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腹痛(急性腹症)

内科学 第10版

腹痛(急性腹症)(救急治療)
定義・概念
 腹痛とは腹部に自覚される疼痛を意味する.腹痛は消化器疾患に由来することが多いが,それ以外の要因により発症することもある.疾患の緊急性を判断し診療を行うことが重要である.急性腹症(acute abdomen)は激しい腹痛を呈する状態であり,従来は緊急開腹手術の適応とされていた.最近は画像診断機器などが進歩し,病態を正確に把握することで,不要な緊急開腹手術が回避される症例が多くなった.
分類
 腹痛の診療では,緊急性の見極め,鑑別診断,治療法の選択などを短時間に判断しなければならない.以下の4つの分類はその判断を下す際に必要な基礎知識である.
1)痛みの病態生理による分類:
腹部の痛みは病態生理学的な分類から,体性痛,内臓痛,関連痛の3つにおもに分類される.腹部疾患の多くは,これらが混在し症状を形成している.腹痛の緊急性を判断するために,痛みの性質と随伴する症状については十分な理解が必要である.
 a)体性痛(somatic pain):体性痛は持続的で局在のはっきりした強い痛みである.キリキリした鋭い痛みであり,ときに拍動性に痛む.圧痛の局在も明瞭で,腹膜刺激症状を呈する.体性痛を現す病態では腹膜炎を伴っており,緊急手術の適応を第一に考慮する.
 壁側腹膜,腸間膜および横隔膜には知覚神経が密に存在し,その自由終末に侵害受容器が存在する.捻転などの物理的刺激あるいは消化液や血液,細菌などによる化学的刺激,虚血あるいは炎症を侵害受容器が感知すると,その侵害刺激は求心経路により脊髄後根神経節を介しておもに外側脊髄視床路を上行し,視床を経て大脳皮質の体性感覚野に投射され,局在性のある痛みとして知覚される.知覚神経は腹壁にも分布するため,体性痛は筋性防御(defense musculaire,muscular defense)や反跳痛(Blumberg徴候)などの腹膜刺激症状を呈する.体動により悪化するため,患者は動かないことが多い.高齢患者や精神疾患患者の場合には体性痛であっても,症状が軽度のことがあり,明らかな腹膜刺激症状を認めないことがあるので注意が必要である.体性痛には非オピオイド系鎮痛薬やオピオイドが有効である.
 b)内臓痛(visceral pain):内臓痛は腹部の正中線上に自覚される部位感の乏しいびまん性の痛みである.疝痛 (colic pain)のように差し込むような強い痛みのこともあれば,鈍痛である場合もあり,不快感や膨満感として自覚することもある.周期的,間欠的に生じ,悪心,嘔吐,発汗,頻脈などの自律神経反射症状や情動的な反応を伴うことが多い.
 内臓には侵害受容器がまばらに存在し,管腔臓器(胃,腸,胆道,尿管など)の急激な収縮,強い伸展,虚血,炎症などによる侵害刺激を感知する.感知された刺激はおもに脊髄無髄神経により求心性に伝達され,おもに内側系の脊髄視床路や脊髄網様体路を通って伝達される.この経路はおもに,視床下部や大脳辺縁系,中脳水道周辺灰白質などに投射される.
 内臓痛は前述のように局在性のはっきりしない痛みであるが,一般には胃十二指腸や胆道系の疾患は上腹部に,小腸や結腸の疾患は臍周囲に,直腸や骨盤内臓器の疾患は下腹部に痛みを自覚する.体動によって軽快する場合があり,鎮痙薬が奏効する.
 c)関連痛(referred pain):関連痛は,内臓痛や体性痛を発する病巣とは離れた場所に感じる痛みである.放散痛や投射痛ともよばれる.内臓痛が強くなると,その痛みを伝達する神経が脊髄後核で皮膚の知覚神経と干渉し,脊髄分節のデルマトーム(皮膚分節知覚帯)上の痛みとして間違えて知覚する.たとえば,胆石の疝痛発作のときに右肩甲骨や右上腕に痛みが放散することがある.
 d)その他:末梢神経や中枢神経の直接的な障害により発生する痛みを神経因性疼痛といい,腹痛を呈することがある.痛みは,灼熱痛や電撃痛として感じられるが,腹部の触診や食事により増強することはない.帯状疱疹による痛みや,腫瘍による神経障害性疼痛などがある.
