深く貫いている潰瘍底に他の臓器(腹膜や膵臓(すいぞう))が被覆した状態である。潰瘍には活動期→治癒期→瘢痕期という病期がある。急性と慢性の潰瘍はそれぞれ区別されている。急性潰瘍は急激に発生するが治癒しやすく、慢性潰瘍はいつのまにか発症して治癒に手間どる。胃潰瘍と十二指腸潰瘍にも多少の相違がみられる。十二指腸潰瘍は比較的若い人に多く、胃液の酸分泌が過剰である。胃潰瘍は胃癌(がん)と共存することが多く、その鑑別が重要であり、胃液分泌はあまり過剰にならない。

[高橋 淳]

診断

症状の経過や、X線検査、内視鏡検査、胃液検査などで行われる。X線検査はバリウムという造影剤を服用することで行われる。内視鏡検査はファイバースコープによる内視鏡を胃内に送入することで行われる。この場合、相当多量の空気を胃内に入れる。胃液検査は胃管を送入して、胃液を一定時間ごとに採取する。検便は潰瘍による出血の有無をみるものである。胃潰瘍の診断は胃癌との鑑別が重要である。胃潰瘍と胃癌は紛らわしい所見を呈することがままある。胃潰瘍と診断されたことが、あとになって胃癌と確診される場合もある。この潰瘍と癌との鑑別には生検が行われる。これは内視鏡で見ながら組織を採取し、病理学的検査を行う方法である。なお、十二指腸癌はきわめてまれで、十二指腸潰瘍と紛らわしいということはない。

[高橋 淳]

治療

内科的治療と外科的治療がある。内科的治療は安静療法と薬物療法である。厳しい食事制限を行うことはあまりない。安静とは心と体の安静を意味する。胃が安定した状態にあることが治療の原則である。社会的ストレスから解放されることが必要な場合は、入院治療が望ましい。薬物療法は進歩が著しい。攻撃因子である胃液の酸分泌を抑制する有効な薬(ヒスタミンH2受容体拮抗(きっこう)剤シメチジンcimetidin)が使用されるようになってからは、治りにくい潰瘍はきわめて少なくなってきている。

[高橋 淳]

外科的治療(手術療法)

外科的治療(手術療法)が必要となる場合として、出血、穿孔、狭窄(きょうさく)をきたした場合や、難治のものなどがあげられる。一般に出血例では、状態の許す限り内視鏡検査を行って出血源となった潰瘍病変の把握に努める。そしてまず、内視鏡により病変部位に対し止血を試み、止血されれば、以後内科的治療で対応するが、大量の出血があり、しかも内視鏡的止血が困難な場合は緊急手術が必要となる。また、かならずしも大量でなくとも、内視鏡的止血が困難で出血が持続あるいは反復する場合も、やはり手術が必要となる。穿孔は十二指腸前壁潰瘍に圧倒的に多く、放置すれば腹膜炎が増悪して死亡する危険は高くなる。穿孔後手術までの経過時間が短いほど、予後は良好である。ただ、穿孔例でも腹膜刺激症状が上腹部に限局していて全身状態も良好な場合には、経鼻的に胃管を挿入して胃内容の吸引と十分な輸液を行いつつ、胃酸分泌抑制薬を投与して経過をみることもあるが、この場合でも症状に改善がみられなければ、時期を失せず手術を行う必要がある。狭窄のほとんどは、十二指腸潰瘍か幽門近傍の胃潰瘍の瘢痕性変化に起因する。同部周辺で内腔が狭くなり、食物の通過が障害され、嘔吐(おうと)などの症状をきたし栄養低下をきたすため、手術が必要となる(幽門狭窄の項目を参照)。難治性潰瘍のなかには、内科的治療で治癒傾向が認められないもののほか、いったん治癒しても再発・再燃を繰り返し、患者が長期間の療養が困難な事情にあり、早期の根治を希望する場合なども含まれる。

 優れた胃酸分泌抑制剤の普及や、消化性潰瘍との関連が指摘されているヘリコバクター・ピロリ菌の除菌などによる内科的治療成績の向上で、出血、穿孔、狭窄などの合併症のない消化性潰瘍で手術する症例は著しく減少し、手術症例では合併症を有するもの、とくに穿孔や狭窄例が大半を占めている。

 外科的治療方法としては、従来胃潰瘍や十二指腸潰瘍を含めて胃の幽門側を約3分の2切除する広範囲胃切除術が多く行われ、優れた治癒率を上げてきた。ただ、噴門部や胃体上部に位置する高位胃潰瘍では、潰瘍を含む幽門側胃切除で臨むと切除範囲が増大し、術後の回復も遅れやすい。そこで噴門部潰瘍では、胃の全摘を避けて噴門側胃切除術を行い、また胃体上部の潰瘍でも、亜全摘のかわりにしばしば分節胃体部切除術が施行される。一方、欧米における迷走神経切離術(迷切術)の開発、普及に伴い、わが国でも、主として十二指腸潰瘍に対して迷切術と幽門洞切除の合併手術をはじめ、迷切術に潰瘍部の切除や幽門成形を付加したり、あるいは迷切術を単独で施行したりする方法も行われている。また、十二指腸潰瘍穿孔例に対し、胃酸分泌抑制剤の術後使用を前提に、潰瘍穿孔部の単純閉鎖術や穿孔部への大網(胃から下方に腸の前に垂れ下がった腹膜の部分)充填(じゅうてん)術なども行われている。

