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輸液療法【ゆえきりょうほう】

世界大百科事典 第2版

ゆえきりょうほう【輸液療法】

出典:株式会社平凡社
Copyright (c) Heibonsha Limited, Publishers, Tokyo. All rights reserved.

内科学 第10版

輸液療法(治療学総論)
 輸液療法は日常診療において欠くことのできない治療法である.人間の体の60%(体重比)は水で構成されており(図3-1-16),その水の中に電解質が含まれ,一定の濃度と量に調節されている.特に細胞外液をClaude Bernardは内部環境とよび,その恒常性は細胞活動に必須の条件となっている.いろいろな疾病により,この恒常性が破綻をきたし,さらに病態の悪化をきたす.その体液異常を輸液療法によって改善させることによって,より正常に近い体液組成がもたらされ,疾病回復の一助になるのである.もちろん,ほとんどの場合に輸液療法は原因療法ではないので,体液異常を起こした原因の治療を並行して行う必要がある.
(1)輸液の目的
 輸液は上述したように人の体液異常を改善させることが1つの目的であるが,そのほかにも,薬剤投与の経路としての輸液や栄養投与のための輸液も含まれる.ただし,水,電解質,栄養素のすべてについていえることだが,腸管が働いて吸収できる状態ならば,なるべく経口投与あるいは経腸投与を行うべきである(If the gut works,use it
.が基本である).
(2)輸液の種類
 水と電解質の輸液には欠乏輸液と維持輸液の2つに分けられる.また,栄養素を投与する栄養輸液もある.
1)欠乏輸液:
通常状態の体液から何がどのくらい欠乏しているかを推定し,その欠乏量を輸液によって補うのが欠乏輸液である(水と電解質が主としてその対象になる).欠乏量の推定には図3-1-17に示すように,身体所見,検査所見から判断し,安全係数をかけて欠乏量の1/2~1/3を1日に投与する.また,重要なことは絶えずフィードバックを行い,輸液量と内容の変更を連日,身体所見や検査所見から行う必要がある.
2)維持輸液:
人間の体は水と電解質(つまり体液)を長期間溜めておくことはできない.つまり,継続的に水と電解質は失われ,また,補給する必要がある.経口摂取ができない病者においては,1日に必要な水と電解質を経静脈的に補給する必要がある.これが維持輸液である.栄養素として使われた蛋白質は人では最終産物の尿素となり,水に溶けて尿として排泄される.約70 gの蛋白質を摂取した場合に,その代謝産物の尿素を尿として排泄するには約400 mLの水を必要とする(ちなみに1日尿量が400 mL以下になるのを乏尿というのはこの事実からきている).そのほかに図3-1-18に示したように,呼吸や皮膚からの不感蒸泄が,体重60 kgの人で1日約900 mL(体重×15 mL)あり,また発汗(汗は感じることができるので不感蒸泄ではない)によって水や電解質が失われる.また,便中には100~200 mLの水を含む.失われるだけではなく,食事中の炭水化物や脂肪が燃焼した結果できる水分(代謝水とよび,2000 kcalの摂取で約300 mLの水が産生される)も考える必要がある.つまり,維持輸液は以下の式から算出される.
 維持輸液=尿量+不感蒸泄量−代謝水
3)栄養輸液:
炭水化物・脂肪・蛋白質のほかにビタミン・微量元素などを含む栄養素を経静脈的に投与することができる.経静脈栄養には中心静脈栄養(total parenteral nutrition:TPN)と末梢静脈栄養(peripheral parenteral nutrition:PPN)の2つがある.TPNはカテーテル先端部を中心静脈におき,比較的濃度の濃い液を投与することができる.それに対してPPNでは末梢血管を痛めない程度の薄い濃度の液を投与する.ここでも重要なのは,If the gut works,use it.である.つまり,腸管が働いている場合はなるべく自然に近い形の腸管を用いた栄養吸収が生体にとって有利である(腸管には免疫機構が存在し,bacterial translocation (腸管からの細菌侵入)に防御作用をもつ).
(3)輸液剤の種類
 基本的な輸液剤は図3-1-19に示したように,電解質輸液剤,水分輸液剤,栄養輸液剤,血漿増量剤に分けられる.電解質輸液剤はさらにNa濃度によって血漿と同程度の等張性電解質輸液剤(生理食塩液やリンゲル液)とNa濃度に関しては低い低張性電解質輸液剤(1-4号液,低張性といっても浸透圧はブドウ糖を加えて血漿と同程度になっている),さらに補正用の高張性輸液剤がある.水だけを補給したいときに使用する水分補液剤(5%ブドウ糖液)はブドウ糖によって浸透圧が血漿と等張になっているが,ブドウ糖が代謝されると水分だけが残り,水分補給剤として用いられる(高ナトリウム血症の治療など).栄養輸液剤は各種栄養の補給に用いられる.血漿増量剤は血管内血漿量を増加させる目的で使用される.図3-1-19に示したように,それぞれの輸液剤は体液コンパートメント(細胞内液・細胞外液・間質液・血漿)のどの部分を増加させるかを理解する必要がある.そのときに必要な臨床上の基本的知識は,細胞膜は水分が透過しやすく,電解質は透過するのに時間がかかることである.つまり,図3-1-19に示したように水分補液剤である5%ブドウ糖はブドウ糖が代謝されて水だけになると,その水は細胞内と細胞外に均等に(もともとの細胞内液:細胞外液の体積比率の2:1)分布する.それに対して,Naがほぼ等張である生理食塩液は細胞外液にのみ分布する.低張液である1〜4号液は,5
%ブドウ糖液と生理食塩液をいろいろな比率で混合した液と考えることができ,その比率によって細胞内と細胞外に分布する.血漿増量剤は基本的に血管壁を透過しないため,血管内容量を増加させる効果をもつ.
(4)輸液剤の選択
 輸液剤の選択にあたって,いくつかの基本知識が必要である.有効浸透圧(張度)の概念と体液の調節機構(浸透圧調節系と容量調節系)である.その知識から輸液剤の選択を行う.
1)尿の有効浸透圧(張度)と輸液剤の有効浸透圧:
輸液剤を選択するうえで必要な基本知識が尿の有効浸透圧である.臨床上,血漿浸透圧は以下の式で示される.

