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落・貶【おとす】

精選版 日本国語大辞典

おと・す【落・貶】
〘他サ五(四)〙
[一] 上から下へ、物の位置を急に変える。
① はたらきかけて、勢いよく下へ動くようにする。落下させる。
※伊勢物語(10C前)七八「滝おとし水走らせなどして」
※小学読本(1874)〈榊原・那珂・稲垣〉五「従者誤りて銭十文を川の中に堕したるを」
② 花、葉などを散らす。また、涙などを流す。
※伊勢物語(10C前)九「皆人、乾飯(かれいひ)の上に涙おとしてほとびにけり」
※玉葉(1312)冬・八八九「紅葉(もみぢ)ばをおとす時雨の降るなべに夜さへぞ寒きひとりしぬれば〈柿本人麻呂〉」
③ 勢いよくおろす。坂を馬でおりる場合や上流からいかだなどで下る場合などにいう。
※平家(13C前)九「まっさきかけておとしければ、兵(つはもの)共皆続いておとす」
④ 光、影、視線などが下のものに届くようにする。
※野心(1902)〈永井荷風〉六「そして冷い水の様な光を〈略〉彼等の上に落して居る」
※野分(1907)〈夏目漱石〉四「器械的に眼(め)を活版の上に落(オト)した」
⑤ 雨がふる。
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉夏「早くもポツリ、ポツリと豆のやうな大粒なのが落(オト)して来たので」
[二] 事物、人などをある所から離す。また、なくなす。
① ついているものを取り除く。本体から切り離す。
※看聞御記‐応永二四年(1417)閏五月二〇日「抑退蔵庵僧以筭落瘧病云々」
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)大意「湯を以て身を温め、垢を落(オト)し」
② 持物などをうっかりなくなす。紛失する。また、それまで保っていたもの(生命、元気など)を失う。
※源氏(1001‐14頃)若菜下「よべのかはほりをおとして、これは風ぬるくこそありけれとて御あふぎ置き給ひて」
※天草本伊曾保(1593)鳥と獣の事「イヨイヨ チカラヲ votoxi(ヲトシ)
※帰省(1890)〈宮崎湖処子〉二「渠は少しく顔色を落して見えしが、渠は唯云へり、面目なしと」
③ 入れるはずのものをもらす。うっかりしてぬかす。
※枕(10C終)一〇二「かやうの事こそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、『一つなおとしそ』といへば、いかがはせん」
④ 人や物をある場所に残してそこを離れる。置きざりにする。見捨てる。
※源氏(1001‐14頃)夕霧「かかる人を、ここかしこにおとし置き給ひて」
⑤ よそから一時的に来た人々が、その土地や場所で金銭を消費する。
※兄の立場(1926)〈川崎長太郎〉四「毎晩、カフに落す金はあっても」
⑥ ある場所からひそかに逃げさせる。逃がす。
※太平記(14C後)一「是は謀叛の輩(ともがら)を落さじが為の謀(はかりごと)なり」
⑦ 芝居用語で、退座させる。〔伝奇作書(1851)〕
⑧ 水量を少なくする。水をぬく。
※四河入海(17C前)八「田へ水を入て、一盃になればきって水ををとせば」
⑨ 審査や試験などで、資格のないものとしてしりぞける。落第させる。
※半自叙伝(1928‐29)〈菊池寛〉「試験場での私の態度動作が、乱暴でそのために落されたらしい」
[三] 物事の位置、程度などを低くする。
① 地位、品質などを下げる。また、仏道を求める心などを失わせる。堕落させる。「質をおとす」
※太平記(14C後)三七「されば此の仙人も一度后に落されけるより」
※文学の根本問題(1958‐59)〈中島健蔵〉七「内容を落すわけにはいかない」
② (貶) 軽蔑する。見さげる。悪口を言う。
※源氏(1001‐14頃)若菜下「人におとされ給へる御ありさまとて、めでたき方にあらため給ふべきにやは侍らむ」
③ 勢いを弱くする。また、音などを低くする。
※狭衣物語(1069‐77頃か)二「琵琶を取り寄せて、『衣がへ』をひとわたりおとして」
※虞美人草(1907)〈夏目漱石〉一五「言葉の尻を上げて置いて、『さう』とさも軽蔑した様に落(オト)す」
④ 数量を減らす。また、相場や値段を下げる。
※蘇悉地羯羅経略疏天暦五年点(951)五「三に少し半を加へ減(オトシ)て、分量を作ることを明す」
⑤ 普通より位置を下げる。
※玄武朱雀(1898)〈泉鏡花〉四「鳶口を提(ひっさ)げて、柄を落し」
※虞美人草(1907)〈夏目漱石〉一二「女は、落とした肩を、少しく浮かした儘で」
⑥ あるものより劣った状態にする。
※源氏(1001‐14頃)桐壺「南殿にてありし儀式よそほしかりし御ひびきにおとさせ給はず」
[四] 物事を終わりの段階に到達させる。
① 精進(しょうじん)などの状態を終わりにする。
※歌舞伎・釣狐(1882)「是れから先きは古稀の祝ひ、〈略〉今日一日神へ詫び、禁酒を落(オト)して過し召され」
② 城や陣地などを攻め取る。陥落させる。
※書紀(720)天智元年三月(寛文版訓)「新羅其の西の塁(そこ)を輸(ヲトス)ことを獲ず」
③ 地所などの所有権を奪う。没収する。
※清原宣賢式目抄(1534)一六条「此文の心は、武家の被官人の敵御方してをちたる知行の事也。本領主とは、武家被官人の上古にをとされたる知行を、今別人持たる時」
④ 相手を自分の思うとおりに従わせる。口説いて意のままにする。なびかせる。
※仮名草子・薄雪物語(1632)上「雲の上なる御所さまもおとせば落つるうき世のならひ」
⑤ 問いつめて自白させる。→問い落とす
⑥ 金銭の支払を処理する。決着させる。決済する。「口座から落とす」「手形を落とす」 〔現代新語集成(1931)〕
⑦ 柔道などで、気絶させる。
[五] 人、物事などをある範囲にはめこむ。また、事がらの所属、結果などを決める。
① 穴などにはまりこませる。比喩的に、しかけたものにはまりこむようにしむける。
※古文真宝笑雲抄(1525)五「枢はくるろぞ。戸はくるろををとしだにすれば不開ぞ」
※浄瑠璃・雪女五枚羽子板(1708)厄払ひ「其ごとく人を悪におとさんとて身の悪をさへづるか」
② 話、事態などを、最後にある点にゆきつかせる。帰着させる。
※甲陽軍鑑(17C初)品五「武士は何を仕りても家の武道におとし、〈略〉主君に忠をつくすべき事肝要也」
③ 特に、落語などで、しゃれなどを効果的に使って話をしめくくる。
※黄表紙・稗史億説年代記(1802)「おとしばなし、口あいといふものはじめてできる。といふたと落す」
④ 手に入れる。自分の物にする。落札する。
※大乗院寺社雑事記‐文明二年(1470)四月三日「供料無沙汰之間、一向被政所方了」
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四「江戸子の声色(こわいろ)つかふたばかりに、高札で落(オト)した」

出典:精選版 日本国語大辞典
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