●詩経【しきょう】
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
詩経
しきょう
Shi-jing
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デジタル大辞泉
しきょう〔シキヤウ〕【詩経】
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世界大百科事典 第2版
しきょう【詩経 Shī jīng】
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日本大百科全書(ニッポニカ)
詩経
しきょう
中国最古の詩集。黄河流域の諸国や王宮で歌われた詩歌305首を収めたもので、『書経』『易経』『春秋』『礼記(らいき)』とともに儒教の経典(いわゆる五経)の一つとされた。西周初期(前11世紀)から東周中期(前6世紀)に至る約500年間の作品群と推測されている。内容は、周王朝の比較的安定した時代にふさわしい明るい叙情詩から、混乱期を反映する暗い叙事詩まで多彩だが、数のうえでもっとも多いのは恋愛詩である(婚姻詩を含めて全体の約半数)。したがって『詩経』は、儒教以前の古代歌謡の黄金時代に花開いた中国文学史上まれな恋愛文学ないし女流文学の一面をもっている。
口頭で伝承された作品群がいつ文字言語に写され編集されたか明らかでないが、現存の『詩経』は漢の毛(もう)公の伝えたとされる『毛詩』(その注釈が『毛伝』)で、風(ふう)・雅(が)・頌(しょう)の3部から構成されている。風(十五国風(こくふう)、160首)は諸侯国の民間歌謡を主とし、そのテーマは、恋愛、結婚、生活、戦争という歌いの場を縦軸に、熱情、喜び、悲しみ、戯れなどの感情を横軸に交差させて示すと、たいていこの座標に収まるが、8割は恋愛・結婚の喜び・悲しみに集中する。歌垣(うたがき)的な祝祭を背景に恋愛のゲームを歌う「行露(こうろ)」(召南(しょうなん))、「新台(しんだい)」(邶風(はいふう))、「桑中(そうちゅう)」(鄘風(ようふう))、動植物や投果・渡河などの象徴を用いて大胆な求愛を歌う「鶉之奔奔(じゅんしほんぽん)」(鄘風)、「摽有梅(ひょうゆうばい)」(召南)、「褰裳(けんしょう)」(鄭風(ていふう))、愛の顛末(てんまつ)を描いた叙事詩「氓(ぼう)」(衛風(えいふう))、失われた愛の悲劇や葛藤(かっとう)をつづる「谷風(こくふう)」(邶風)、「墓門(ぼもん)」(陳風(ちんふう))、「鴟鴞(しきょう)」(豳風(ひんぷう))、婚姻のしがらみによる苦悩を描く「載馳(さいち)」(鄘風)など、古代女性の熱烈な息吹を伝える作品が多い。雅(小雅(しょうが)74首、大雅(たいが)31首)は宮廷、社会、戦場、歴史が主舞台で、貴族の饗宴(きょうえん)での祝福や歓迎、兵士の望郷や将軍の武勲、亡国の憂いや社会悪への憤りなどをテーマとする詩、また、周の起源や建国を歌う叙事詩(「生民(せいみん)」「緜(めん)」「文王(ぶんおう)」など)、そのほか小雅には国風的な恋愛・結婚の歌も含まれている(「采緑(さいりょく)」「小弁(しょうはん)」「何人斯(かじんし)」など)。頌(周頌31首、魯(ろ)頌4首、商(しょう)頌5首)は祭場が舞台で、おもに祖先への頌歌や求福をテーマとする。『詩経』で使用されている言語は甚だ難解であるが、文体論的分析を通して種々の特徴がとらえられる。たとえば国風の基本詩形は四言(4シラブル)のリズムを基調とし、4詩行をもつ連(れん)(スタンザ)が3回反復される。
周南・樛木(きゅうぼく)(つる草に絡みつかれる木でもって、女の積極的な愛を受ける男の幸福を歌う)
Ⅰ
南有樛木 南の国のしだれ木に
葛藟壘(a)之 かずら草のはうという
楽只君子 喜びあふれる殿方に