ところが,BUN(blood urea nitrogen,血液尿素窒素)を構成する尿素は比較的細胞膜を透過しやすいために細胞膜を介しては浸透圧物質として働かず,有効な浸透圧をつくれない.したがって,血漿の有効浸透圧はNaとKとブドウ糖で決定される.尿についても同様のことがいえる.尿の浸透圧の多くの部分は尿素によって構成されるが,血漿中では尿素が有効浸透圧として働かないため,尿の有効浸透圧=2×(Na+K)で表すことができる(陽イオンと陰イオンを考え2倍する).輸液の有効浸透圧が尿の有効浸透圧よりも高ければ血漿Na濃度は上昇する(高ナトリウム血症となる).逆に,輸液の有効浸透圧が尿の有効浸透圧よりも低ければ血漿Na濃度は低下する(低ナトリウム血症).
2)浸透圧調節系と容量調節系:
人間の体液量と濃度の調節は2つのシステムによって行われている(表3-1-22).浸透圧調節系と容量調節系である.水とNa(NaCl)がどちらの調節系にも関係しているが,受容体とその調節ホルモンが異なっている.表に示したように浸透圧調節系は血漿浸透圧(ほとんどがNa濃度)を浸透圧受容体で感知し,主として下垂体後葉から分泌されるバソプレシン(antidiuretic hormone:ADH,抗利尿ホルモン)を変化させ,水の排泄量を調節し,腎臓での尿浸透圧を変化させる(希釈尿あるいは濃縮尿の産生).それに対して,容量調節系は有効循環血漿量を感知し,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系を変化させ,Na排泄量を調節している.つまり,Na濃度(浸透圧)は水の増減で決まり,血漿量は血漿中Na量によって決まってくる.同じNaであり,病態によっては互いに関係をもっているが,基本的な調節機構は,浸透圧は水代謝,血漿量はNa代謝と考えられる.輸液に関していえば,等張の生理食塩液は細胞外液に分布し,血漿量を増加させる.それに対して5%ブドウ糖液の水分補給液は細胞外液と細胞外液に分布し,Na濃度を低下させる(細胞内ではK濃度の低下).
 低張液の1〜4号液はそれぞれの等張液と水分補給液の混合割合によってその分布が異なり,Na濃度と血漿量の両者に影響を与える.
3)脱水と体液量減少の違い:
 輸液を行う際に臨床上重要なことは脱水と体液量減少を区別することである.日本語では脱水で両者を表すことが多いが,本来のdehydration(脱水)の意味は水が喪失することである.また体液量減少は上述したNa欠乏によるものであり,特に細胞外液減少による循環症状がでる(表3-1-23).身体所見によって水が欠乏する脱水(dehydration)なのかNa欠乏がある体液量減少(volume depletion)なのかを鑑別し(もちろん両者が混在することもある),輸液剤を選択する必要がある.
4)輸液剤の選択:
 図3-1-19に示したように,血漿量を増加させるためにはアルブミン液などの血管内に分布する輸液剤を用いるが,急速な輸液は心臓への負荷になるので注意が必要である.細胞外液を増加させるためには,血管は透過するが細胞膜は透過しにくい等張電解質を含む細胞外液類似液を用いる.また,水が喪失する脱水には5%ブドウ糖液を用いる.たとえば,低ナトリウム血症があるからといって,全体Na量が少ないとは限らない.うっ血性心不全などで全体Na量は増加しているが,それよりも水の貯留が多い場合は低ナトリウム血症となる.このような場合に,Naが少ないと判断してNaを多く含む輸液剤を投与すると心不全はさらに悪化する.
5)経口補水液(oral rehydration solution:ORS):
