●造血幹細胞移植【ぞうけつかんさいぼういしょく】
知恵蔵
造血幹細胞移植
(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
出典:(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」
朝日新聞掲載「キーワード」
造血幹細胞移植
(2010-08-26 朝日新聞 朝刊 生活2)
出典:朝日新聞掲載「キーワード」
デジタル大辞泉
ぞうけつかんさいぼう‐いしょく〔ザウケツカンサイバウ‐〕【造血幹細胞移植】
出典:小学館
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日本大百科全書(ニッポニカ)
造血幹細胞移植
ぞうけつかんさいぼういしょく
hematopoietic stem cell transplantation
造血機能が傷害される血液疾患などに、正常な造血能を復活させるため、血液細胞を産生する造血幹細胞を移植する治療法。血液の中には赤血球、白血球、血小板などの血液細胞が存在し、生命維持のために重要な働きをしている。これらの血液細胞を産生するのが造血幹細胞である。造血幹細胞は自らを複製するという自己複製能を有するとともに、自らが分化し血液細胞になるので、血液細胞を一生にわたり産生し続けられるのである。造血幹細胞は成人ではおもに骨髄に存在するが、胎児では肝臓、脾臓(ひぞう)、あるいは血液中にも存在する。
一方、白血病や再生不良性貧血などの血液疾患は造血機能が傷害される重篤な疾患であり、薬物療法では治癒が見込めない場合がある。造血幹細胞移植はこれらの疾患の治療のために、造血幹細胞を移植し正常な造血能を復活させる治療法である。
移植に用いる造血幹細胞は、現在、骨髄、末梢血(まっしょうけつ)幹細胞、臍帯血(さいたいけつ)が臨床に応用されており、それぞれ骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血幹細胞移植とよばれている。造血幹細胞の提供者(ドナー)が他者の場合を同種造血幹細胞移植、一卵性多胎児の同胞の場合を同系造血幹細胞移植、さらに自分の場合を自家造血幹細胞移植という。
造血幹細胞移植を行う場合、移植前に白血病細胞などの腫瘍(しゅよう)細胞を死滅させるために、患者に大量の抗癌(がん)剤の投与や放射線照射を行う。これを前処置とよぶが、前処置は移植される造血幹細胞の拒絶を予防するための免疫抑制効果の意義もある。前処置により患者の造血や免疫機能は高度に抑制され、貧血、白血球減少、血小板減少が生じるため、感染症や出血などの種々の合併症を発症する可能性が高い。種々の病原体が感染症の原因になるので無菌室による管理、抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤の投与、および、輸血療法なども必要になる。
造血幹細胞移植は造血幹細胞を血管から輸注して行われる。輸注された造血幹細胞はやがて骨髄にたどり着き造血を開始すると考えられている。通常、移植後数週間で造血が回復する。同種造血幹細胞移植の場合、リンパ球などの免疫担当細胞も他人の細胞に変化するので、これらが逆に患者の組織を他人と認識し傷害を及ぼすことがある。これを移植片対宿主病graft versus host disease(GVHD)とよび、おもに皮膚、肝臓、消化管が傷害される。GVHDは同種造血幹細胞移植のもっとも注意すべき合併症であるが、GVHDがおこると白血病の再発が少ないことも判明している。これは、免疫反応によって白血病細胞が傷害されるからと考えられ、移植片対白血病反応graft versus leukemia reaction(GVLR)という。
造血幹細胞移植の成功率は患者の疾患、進行度、年齢、および臓器障害の有無などに大きく影響され一概に述べられないが、白血病ではおおむね半数が治癒されるようになった。
[比留間潔]
『原田実根・加藤俊一・薗田精昭編『新しい造血幹細胞移植――末梢血幹細胞移植(PBSCT)・臍帯血移植(CBSCT)・CD34陽性細胞移植・ドナーリンパ球輸注療法(DLT)』(1998・南江堂)』▽『中内啓光編『造血幹細胞のいまと医療への展開』(2001・羊土社)』▽『小澤敬也編著『造血幹細胞――基礎から遺伝子治療・再生医療へ』(2002・中外医学社)』▽『小寺良尚・加藤俊一編『必携 造血細胞移植――わが国のエビデンスを中心に』(2004・医学書院)』▽『河野文夫・岡野千代美編『造血幹細胞移植の看護』(2004・南江堂)』▽『岡本真一郎他編『症例から学ぶ造血幹細胞移植』(2006・中外医薬社)』▽『小澤敬也監修、室井一男・鈴木典子編『医師と看護師のための造血幹細胞移植』全面改訂版(2007・医薬ジャーナル社)』▽『小寺良尚編『やさしい造血幹細胞移植へのアプローチ』改訂版(2008・医薬ジャーナル社)』▽『神田善伸編『みんなに役立つ造血幹細胞移植の基礎と臨床』上下(2008・医薬ジャーナル社)』▽『室井一男編『やさしい造血幹細胞移植後のQOLの向上』(2009・医薬ジャーナル社)』▽『豊嶋崇徳編『ガイドラインパースペクティブ 造血幹細胞移植』(2009・医薬ジャーナル社)』
出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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六訂版 家庭医学大全科
造血幹細胞移植
ぞうけつかんさいぼういしょく
Hematopoietic cell transplantation
(血液・造血器の病気)
どんな治療法か
血液中には赤血球、白血球、血小板という3種類の細胞があり、それぞれ酸素の運搬、感染防御、止血という生命維持には欠くことのできないはたらきを担っています。そしてこれらの細胞はすべて造血幹細胞と呼ばれる細胞からつくられていることは、急性白血病(きゅうせいはっけつびょう)の項で述べたとおりです。
この造血幹細胞を採取して移植する治療が造血幹細胞移植です。造血幹細胞は
また、造血幹細胞移植は自分自身の正常と考えられる造血幹細胞を採取して移植する
どのような時に必要か
数が著しく減ったり、質が悪くなった造血幹細胞を正常な造血幹細胞と入れ替える場合、造血幹細胞移植が必要です。重症
また、強力な治療によって起こる不可逆的(元にもどらない)な造血障害を避ける目的で行う場合もあります。
具体的な方法と経過
造血幹細胞移植の7~10日前から、患者さんには
前処置が終了すると、患者さんの骨髄は
通常、造血幹細胞は末梢血中にはほとんど存在していませんが、
自家移植の場合は末梢血が使われることが多く、この場合、幹細胞はマイナス180℃に凍結保存されます。同種移植(骨髄、末梢血)の場合は採取後そのまま移植されることが多いのですが、臍帯血は使用されるまで凍結保存されます。
移植された造血幹細胞は骨髄に流れ着いて造血を開始し、移植後約2~3週間で造血が回復します(
骨髄バンクと臍帯血バンク
HLA型が一致したドナーは兄弟姉妹で見つかる確率が大きかったのですが、最近の少子化のため、その確率は低下しています。そこで考え出されたのが骨髄バンク、臍帯血バンクです。
これは造血幹細胞移植を必要としている非特定の患者さんに無償で骨髄または臍帯血を提供したいというボランティアの善意を、中立な立場で患者さんに供給する機関のことです。
現在日本には1つの骨髄バンク、11の臍帯血バンクがあり、造血幹細胞移植の推進に寄与しています。
矢部 麻里子, 山根 明子, 岡本 真一郎
出典:法研「六訂版 家庭医学大全科」
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