福履綏(b)之 良き人の幸(さち)もたらさる
Ⅱ
南有樛木 南の国のしだれ木に
葛藟荒(a)之 かずら草のおおうという
楽只君子 喜びあふれる殿方に
福履将(b)之 良き人の幸みたされる
Ⅲ
南有樛木 南の国のしだれ木に
葛藟栄(a)之 かずら草のめぐるという
楽只君子 喜びあふれる殿方に
福履成(b)之 良き人の幸とげられる
これは伝承童謡と似た形式であるが、言語の技巧は甚だ高度である。反復で変換される語(a・b)は、横の列に音声上の類似性、縦の列に意味上の類似性をもつ語(パラディグム)を配置し、漸層法や遠近法の効果をつくりだす。また、各連で自然(前半2行)と人間(後半2行)を並べる平行法により、無関係の二物間に隠喩(いんゆ)(メタファー)を発見ないし創造するという手法(「興」という)を編み出した。そのほか、西欧の古代・中世文学にもみえる定型句(フォーミュラー)の手法や、わが国の本歌取(どり)に似た手法もあり、豊富なレトリックと相まって中国詩学の源泉となっている。『詩経』はすでに孔子(こうし)のころから知識人の教養とされたが、詩の最初の意味はしだいに忘れられ、秦(しん)の焚書(ふんしょ)を経て、四つのテキストが出現した。しかし後漢(ごかん)の鄭玄(じょうげん)の注釈(『鄭箋(ていせん)』という)により解釈の体系性を与えられた『毛詩』のみ生き残った。『毛伝』と『鄭箋』を敷衍(ふえん)した唐(とう)の孔穎達(くようだつ)の注釈(『毛詩正義』)をあわせて古注といい、南宋(なんそう)の朱子(しゅし)の新注(『詩集伝』)と対する。新注は古注ほど硬直していないが、歴史主義的、道徳主義的解釈では共通する。儒教的解釈学から解放されて『詩経』の真の姿に迫ろうとする試みは20世紀に始まった。フランスのマルセル・グラネの社会学的研究(1919)が先鞭(せんべん)をつけ、聞一多(ぶんいった)の民俗学的研究(1937)が続く。イギリスのアーサー・ウェーリーの優れた英訳(1937)、スウェーデンのB・カールグレンの言語学的研究(1942)も現れ、新しい「詩経学」が緒についた。
[加納喜光]
『吉川幸次郎訳注『中国詩人選集1・2 詩経国風 上下』(1958・岩波書店)』▽『目加田誠訳『中国古典文学大系15 詩経・楚辞』(1969・平凡社)』▽『目加田誠著『詩経訳注』上下(1983・龍渓書舎)』▽『高田真治著『漢詩大系1・2 詩経 上下』(1966、68・集英社)』▽『松本雅明著『詩経諸篇の成立に関する研究』上下(1980、81・開明書店)』▽『白川静著『詩経研究 通論篇』(1981・朋友書店)』▽『加納喜光訳『中国の古典18・19 詩経 上下』(1982、83・学習研究社)』▽『中島みどり著『中国詩文選2 詩経』(1983・筑摩書房)』▽『石川忠久著『詩経』(1984・明徳出版社)』▽『境武男著『詩経全釈』(1984・汲古書院)』
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精選版 日本国語大辞典
しきょう シキャウ【詩経】
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旺文社世界史事典 三訂版
詩経
しきょう
古くは単に「詩」と呼び,宋以後『詩経』という。現存のものは前漢時代に毛亨 (もうこう) らが解説したため,『毛詩』とも称する。3000余編中から孔子が305編を選んだといわれるが,戦国時代に成立したものらしい。諸国の歌謡を採った国風 (こくふう) ,政治の興亡・宴会・戦争をうたった雅 (が) ,祭りをうたった頌 (しよう) に分かれ,周代における各国の状態を知る大切な史料である。
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