2)腹痛をきたす腹部臓器以外の疾患(表3-2-4):
腹痛は腹部臓器以外の疾患でも起こる.急性腹症の診療にあたる際は常に以下のような疾患を頭の片隅におきながら,慎重な鑑別診断を行う.
 a)循環器・呼吸器系疾患:急性心筋梗塞が上腹部の激痛で発症することはまれではない.急性心筋梗塞や肺梗塞は関連痛として腹痛が起き,通常腹部触診にて圧痛は認めない.
 大動脈瘤破裂,大動脈解離,上腸間膜動脈血栓症はまれであるが致命的な疾患である.救命のためには迅速な診断・治療が必須である.腹部大動脈瘤破裂は急激な腰背部の引き裂かれるような激痛で発症し,急性腹症から短時間でショック状態となる.上腸間膜動脈血栓症や大動脈解離は強い自覚症状のわりに腹部圧痛が軽度である.
 b)全身性疾患:腹痛を呈する疾患は多岐にわたる.頻度は高くないが,全身性エリテマトーデスでは腹膜炎を起こし急性腹症となることがある.急性ポルフィリン症や急性鉛中毒では,消化管蠕動が亢進し腸閉塞との鑑別が困難である.Henoch-Schönlein紫斑病は出血斑が出現する前に激しい腹痛を起こすことがあり,急性虫垂炎などとの鑑別が困難な場合がある.
 c)脳脊髄・神経疾患:脳腫瘍などによる中枢神経系への障害あるいは帯状疱疹などによる脊髄神経や神経根に由来する神経因性疼痛である.
 d)寄生虫症:胃アニサキス症は虫体へのArthus反応などのアレルギー反応が主因と考えられている.非常に強い上腹部痛を呈するが,内視鏡による虫体の除去により速やかに症状が消失することが多い.
3)部位による分類(表3-2-5):
腹痛の部位によりある程度, 原因疾患が想定される.急性腹症の場合,迅速に診療を進める必要があり,このような分類を頭に入れながら診察・検査を行う.
4)疾患の病態による分類(表3-2-6):
疾患の病態により大きく4つに分類される.病態による分類は治療法の選択に結びつく.
診断
 注意深い問診と身体診察が正しい診断へ到達するために最も重要である.問診と診察で疾患の緊急性を把握し,診療に必要な検査と処置を迅速に判断する.
1)問診:
問診の要点を表3-2-7に示す.急性腹症で全身状態が不良な患者,小児や精神疾患で意思疎通が困難な場合には,同居家族から情報を得る場合もある.
 既往歴,手術歴,服薬歴,アレルギー歴,飲酒歴,家族歴などを聴取する.女性の場合は月経の状況や妊娠の有無を聴取する.これまでに同じような症状で治療歴があるか,基礎疾患に何があり,どのような治療を受けていたのかなどを具体的に聴取する.腹部臓器以外の疾患でも腹痛が起こることを念頭に(表3-2-4),注意深い聴取が必要である.
 腹痛の部位により想定される疾患がある程度絞られる(表3-2-5).発症の状況,たとえば急激な発症であれば,消化管穿孔,心筋梗塞,大動脈解離,胆石性急性膵炎,尿路結石などがあり,徐々に強くなる場合は炎症を示唆する.時間経過で症状がどのように変化しているか,限局していた痛みが広がる,あるいは移動していないか.たとえば急性虫垂炎では発症当初は心窩部から臍を中心とした痛みであるが,時間の経過とともに右下腹部に限局する.痛みが持続性か間欠性かは有用な情報である.痛みを悪化させる因子,改善させる因子や,発熱,悪心・嘔吐,下痢,吐下血などの随伴する症状も聴取する.当日の排便の有無や便の性状,最近の体重変化なども重要である.
