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転移【てんい】

日本大百科全書(ニッポニカ)

転移(腫瘍)
てんい
がん細胞が原発巣(始めに発生した部位)とは離れた組織や臓器で非連続性の腫瘍(しゅよう)を形成すること。腫瘍の重要な性質の一つである。
 腫瘍が広がる場合、原発巣に連続して発育する広がり方と、原発巣から離れた遠い場所に種々の方法によって運ばれ、その部位で新たに発育する広がり方があり、後者が「転移」である。転移による広がり方は、その経路によって次のように分類されている。すなわち、リンパ流を介するリンパ性転移(リンパ行性転移)、血行を介する血行性転移、肺がんが気管支などの管を介して広がるような管内性転移、上唇(じょうしん)のがんがこれに触れている下唇に広がるような接触性転移、腹腔(ふくくう)内などにばらまかれて広がるような播種(はしゅ)(播種性)転移である。
 腫瘍は良性腫瘍と悪性腫瘍とに大別され、悪性腫瘍は一般に転移をおこすが、良性腫瘍は転移しないという特徴を有するため、転移は良性腫瘍、悪性腫瘍両者の重要な鑑別点である。がん(がん腫)はリンパ性転移の傾向が強く、肉腫は血行性転移をおこしやすいが、がんのなかでも、組織学的に血管と密接な関係を有する特徴をもつ肝細胞がん、腎(じん)細胞がん、絨毛(じゅうもう)がんなどでは血行性転移を好むものもある。接触性転移のなかには、腫瘍を外科的に切除した場合に、メスなどが違う場所の組織を傷つけ、そこに腫瘍細胞が接着して転移するものも含まれるが、これは別に移植性転移ともよばれる。播種の実例としては、胸腔にばらまかれたがん性胸膜炎や腹腔でみられるがん性腹膜炎、あるいは腹腔に播種されたがん細胞が卵巣に転移してクルッケンベルグKrukenberg腫瘍となるなどがよく知られている。
 転移という現象は、悪性腫瘍の診断・治療にあたって重要な課題を提供するものである。一つには、原発巣を取り除いても転移(転移巣)が存在すれば腫瘍の広がりを止めることはできないということであり、もう一つは、たとえば肺に腫瘍を発見した場合、それが原発巣である可能性も、転移巣である可能性もあるため、診断上注意を要するということである。転移が形成される過程には、腫瘍細胞が原発巣でばらばらになり、浸潤性に増殖して、血管などに侵入し、他の部位や臓器に移動運搬され、そこで塞栓(そくせん)をおこして定着し、その部位で増殖発育するなどの具体的なステップが考えられている。しかし、実際には転移の分布は統一的ではないし、また、脾臓(ひぞう)、筋肉などのような比較的転移をおこしにくい組織、臓器も知られている。このため、転移に関しては、血管などの経路の条件以外に、種子と畑の関係(seeds and soils説)、すなわち親和性あるいは腫瘍と臓器の相互関係などが影響していると考えられている。
 転移は原発巣の腫瘍細胞が運ばれてきて増殖したものであるため、原発巣と転移巣とは原則的には同一の組織学的所見を示す。このことから、診療の際には、転移巣を生検(組織学的検査)で調べ、原発巣の部位、性質を逆に類推する方法が一般的に行われている。
 なお、転移という語は、感染症において、病原体が血液に入り、菌血症、敗血症となって全身に広がるときにも使われることがある。[渡邊清高]

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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