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能率研究【のうりつけんきゅう】

最新 心理学事典

のうりつけんきゅう
能率研究
efficiency study
能率は,目的を達成した結果と,それに要した時間・労力・費用などの割合をいう。上野陽一は1949年に『能率学原論』を著わし,「生物ことに人間の行動には目的がある。その目的を達するための手段として行動を起こすのである。この目的と手段とが互いに釣り合っている状態を能率という」と定義している。

科学的管理法scientific management】 テイラーTaylor,F.W.は一連の作業能率についての考え方を科学的管理法として打ち出し,これをベースにして,作業能率の向上を図り,経費を節約することにより,運賃値上げを否認するという論陣を張って成功した。これにより,科学的管理法が能率研究の方法として一躍脚光を浴び,アメリカ中で注目され世界中に広まることとなった。

 上野は,テイラーが1911年に著わした『科学的管理法の諸原理Principles of Scientific Management』をはじめとする諸著作を紹介し,心理学の立場から能率を説き,日本における能率心理学の普及に大きな役割を果たした。

【動作時間研究motion and time study】 能率研究で忘れてはならないのがギルブレス夫妻Gilbreth,F.B.,& Gilbreth,L.M.である。ギルブレス,F.B.はサーブリックTherbligという動作分析のための記号を発案し,1911年に『動作研究Motion Study』を著わした。彼は動作研究はムダな動作を省き,唯一最善の方法one best wayを発見することを目的とし,作業現場での能率の向上に取り組んだ。ギルブレス,L.M.は心理学で学位を取得し,1914年に家庭管理学ともいうべき『管理の心理学The Psychology of Management』を著わしている。ギルブレス夫妻は,動作研究を進めるうちに,仕事に伴う疲労の原因を明らかにし,不必要な疲労を省き,疲労に打ち勝つ方法を工夫し,これによって能率の向上を考えた。この考え方をまとめたものが1916年に出版された夫妻の共著『疲労の研究Fatigue Study』である。ギルブレス,F.B.は鉄道運賃値上げ問題の委員会で,証人として,科学的管理法の採用が作業能率の向上に多大なる効果があると証言するなど,能率心理学の産業場面での普及に貢献した。現代でも,テイラーやギルブレスが考案した時間研究,動作研究は動作時間研究として作業研究work studyの核をなす方法として能率研究の基幹部分を担っている。

【作業改善】 産業界では,1913年にフォードFord,H.のコンベア作業の導入による大量生産方式が確立されると,ベルトコンベア作業が生産の中心に位置づけられ,作業を行なう労働者の作業方法は,作業研究によって決められるようになった。日本の製造業を代表するトヨタ自動車の生産方式はジャスト・イン・タイム生産方式とよばれ,テイラーの科学的管理法に基づく生産方式はテイラーシステムとよばれてきた。両者に共通しているのは,作業のムダをなくし,ムリを排除し,ムラをなくすことによる作業能率の向上である。

 また,現代の日本ではKAIZEN(作業改善)が定着している。製造業の生産にかかわる設備,業務などの改善をめざす現場主体の戦略で,世界各国でも採用されている。

【能率研究と人間工学】 能率研究ということばを本のタイトルに使用したのが,1921年に田中寛一が著わした『能率研究,人間工学』である。人間工学は現在ではエルゴノミクスergonomics(アーゴノミクス)として,作業の科学の意味で一般に使われているが,もともとhuman engineeringを訳したことばであり,能率心理学にかかわる用語であった。しかし,第2次世界大戦中にアメリカで工学心理学engineering psychologyが脚光を浴び,戦後日本に工学心理学の成果が紹介された時に,ヒューマンファクターズhuman factors,マン・マシーン・システムman-machine systemなどのことばの同義語として人間工学ということばに代表されてしまった。そのため人間工学というと第2次世界大戦中にアメリカの軍事研究に役割を果たした工学心理学の成果がイメージされがちであるが,テイラーやギルブレスの研究成果である動作時間研究を基本とした作業研究を産業場面で活用した能率研究が人間工学の重要な分野であることを忘れてはならない。