 治療成績については、いずれの術式においても手術死亡はほとんどなく、安心して手術が受けられる。ただ、大量出血を繰り返したり、穿孔後手術まで数日間も経過したりして、極度に悪化してしまった全身状態のもとでは、手術死亡の危険性もないわけではなく、手術の時期が遅きに失することのないよう配慮が必要である。一般には、手術後1~2週間で退院し、その後1~2週間すれば職場に復帰できる。また今日の胃・十二指腸潰瘍に対する外科療法は、術後の愁訴や障害の軽減、全身状態の回復についても多くの配慮がなされ、良好な成績が得られている。

[松木 久]

『吉利和編『胃・十二指腸潰瘍のすべて』(1971・南江堂)』『草間悟他編『胃・十二指腸潰瘍の外科』(1978・金原出版)』『太田康幸他著『胃腸炎・潰瘍の人の食事』(1994・女子栄養大学出版部)』『竹添和英著『胃潰瘍・十二指腸潰瘍(再発防止・予防自己診断カルテ)』(1996・大栄出版)』『平塚秀雄監修、主婦の友社編『胃・十二指腸の病気』(2000・主婦の友社)』『勝健一・宮元千華子監修『胃・十二指腸潰瘍に効く食事』(2002・主婦の友社)』『林田康夫他著『胃・十二指腸潰瘍の人の食事』(2003・女子栄養大学出版部)』

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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それぞれの解説は執筆時点のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

六訂版 家庭医学大全科

胃・十二指腸潰瘍
い・じゅうにしちょうかいよう
Gastroduodenal ulcer
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 胃酸の影響を受けて潰瘍を形成するものを総称して消化性潰瘍(しょうかせいかいよう)と呼んでいます。消化性潰瘍の代表は、胃潰瘍と十二指腸潰瘍です。

 胃潰瘍は、40歳以降の人に多くみられるのに対し、十二指腸潰瘍は10~20代の若年者に多くみられます。十二指腸潰瘍の患者さんは、過酸症(かさんしょう)であることが圧倒的に多いのですが、胃潰瘍の患者さんは、胃酸の分泌は正常かやや少なめの場合がほとんどといわれています。

 胃の粘膜に炎症が生じると、胃の粘膜は多かれ少なかれ障害を受けます。この時、粘膜が深くえぐり取られたものを“潰瘍”と呼んでおり、浅い変化しか生じなかったものを“びらん”と呼んでいます。

 びらん性胃炎というのは、腹痛などの症状が胃潰瘍と同じように現れますが、回復は早く、症状は数日で消え、内視鏡で観察すると胃炎の所見も1~2週であとかたもなく消えてしまうことが多いといわれています。これに対して、胃潰瘍は症状が長く続きますし、潰瘍が治癒するのに2~3カ月もかかります。

原因は何か

 胃・十二指腸潰瘍の成因のうち、ピロリ菌ヘリコバクター・ピロリ)に由来するものが十二指腸潰瘍で95%、胃潰瘍で70%前後とされています。ピロリ菌以外の成因として重要なのは、薬剤、とくに非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs:エヌセッド)です。アスピリンが最も有名ですが、日本ではアスピリン以外でも多数のエヌセッドが関節リウマチやかぜなどの治療に使用されています。

 これらの薬剤は、胃酸から胃粘膜を守るうえで重要な役目をしているプロスタグランジンの合成を抑制する作用をもっています。そのため、エヌセッドを服薬すると、胃の防御機構が障害され潰瘍を形成するのです。エヌセッドに由来する潰瘍の特徴は、上腹部痛などの症状を伴わない例が多いので、治療を受けないまま悪化して出血を起こしたり、難治性の潰瘍に移行する例が多いといわれています。

 現在、ピロリ菌とエヌセッドが胃・十二指腸潰瘍の2大成因といわれており、それ以外の原因によるものは、日本では5%を切るくらい少ないことが明らかになってきています。したがって、ピロリ菌とエヌセッドに対する対策が確立されると、胃・十二指腸潰瘍の治療および予防が飛躍的に進歩すると考えられます。

症状の現れ方

 自覚症状で最も多くみられるのは上腹部痛です。十二指腸潰瘍では、空腹時痛がよくみられ、とくに夜間にしばしば起こります。胃潰瘍では、食後30分から1時間たったあとの上腹部痛がよくみられます。

 しかし、すべての胃・十二指腸潰瘍の患者さんに上腹部痛が現れるわけでなく、20~30%では痛みが出現しないことに注意する必要があります。とくにエヌセッド由来の潰瘍の場合は、上腹部痛が出にくいことが明らかになっています。

