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自然模倣説【しぜんもほうせつ】

日本大百科全書(ニッポニカ)

自然模倣説
しぜんもほうせつ
imitation of nature

芸術の本質を自然の模倣(再現)にみるのが西欧の古典的な芸術理論である。それには(1)感覚的・現象的な外的自然の忠実な模倣、(2)選別され理想化された自然の模倣、の二つの考え方がある。この2種の自然模倣は、古代ギリシアの画家ゼウクシスZeuxis(前5世紀?)についての二つの逸話と対応させることができる。彼の描いたブドウを鳥がついばんだという故事は(1)に対応し、また、トロイア(トロヤ)のヘレネを描く際に5人の乙女を集め、それぞれのもっとも美しい部分を選んで仕上げたという逸話は(2)に対応する。

(1)芸術の本質を見えるがままの自然模倣に求める考え方によれば、芸術は外界の受動的かつ忠実な模写となる。それによって作品は、見る者に錯覚をおこさせるような「トロンプ・ルイユ」(だまし絵、trompe-l’œil)の役割を果たしたり、あるいは19世紀の自然主義の求めたように、現実を直視させたりする機能をもつ。しかし、カメラの発明は、忠実な自然模倣という芸術観を後退させた。

(2)他方、模倣すべきは外的自然の現象ではなく、内的自然の本質や法則、そして理想である、という説もある。ルネサンス期にあっては、古代の模範的作品の模倣も自然模倣と解釈されたが、その理由は、古代人が内的自然の模倣に卓越しているという点にあった。さらに16世紀から18世紀にかけて、芸術は自然の単なる美に満足するだけではなく、自然の不完全性を補完してより完全な美を表現すべきである、という考えがおこった(たとえば、バトゥ)。その結果、マニエリズモやバロックはもとより、オランダ風景画などの理論的支えともなって、選択的な自然模倣、理想的自然の表現が追求された。

 しかし、18世紀以降、自然概念が変容し、自然がコスモスcosmosまたは神の被造世界という性格を弱めるようになると、芸術家は自然模倣よりも内面の表出によって、作品を「第二の自然」たらしめようとした。このようなロマン主義的芸術観によって、芸術の自律的領域が形成されるとともに、また自然模倣説も芸術論の主流から退いた。とはいえ、近代においても、たとえばクールベに代表されるリアリズムは自然模倣の強調であり、さらに非模倣的芸術が興隆した現代においても、典型的現実の模倣を説くハンガリーの美学者ルカーチの理論は、自然の選択的模倣説の現代的解釈といえる。またフランスの美学者カイヨワは、美の根源を自然のなかに置き、描く行為そのものに重きを置くアクション・ペインティングaction paintingや既製品を寄せ集め作品を構成するアッサンブラージュassemblage(フランス語)のような現代芸術の傾向を、芸術家が恣意(しい)を離れて、より完全に自然と結び付こうとする試みであると解するが、この考えは自然模倣説の一つの極点といえよう。なお、東洋の芸術理論においては、自然模倣をもっとも重要な契機とみる考えはなかったにもせよ、中国の画論における「形似」や、近松門左衛門の「虚実皮膜の論」にみられるように、その概念が存在しなかったわけではない。

[浜下昌宏]

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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