 輸液は静脈からしか投与できないと考えているのは間違いである.皮下投与や骨髄内投与などもある.さらに輸液器具が使えない低開発国では経口補水薬が経静脈輸液と同等の効果を上げることが知られている.アフリカの乳幼児下痢症やコレラに対してORSが有効である.また,最近では術前,術後の早期に経口補水液を投与し,手術中の輸液による溢水や術後の体液管理を行うこともできるようになってきた.輸液による副作用や合併症を軽減する意味で今後期待される.
(5)輸液剤の投与法
1)輸液投与経路:
 末梢静脈が一般的であるが,針の固定しやすい場所,患者の苦痛の少ない場所,穿刺しやすい場所を選ぶ.末梢静脈では,正中肘静脈,橈側皮静脈,尺側皮静脈,大伏在静脈,脛骨内果前方部静脈が用いられる.小児では浅側頭静脈や骨髄内投与なども用いられる.中心静脈では鎖骨下静脈,内頸静脈,大腿静脈からの穿刺が行われる.
2)投与速度と投与量:
 それぞれの病態によって投与速度と投与量の許容範囲が決まってくるがバイタルサイン,起坐呼吸,頻脈,胸部X線写真,心電図,血液検査,動脈血ガス分析,中心静脈圧などを参考にしてモニターを行い,投与速度と投与量を調節する必要がある.一般的な末梢静脈を用いた維持輸液では,500 mLを2時間で投与するのが安全である.しかし,ショックの場合などの急速輸液が必要な場合には1000~3000 mL/時を投与する場合もある.中心静脈ではさらに大量の輸液を投与できるが,高濃度の維持輸液の場合には1時間で100 mLで24時間連続投与を行う.
3)栄養輸液剤の投与法:
 栄養状態の評価が必要である.また,消化管機能を把握し,胃腸が機能していれば,経腸栄養に,機能していない場合には経静脈栄養を選択する.ASPENのガイドラインに示されるように【⇨図3-1-8】短期あるいは低濃度の栄養輸液剤投与の場合には末梢静脈栄養(PPN)を,長期あるいは高濃度の栄養輸液剤投与の場合には中心静脈栄養(TPN)を選択する.
(6)輸液の合併症
 輸液の合併症には,手技上の問題と輸液製剤自体の問題がある.手技上の問題では,気胸,血胸,動脈損傷,血腫,カテーテル離断,感染症,静脈炎,心不全,肺水腫,空気塞栓などがあげられる.輸液製剤自体の問題としては,発熱物質,異物の混入,アレルギー反応,輸液剤選択の誤り,血漿製剤による感染などがある.
(7)各種病態における輸液
 心不全や腎不全ではその病態から輸液の選択や投与量に注意する必要がある.また,ショックなどでは急速な細胞外液輸液が必要な場合がある.
1)心不全の輸液:
心臓に負荷をかけずに輸液を行う必要がある.心不全の病態をForrester分類やNohria-Stevenson分類を用いて(図3-1-20)判断し,適切な輸液や薬剤を選択する.dry & cold やsubset Ⅲならば輸液が第一選択となる.
2)腎不全の輸液:
腎不全は,大きく急性腎障害(acute kidney injury:AKI)と慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)に分けることができる.特にAKIにおいては腎前性で体液量が減少している場合には輸液の適応となる.腎後性の場合には,閉塞が解除された後に起こる利尿による体液減少を防ぐために輸液が必要になる.[飯野靖彦]
■文献
飯野靖彦:一目でわかる水電解質,第2版,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2002.

出典:内科学 第10版
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