 潰瘍からの持続的な出血があると、吐血(胃酸と混じるためコーヒーの残りかす様のことが多い)または下血(タール便と呼ばれる海苔のつくだ煮様の黒っぽい便としてみられることが多い)として症状が現れてきます。出血症状が現れた場合は、急を要することが多いので、病院を早急に受診してください。

 そのほか、むねやけ、吐き気、嘔吐などがみられることがあります。食欲は、吐き気が強い時を除けば落ちてくることはむしろ少ないといわれています。

検査と診断

 胃・十二指腸潰瘍の診断に最も重要な検査は、バリウムによるX線造影検査と内視鏡検査であり、この2つの検査により診断は容易につきます(図18)。

①X線造影検査

 バリウムを服用後、体位をいろいろ変えながら撮影します。潰瘍部位にバリウムがたまるため、ニッシェと呼ばれる特有の像を示します。そのほか、間接症状として胃や十二指腸の変形がみられることがあります。十二指腸球部の変形は、クローバー状や歯車状を示すことがあり、タッシェと呼ばれています。

②内視鏡検査

 胃・十二指腸潰瘍の診断において内視鏡検査で得られる情報量は、X線検査の数倍以上といわれています。バリウム検査よりつらい検査ですが、被曝の可能性はないので繰り返し受けることができます。内視鏡観察下で組織の一部を採取して調べる生検を行うことがあります。主として胃がんとの鑑別のためなのですが、ピロリ菌の診断を目的とした生検が最近は増えてきています。

治療の方法

 胃・十二指腸潰瘍の治療は、大きく3つの時代に分けて考えることができます。

●第1期「生活習慣病の時代」

 第1期は1980年以前で、治療は安静を保つことと胃に負担をかけない食事をとることが基本であり、それに加えて薬剤療法が行われていました。この当時の薬剤療法は、胃酸を中和する制酸薬や胃酸分泌を抑制する抗コリン薬が攻撃因子抑制薬として使用され、胃粘膜防御因子増強薬と呼ばれる薬剤と併用していました。この療法は一見理想的な治療法にみえますが、実質的な効果を伴っていなかったのです。

●第2期「治療革命の時代」

 第2期は、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(じゅようたいきっこうやく)(H2ブロッカー)の登場によって幕を開けます。この薬剤は、塩酸を分泌する壁細胞のヒスタミンH2受容体に作用して、胃酸の分泌を抑制できる画期的なものでした。これまで、どの薬剤によっても成し遂げられなかった夜間の酸分泌をほぼ完璧に抑制することができ、胃内の平均㏗を確実に上昇させることができました。腹痛などの自覚症状は、1週以内に90%以上の患者さんで消失し、潰瘍も8週以内に80%以上の治癒率を示すことが明らかになったのです。

 その後、プロトンポンプ阻害薬(PPI)という究極の酸分泌抑制薬が開発されました。PPIは、壁細胞における受容体を経由して酸を産生するプロトンポンプそのものに作用し、酸をつくることを直接止めてしまいます。したがって、PPIはすべての酸分泌刺激に対して抑制を行うことが可能な薬剤なのです。PPIを使用すると、胃・十二指腸潰瘍の90%以上が8週以内に治ることが明らかになってきました。

 胃・十二指腸潰瘍が治癒したあと、何も治療をしなければ、1年以内に約70%が再発を起こします。そのため、潰瘍治癒後も、H2ブロッカーや防御因子増強薬による維持療法と呼ばれる潰瘍再発予防のための薬剤投与が行われていました。維持療法を行うと、1年の再発率が10~20%くらいにダウンすることが知られています。

●第3期「原因療法の時代」

 ピロリ菌の除菌療法により、維持療法なしでも1年後の胃潰瘍の再発率は10%、十二指腸潰瘍は5%と極めて低く抑えられることが日本でも明らかになりました。

 胃・十二指腸潰瘍のもうひとつの原因であるエヌセッドの服用による胃・十二指腸潰瘍の治療については、エヌセッドの服用を中止することが原因療法になります。しかし、関節リウマチなどの患者さんでは中止できないことが多く、そのため原因療法に準じる治療法として、エヌセッド投与によって減少する胃粘膜プロスタグランジンを補充する、プロスタグランジン誘導体の投与が行われます。

 このように、胃・十二指腸潰瘍の治療はこの20年の間にすっかり様変わりしてきました。昔は、夏目漱石など胃・十二指腸潰瘍で亡くなった人も多かったのですが、今では治療法が確立されてきたため、昔のように恐ろしい病気ではなくなりつつあります。

病気に気づいたらどうする

 胃・十二指腸潰瘍の疑いのある時は、早急に医師の診察を受けてください(できれば消化器専門医)。なかでも、強い上腹部痛を伴う場合は胃・十二指腸潰瘍の穿孔(せんこう)(あな)があく)が考えられますし、吐血や下血を伴う場合は、胃または十二指腸粘膜からの出血が考えられますので、至急救急外来を受診してください。

浅香 正博

出典:法研「六訂版 家庭医学大全科」
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