 田中寛一が人間工学について著わし,心理学的視点から能率研究を進めていたのに対して,倉敷労働科学研究所の初代所長の暉峻義等は『労働科学研究』第1巻第1号(1924)に「労働科学について」という論文を執筆し,その中でテイラーの科学的管理法について,労働生理学・心理学的視点から批判した。

【産業疲労研究】 暉峻義等は,単に科学的管理法を批判するだけではなく,日本の産業現場における労働者の疲労について述べている。1925年に『産業疲労』を著わした暉峻によれば,産業疲労は労働者の生体内で起こる生物学的な現象だけにとどまらず,経済的・社会的現象でもあると記している。産業労働者の疲労には,労働者の全生活が関連しており,しかも労働者の個人の疲労ではなく,労働者が所属している職場など彼が属する集団を構成する労働者全体の疲労を産業疲労としてとらえることが必要である。暉峻はこれを集団疲労とよんでいた。

 産業疲労をどのように測定するかは,労働の変化に伴って変わってきている。現在では,職場で行なわれる労働の過程での疲労の出現・進展のプロセスをとらえるだけでなく,作業の休憩による回復や労働者の自宅での睡眠や休養など,家庭や個人の生活過程での疲労回復のプロセスも疲労調査の対象となっている。疲労の測定方法については,日本産業衛生学会産業疲労研究会が『疲労判定のための機能検査法』(1962)や『産業疲労ハンドブック』(1988)をまとめている。これらの本には,フリッカー検査や自覚症状しらべに代表される疲労調査方法が多数紹介されている。とくに『産業疲労ハンドブック』では,産業疲労調査の企画と進め方,産業疲労対策の進め方,産業疲労調査の実際が記載されており,産業疲労と取り組む人びとのための手引書となっている。さらに産業疲労研究会は『産業疲労研究会会報』第12号(2003)で「作業条件改善のための調査ツールの提言」を行ない,作業条件チェックリスト,自覚症状しらべ,疲労部位しらべの3調査票からなる快適職場づくりのためのパッケージ調査票を作成し,提言している。この提言は従来の産業疲労研究が疲労を測定し評価することに力点がおかれていたのに対し,作業条件を改善し,疲労の発生を予防することに着目した点で評価できる。作業改善がKAIZENとして能率研究の視点から取り上げられるだけでなく,産業疲労研究からも,疲労の発生を抑えるためにKAIZENをめざしていることは,テイラーやギルブレスの能率研究と,暉峻義等の産業疲労研究がKAIZENにより融合したことになる。

【過労死】 過労死対策は,厚生労働省による,「過重労働による健康障害防止のための総合対策」,「労働者の心の健康の保持増進のための指針」や,労働安全衛生法の改正などによって実施されてきている。酒井一博は『産業衛生学雑誌』48(臨時増刊号,2006)の「産業疲労から見た慢性疲労対策――慢性疲労の評価法」で過労死の認定基準である月80時間以上の残業がさらに月100時間を超え,睡眠時間が連日5時間を割り込む状況下では,日々窮地に追い込まれるようなストレスを受け,過大な残業が常態化し,睡眠の質・量の不足という三つの悪条件が重なる結果となり,労働者は過労死へと突き進むことになるとしている。従来は時間が長くなるほど,自覚症の訴え数が増えるという関係をもとに,労働時間の長さだけで,過重性を判定してきたが,近年では労働時間が短くても,解決困難な強ストレスにさらされて過重労働となり,さらには過労死へと追い込まれるケースも見られる。人の働き方を能率面からとらえるだけでなく,過労防止の視点から産業疲労研究を今後も進めるとともに社会全体の効率を考えるならば,休息から休養へとワーク・ライフ・バランスを考えた産業社会の構築を考えるべきである。 →科学的管理法 →作業環境 →職場ストレス →人間工学
〔岸田 孝弥〕

出典:最新 心理学事典
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