2)身体診察:
腹部の診察に入る前に,全身状態の評価を行う.意識レベル,体温,血圧,脈拍数,呼吸数などをチェックすることで疾患の緊急性をはかり,ショック状態やそれに近い状態の場合はまず全身状態の改善をはかることを優先し,並行して診察と検査をすすめる.患者の表情,姿勢,歩行できるかどうかなどは疾患の重症度を測る目安となる.眼瞼結膜や眼球結膜に貧血や黄疸がないか,脱水の有無,口臭,甲状腺腫大の有無,心雑音や不整脈の有無,肺雑音や呼吸音減弱,身体各所の動脈の触診などは手早く行う.
 腹部の診察の手順は,視診,聴診,打診,触診の順に行う.視診では出血斑や皮疹の有無,手術痕,平坦か膨隆しているか,腸管の蠕動などに注意する.鼠径ヘルニアや大腿ヘルニア嵌頓の有無を確認するためには十分に腹部を露出することが重要である.次に聴診を行うが,機械的イレウスでは典型的には金属性有響性雑音(metallic sound)が聴取される.次に打診であるが,打診や聴診を行う際には腹痛の部位を確認し,そこを最後に診察する.打診は腸管内ガスの局在や,多量の腹水の有無,肝腫大や脾腫大の有無などを鼓音と濁音の境界を調べることにより知ることができる.また,腹膜刺激症状がある場合には軽い打診により,反跳痛類似の所見を得ることができる.触診は浅い触診をまず行う.仰臥位で下肢を屈曲させ,腹部の緊張をとってから行うことが多い.重要な所見は,筋性防御,圧痛点,腫瘤の触知,反跳痛の有無である.筋性防御は腹膜炎の存在を示す所見で,軽度の触診で反射的に腹壁の緊張がみられることをいう.炎症が高度になると腹部全体の筋性防御が著しくなり板状硬(board-like rigidity)を呈する.反跳痛は腹部を手で圧迫し,その後急に手を離したときに生じる痛みであり腹膜刺激症状を意味する.通常は浅い触診を行った後で,深い触診を行うが腹膜刺激症状がはっきりしている場合には,いたずらに患者の苦痛を増悪させる深い触診を行う必要はない.直腸診はときに有用で,触診にて明確とならない骨盤内の炎症が診断できる.
3)臨床検査:
 a)血液検査:
 ⅰ)血算:貧血の有無や白血球数や白血球分画(核の左方移動)から炎症の程度を知ることができる.しかし,出血直後ではヘモグロビンやヘマトクリットが低下しないことや,重症感染症では白血球数がむしろ減少することもある.
 ⅱ)生化学的検査:血清アミラーゼは急性膵炎のみならず,急性胆囊炎,消化管穿孔,イレウスでも上昇するため,特異性の高い血清リパーゼの測定が急性膵炎の診断で有用である.肝機能検査(ビリルビン,AST,ALT,ALPなど),血糖値,電解質(Na,K,Cl,Ca),腎機能(血液尿素窒素,クレアチニン)は全身状態を評価するために必要である.
 ⅲ)動脈血ガス分析:呼吸状態と酸塩基平衡を調べるために必要である.強度の代謝性アシドーシスは広範な腸管壊死など循環障害を伴う場合に認められ,その経時的変動をチェックすることは重要である.
 ⅳ)凝固系検査:緊急手術に必要とされるが,それ以外に播種性血管内凝固症候群(DIC),肝予備能の評価にも重要である.
 ⅴ)尿検査:沈渣に赤血球を認める場合は,尿路系結石や尿路系外傷を疑う.また,尿アミラーゼ値の上昇は急性膵炎の存在を示唆する.急性ポルフィリン血症では,尿中のポルフォビリノーゲンの増加がみられる.女性では,妊娠反応検査も必要に応じて行わなければならない.
4)画像診断:
近年の画像診断装置の進歩により,急性腹症診療における画像診断法の用い方,重みづけは変わりつつある.
 a)腹部超音波検査:簡便かつ非侵襲的であり,ベットサイドで腹部触診とほぼ同時に行われる.特に有用なのは右上腹部痛を呈する患者に対してであり,急性胆囊炎や胆管拡張などを迅速に診断できる.その他,小腸の拡張と液体貯留からイレウスの診断も容易であり,腸重積や急性虫垂炎,卵巣囊腫,大動脈瘤,上腸間膜動脈血栓症などさまざまな疾患を診断可能である.さらに,腹水穿刺を超音波ガイド下で安全に行い,その性状を確認することで腹腔内出血,腹膜炎,消化管穿孔などの鑑別を行うことができる.
 b)CT(computed tomography):腹部超音波で十分な診断を得ることができない場合には,次にCT検査を行う.近年進歩した多列検出器CT(multi detector-row CT:MDCT)装置により,空間分解能や解像度が上がり,急性腹症診断への有用性は最も高い.たとえば,腹腔内の遊離ガスの検出は腹部単純X線撮影より感度が高い.また,腸管の炎症の場合には壁肥厚や周囲脂肪織の炎症所見,炎症性滲出液,周囲膿瘍などを明瞭に判別でき,穿孔部分についても同定される場合がある.胆道や尿路などの石灰化結石も明瞭に描出される.さらに,造影CTを行うことで,血管病変や膵臓などの実質臓器の虚血所見を診断できる.
 c)単純X線検査:従来急性腹症の画像診断の中心的検査であったが,CT検査と比較し腹腔内遊離ガスや腸閉塞を示唆するニボー所見など検出感度が低く,かつ立位や側臥位など体位変換が必要である.無論,患者の全身状態を評価する目的の胸部X線撮影などは必要である.また,すぐにCT検査を行えない場合には積極的に行われるべき検査である.
 d)血管造影検査:腸間膜動脈血栓症の診断と治療には必須である.また,肝癌破裂などによる腹腔内出血時の血管塞栓術による止血なども可能である.
 e)消化管内視鏡検査:上部消化管内視鏡検査は吐・下血を伴う腹痛の患者の診断と治療,胃・十二指腸穿孔疑い症例の診断のために行われる.大腸内視鏡は大腸イレウスの診断と経肛門的減圧管挿入目的やS状結腸軸捻転症に対する整復術のために積極的に行われる.
治療
 急性腹症診療の要点は,直ちに何らかの処置を行う必要がある患者,待機的に処置を行う患者,保存的治療を行う患者を的確に判断し,初期治療とモニタリングを行いながら緊急手術やドレナージ術,IVR(interventional radiology)治療などを選択し行うことである(表3-2-6).
 全身状態が悪い場合,特にショック状態の患者の場合にはまず初期治療を行い,それと並行して診察・検査を行う.初期治療は呼吸・循環管理とモニタリングである.具体的には必要に応じて酸素投与や場合によってはレスピレーター管理,静脈ラインを確保し細胞外液を中心とした輸液を行うが,必要に応じて昇圧剤の投与も行う.中心静脈圧測定が必要な場合などは中心静脈カテーテルを留置する.また,尿路カテーテルを留置し正確な尿量を測定する.意識レベル,血圧,脈拍,血液酸素飽和度,尿量,体温などのモニタリングを行う.細菌性腹膜炎などの感染症が疑われる場合は広域スペクトラムの抗菌薬を投与する.鎮痛薬は,その投与により腹部所見がマスクされるため,診断が下されるまで使用しないことが従来推奨されてきた.しかし,最近鎮痛薬の投与によっても腹部所見が影響を受けないという結果が報告されており,むしろ積極的に除痛を推奨する意見がある.
 各種検査を行っても,診断や手術適応の判断がつかない場合がある.そのような場合は,繰り返し問診,診察,検査およびその評価を行い,慎重に経過観察しながら診療を継続する.[廣田衛久・下瀬川 徹]
■文献
Dang C, Aguilera P, et al: Acute abdominal pain: Four classifications can guide assessment and management. Geriatrics, 57: 30-42, 2002.井廻道夫,福井次矢 編:最新内科学大系3 内科総論3 主要症候−症候から診断へ−,pp73-81,中山書店,東京,1996.
Stoker J, van Randen A, et al: Imaging patients with acute abdominal pain. Radiology, 253: 31-46, 2009.

出典:内科学 第10版
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